ネアンデルタール人の炉床の年代測定
ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の炉床の新たな年代測定方法を報告した研究(Herrejón-Lagunilla et al., 2024)が公表されました。旧石器時代のヒトの活動の期間を明らかにすることは、先史考古学的における屈指の難題です。これは、年代測定技術の分解能に限界があるためで、放射性炭素年代測定法は、測定限界を6万~5万年前頃まで延ばして適用されており、それ以外の年代測定法では数千年の誤差が生じる可能性もあります。狩猟採集民の住居群の居住期間および度数は、社会生活や、ヒトと環境の相互作用の重要な側面を反映しています。しかし、旧石器時代の文脈における時間の特徴は、年代測定技術の限界、堆積層への撹乱要因の影響、重複堆積物(palimpsest、複数の行動事象の空間的重複により生じた考古学的記録)効果のため、一般に再構成が不正確です。
本論文は、スペインのエル・ソルト(El Salt)開地遺跡のユニットXの中部旧石器時代(52000年前頃)の6ヶ所の炉床に関して、考古地磁気学的(炉跡に残された物質には最後に火を熾した時の地球の磁場の記録が保持されている、という仮説に基づいています)および考古層序学的(炉跡間の相対年代が分かります)な分析で得られた高分解能の年代差について報告します。一連の炉床は少なくとも約200~240年の期間(99%の確率)にわたって存在しており、各炉床の間には10~100年単位の年代間隔がありました。ネアンデルタール人は一生のうちに以前の居住地に舞い戻る場合があったものの、常にそうだったわけではないようです。
これらの知見は、調べた層序系列に含まれるヒトの居住事象に関して、時間的枠組みの定量的な推定値をもたらしています。これは、旧石器考古学における前向きな一歩で、この学問分野においては、地質学的過程に典型的な期間からヒトの行動を探ることが一般的ですが、大きな変化はヒトの世代というそれよりも短い期間で起こり得ます。本論文は、ヒトの寿命に近い時間規模に到達しました。この研究で用いられた方法は、他の考古学的状況に適用して、ネアンデルタール人に限らずさまざまな人類の活動の時期を解明できる可能性があります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
考古学:ネアンデルタール人の複数の炉跡の年代的間隔を測定する新しい方法
スペインで発見されたネアンデルタール人の6つの炉跡の年代的間隔の最小値に関する研究について報告する論文が、今週、Natureに掲載される。今回の研究では、6つの炉床が少なくとも200~240年の間に形成され、個々の炉床に数十年の時間的隔たりがあったことが示唆された。この知見は、ネアンデルタール人の行動の解釈に役立つかもしれない。
旧石器時代の人間活動の時間スケールを決定することは難しい。これは、年代測定技術の分解能に限界があるためで、放射性炭素年代測定法は、測定限界を約5万~6万年前まで延ばして適用されており、それ以外の年代測定法では数千年の誤差が生じる可能性がある。炉跡は、人間活動の適切なマーカーとなり得る。火を起こすことは特定の場所を占有していたことを示す指標となるためで、これが、今回のÁngela Herrejón-Lagunillaらの研究で示された研究方法の中核となっている。
スペインのエルソルトの一連の炉跡(6カ所)は、ネアンデルタール人の研究にとって重要な遺跡であり、約5万2000年前(中期旧石器時代)のものと年代決定され、約200~240年の間に形成されたと推定される同じ堆積層内で発見された。それぞれの炉跡の年代的間隔は、短いもので数十年、長いもので最長100年と推定されている。今回Herrejón-Lagunillaらは、考古層序分析(炉跡間の相対年代が分かる)と考古磁気法(炉跡に残された物質には最後に火を起こしたときの地球の磁場の記録が保持されているという仮説に基づいている)を併用した。その結果、移動生活をしていたネアンデルタール人が一生のうちに以前の居住地に舞い戻る場合があったが、常にそうだったわけではないことを示す知見が得られた。
Herrejón-Lagunillaらは、以上の分析は、旧石器時代の狩猟採集民の行動を理解するための今後の研究に寄与する可能性があるという考えを示している。Herrejón-Lagunillaらはまた、今回の研究で用いた方法は、他の考古学的状況に適用して、人類の活動の時期を解明できる可能性があると付言している。
考古学:旧石器時代の炉床の年代間隔
考古学:旧石器時代の炉床をヒトの寿命に近い時間スケールで紐解く
今回、スペインで約5万2000年前にネアンデルタール人が使っていた6つの炉床に関して、それらが約200〜240年の期間に作られたもので、個々の炉床間の年代間隔には10年単位の例もあり、ネアンデルタール人が景観をどう利用していたのかについてより詳細な状況が明らかにされた。
参考文献:
Herrejón-Lagunilla Á. et al.(2024): The time between Palaeolithic hearths. Nature, 630, 8017, 666–670.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07467-0
本論文は、スペインのエル・ソルト(El Salt)開地遺跡のユニットXの中部旧石器時代(52000年前頃)の6ヶ所の炉床に関して、考古地磁気学的(炉跡に残された物質には最後に火を熾した時の地球の磁場の記録が保持されている、という仮説に基づいています)および考古層序学的(炉跡間の相対年代が分かります)な分析で得られた高分解能の年代差について報告します。一連の炉床は少なくとも約200~240年の期間(99%の確率)にわたって存在しており、各炉床の間には10~100年単位の年代間隔がありました。ネアンデルタール人は一生のうちに以前の居住地に舞い戻る場合があったものの、常にそうだったわけではないようです。
これらの知見は、調べた層序系列に含まれるヒトの居住事象に関して、時間的枠組みの定量的な推定値をもたらしています。これは、旧石器考古学における前向きな一歩で、この学問分野においては、地質学的過程に典型的な期間からヒトの行動を探ることが一般的ですが、大きな変化はヒトの世代というそれよりも短い期間で起こり得ます。本論文は、ヒトの寿命に近い時間規模に到達しました。この研究で用いられた方法は、他の考古学的状況に適用して、ネアンデルタール人に限らずさまざまな人類の活動の時期を解明できる可能性があります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
考古学:ネアンデルタール人の複数の炉跡の年代的間隔を測定する新しい方法
スペインで発見されたネアンデルタール人の6つの炉跡の年代的間隔の最小値に関する研究について報告する論文が、今週、Natureに掲載される。今回の研究では、6つの炉床が少なくとも200~240年の間に形成され、個々の炉床に数十年の時間的隔たりがあったことが示唆された。この知見は、ネアンデルタール人の行動の解釈に役立つかもしれない。
旧石器時代の人間活動の時間スケールを決定することは難しい。これは、年代測定技術の分解能に限界があるためで、放射性炭素年代測定法は、測定限界を約5万~6万年前まで延ばして適用されており、それ以外の年代測定法では数千年の誤差が生じる可能性がある。炉跡は、人間活動の適切なマーカーとなり得る。火を起こすことは特定の場所を占有していたことを示す指標となるためで、これが、今回のÁngela Herrejón-Lagunillaらの研究で示された研究方法の中核となっている。
スペインのエルソルトの一連の炉跡(6カ所)は、ネアンデルタール人の研究にとって重要な遺跡であり、約5万2000年前(中期旧石器時代)のものと年代決定され、約200~240年の間に形成されたと推定される同じ堆積層内で発見された。それぞれの炉跡の年代的間隔は、短いもので数十年、長いもので最長100年と推定されている。今回Herrejón-Lagunillaらは、考古層序分析(炉跡間の相対年代が分かる)と考古磁気法(炉跡に残された物質には最後に火を起こしたときの地球の磁場の記録が保持されているという仮説に基づいている)を併用した。その結果、移動生活をしていたネアンデルタール人が一生のうちに以前の居住地に舞い戻る場合があったが、常にそうだったわけではないことを示す知見が得られた。
Herrejón-Lagunillaらは、以上の分析は、旧石器時代の狩猟採集民の行動を理解するための今後の研究に寄与する可能性があるという考えを示している。Herrejón-Lagunillaらはまた、今回の研究で用いた方法は、他の考古学的状況に適用して、人類の活動の時期を解明できる可能性があると付言している。
考古学:旧石器時代の炉床の年代間隔
考古学:旧石器時代の炉床をヒトの寿命に近い時間スケールで紐解く
今回、スペインで約5万2000年前にネアンデルタール人が使っていた6つの炉床に関して、それらが約200〜240年の期間に作られたもので、個々の炉床間の年代間隔には10年単位の例もあり、ネアンデルタール人が景観をどう利用していたのかについてより詳細な状況が明らかにされた。
参考文献:
Herrejón-Lagunilla Á. et al.(2024): The time between Palaeolithic hearths. Nature, 630, 8017, 666–670.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07467-0
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