持久走による狩猟の効率性
持久走による狩猟の効率性に関する研究(Morin, and Winterhalder., 2024)が公表されました。ヒトには哺乳類では稀な二つの特徴があり、歩行運動筋は疲労耐性繊維が優勢で、発汗により長く激しい活動で生成された代謝熱を効率的に発散します。これらの特徴の有力な進化的説明が持久力追跡(endurance pursuit、略してEP)仮説で、両方の特徴(疲労耐性繊維の優勢と歩行運動筋と発汗による効率的な代謝熱発散)が持続性による獲物の狩猟採を促進するよう進化した、と主張しています。
しかし、この仮説は二つの課題に直面しており、それは、走ることはエネルギー的に負担がかかることと、20世紀の採食民におけるEPの記録が稀であることです。両方の観察結果は、EPが非効率的であることを示唆しているようですが、本論文は採食理論を用いて、EPがたいへん効率的であり得ることを論証します。本論文は同様に、世界中の分布場所を表す、16世紀初頭~21世紀消灯までの400近いEPの事例の民族史および民族誌のデータベースを分析します。
本論文は、EPの帰還率の推定を提供し、EPは特定の状況では他の前近代の狩猟法に匹敵する、と主張します。ヒトが狩猟に持久力追跡を用いた事例が世界の272ヶ所から約400件見つかり、この戦略がこれまで考えられていたほど珍しいものではなかった、と示唆されたわけです。こうした持久力追跡には複数の狩猟者が参加し、平原などの開けた環境や森林生物群系などの多様な生態系で行なわれていたかもしれません。食料獲得の手法としてのEP狩猟は、おそらく鮮新世/更新世の人類にとって利用可能で魅力的だったでしょうから、人類進化に何らかの役割を果たしていたかもしれない、と示唆されます。しかし、本論文の分析は過去500年間(大半は過去100年間)ほどの文献に基づいており、人類の過去の進化過程を直接的に証明するわけではありません。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
人類学:持久走の進化の軌跡を探る
狩猟のための持久走は、他の伝統的な狩猟法と同程度に効率的であった可能性のあることを明らかにした論文が、Nature Human Behaviourに掲載される。今回の知見は、モデル化と民族歴史学的記述や民族誌の記述に基づくものであり、持久力追跡仮説を裏付けるものである。
ヒトの運動筋肉は、主に疲労耐性を有する繊維からなり、長時間の活動で生じる代謝熱を汗として排出する能力を有することから、哺乳類の中でも独特な筋肉である。このため一部の人類学者は、そうした形質が、獲物を長い距離にわたって追い掛ける能力に対する選択を受けて進化してきたとする「持久力追跡仮説」を提唱している。しかし、こうした持久力追跡による現生人類の狩猟に関する報告はほとんどなく、また、走ることはそもそもエネルギー的にコストが高いことが分かっている。
今回、Eugène MorinとBruce Winterhalderは、持久走による狩猟の帰還率を推定するモデル化を用いて、持久走による熱量の増加が他の狩猟法と同程度であることを見いだした。この知見は、走ることが食料を得るための有益な策であった可能性を示唆している。
著者らはまた、1500年代初頭から2000年代初頭までの民族誌と民族史学の文献のデータベースを作成して分析することで、持久走が狩猟に果たす役割について調べた。その結果、ヒトが狩猟に持久力追跡を用いた事例が世界272カ所から約400件見いだされ、この戦略がこれまで考えられていたほど珍しいものではなかったことが示唆された。こうした持久力追跡には複数の狩猟者が参加し、平原などの開けた環境や森林バイオームなどの多様な生態系で行われていた可能性がある。
著者らは、こうしたタイプの狩猟は、おそらく更新世(260万~1万1700年前)のヒト族に利用されていた戦略の1つで、人類進化に何らかの役割を果たしていた可能性があると示唆している。ただし、今回の研究は、近年の歴史の民族誌の記述(大半が100年前以降に書かれたもの)に基づいたもので、これらは人類の過去の進化過程を直接的に語るものではないとも指摘している。
参考文献:
Morin E, and Winterhalder B.(2024): Ethnography and ethnohistory support the efficiency of hunting through endurance running in humans. Nature Human Behaviour, 8, 6, 1065–1075.
https://doi.org/10.1038/s41562-024-01876-x
しかし、この仮説は二つの課題に直面しており、それは、走ることはエネルギー的に負担がかかることと、20世紀の採食民におけるEPの記録が稀であることです。両方の観察結果は、EPが非効率的であることを示唆しているようですが、本論文は採食理論を用いて、EPがたいへん効率的であり得ることを論証します。本論文は同様に、世界中の分布場所を表す、16世紀初頭~21世紀消灯までの400近いEPの事例の民族史および民族誌のデータベースを分析します。
本論文は、EPの帰還率の推定を提供し、EPは特定の状況では他の前近代の狩猟法に匹敵する、と主張します。ヒトが狩猟に持久力追跡を用いた事例が世界の272ヶ所から約400件見つかり、この戦略がこれまで考えられていたほど珍しいものではなかった、と示唆されたわけです。こうした持久力追跡には複数の狩猟者が参加し、平原などの開けた環境や森林生物群系などの多様な生態系で行なわれていたかもしれません。食料獲得の手法としてのEP狩猟は、おそらく鮮新世/更新世の人類にとって利用可能で魅力的だったでしょうから、人類進化に何らかの役割を果たしていたかもしれない、と示唆されます。しかし、本論文の分析は過去500年間(大半は過去100年間)ほどの文献に基づいており、人類の過去の進化過程を直接的に証明するわけではありません。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
人類学:持久走の進化の軌跡を探る
狩猟のための持久走は、他の伝統的な狩猟法と同程度に効率的であった可能性のあることを明らかにした論文が、Nature Human Behaviourに掲載される。今回の知見は、モデル化と民族歴史学的記述や民族誌の記述に基づくものであり、持久力追跡仮説を裏付けるものである。
ヒトの運動筋肉は、主に疲労耐性を有する繊維からなり、長時間の活動で生じる代謝熱を汗として排出する能力を有することから、哺乳類の中でも独特な筋肉である。このため一部の人類学者は、そうした形質が、獲物を長い距離にわたって追い掛ける能力に対する選択を受けて進化してきたとする「持久力追跡仮説」を提唱している。しかし、こうした持久力追跡による現生人類の狩猟に関する報告はほとんどなく、また、走ることはそもそもエネルギー的にコストが高いことが分かっている。
今回、Eugène MorinとBruce Winterhalderは、持久走による狩猟の帰還率を推定するモデル化を用いて、持久走による熱量の増加が他の狩猟法と同程度であることを見いだした。この知見は、走ることが食料を得るための有益な策であった可能性を示唆している。
著者らはまた、1500年代初頭から2000年代初頭までの民族誌と民族史学の文献のデータベースを作成して分析することで、持久走が狩猟に果たす役割について調べた。その結果、ヒトが狩猟に持久力追跡を用いた事例が世界272カ所から約400件見いだされ、この戦略がこれまで考えられていたほど珍しいものではなかったことが示唆された。こうした持久力追跡には複数の狩猟者が参加し、平原などの開けた環境や森林バイオームなどの多様な生態系で行われていた可能性がある。
著者らは、こうしたタイプの狩猟は、おそらく更新世(260万~1万1700年前)のヒト族に利用されていた戦略の1つで、人類進化に何らかの役割を果たしていた可能性があると示唆している。ただし、今回の研究は、近年の歴史の民族誌の記述(大半が100年前以降に書かれたもの)に基づいたもので、これらは人類の過去の進化過程を直接的に語るものではないとも指摘している。
参考文献:
Morin E, and Winterhalder B.(2024): Ethnography and ethnohistory support the efficiency of hunting through endurance running in humans. Nature Human Behaviour, 8, 6, 1065–1075.
https://doi.org/10.1038/s41562-024-01876-x
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