雄マウスの仔育てに影響を及ぼすかもしれない副腎細胞の進化

 副腎細胞の進化による雄マウスの仔育てへの影響についての研究(Niepoth et al., 2024)が公表されました。特殊化した機能を持つ細胞の種類は動物の行動を根本的に調節しますが、新たな種類の細胞の出現や、それらが行動に及ぼす影響の根底にある遺伝学的機構はよく分かっていません。本論文は、両親が仔の世話をする一夫一妻(単婚、一雄一雌)制のハイイロシロアシマウス(Peromyscus polionotus)の副腎において、プロゲステロンを20α-ヒドロキシプロゲステロンに変換する酵素である、AKR1C18を発現する新しい細胞タイプが最近進化した、と示します。

 本論文は次に、20α-ヒドロキシプロゲステロンが、通常は母親だけが仔の世話をする、乱婚制の近縁種シカシロアシネズミ(Peromyscus maniculatus)よりもハイイロシロアシマウスで豊富であり、これが一雄一雌制に典型的な親の行動を誘導する、と明らかにします。本論文は最終的に、これら2種間の雑種で量的形質座位のマッピング(多少の違いを許容しつつ、ヒトゲノム配列内の類似性が高い処理を同定する情報処理)を用いることで、核内タンパク質GADD45Aと糖タンパク質テネイシンNの発現を促進する種間の遺伝的差異を発見し、これらがハイイロシロアシマウスにおけるこの種類の細胞の出現(過去2万年間と推定されています)と機能に寄与していることを見いだした。本論文の結果は、脳の外にある腺で最近起こった新しい種類の細胞の進化が、社会行動の進化に寄与する例を示しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


動物行動学:雄マウスの仔育てに影響を及ぼすかもしれない細胞

 一雄一雌型のハイイロシロアシマウス(Peromyscus polionotus)において、仔育てに関連していると考えられる細胞集団が、脳の外側に発見されたことを報告する論文が、Natureに掲載される。この細胞集団は、このマウスに近縁の乱婚型のマウス種には存在せず、生物学的差異の進化が動物行動に影響を及ぼす可能性が示されている。

 特殊化した機能を持つ細胞タイプは、動物の行動を制御することが知られている。しかし、新しい細胞タイプの出現の基盤となる機構と、その細胞タイプが行動にどのように影響するかは分かっていない。ハイイロシロアシマウスは一雄一雌型の種で、両親が仔の世話をする。これとは対照的に、その近縁種であるシカシロアシマウス(Peromyscus maniculatus)は、乱婚型のマウス種で、通常母親だけが仔の世話をする。これらの種は、生物学的差異が親の行動をどのように形成するかを研究する機会をもたらす。

 今回、Andres Bendeskyらは、ハイイロシロアシマウスの副腎を調べ、遺伝学的手法を用いて、副腎皮質にこれまで検出されていなかった細胞層(zona inaudita)を発見した。これらの細胞は、プロゲステロンを20α‐ヒドロキシプロゲステロン(20α-OHP)に変換する酵素を発現していた。Bendeskyらは、このプロゲステロン誘導体20α-OHPがシカシロアシマウスよりもハイイロシロアシマウスに多く存在することを発見し、20α-OHPがハイイロシロアシマウスにおいて両親による仔育てを誘発するという見解を示している。Bendeskyらはまた、シロアシマウス属の他の種の副腎を研究した上で、ハイイロシロアシマウスのzona inauditaが比較的最近進化したものであり、過去約2万年以内に出現したと推定している。


進化学:子の世話を促す新たな副腎細胞タイプの進化

進化学:マウスの子育て行動を変化させた新たな副腎細胞

 一夫一妻制の配偶システムをとり、両親が子の世話を行うハイイロシロアシマウス(Peromyscus polionotus)の副腎皮質で、プロゲステロン誘導体を産生するこれまでに知られていなかった細胞層が見つかった。この細胞層は乱婚制の近縁種には存在せず、脳の外部にあって子の世話のような社会行動に寄与する細胞集団としては最初の例だと思われる。



参考文献:
Niepoth N. et al.(2024): Evolution of a novel adrenal cell type that promotes parental care. Nature, 629, 8014, 1082–1090.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07423-y

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