ヨーロッパの初期現生人類の形態
ヨーロッパの初期現生人類(Homo sapiens)の形態について、今年(2024年)3月20日~23日にかけてアメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルス市で開催された第93回アメリカ生物学会(旧称はアメリカ自然人類学会)総会で報告されました(Bejdova et al., 2024)。この報告の要約はPDFファイルで読めます(P15-16)。
ズラティクン(Zlatý kůň、略してZK)ヒト遺骸はチェコ共和国のコニェプルシ(Koněprusy)洞窟で1950年代に発見されました。発見後、この骨格遺骸はウシ属のコラーゲンで固められ、放射性炭素年代測定法を偏らせることになりました。現在、ZKの年代の最も決定的な証拠は、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)のDNA配列の長さの最近の分析(関連記事)に由来し、初期上部旧石器時代と確証されました(45000年前頃)。このため、不完全な頭蓋と下顎と脊椎骨と肋骨から構成されるZK個体は、ヨーロッパの最良の保存状態の初期現生人類標本となっています。
本論文は、ZK下顎の形態を記載し、現代人と中部旧石器時代および上部旧石器時代の化石標本を用いて、その形状の幾何学的形態計測分析を提示します。ZK下顎は中程度の大きさで、歯は高度に摩耗し、関節突起はかなり平坦です。この標本は中部旧石器時代および上部旧石器時代の現生人類に特徴的な現代的な個別的形質一式を示し、巨大な下顎骨体、斜めの下顎角、広い歯顎弓、冠顎骨の低い位置により特徴づけられます。ZK下顎の全体的な形状は、現代人の差異外に位置し、中部旧石器時代および初期~中期上部旧石器時代の現生人類により近くなっています。ZK下顎の形態学的類似性は、以前の古遺伝学的分析と一致します。
ZKは、現代人にはほぼ遺伝的影響を残していない、と推測されています(関連記事)。しかし、クリミアの37000~36000年前頃の現生人類個体では、ZK的な遺伝的構成の集団からの明確な遺伝的影響が示されています(関連記事)。また、ZK的な遺伝的構成の集団は4万年以上前のヨーロッパには広く存在していた可能性があり(関連記事)、現生人類は後期更新世においてアフリカから世界中に拡散したものの、現代人に遺伝的痕跡を殆ど若しくは全く残していない現生人類集団は珍しくなかった、というか、現代人の主要な祖先集団が当時存在した現生人類集団のごく一部だった可能性を示唆しているように思います(関連記事)。
参考文献:
Bejdova S. et al.(2024): Morphology of the early Upper Paleolithic Zlatý kůň mandible, Czech Republic. The 93th Annual Meeting of the AAPA.
ズラティクン(Zlatý kůň、略してZK)ヒト遺骸はチェコ共和国のコニェプルシ(Koněprusy)洞窟で1950年代に発見されました。発見後、この骨格遺骸はウシ属のコラーゲンで固められ、放射性炭素年代測定法を偏らせることになりました。現在、ZKの年代の最も決定的な証拠は、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)のDNA配列の長さの最近の分析(関連記事)に由来し、初期上部旧石器時代と確証されました(45000年前頃)。このため、不完全な頭蓋と下顎と脊椎骨と肋骨から構成されるZK個体は、ヨーロッパの最良の保存状態の初期現生人類標本となっています。
本論文は、ZK下顎の形態を記載し、現代人と中部旧石器時代および上部旧石器時代の化石標本を用いて、その形状の幾何学的形態計測分析を提示します。ZK下顎は中程度の大きさで、歯は高度に摩耗し、関節突起はかなり平坦です。この標本は中部旧石器時代および上部旧石器時代の現生人類に特徴的な現代的な個別的形質一式を示し、巨大な下顎骨体、斜めの下顎角、広い歯顎弓、冠顎骨の低い位置により特徴づけられます。ZK下顎の全体的な形状は、現代人の差異外に位置し、中部旧石器時代および初期~中期上部旧石器時代の現生人類により近くなっています。ZK下顎の形態学的類似性は、以前の古遺伝学的分析と一致します。
ZKは、現代人にはほぼ遺伝的影響を残していない、と推測されています(関連記事)。しかし、クリミアの37000~36000年前頃の現生人類個体では、ZK的な遺伝的構成の集団からの明確な遺伝的影響が示されています(関連記事)。また、ZK的な遺伝的構成の集団は4万年以上前のヨーロッパには広く存在していた可能性があり(関連記事)、現生人類は後期更新世においてアフリカから世界中に拡散したものの、現代人に遺伝的痕跡を殆ど若しくは全く残していない現生人類集団は珍しくなかった、というか、現代人の主要な祖先集団が当時存在した現生人類集団のごく一部だった可能性を示唆しているように思います(関連記事)。
参考文献:
Bejdova S. et al.(2024): Morphology of the early Upper Paleolithic Zlatý kůň mandible, Czech Republic. The 93th Annual Meeting of the AAPA.
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