ヒトマラリアの歴史

 ヒトマラリアの歴史に関する研究(Michel et al., 2024)が公表されました。マラリアの原因となるプラスモジウム属(Plasmodium)の原虫は、過去にはヒトゲノムに対してひじょうに強力な選択圧を及ぼしてきており、抵抗性アレル(対立遺伝子)は、これらの原虫種の歴史的な広がりの概要を示す生体分子的な足跡となっています。しかし、マラリア寄生虫がヒトの病原体として出現して世界に広がった時期や経緯に関しては、議論が続いています。

 本論文はこれらの疑問に取り組むため、16ヶ国から収集された、人類史の約5500年間にわたる熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)と三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)と四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)から、高網羅率でゲノム規模の古代ミトコンドリアゲノムおよび核ゲノム規模のデータを取得しました。三日熱マラリア原虫および熱帯熱マラリア原虫は、ユーラシアの地理的に離れたさまざまな地域でそれぞれ紀元前四千年紀および紀元前千年紀という早い時期から見つかり、三日熱マラリア原虫に関するこの証拠は文献情報を数千年さかのぼりました。

 ゲノム解析の結果は、南北アメリカ大陸における熱帯熱マラリア原虫と三日熱マラリア原虫の疾患史の違いを裏づけており、現在は根絶されたヨーロッパ株と接触期前後の南米株の類似性は、ヨーロッパ人入植者がアメリカ大陸に三日熱マラリア原虫を持ち込んだことを示しているのに対して、熱帯熱マラリア原虫はおそらく、大西洋をまたぐ奴隷貿易によって南北アメリカ大陸にもたらされた、と考えられます。

 本論文のデータは、マラリアの伝播に異文化間の接触が役割を果たした、と明らかにしており、人類史にマラリア寄生虫が与えた影響に関する今後の古疫学的研究のための生体分子的な基盤を築きます。さらに、ヒマラヤ山脈の高地で予期せず熱帯熱マラリア原虫が発見されたことは、感染の状態から個人の移動能力を推定できる希少な事例となり、3000年近く前にこの地域で異文化間接触が存在した、という新たな知見が得られました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化学:古代のマラリア原虫ゲノムから明らかになったヒトマラリアの歴史

進化学:ゲノムでたどるマラリアの歴史

 今回、1万例を超える古代DNAライブラリーのメタゲノム解析が行われ、マラリアの原因となるプラスモジウム属(Plasmodium)の原虫種の世界的分布に関して、5000年を超える人類史にわたる知見が得られた。



参考文献:
Michel M. et al.(2024): Ancient Plasmodium genomes shed light on the history of human malaria. Nature, 631, 8019, 125–133.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07546-2

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