アジア南西部の旧石器時代
おもに古代ゲノム研究に基づくアジア南西部の旧石器時代の概説(Miedzianogora., 2024)が公表されました。アジア南西部はアフリカからの現生人類(Homo sapiens)の拡散においてたいへん重要な地域で、最近もイラン高原に注目した研究が刊行されました(Vallini et al., 2024)。本論文は、アフリカからの現生人類の拡散、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と現生人類との間の相互作用、アジア南西部の人口構造の形成について、古代ゲノム研究に基づいて再検討します。本論文で引用されている文献の多くは当ブログでも取り上げてきましたが、かなりの数になりますし、読もうと思ってまだ読んでいなかったり、見落としていたりした文献も多く引用されているので、本論文のように、論点を整理し、今後の方向性を示した概説は、私にとってはたいへん有益でした。
●要約
古ゲノミクスは、ゲノム規模水準での半化石化した遺骸の研究で、遠い過去の研究と理解を急進的に変えてきました。これはアジア南西部にも当てはまり、とくに青銅器時代と鉄器時代はかなり研究されてきました。しかし、この地域におけるDNAの保存状態が悪いため、旧石器時代の遺骸は、この重要な期間の新たな解釈の可能性にも関わらず、ほとんど研究されていません。本論文は、古ゲノミクスが、アフリカからの現生人類の拡散、ネアンデルタール人と現生人類との間の相互作用、アジア南西部の人口構造の形成という、3点の重要分野におけるこの地域の旧石器時代の理解を変え始めた、いくつかの方法を再検討します。これらの解釈のほとんどはアジア南西部外に由来するデータに基づいており、古ゲノミクスと考古学と地元の関係者との間のより密接な統合が、この地域におけるDNAの保存状態の悪さに関する課題の解決の着手に必要である、と本論文は主張します。これを実現できれば、古ゲノミクスは将来の旧石器時代研究に多くの可能性をもたらします。
●研究史
考古学的有機物遺骸からゲノム規模水準で古代DNAを抽出して配列決定できる能力は、遠い過去を調査する新たな手法が開かれてきました。それは古ゲノミクスという新分野の急速な発展につながり、過去の人口集団の進化史を広範な規模および局所規模で解明し始め、考古学における「第三次科学革命」の不可欠な一部として示されてきました。その重要性はこれまでほとんどの研究が行なわれてきたとくにヨーロッパ(Brandt et al., 2013)において見られてきましたが、先史時代のあらゆる場所で研究を急進的に変えるかもしれません(Narasimhan et al., 2019)。これはアジア南西部にも当てはまり、古ゲノミクスがヒトの先史時代におけるいくつかの重要な問題の理解を深めるのに役立つことができます。
それにも関わらず、アジア南西部の分野については、いくつかの問題が残っています。第一に、この地域自体の古ゲノム研究が稀で、これまでに行なわれてきた古ゲノム研究は、アジア南西部地域自体内の人口統計学的過程ではなく、ヨーロッパの先史時代の理解の手段としてアジア南西部地域に焦点を当てる傾向にあります。第二に、研究者は、北半球外の主要な関係者との平等な研究協力の不足を強調してきており(Alpaslan-Roodenberg et al., 2021)、それはアジア南西部にも同様に当てはまります。最後に、ほとんどの古ゲノム研究における考古学と人類学のデータおよび手法との適切な関与の欠如が、批判されてきました。これらの問題は、データが倫理的および協力的に生成されて解釈されることを保証する、ヒト先史時代の古ゲノミクスと他分野との間のより緊密な協力の確保を目的とした、倫理的根拠に基づく枠組みの開始により解決できます。アジア南西部の考古学におけるこの課題の達成のため、研究者はまず、古ゲノミクスがこの地域の考古学的研究へと建設的に適用できる方法のより深い理解を必要とします。
本論文は、古ゲノムデータが考古学的問題の回答、およびアジア南西部の旧石器時代の現在の解釈の変容へと使用できる重要な方法のいくつかを再検討します。アフリカとアジアとヨーロッパとの間の陸橋としての中心的位置のため、アジア南西部地域は、200万年以上前となる人類のアフリカからの最初の拡散とともに始まるヒト先史時代の主要な問題の理解に重要です(Fregel et al., 2018、Zhu et al., 2018、Scardia et al., 2019)。それにも関わらず、アジア南西部地域の研究の大半は新石器時代以降の個体群に属するゲノムを配列決定してきており(図1)、最古の配列決定されたゲノムの年代が査読前論文の26000年前頃である一方で、査読論文として刊行された最古のゲノムの年代は15000年前頃となり(Feldman et al., 2019)、アジア南西部地域の旧石器時代のゲノムの不足を浮き彫りにしています。以下は本論文の図1です。
その結果、ほとんどの再検討は新石器時代と歴史時代についての古ゲノミクスの影響に焦点を当ててきました(Broushaki et al., 2016、Skourtanioti et al., 2020)。本論文の焦点は代わりに、古ゲノムデータがアジア南西部の旧石器時代の主要な3ヶ所の地域に及ぼした影響に当てられます。それは、アフリカからの現生人類の拡散、レヴァントにおけるネアンデルタール人と現生人類との間の相互作用、アジア南西部全域の旧石器時代の人口構造の形成です。これらの問題はアジア南西部先史時代だけではなく、古人類学と旧石器時代考古学におけるより広範な問題の理解とも関連しています。しかし、解釈は暫定的なままで、現在の仮説の検証には、より多くの遺伝的データがアジア南西部地域から直接的に必要です。これをどのように達成するのが最善は未解決の問題ですが、本論文ではいくつかの可能な進路が提案されています。古ゲノム解析の手法と理論は、他の文献で徹底的に再検討されてきたので、本論文では検討されません。
●アフリカからユーラシアへ
アフリカにおける解剖学的現代人の出現の正確な年代と様相は議論されていますが、現生人類は、化石と考古学と遺伝学の証拠の組み合わせに基づいて、30万年前頃に進化した、と一般的に認められています(Bergström et al., 2021)。アフリカからの現生人類の拡散の年代測定は、より困難と証明されてきました。現代の人口集団の遺伝学では、非アフリカ系現代人全員は7万~6万年前頃の1回の移住に由来する、と示唆されていますが(Malaspinas et al., 2016、Mallick et al., 2016、Nielsen et al., 2017、Bergström et al., 2020、Pagani et al., 2016)、アフリカ外の現生人類の最古の化石証拠はギリシアの21万年前頃のものです(Harvati et al., 2019)。一部の研究者は、後頭蓋の断片的な一部のみで構成されるこの21万年前頃となるギリシアで発見された化石に異議を唱えており、その復元方法次第で、ネアンデルタール人の特徴ともクラスタ化する(まとまる)かもしれない、というわけです。さほど異論がないのは、レヴァントのイスラエルのカルメル山にあるミスリヤ洞窟(Misliya Cave)のわずかに新しい上顎で、年代は18万年前頃です(Hershkovitz et al., 2018、Sharp, and Paces., 2018)。
古環境復元では、ナイル川流域およびシナイ渓谷とバブ・エル・マンデブ海峡は両方とも、過去40万年間のいくつかの期間に横断できた、と示されており、アフリカにおける現生人類の出現直後に始まるアジア南西部への連続的拡散の可能性を浮き彫りにします(Tierney et al., 2017、Beyer et al., 2021、Groucutt et al., 2021)。一方で、44万~4万年前頃となるネアンデルタール人(Higham et al., 2014、Slimak et al., 2023、Quilodrán et al., 2023)、44万~5万年前頃となる種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)、70万~5万年前頃(Sutikna et al., 2016)となるホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)、少なくとも6万~5万年前頃(Détroit et al., 2019)となる【近年、134000年前頃と訂正されました(Sawafuji et al., 2024)】となるホモ・ルゾネンシス(Homo luzonensis)が、ユーラシア全域で5万~4万年前頃まで生存していました(図2)。以下は本論文の図2です。
アフリカからの拡散期におけるある時点で、現生人類はこれらの【現生人類ではない】人類の少なくとも一部と遭遇して相互作用し、それは非アフリカ系現代人のゲノムにおける約2%のネアンデルタール人由来のDNA(Green et al., 2010、Prüfer et al., 2014、Bergström et al., 2020、やや高い推定割合を示したのはLohse, and Frantz., 2014)により証明されます。現生人類集団におけるこれら古代型人類の遺伝的痕跡に対する最も可能性の高い説明は混合ですが、この混合事象の回数と年代と正確な場所は不明です。非アフリカ系人口集団はすべてネアンデルタール人由来のDNAを共有しているので、その混合事象は、アフリカからのどの拡散でも必須の中継地点であるアジア南西部で最初に起きた可能性が高そうです(Green et al., 2010)。
アフリカからの初期拡散は「失敗した」試みとして解釈されたことが多く、それは、初期拡散集団が現在の人口集団に永続的な遺伝的痕跡を残しておらず、他の人類種に打ち負かされたからです(Rabett., 2018)。しかし、ネアンデルタール人と現生人類との間の初期の遺伝的混合の証拠の蓄積から、これらの拡散はより動的だった、と示唆されます。2020年の研究(Petr et al., 2020)は、父系のみを通じて継承される、ネアンデルタール人のY染色体の一部を配列決定しました。その結果、ネアンデルタール人のY染色体は、遺伝学的推定に基づくと、ネアンデルタール人およびデニソワ人【の共通祖先】からの現生人類の分岐が55万年前頃なのに対して、ネアンデルタール人がデニソワ人から分岐したのはわずか40万年前頃であるにも関わらず(Liu et al., 2021)、ネアンデルタール人はデニソワ人とよりも現生人類の方と密接に関連していた、と示されました。遺伝学的推定値が化石証拠と常に重なるとは限らないので、種分化事象の年代を完全には反映していないかもしれないことに要注意ですが、遺伝学的に推定された系統間の近縁関係の程度は依然として変わりません。
ネアンデルタール人と現生人類のY染色体間の密接な類似性は、37万~10万年前頃となるネアンデルタール人への現生人類のDNAの混合事象により説明できます(Petr et al., 2020)。それ以前の研究では、ドイツ南西部のホーレンシュタイン-シュターデル(Hohlenstein–Stadel、略してHST)洞窟のネアンデルタール人の大腿骨のミトコンドリアゲノムに基づいて、ネアンデルタール人への現生人類のミトコンドリアDNA(mtDNA)の遺伝子流動の下限は27万年前頃と示されました(Posth et al., 2017)。シベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)のネアンデルタール人1個体の核ゲノムはさらに、10万年前頃となる現生人類からの遺伝子移入を示しました(Kuhlwilm et al., 2016)。しかし、これは全てのネアンデルタール人には当てはまらず【高品質なネアンデルタール人のゲノムデータで比較すると、アルタイ山脈でもヨーロッパでも、現生人類からの遺伝的影響が確認されています(Prüfer et al., 2017)】、いくつかの生物学的に異なるネアンデルタール人集団がユーラシア全域に存在した、と示唆されます。これらの人口集団の一部は、その遺伝的祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)の一部が、過去30万年間にアフリカからアジア南西部へと移動した現生人類との混合に由来していました。現生人類はアフリカを離れてすぐ、他の人類との相互作用と、そのゲノムの一部の交換を始めました。
この証拠と一致して、先行研究はアジア南西部への2回のアフリカからの拡散を提案し、一方は10万年前頃の出アフリカ(Out of Africa、略してOoA)2aで、もう一方はその後の5万年前頃の拡散です(OoA2b)。上述の引用した遺伝的証拠に基づくと、この先行研究とは対照的に、OoA2aは単一の拡散ではなく、むしろ早くも30万年前頃に始まった数回のそれ以前の移住を反映しています。これらの拡散はネアンデルタール人集団にいくらかの遺伝的痕跡を残しましたが、現生人類集団には残しませんでした。これら初期のヒト【現生人類】集団の消滅がネアンデルタール人の置換か、気候変化か、他の何かの産物だったのかどうかの説明には、さらなる研究が必要です。しかし、OoA2bの期間には、その逆が起き、つまり、現生人類を除いてあらゆる人類種が最終的には絶滅しました。古人類学における重要な問題は、これが起きた理由の決定です(Rabett., 2018)。
●共存もしくは闘争?社会組織およびネアンデルタール人と現生人類との間の相互作用への洞察
アジア南西部における現生人類とネアンデルタール人の包括的な化石記録は、イスラエルのミスリヤ洞窟とタブン(Tabun)洞窟遺跡に始まり、アジア南西部はこれらの人類間の相互作用の理解にとって重要な地域となります(表1、図3)。考古学と化石の証拠のみに基づいていた以前の研究では、限られた資源をめぐる競争が、レヴァントとユーラシア全域における人類集団の連続的な置換につながった、と示唆されました。古ゲノム証拠から、これらの人類は交雑したと示され、代替的な見解では、少なくとも時には平和的共存があった、とされます。レヴァントの石器の証拠も同様の方法で解釈されてきており、現生人類とネアンデルタール人両方の特徴のある「象徴的インダストリー」が出現しました。レヴァントにおけるこれらの人類の継続的な共存が意味するのは、OoA2bが、最終的にネアンデルタール人の絶滅、推測によると、他地域での他の人類の絶滅につながった理由の判断には、レヴァント地域が中心である、ということです。2012年の研究では、OoA2bにおけるネアンデルタール人集団の縮小(気候圧力のため)とともに拡大する現生人類集団は説明として機能するものの、これは考古学的記録において間違いなく特定するのは困難である、と提案されました。以下は本論文の図3です。
しかし、古ゲノミクスは現生人類集団拡大の証拠を提供するものの、具体的にはネアンデルタール人の遺伝子に対する負の選択を通じてです。42000~37000年前頃【最新の放射性炭素年代測定法の較正曲線(Bard et al., 2020)では41180~39190年前頃】となるルーマニア南西部の「骨の洞窟(Peştera cu Oase、略してPO)」で発見された現生人類1個体のゲノムには、4~6世代前の混合に起因するネアンデルタール人由来の6~9%のDNAがありました(Fu et al., 2015)。これは現在において現生人類で見られる割合より高く、【ネアンデルタール人と現生人類との間の】混合【年代】により近い他のゲノムも、より大きな領域でより多いネアンデルタール人由来のDNAを示します(Fu et al., 2014、Prüfer et al., 2021)。現代の人口集団では、継承されたネアンデルタール人のDNAは、ヒト亜鉛含有DNA結合タンパク2(Basonuclin-2、略してBNC2)や眼皮膚白皮症2(oculocutaneous albinism II、略してOCA2)など、ユーラシア人口集団においてシミおよびより赤いる皮膚や髪や目の色素沈着と関連してきて、おそらくは新たな環境への適応的利益をもたらした、特定の遺伝子で見られます(Gittelman et al., 2016、Reilly et al., 2022)。さらに、現代の人口集団と【ネアンデルタール人と現生人類の】混合により近い先史時代人口集団の両方でネアンデルタール人との混合事象の痕跡がないゲノムのそれらの部分には重複があり(Hajdinjak et al., 2021)、選択がごく近い子孫に継承されたほとんどのネアンデルタール人由来遺伝子に対して急速に作用した、と示唆されます。これは、現生人類集団にとって有益な適応をもたらしたそれらの遺伝子だけを残したかもしれません。
現代の人口集団で見られるネアンデルタール人由来のDNAの異なるゲノム痕跡をもたらしたかもしれない機序が二つあり、第一に、ネアンデルタール人集団より大きな現生人類集団が浸透性交雑された遺伝子の刈込選択につながったかもしれず、適応度増加につながった遺伝子のみ残ったか、第二に、半不稔性の子供が交雑から生じたかもしれません。後者を支持する研究もいますが、化石および考古学的記録と組み合わされた遺伝学的証拠は、ネアンデルタール人女性が現生人類集団に組み込まれ、ネアンデルタール人の遺伝子プールを希釈した、という過程を示唆します(Stringer, and Crété., 2022)。これは、同型接合連続領域(runs of homozygosity、略してROH)と、ネアンデルタール人における父方居住の遺伝学的証拠により証明されているように、ネアンデルタール人の採食民団と比較しての現生人類集団の規模に遺伝学的に基づいています。
ROHは、両親からその子供に同一のハプロタイプが伝えられることに起因する、個体に存在するゲノムの連続した領域です。1個体における長いROHから、その両親は最近の共通祖先を有している、と示唆され、1個体における長いROHは、小さい利用可能な遺伝子プールか文化的選好に起因するかもしれないため、社会組織と人口規模への洞察を提供できます。ネアンデルタール人のゲノムは一貫して、古代の現生人類よりも長いROHを示しており(Prüfer et al., 2014、Skov et al., 2022、Slimak et al., 2023)、ネアンデルタール人がおそらくは【現生人類】より小さな人口を有していた、と示唆されます。ROHに基づいて遺伝学的に推測された人口推定値は最大20個体で(Skov et al., 2022)、約12~24個体というネアンデルタール人の人口規模の考古学的推定値と一致します。これは、世界中の現代人集団における28~30個体の採食民団の平均規模という民族誌的証拠により裏づけられます。したがって、古ゲノム証拠は、ネアンデルタール人の採食民団よりも現生人類の採食民団の方が大きい、と示唆します。
第二の観点は、mtDNA(母系を通じてのみ継承されます)の研究を通じて推測されています。スペイン北部のエルシドロン(El Sidrón)洞窟で発見されたネアンデルタール人に関する2011年の研究(Lalueza-Fox et al., 2011)では、女性が異なるミトコンドリアハプロタイプを有している、と示され、父方(夫方)居住の配偶行動が示唆されました。より最近の研究は、シベリア南部のネアンデルタール人と密接に関連した1集団の、Y染色体やmtDNAとともにゲノム規模の核DNAデータを刊行しました(Skov et al., 2022)。その研究は、この集団におけるmtDNA多様性より顕著に低いY染色体の多様性を示し、これは、父方居住配偶行動により最適に説明され、それはY染色体が父系を通じてのみ継承されるからです。データはまだ疎らですが、ネアンデルタール人はその居住範囲全体で父方居住を行なっていた、と示唆しています。将来の研究がこのデータを裏づけるならば、ネアンデルタール人絶滅の説明は、ネアンデルタール人女性が自発的もしくは強制的にネアンデルタール人より現生人類の交配相手を選んだ過程を織り込む必要があるでしょう。これは、女性が現生人類集団へと吸収され、ネアンデルタール人の遺伝子プールを希釈した過程を生じさせたでしょう。
絶滅したいくつかの集団(Fu et al., 2014、Fu et al., 2015、Prüfer et al., 2021)を含めていくつかの独立した現生人類の遺伝的系統における混合や、化石記録における人類の交雑個体の発見(Slon et al., 2018)により証明されているように、混合は一般的だったでしょうが、それが常に習慣だったわけではありません(Hajdinjak et al., 2018)。現生人類のアジア南西部の旧石器時代人口集団は、まだ直接的には標本抽出されていないものの、ユーラシア全域の新石器時代のゲノムから明らかですが、ネアンデルタール人のDNAを殆ど若しくは全く有していません(Lazaridis et al., 2014、Lazaridis et al., 2016)。この標本抽出されていない人口集団の遺伝的歴史に関する結論は、その個体の直接的配列決定を俟たねばなりませんが、その人口集団は、古代のアジア南西部人口集団とのより高い類似性から、アジア南西部のどこかに居住していた可能性が高い、と示唆されます。これにより、同時期のネアンデルタール人集団と地理的に近いことになり、現生人類とネアンデルタール人の一部の人口集団が交雑した一方で、他の人口集団は交雑しなかった、という事実が浮き彫りになります。
興味深いことに、最近のモデル化研究(Quilodrán et al., 2023)では、ネアンデルタール人祖先系統がアジア南西部からの新石器時代農耕民の拡大に続いてヨーロッパの人口集団において希釈され、アジア南西部におけるネアンデルタール人からの遺伝子移入のない基底部ユーラシア人口集団の存在が、他のアジア南西部人口集団と混合し、アジア南西部における相対的により低水準のネアンデルタール人祖先系統を説明できるかもしれない、と示されました。それにも関わらず、この変異性の背景にある原審の完全な理解にはさらなる研究が必要ですが、アジア南西部は、現生人類とネアンデルタール人両方の長い居住史があり、これらの仮説の検証に理想的に適しています。
古ゲノム証拠の最も顕著な欠点は、狭い地理的範囲です。ネアンデルタール人は現生人類と類似した社会組織においては高い差異を示した、と示唆されてきたので、より広範な地理的地域のゲノムデータが、ネアンデルタール人の社会組織および現生人類との遺伝的関係のより深い理解に必要です。アジア南西部はそうしたデータの生成にとくによく適しており、それは、アジア南西部がその他に豊富な考古学的および化石記録と組み合わせて解釈できるからです。
●アジア南西部祖先系統の形成
アジア南西部から直接的に配列決定された最古のゲノムは26000年前頃で、ジョージア(グルジア)のズズアナ(Dzudzuana)洞窟の2個体に属しますが、これは査読前論文のままです。それにも関わらず、このゲノムは、上部旧石器時代のかなり後期まで、アジア南西部旧石器時代の遺伝的理解が現在不足していることを浮き彫りにします。ジョージアとイランとアナトリア半島の上部旧石器時代後期と新石器時代のゲノムから得られた証拠に基づいて、この地域の人口構造はOoA2b(5万年前頃となるアフリカからの現生人類の二回目の移住)の直後に形成され、上部旧石器時代を通じて継続した、と提案されました(Jones et al., 2015、Feldman et al., 2019)。しかし、ズズアナ個体はコーカサスの上部旧石器時代後期採食民よりもアナトリア半島の初期新石器時代農耕民の方と密接に関連しており、コーカサスの人口構造は最終氷期極大期(Last Glacial Maximum、略してLGM)後の過去2万年間以内に形成された、と示唆されます。
これはアフリカ北部にも当てはまり、モロッコの15000年前頃となる後期石器時代個体群は最大63.5%のナトゥーフィアン(Natufian、ナトゥーフ文化、15000~11000年前頃)集団的な祖先系統を有しており、レヴァントからアフリカ北部への続旧石器時代の移動の適切な証拠を提供します(Loosdrecht et al., 2018)。これらの移動はすでに、特定のmtDNAハプログループ(mtHg)U6が、35000年前頃にヨーロッパ南西部で形成されたにも関わらず、アフリカ北西部の現代の人口集団で最も一般的に見られる、という証拠に基づいて以前に裏づけられました(Hervella et al., 2016)。さらに、在来のアフリカ北部祖先系統がレヴァントとより密接な人口集団において次第に減少するのに対して、アジア南西部祖先系統は増加し、12000年以上前の移動に起因する可能性が高そうです。これらの移動は連続的で、モロッコの初期新石器時代農耕民の祖先系統の一部が、11000年前頃のナトゥーフィアン集団とレヴァントの先土器新石器時代(12000~8500年前頃)農耕民からの遺伝子移入にさかのぼる、という事実により証明されています(Fregel et al., 2018)。これらの移動は遺伝学的に証明されているだけではなく、石器の証拠からも明らかです。
アフリカとレヴァントとの間の一貫した移動の証拠の蓄積により、研究者は現生人類におけるネアンデルタール人からの遺伝子移入についての以前の仮定を変えねばなりませんでした。以前のモデルはアフリカの人口集団における人類の混合の明確な痕跡を示し(Lorente-Galdos et al., 2019)、これは最近、上部旧石器時代とその後の期間におけるユーラシアからの逆移動に由来する、アフリカの人口集団におけるネアンデルタール人からの遺伝子移入の少ない量として部分的に定量化されました(Chen et al., 2020)。重要なことに、これは非アフリカ系現代人におけるネアンデルタール人からの遺伝子移入の定量化に用いられた以前のモデルに影響を及ぼし、アジア東部現代人は、以前にヨーロッパ西部現代人より20%多くネアンデルタール人由来のDNAを有している、と提案されましたが、そうではない、と示しています(Chen et al., 2020)。したがって、混合は現代の人口構造を生み出すには継続的に起きねばならなかった、と示した以前のモデルは修正される必要があります(Villanea, and Schraiber., 2019)。
これは、上部旧石器時代の移動と生物学的交換がこの地域のその後の農耕社会で見られたものと同等だった、との結論につなげるべきではありません。じっさい、大半の研究は一貫して、上部旧石器時代の人口構造は異なる集団間の孤立もしくは相互作用の不足のためほぼ連続的なので、新石器時代人口集団は外部からの移住に起因するのではなく局所的に由来した、との仮定的状況を裏づけます(Jones et al., 2015、Broushaki et al., 2016、Lazaridis et al., 2016、Feldman et al., 2019)。それにも関わらず、もっと深く研究されているヨーロッパは、LGMに先行さえする採食民集団間のより動的で多様な歴史を示し始め(Posth et al., 2023)、アジア南西部内のさまざまな場所から得られたゲノムの将来の刊行は、アジア南西部におけるこの期間の理解に大きく情報をもたらすでしょう。たとえば、アジア南西部における古ゲノムの解像度は依然として、上部旧石器時代と続旧石器時代の採食民が、局所的および地域的な相互作用圏における物質および着想と比較して、どの程度遺伝子を交換したか、という定量化には低すぎます。アジア南西部からより多くの、とくにより古いゲノムが得られれば、最初期現生人類の出現から農耕開始までのアジア南西部における採食民の歴史に光を当てるのに大きく役立つでしょう。
●DNAの不足を埋めます
現生人類の農耕開始前の歴史の理解にとってのアジア南西部の重要性にも関わらず、ヨーロッパと比較してこの地域のゲノムの顕著な不足があります(Mallick et al., 2024)。これは部分的には研究の偏りに起因しますが、アジア南西部のゲノムの標本抽出の大きな限界は、保存状態の悪い古代DNAです。アジア南西部地域の高温は、赤道から遠く離れた地域と比較して、保存に悪影響を及ぼします。さらに、次代をさかのぼると化石の希少性が増加することで、化石自体の価値がますます高まるので、少なくともアジア南西部では旧石器時代のゲノムの配列決定を複雑にします。その結果、アジア南西部地域の旧石器時代の遺伝学的データは現時点でひじょうに少なく、外部のゲノムを大きく活用し、アジア南西部へとその発見を外挿しなければなりません。
化石からの直接的なDNA配列決定の代替案の一つは、環境DNA分野の成長です。これにより、堆積物や氷や水に保存されたDNAの抽出が可能となり、いくつかの研究は今や、遺跡の人類など稀な分類群のDNAの特定に成功しました(Gelabert et al., 2021、Vernot et al., 2021、Slon et al., 2017、Zavala et al., 2021、Zhang et al., 2020)。層序間のDNAの移動の可能性にな関する過去の論争にも関わらず、環境DNA配列決定との微細層序学の組み合わせから、DNAは堆積物の骨の断片や糞石に高度に局在する可能性がある、と示されてきており、遺跡の層序記録に配列決定された環境DNAを正確に関連づけることが可能です。
スペインのエルシドロン洞窟やジョージアのサツルブリア(Satsurblia)洞窟では更新世の環境DNAが回収されてきましたが(Vernot et al., 2021、Slon et al., 2017)、より温暖な地域のこの期間のさかのぼる環境DNAを回収する試みは、イスラエルのケバラ(Kebara)洞窟を含めて、失敗してきました。したがって、DNAの保存に対する高温の悪影響は依然として大きな課題で、現在可能であるよりもごく少量を配列決定できる新たな技術によってのみ解決できる可能性が高そうです。これが達成されるまでは、焦点はアジア南西部のより寒冷な地域からのDNA回収に当てられるべきで(堆積物もしくは化石のどちらからの配列決定であれ)、ポントスおよびコーカサス山脈の標高の高い遺跡が、比較的平均気温が低いため、最も有望な候補を提供するでしょう(図4)。以下は本論文の図4です。
アジア南西部旧石器時代の遺伝的解像度をさらに確保するには、研究団が否定的な研究調査結果を体系的に報告し、平等な共同研究の環境と、アジア南西部地域およびそれ以外の地域におけるDNAの保存状態と分解のより深い理解に使用できる新たなデータセットを作ることがさらに肝要です(Alpaslan-Roodenberg et al., 2021)。研究過程を通じて、地元の能力開発に焦点を当てることと、利害関係者の共同体と個人のより深い統合を組み合わせれば、アジア南西部において現在この分野で支配的なより新しいゲノムを超えて、代わりに現在疎らな旧石器時代の記録のより高い解像度の提供に焦点を当てることが可能かもしれません。
重要なことに、これは研究の設計と適用にわたって、古ゲノム研究に対して考古学界により活用されている問題、たとえば移住のような複雑な減少の過度な単純化などに対抗するために、考古学的観点のより大きな関わりを必要とします。これは旧石器時代に拡張され、初期上部旧石器(Initial Upper Paleolithic、略してIUP)が移住もしくは在来の発展に由来するのかどうかなど、といった議論は、考古学からの理論的洞察が古ゲノムの結果の解釈に用いられる場合、遺伝学的データによる解明に役立つことができるかもしれません。これは、考古学者と人類軸者にとって重要であり続ける古ゲノミクスの調査結果に必要な、共通の理論的および分析的枠組みの形成にとって出発点となるでしょう。遺伝学的データが考古学や形態学や民族誌の証拠に対して根拠なく優先される傾向がさほど広がらないことも、保証されるでしょう。これらの問題が解決されれば、古ゲノミクスはまさしくヨーロッパのように、アジア南西部における旧石器時代の理解を急進的に変える可能性が高そうです。
●まとめ
古ゲノミクスは新たなデータ一式の追加によりヒトの先史時代の解釈に大きく影響を及ぼしてきており、本論文では、古ゲノミクスはがどのようにアジア南西部旧石器時代の解釈を変え始めたのか、浮き彫りにされました。OoA2bのアジア南西部における混合は新たな適応なつながり、その適応により現生人類はアフリカ外の環境でより適応的になった可能性が高く、ネアンデルタール人の遺伝子プールの希釈は現生人類とネアンデルタール人との間の相互作用により促進された、と示されてきました。しかし、これらの相互作用の性質はひじょうに複雑で、混合は継続的に起きたものの、それが常習とは限りませんでした。
さらに、上部旧石器時代を通じてのレヴァントとアフリカ北部との間の移動は今や、これらの地域の人口構造がLGM後に形成されたことを明らかにしました。しかし、DNAの保存状態の悪さと継続的な研究の焦点の不足は、アジア南西部の先史時代におけるこの重要な期間の相対的に低い解像度をもたらしてきました。考古学と古ゲノミクスとの間のより強い統合は、DNA保存の高い可能性のある遺跡の戦略的標的化を通じてのアジア南西部地域の保存状態の悪いDNAのより優れた配列決定の試みとともに、この問題の解決に役立ち、絶滅人類と初期採食民集団の遺伝学的研究を新たな時代に移動させることができます。これが実現できれば、古代DNAはアジア南西部の深い先史時代への多くの新たな洞察の提供の可能性を有しています。
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●要約
古ゲノミクスは、ゲノム規模水準での半化石化した遺骸の研究で、遠い過去の研究と理解を急進的に変えてきました。これはアジア南西部にも当てはまり、とくに青銅器時代と鉄器時代はかなり研究されてきました。しかし、この地域におけるDNAの保存状態が悪いため、旧石器時代の遺骸は、この重要な期間の新たな解釈の可能性にも関わらず、ほとんど研究されていません。本論文は、古ゲノミクスが、アフリカからの現生人類の拡散、ネアンデルタール人と現生人類との間の相互作用、アジア南西部の人口構造の形成という、3点の重要分野におけるこの地域の旧石器時代の理解を変え始めた、いくつかの方法を再検討します。これらの解釈のほとんどはアジア南西部外に由来するデータに基づいており、古ゲノミクスと考古学と地元の関係者との間のより密接な統合が、この地域におけるDNAの保存状態の悪さに関する課題の解決の着手に必要である、と本論文は主張します。これを実現できれば、古ゲノミクスは将来の旧石器時代研究に多くの可能性をもたらします。
●研究史
考古学的有機物遺骸からゲノム規模水準で古代DNAを抽出して配列決定できる能力は、遠い過去を調査する新たな手法が開かれてきました。それは古ゲノミクスという新分野の急速な発展につながり、過去の人口集団の進化史を広範な規模および局所規模で解明し始め、考古学における「第三次科学革命」の不可欠な一部として示されてきました。その重要性はこれまでほとんどの研究が行なわれてきたとくにヨーロッパ(Brandt et al., 2013)において見られてきましたが、先史時代のあらゆる場所で研究を急進的に変えるかもしれません(Narasimhan et al., 2019)。これはアジア南西部にも当てはまり、古ゲノミクスがヒトの先史時代におけるいくつかの重要な問題の理解を深めるのに役立つことができます。
それにも関わらず、アジア南西部の分野については、いくつかの問題が残っています。第一に、この地域自体の古ゲノム研究が稀で、これまでに行なわれてきた古ゲノム研究は、アジア南西部地域自体内の人口統計学的過程ではなく、ヨーロッパの先史時代の理解の手段としてアジア南西部地域に焦点を当てる傾向にあります。第二に、研究者は、北半球外の主要な関係者との平等な研究協力の不足を強調してきており(Alpaslan-Roodenberg et al., 2021)、それはアジア南西部にも同様に当てはまります。最後に、ほとんどの古ゲノム研究における考古学と人類学のデータおよび手法との適切な関与の欠如が、批判されてきました。これらの問題は、データが倫理的および協力的に生成されて解釈されることを保証する、ヒト先史時代の古ゲノミクスと他分野との間のより緊密な協力の確保を目的とした、倫理的根拠に基づく枠組みの開始により解決できます。アジア南西部の考古学におけるこの課題の達成のため、研究者はまず、古ゲノミクスがこの地域の考古学的研究へと建設的に適用できる方法のより深い理解を必要とします。
本論文は、古ゲノムデータが考古学的問題の回答、およびアジア南西部の旧石器時代の現在の解釈の変容へと使用できる重要な方法のいくつかを再検討します。アフリカとアジアとヨーロッパとの間の陸橋としての中心的位置のため、アジア南西部地域は、200万年以上前となる人類のアフリカからの最初の拡散とともに始まるヒト先史時代の主要な問題の理解に重要です(Fregel et al., 2018、Zhu et al., 2018、Scardia et al., 2019)。それにも関わらず、アジア南西部地域の研究の大半は新石器時代以降の個体群に属するゲノムを配列決定してきており(図1)、最古の配列決定されたゲノムの年代が査読前論文の26000年前頃である一方で、査読論文として刊行された最古のゲノムの年代は15000年前頃となり(Feldman et al., 2019)、アジア南西部地域の旧石器時代のゲノムの不足を浮き彫りにしています。以下は本論文の図1です。
その結果、ほとんどの再検討は新石器時代と歴史時代についての古ゲノミクスの影響に焦点を当ててきました(Broushaki et al., 2016、Skourtanioti et al., 2020)。本論文の焦点は代わりに、古ゲノムデータがアジア南西部の旧石器時代の主要な3ヶ所の地域に及ぼした影響に当てられます。それは、アフリカからの現生人類の拡散、レヴァントにおけるネアンデルタール人と現生人類との間の相互作用、アジア南西部全域の旧石器時代の人口構造の形成です。これらの問題はアジア南西部先史時代だけではなく、古人類学と旧石器時代考古学におけるより広範な問題の理解とも関連しています。しかし、解釈は暫定的なままで、現在の仮説の検証には、より多くの遺伝的データがアジア南西部地域から直接的に必要です。これをどのように達成するのが最善は未解決の問題ですが、本論文ではいくつかの可能な進路が提案されています。古ゲノム解析の手法と理論は、他の文献で徹底的に再検討されてきたので、本論文では検討されません。
●アフリカからユーラシアへ
アフリカにおける解剖学的現代人の出現の正確な年代と様相は議論されていますが、現生人類は、化石と考古学と遺伝学の証拠の組み合わせに基づいて、30万年前頃に進化した、と一般的に認められています(Bergström et al., 2021)。アフリカからの現生人類の拡散の年代測定は、より困難と証明されてきました。現代の人口集団の遺伝学では、非アフリカ系現代人全員は7万~6万年前頃の1回の移住に由来する、と示唆されていますが(Malaspinas et al., 2016、Mallick et al., 2016、Nielsen et al., 2017、Bergström et al., 2020、Pagani et al., 2016)、アフリカ外の現生人類の最古の化石証拠はギリシアの21万年前頃のものです(Harvati et al., 2019)。一部の研究者は、後頭蓋の断片的な一部のみで構成されるこの21万年前頃となるギリシアで発見された化石に異議を唱えており、その復元方法次第で、ネアンデルタール人の特徴ともクラスタ化する(まとまる)かもしれない、というわけです。さほど異論がないのは、レヴァントのイスラエルのカルメル山にあるミスリヤ洞窟(Misliya Cave)のわずかに新しい上顎で、年代は18万年前頃です(Hershkovitz et al., 2018、Sharp, and Paces., 2018)。
古環境復元では、ナイル川流域およびシナイ渓谷とバブ・エル・マンデブ海峡は両方とも、過去40万年間のいくつかの期間に横断できた、と示されており、アフリカにおける現生人類の出現直後に始まるアジア南西部への連続的拡散の可能性を浮き彫りにします(Tierney et al., 2017、Beyer et al., 2021、Groucutt et al., 2021)。一方で、44万~4万年前頃となるネアンデルタール人(Higham et al., 2014、Slimak et al., 2023、Quilodrán et al., 2023)、44万~5万年前頃となる種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)、70万~5万年前頃(Sutikna et al., 2016)となるホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)、少なくとも6万~5万年前頃(Détroit et al., 2019)となる【近年、134000年前頃と訂正されました(Sawafuji et al., 2024)】となるホモ・ルゾネンシス(Homo luzonensis)が、ユーラシア全域で5万~4万年前頃まで生存していました(図2)。以下は本論文の図2です。
アフリカからの拡散期におけるある時点で、現生人類はこれらの【現生人類ではない】人類の少なくとも一部と遭遇して相互作用し、それは非アフリカ系現代人のゲノムにおける約2%のネアンデルタール人由来のDNA(Green et al., 2010、Prüfer et al., 2014、Bergström et al., 2020、やや高い推定割合を示したのはLohse, and Frantz., 2014)により証明されます。現生人類集団におけるこれら古代型人類の遺伝的痕跡に対する最も可能性の高い説明は混合ですが、この混合事象の回数と年代と正確な場所は不明です。非アフリカ系人口集団はすべてネアンデルタール人由来のDNAを共有しているので、その混合事象は、アフリカからのどの拡散でも必須の中継地点であるアジア南西部で最初に起きた可能性が高そうです(Green et al., 2010)。
アフリカからの初期拡散は「失敗した」試みとして解釈されたことが多く、それは、初期拡散集団が現在の人口集団に永続的な遺伝的痕跡を残しておらず、他の人類種に打ち負かされたからです(Rabett., 2018)。しかし、ネアンデルタール人と現生人類との間の初期の遺伝的混合の証拠の蓄積から、これらの拡散はより動的だった、と示唆されます。2020年の研究(Petr et al., 2020)は、父系のみを通じて継承される、ネアンデルタール人のY染色体の一部を配列決定しました。その結果、ネアンデルタール人のY染色体は、遺伝学的推定に基づくと、ネアンデルタール人およびデニソワ人【の共通祖先】からの現生人類の分岐が55万年前頃なのに対して、ネアンデルタール人がデニソワ人から分岐したのはわずか40万年前頃であるにも関わらず(Liu et al., 2021)、ネアンデルタール人はデニソワ人とよりも現生人類の方と密接に関連していた、と示されました。遺伝学的推定値が化石証拠と常に重なるとは限らないので、種分化事象の年代を完全には反映していないかもしれないことに要注意ですが、遺伝学的に推定された系統間の近縁関係の程度は依然として変わりません。
ネアンデルタール人と現生人類のY染色体間の密接な類似性は、37万~10万年前頃となるネアンデルタール人への現生人類のDNAの混合事象により説明できます(Petr et al., 2020)。それ以前の研究では、ドイツ南西部のホーレンシュタイン-シュターデル(Hohlenstein–Stadel、略してHST)洞窟のネアンデルタール人の大腿骨のミトコンドリアゲノムに基づいて、ネアンデルタール人への現生人類のミトコンドリアDNA(mtDNA)の遺伝子流動の下限は27万年前頃と示されました(Posth et al., 2017)。シベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)のネアンデルタール人1個体の核ゲノムはさらに、10万年前頃となる現生人類からの遺伝子移入を示しました(Kuhlwilm et al., 2016)。しかし、これは全てのネアンデルタール人には当てはまらず【高品質なネアンデルタール人のゲノムデータで比較すると、アルタイ山脈でもヨーロッパでも、現生人類からの遺伝的影響が確認されています(Prüfer et al., 2017)】、いくつかの生物学的に異なるネアンデルタール人集団がユーラシア全域に存在した、と示唆されます。これらの人口集団の一部は、その遺伝的祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)の一部が、過去30万年間にアフリカからアジア南西部へと移動した現生人類との混合に由来していました。現生人類はアフリカを離れてすぐ、他の人類との相互作用と、そのゲノムの一部の交換を始めました。
この証拠と一致して、先行研究はアジア南西部への2回のアフリカからの拡散を提案し、一方は10万年前頃の出アフリカ(Out of Africa、略してOoA)2aで、もう一方はその後の5万年前頃の拡散です(OoA2b)。上述の引用した遺伝的証拠に基づくと、この先行研究とは対照的に、OoA2aは単一の拡散ではなく、むしろ早くも30万年前頃に始まった数回のそれ以前の移住を反映しています。これらの拡散はネアンデルタール人集団にいくらかの遺伝的痕跡を残しましたが、現生人類集団には残しませんでした。これら初期のヒト【現生人類】集団の消滅がネアンデルタール人の置換か、気候変化か、他の何かの産物だったのかどうかの説明には、さらなる研究が必要です。しかし、OoA2bの期間には、その逆が起き、つまり、現生人類を除いてあらゆる人類種が最終的には絶滅しました。古人類学における重要な問題は、これが起きた理由の決定です(Rabett., 2018)。
●共存もしくは闘争?社会組織およびネアンデルタール人と現生人類との間の相互作用への洞察
アジア南西部における現生人類とネアンデルタール人の包括的な化石記録は、イスラエルのミスリヤ洞窟とタブン(Tabun)洞窟遺跡に始まり、アジア南西部はこれらの人類間の相互作用の理解にとって重要な地域となります(表1、図3)。考古学と化石の証拠のみに基づいていた以前の研究では、限られた資源をめぐる競争が、レヴァントとユーラシア全域における人類集団の連続的な置換につながった、と示唆されました。古ゲノム証拠から、これらの人類は交雑したと示され、代替的な見解では、少なくとも時には平和的共存があった、とされます。レヴァントの石器の証拠も同様の方法で解釈されてきており、現生人類とネアンデルタール人両方の特徴のある「象徴的インダストリー」が出現しました。レヴァントにおけるこれらの人類の継続的な共存が意味するのは、OoA2bが、最終的にネアンデルタール人の絶滅、推測によると、他地域での他の人類の絶滅につながった理由の判断には、レヴァント地域が中心である、ということです。2012年の研究では、OoA2bにおけるネアンデルタール人集団の縮小(気候圧力のため)とともに拡大する現生人類集団は説明として機能するものの、これは考古学的記録において間違いなく特定するのは困難である、と提案されました。以下は本論文の図3です。
しかし、古ゲノミクスは現生人類集団拡大の証拠を提供するものの、具体的にはネアンデルタール人の遺伝子に対する負の選択を通じてです。42000~37000年前頃【最新の放射性炭素年代測定法の較正曲線(Bard et al., 2020)では41180~39190年前頃】となるルーマニア南西部の「骨の洞窟(Peştera cu Oase、略してPO)」で発見された現生人類1個体のゲノムには、4~6世代前の混合に起因するネアンデルタール人由来の6~9%のDNAがありました(Fu et al., 2015)。これは現在において現生人類で見られる割合より高く、【ネアンデルタール人と現生人類との間の】混合【年代】により近い他のゲノムも、より大きな領域でより多いネアンデルタール人由来のDNAを示します(Fu et al., 2014、Prüfer et al., 2021)。現代の人口集団では、継承されたネアンデルタール人のDNAは、ヒト亜鉛含有DNA結合タンパク2(Basonuclin-2、略してBNC2)や眼皮膚白皮症2(oculocutaneous albinism II、略してOCA2)など、ユーラシア人口集団においてシミおよびより赤いる皮膚や髪や目の色素沈着と関連してきて、おそらくは新たな環境への適応的利益をもたらした、特定の遺伝子で見られます(Gittelman et al., 2016、Reilly et al., 2022)。さらに、現代の人口集団と【ネアンデルタール人と現生人類の】混合により近い先史時代人口集団の両方でネアンデルタール人との混合事象の痕跡がないゲノムのそれらの部分には重複があり(Hajdinjak et al., 2021)、選択がごく近い子孫に継承されたほとんどのネアンデルタール人由来遺伝子に対して急速に作用した、と示唆されます。これは、現生人類集団にとって有益な適応をもたらしたそれらの遺伝子だけを残したかもしれません。
現代の人口集団で見られるネアンデルタール人由来のDNAの異なるゲノム痕跡をもたらしたかもしれない機序が二つあり、第一に、ネアンデルタール人集団より大きな現生人類集団が浸透性交雑された遺伝子の刈込選択につながったかもしれず、適応度増加につながった遺伝子のみ残ったか、第二に、半不稔性の子供が交雑から生じたかもしれません。後者を支持する研究もいますが、化石および考古学的記録と組み合わされた遺伝学的証拠は、ネアンデルタール人女性が現生人類集団に組み込まれ、ネアンデルタール人の遺伝子プールを希釈した、という過程を示唆します(Stringer, and Crété., 2022)。これは、同型接合連続領域(runs of homozygosity、略してROH)と、ネアンデルタール人における父方居住の遺伝学的証拠により証明されているように、ネアンデルタール人の採食民団と比較しての現生人類集団の規模に遺伝学的に基づいています。
ROHは、両親からその子供に同一のハプロタイプが伝えられることに起因する、個体に存在するゲノムの連続した領域です。1個体における長いROHから、その両親は最近の共通祖先を有している、と示唆され、1個体における長いROHは、小さい利用可能な遺伝子プールか文化的選好に起因するかもしれないため、社会組織と人口規模への洞察を提供できます。ネアンデルタール人のゲノムは一貫して、古代の現生人類よりも長いROHを示しており(Prüfer et al., 2014、Skov et al., 2022、Slimak et al., 2023)、ネアンデルタール人がおそらくは【現生人類】より小さな人口を有していた、と示唆されます。ROHに基づいて遺伝学的に推測された人口推定値は最大20個体で(Skov et al., 2022)、約12~24個体というネアンデルタール人の人口規模の考古学的推定値と一致します。これは、世界中の現代人集団における28~30個体の採食民団の平均規模という民族誌的証拠により裏づけられます。したがって、古ゲノム証拠は、ネアンデルタール人の採食民団よりも現生人類の採食民団の方が大きい、と示唆します。
第二の観点は、mtDNA(母系を通じてのみ継承されます)の研究を通じて推測されています。スペイン北部のエルシドロン(El Sidrón)洞窟で発見されたネアンデルタール人に関する2011年の研究(Lalueza-Fox et al., 2011)では、女性が異なるミトコンドリアハプロタイプを有している、と示され、父方(夫方)居住の配偶行動が示唆されました。より最近の研究は、シベリア南部のネアンデルタール人と密接に関連した1集団の、Y染色体やmtDNAとともにゲノム規模の核DNAデータを刊行しました(Skov et al., 2022)。その研究は、この集団におけるmtDNA多様性より顕著に低いY染色体の多様性を示し、これは、父方居住配偶行動により最適に説明され、それはY染色体が父系を通じてのみ継承されるからです。データはまだ疎らですが、ネアンデルタール人はその居住範囲全体で父方居住を行なっていた、と示唆しています。将来の研究がこのデータを裏づけるならば、ネアンデルタール人絶滅の説明は、ネアンデルタール人女性が自発的もしくは強制的にネアンデルタール人より現生人類の交配相手を選んだ過程を織り込む必要があるでしょう。これは、女性が現生人類集団へと吸収され、ネアンデルタール人の遺伝子プールを希釈した過程を生じさせたでしょう。
絶滅したいくつかの集団(Fu et al., 2014、Fu et al., 2015、Prüfer et al., 2021)を含めていくつかの独立した現生人類の遺伝的系統における混合や、化石記録における人類の交雑個体の発見(Slon et al., 2018)により証明されているように、混合は一般的だったでしょうが、それが常に習慣だったわけではありません(Hajdinjak et al., 2018)。現生人類のアジア南西部の旧石器時代人口集団は、まだ直接的には標本抽出されていないものの、ユーラシア全域の新石器時代のゲノムから明らかですが、ネアンデルタール人のDNAを殆ど若しくは全く有していません(Lazaridis et al., 2014、Lazaridis et al., 2016)。この標本抽出されていない人口集団の遺伝的歴史に関する結論は、その個体の直接的配列決定を俟たねばなりませんが、その人口集団は、古代のアジア南西部人口集団とのより高い類似性から、アジア南西部のどこかに居住していた可能性が高い、と示唆されます。これにより、同時期のネアンデルタール人集団と地理的に近いことになり、現生人類とネアンデルタール人の一部の人口集団が交雑した一方で、他の人口集団は交雑しなかった、という事実が浮き彫りになります。
興味深いことに、最近のモデル化研究(Quilodrán et al., 2023)では、ネアンデルタール人祖先系統がアジア南西部からの新石器時代農耕民の拡大に続いてヨーロッパの人口集団において希釈され、アジア南西部におけるネアンデルタール人からの遺伝子移入のない基底部ユーラシア人口集団の存在が、他のアジア南西部人口集団と混合し、アジア南西部における相対的により低水準のネアンデルタール人祖先系統を説明できるかもしれない、と示されました。それにも関わらず、この変異性の背景にある原審の完全な理解にはさらなる研究が必要ですが、アジア南西部は、現生人類とネアンデルタール人両方の長い居住史があり、これらの仮説の検証に理想的に適しています。
古ゲノム証拠の最も顕著な欠点は、狭い地理的範囲です。ネアンデルタール人は現生人類と類似した社会組織においては高い差異を示した、と示唆されてきたので、より広範な地理的地域のゲノムデータが、ネアンデルタール人の社会組織および現生人類との遺伝的関係のより深い理解に必要です。アジア南西部はそうしたデータの生成にとくによく適しており、それは、アジア南西部がその他に豊富な考古学的および化石記録と組み合わせて解釈できるからです。
●アジア南西部祖先系統の形成
アジア南西部から直接的に配列決定された最古のゲノムは26000年前頃で、ジョージア(グルジア)のズズアナ(Dzudzuana)洞窟の2個体に属しますが、これは査読前論文のままです。それにも関わらず、このゲノムは、上部旧石器時代のかなり後期まで、アジア南西部旧石器時代の遺伝的理解が現在不足していることを浮き彫りにします。ジョージアとイランとアナトリア半島の上部旧石器時代後期と新石器時代のゲノムから得られた証拠に基づいて、この地域の人口構造はOoA2b(5万年前頃となるアフリカからの現生人類の二回目の移住)の直後に形成され、上部旧石器時代を通じて継続した、と提案されました(Jones et al., 2015、Feldman et al., 2019)。しかし、ズズアナ個体はコーカサスの上部旧石器時代後期採食民よりもアナトリア半島の初期新石器時代農耕民の方と密接に関連しており、コーカサスの人口構造は最終氷期極大期(Last Glacial Maximum、略してLGM)後の過去2万年間以内に形成された、と示唆されます。
これはアフリカ北部にも当てはまり、モロッコの15000年前頃となる後期石器時代個体群は最大63.5%のナトゥーフィアン(Natufian、ナトゥーフ文化、15000~11000年前頃)集団的な祖先系統を有しており、レヴァントからアフリカ北部への続旧石器時代の移動の適切な証拠を提供します(Loosdrecht et al., 2018)。これらの移動はすでに、特定のmtDNAハプログループ(mtHg)U6が、35000年前頃にヨーロッパ南西部で形成されたにも関わらず、アフリカ北西部の現代の人口集団で最も一般的に見られる、という証拠に基づいて以前に裏づけられました(Hervella et al., 2016)。さらに、在来のアフリカ北部祖先系統がレヴァントとより密接な人口集団において次第に減少するのに対して、アジア南西部祖先系統は増加し、12000年以上前の移動に起因する可能性が高そうです。これらの移動は連続的で、モロッコの初期新石器時代農耕民の祖先系統の一部が、11000年前頃のナトゥーフィアン集団とレヴァントの先土器新石器時代(12000~8500年前頃)農耕民からの遺伝子移入にさかのぼる、という事実により証明されています(Fregel et al., 2018)。これらの移動は遺伝学的に証明されているだけではなく、石器の証拠からも明らかです。
アフリカとレヴァントとの間の一貫した移動の証拠の蓄積により、研究者は現生人類におけるネアンデルタール人からの遺伝子移入についての以前の仮定を変えねばなりませんでした。以前のモデルはアフリカの人口集団における人類の混合の明確な痕跡を示し(Lorente-Galdos et al., 2019)、これは最近、上部旧石器時代とその後の期間におけるユーラシアからの逆移動に由来する、アフリカの人口集団におけるネアンデルタール人からの遺伝子移入の少ない量として部分的に定量化されました(Chen et al., 2020)。重要なことに、これは非アフリカ系現代人におけるネアンデルタール人からの遺伝子移入の定量化に用いられた以前のモデルに影響を及ぼし、アジア東部現代人は、以前にヨーロッパ西部現代人より20%多くネアンデルタール人由来のDNAを有している、と提案されましたが、そうではない、と示しています(Chen et al., 2020)。したがって、混合は現代の人口構造を生み出すには継続的に起きねばならなかった、と示した以前のモデルは修正される必要があります(Villanea, and Schraiber., 2019)。
これは、上部旧石器時代の移動と生物学的交換がこの地域のその後の農耕社会で見られたものと同等だった、との結論につなげるべきではありません。じっさい、大半の研究は一貫して、上部旧石器時代の人口構造は異なる集団間の孤立もしくは相互作用の不足のためほぼ連続的なので、新石器時代人口集団は外部からの移住に起因するのではなく局所的に由来した、との仮定的状況を裏づけます(Jones et al., 2015、Broushaki et al., 2016、Lazaridis et al., 2016、Feldman et al., 2019)。それにも関わらず、もっと深く研究されているヨーロッパは、LGMに先行さえする採食民集団間のより動的で多様な歴史を示し始め(Posth et al., 2023)、アジア南西部内のさまざまな場所から得られたゲノムの将来の刊行は、アジア南西部におけるこの期間の理解に大きく情報をもたらすでしょう。たとえば、アジア南西部における古ゲノムの解像度は依然として、上部旧石器時代と続旧石器時代の採食民が、局所的および地域的な相互作用圏における物質および着想と比較して、どの程度遺伝子を交換したか、という定量化には低すぎます。アジア南西部からより多くの、とくにより古いゲノムが得られれば、最初期現生人類の出現から農耕開始までのアジア南西部における採食民の歴史に光を当てるのに大きく役立つでしょう。
●DNAの不足を埋めます
現生人類の農耕開始前の歴史の理解にとってのアジア南西部の重要性にも関わらず、ヨーロッパと比較してこの地域のゲノムの顕著な不足があります(Mallick et al., 2024)。これは部分的には研究の偏りに起因しますが、アジア南西部のゲノムの標本抽出の大きな限界は、保存状態の悪い古代DNAです。アジア南西部地域の高温は、赤道から遠く離れた地域と比較して、保存に悪影響を及ぼします。さらに、次代をさかのぼると化石の希少性が増加することで、化石自体の価値がますます高まるので、少なくともアジア南西部では旧石器時代のゲノムの配列決定を複雑にします。その結果、アジア南西部地域の旧石器時代の遺伝学的データは現時点でひじょうに少なく、外部のゲノムを大きく活用し、アジア南西部へとその発見を外挿しなければなりません。
化石からの直接的なDNA配列決定の代替案の一つは、環境DNA分野の成長です。これにより、堆積物や氷や水に保存されたDNAの抽出が可能となり、いくつかの研究は今や、遺跡の人類など稀な分類群のDNAの特定に成功しました(Gelabert et al., 2021、Vernot et al., 2021、Slon et al., 2017、Zavala et al., 2021、Zhang et al., 2020)。層序間のDNAの移動の可能性にな関する過去の論争にも関わらず、環境DNA配列決定との微細層序学の組み合わせから、DNAは堆積物の骨の断片や糞石に高度に局在する可能性がある、と示されてきており、遺跡の層序記録に配列決定された環境DNAを正確に関連づけることが可能です。
スペインのエルシドロン洞窟やジョージアのサツルブリア(Satsurblia)洞窟では更新世の環境DNAが回収されてきましたが(Vernot et al., 2021、Slon et al., 2017)、より温暖な地域のこの期間のさかのぼる環境DNAを回収する試みは、イスラエルのケバラ(Kebara)洞窟を含めて、失敗してきました。したがって、DNAの保存に対する高温の悪影響は依然として大きな課題で、現在可能であるよりもごく少量を配列決定できる新たな技術によってのみ解決できる可能性が高そうです。これが達成されるまでは、焦点はアジア南西部のより寒冷な地域からのDNA回収に当てられるべきで(堆積物もしくは化石のどちらからの配列決定であれ)、ポントスおよびコーカサス山脈の標高の高い遺跡が、比較的平均気温が低いため、最も有望な候補を提供するでしょう(図4)。以下は本論文の図4です。
アジア南西部旧石器時代の遺伝的解像度をさらに確保するには、研究団が否定的な研究調査結果を体系的に報告し、平等な共同研究の環境と、アジア南西部地域およびそれ以外の地域におけるDNAの保存状態と分解のより深い理解に使用できる新たなデータセットを作ることがさらに肝要です(Alpaslan-Roodenberg et al., 2021)。研究過程を通じて、地元の能力開発に焦点を当てることと、利害関係者の共同体と個人のより深い統合を組み合わせれば、アジア南西部において現在この分野で支配的なより新しいゲノムを超えて、代わりに現在疎らな旧石器時代の記録のより高い解像度の提供に焦点を当てることが可能かもしれません。
重要なことに、これは研究の設計と適用にわたって、古ゲノム研究に対して考古学界により活用されている問題、たとえば移住のような複雑な減少の過度な単純化などに対抗するために、考古学的観点のより大きな関わりを必要とします。これは旧石器時代に拡張され、初期上部旧石器(Initial Upper Paleolithic、略してIUP)が移住もしくは在来の発展に由来するのかどうかなど、といった議論は、考古学からの理論的洞察が古ゲノムの結果の解釈に用いられる場合、遺伝学的データによる解明に役立つことができるかもしれません。これは、考古学者と人類軸者にとって重要であり続ける古ゲノミクスの調査結果に必要な、共通の理論的および分析的枠組みの形成にとって出発点となるでしょう。遺伝学的データが考古学や形態学や民族誌の証拠に対して根拠なく優先される傾向がさほど広がらないことも、保証されるでしょう。これらの問題が解決されれば、古ゲノミクスはまさしくヨーロッパのように、アジア南西部における旧石器時代の理解を急進的に変える可能性が高そうです。
●まとめ
古ゲノミクスは新たなデータ一式の追加によりヒトの先史時代の解釈に大きく影響を及ぼしてきており、本論文では、古ゲノミクスはがどのようにアジア南西部旧石器時代の解釈を変え始めたのか、浮き彫りにされました。OoA2bのアジア南西部における混合は新たな適応なつながり、その適応により現生人類はアフリカ外の環境でより適応的になった可能性が高く、ネアンデルタール人の遺伝子プールの希釈は現生人類とネアンデルタール人との間の相互作用により促進された、と示されてきました。しかし、これらの相互作用の性質はひじょうに複雑で、混合は継続的に起きたものの、それが常習とは限りませんでした。
さらに、上部旧石器時代を通じてのレヴァントとアフリカ北部との間の移動は今や、これらの地域の人口構造がLGM後に形成されたことを明らかにしました。しかし、DNAの保存状態の悪さと継続的な研究の焦点の不足は、アジア南西部の先史時代におけるこの重要な期間の相対的に低い解像度をもたらしてきました。考古学と古ゲノミクスとの間のより強い統合は、DNA保存の高い可能性のある遺跡の戦略的標的化を通じてのアジア南西部地域の保存状態の悪いDNAのより優れた配列決定の試みとともに、この問題の解決に役立ち、絶滅人類と初期採食民集団の遺伝学的研究を新たな時代に移動させることができます。これが実現できれば、古代DNAはアジア南西部の深い先史時代への多くの新たな洞察の提供の可能性を有しています。
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