ヒトのセントロメアの多様性と進化

 ヒトのセントロメアの多様性と進化に関する研究(Logsdon et al., 2024)が公表されました。ヒトのセントロメアは、その反復性と規模の大きさから、これまで塩基配列の解読やアセンブリがひじょうに困難でした。そのため、セントロメアは最も急速に変異が起こる領域の一つであるにも関わらず、ヒトのセントロメアの多様性パターンや、進化および機能のモデルは不完全なままです。本論文は、ロングリード塩基配列解読を用いて、第二のヒトゲノムの全てのセントロメアの完全な塩基配列解読とアセンブリを行ない、それを解読が完了している参照ゲノムと比較しました。

 その結果、これら2組のセントロメアでは、それらの固有の隣接領域と比べて、一塩基変異が少なくとも4.1倍上昇しており、規模は最大で3倍異なることが分かりました。さらに、セントロメアの塩基配列の45.8%は、新たなαサテライトの高次反復配列(higher-order repeats、略してHOR)の出現によって、標準的な方法では確実にアラインメントできないことも分かりました。DNAメチル化およびCENP-Aクロマチン免疫沈降の実験からは、セントロメアの26%では、それらの動原体の位置が50万塩基対以上異なることが示されました。

 本論文は、進化による変化を理解するために、6本の染色体を選択し、チンパンジーとオランウータンとアカゲザルのゲノムから31のオルソロガス(複数の種間で保存され、共通祖先から派生したか、類似の機能を有する遺伝子)なセントロメアの塩基配列を解読してアセンブリを行ないました。比較解析の結果、αサテライトHORにおけるほぼ完全な入れ替わりが明らかになり、それぞれの種で特徴的なαサテライトHORの特異的変化が見つかりました。

 ヒトのハプロタイプの系統発生学的な再構築結果は、セントロメア全体において短腕(p)と長腕(q)との間の組換えが限定的であるか、まったく起こらないことを裏づけるとともに、新たなαサテライトHORが共通の単系統起源を有する、と明らかにしており、これによって、ヒトのセントロメアDNAの飛躍的な増幅や変異の速度を推定する戦略がもたらされました。セントロメアの多様性と進化の種特異的な特徴が明らかになり、ヒトに限らず多様な分類群での研究の進展が期待されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化遺伝学:ヒトの完全なセントロメアの多様性と進化

進化遺伝学:ヒトのセントロメアの完全な解読とその進化の特徴

 今回、ヒトと非ヒト霊長類の完全なセントロメアの比較解析によって、セントロメアの多様性と進化の種特異的な特徴が明らかになった。



参考文献:
Logsdon GA. et al.(2024): The variation and evolution of complete human centromeres. Nature, 628, 8010, 136–145.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07278-3

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