原田信男『日本の食はどう変わってきたか 神の食事から魚肉ソーセージまで』

 角川選書の一冊として、角川学芸出版より2013年4月に刊行されました。電子書籍での購入です。本書は食文化の変遷から見た日本史で、食文化の変遷を歴史的背景に位置づけています。本書がまず指摘するのは、アジア東部および南東部の稲作文化圏とは異なり、日本では古代において国家が肉食を禁じたことで、ブタの飼育が沖縄など一部を除いて行なわれなくなったことです。本書は、日本ではブタの代わりの動物性タンパク質として魚への依存が必然となり、その嗜好の高まりから魚の料理法が発達した、というわけです。

 神の食事(神饌)には、収穫物をそのまま捧げる生饌と、煮炊きした調理済みの熟饌があり、神饌は元来その場で神が食べて、その後の直会で人々が食べるものだったので、熟饌が基本であり、また神饌の本義は直会にあった、と本書は指摘します。その後、精進料理が日本の調理法に大きな変革をもたらした、と本書は指摘します。精進料理の技術はそれまでの日本の料理技術よりはるかに高く、食材そのものへのさまざまな味付けが行なわれるようになった、というわけです。動物性タンパク質を食べられない中で、宋の禅宗寺院では、動物性食品に近い味や食感をもたらす調理法が発展します。これにより、食べる時に味付けをしていた従来の料理から、味の調整の済んだものを提供する料理へと変わっていきます。

 その後の日本の食生活の変化において本書が重視するのは、近世における粉食の発達です。これには、臼と水車の普及という技術的背景があり、雑穀類の食用範囲が広がりましたが、一方で本書は、近世よりも前の雑穀を過大評価してはならない、と注意を喚起します。本書はブドウとブドウ酒も取り上げており、日本列島でいつからブドウが栽培されていたのか不明ですが、遅くとも16世紀末には栽培されていました。本書は、梅酒のような果実酒としてのブドウ酒と、ブドウ果汁を発酵させたものとしてのワインを区別しており、日本では中華地域的なブドウ酒が伝えられて近世には製造されており、ワインの生産は近代以降と指摘します。

 日本の食生活の大きな変化が近代にあり、それが洋食と肉食に代表されることは、広く認識されているでしょう。前近代においてもブタやウシが食べられることはありましたが、琉球との関係が深い薩摩藩でブタの飼育が盛んだった、という事例はあるものの、日本全土では一般的に食用を主要な目的としたブタの飼育はありませんでした。食べられていたわけではありませんでした。ただ、日本人全員が急速に肉食容認に変わったわけではないことも、本書は指摘します。肉食と洋食の展開には、軍隊が重要な役割を果たしました。本書は蒲鉾が起源とも言える魚肉ソーセージにも言及し、魚食文化が定着していた日本において、ブタやウシなど魚介類以外の肉食の普及に大きな役割を果たした、と指摘します。

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