アジア東部および南東部への人類の拡散
アジア東部および南東部への人類の拡散に関する概説(Sawafuji et al., 2024)が公表されました。本論文は、化石(形態学的)証拠と分子生物学的証拠を統合し、現生人類(Homo sapiens)に限らず、ホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)やホモ・ルゾネンシス(Homo luzonensis)やホモ・エレクトス(Homo erectus)や種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)も含めて、アジア東部および南東部への人類の拡散の概要を提示しており、著者たちの以前の日本語論文(澤藤他., 2021)の改訂版と言えそうです。とくに分子生物学において、21世紀になってからの人類進化研究の進展は目覚ましいものがありますが、それらを総合的に理解することは多分野にまたがるだけに難しく、本論文のような近年までのさまざまな研究を統合した概説は、たいへん有益だと思います。本論文は今後の人類進化に関する分子生物学的研究として、古代のプロテオーム(タンパク質の総体)解析と堆積物の古代DNA解析がとくに有望となる可能性を指摘しており、これらの研究が人類進化の理解をさらに深めていくのではないか、と強く期待されます。
●要約
アジア東部および南東部は、100万年以上にわたって多様な人類の重要な生息地として機能してきました。これは、化石からの新たな発見や年代や形態学的証拠は古代の生体分子を報告してきた、過去10年間の多くの研究により論証されてきました。このことは、人類の進化と拡散についての理解を一新させました。しかし、既存の文献には、この分野の依然として不確実なもしくは議論のある側面に取り組むのに必要なさまざまな科学分野からの洞察を組み合わせる、包括的概説が不足しています。本論文は、アジア東部および南東部に暮らしていたさまざまな人類の時期と分布の統合を提供します。本論文は次に、二つの生体分子的手法、つまりこの地域における人類史の解明にとってたいへん有望な、古代プロテオミクスと堆積物の古代DNAを再調査します。
●研究史
近年、重要な遺跡の新たな発掘数とともに現代および古代の遺伝学の知識が増加したことで、アジア東部および南東部(East and Southeast Asia、略してEA/SEA)の人類の進化と移動の歴史における予期せぬ複雑さが明らかになりました。これらの新たな発見は2010年代以降に報告されてきており、この地域における人類の進化史に関する見解を一新しました。たとえば、シベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で発見された指骨の分析により最初は特徴づけられた、種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)はその後、おそらくはチベット高原(Chen et al., 2019)とラオス(Demeter et al., 2022)に存在した、と示されました。
さらに、他の人類がルソン島で発見され、ホモ・ルゾネンシスと命名されました(Détroit et al., 2019)。さらに、新しい正確な年代がいくつかの重要な標本と遺跡について刊行されており、EA/SEAのホモ・フロレシエンシス(Sutikna et al., 2016)とホモ・エレクトス(Matsu'ura et al., 2020)の年代を改訂しました。全ての発見は、EA/SEA内でのホモ属の進化と拡散に関する理解の一新に重要な役割を果たしてきました。EA/SEAの人類化石に焦点を当てる有益な総説が、最近刊行されました(Galway-Witham et al., 2019)。しかし、これらには複数分野にまたがる発見の統合が不足しており、(1)何が未知なのか、(2)EA/SEAにおいて人類学的に何が論争中なのか、(3)これらの未解決の問題の解決に役立つことのできる新たな手法は、包括的に考察されていません。
本論文はこの総説で、人類の化石記録と年代測定と古代DNAと古代プロテオミクスを含む、さまざまな分野の研究を調査します。本論文の目的は、EA/SEAに焦点を当てる古人類学における将来の研究の方向性の理解を深めることです。本論文はまず、現生人類を含めて、EA/SEAに生息していたさまざまな人類種の年代と分布の統合を提供します(図1および図2)。以下は本論文の図1です。
本論文は次に、さまざまな分野からの洞察を統合し、EA/SEAにおける人類史のあり得る仮定的状況を再構築します。本論文は交雑の頻度の可能性も浮き彫りにし、さまざまな人類が共存する場合、競合ではなく同化が起きたかもしれない、と提案します。本論文は最後に、古代プロテオミクスと堆積物の古代DNAが、人類の進化と分布の解明に使用できる有望な手法である、と提案します。本論文はEA/SEAに焦点を当て、アジアの南部と中央部と西部をこの総説から除外し、それはアジア南部の人類化石遺跡の少なさと、アジア中央部および西部におけるネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)とデニソワ人に関する異なる古人類学的状況のためです。以下は本論文の図2です。
●ホモ・エレクトス
ホモ・エレクトスの分類に関してさまざまな見解があり、たとえばアフリカのホモ・エレクトスはホモ・エルガスター(Homo ergaster)と呼ばれる別種とされます。本論文では、ホモ・エレクトスのより広範な定義(広義のホモ・エレクトス)が用いられ、アフリカのホモ・エレクトスは同じ分類群の一部とみなされます。ホモ・エレクトスは現在、アフリカから拡大した最初の人類と認識されており、ユーラシア全域を東方へ移動し、その後でアジア南東部へと南方に移動した、と考えられています。ホモ・エレクトスの化石記録はヨーロッパと中国とジャワ島に集中しており、中間地域については利用可能なデータがほとんどありません。
ホモ・エレクトスの可能性が高い最初期の化石の一部は南アフリカ共和国のドリモレン(Drimolen)古洞窟遺跡群で発見された204万年前頃の頭蓋(Herries et al., 2020)と、エチオピア高地のメルカ・クンチュレ(Melka Kunture)層で発見された200万年前頃の下顎(Mussi et al., 2023)ですが、アフリカ外でのホモ・エレクトスの存在の一般的に受け入れられている最古の証拠は、180万年前頃となるジョージア(グルジア)のドマニシ(Dmanisi)遺跡で発見されました(Ferring et al., 2011、Lordkipanidze et al., 2013)。
中国では、最近の発見がそれ以前の人類の存在を示唆していますが、その証拠は少なく、おもに陝西省藍田県(Lantian County)公王嶺(Gongwangling)の近くにある尚晨(Shangchen)で発見された210万年前頃の石器(Zhu et al., 2018)と、242万~180万年前頃となる湖北省恩施トゥチャ族ミャオ族自治州建始(Jianshi)県の竜骨洞(Longgu Cave)の人類の歯に基づいています。ドマニシ化石に先行するかもしれないこれらの発見は、ホモ・エレクトスもしくは他の人類がドマニシ遺跡の時期より早く中国に到達した、という興味深い可能性を示唆します。しかし、包括的な化石記録の少なさのため、これらの結論には注意深く対処せねばならず、それは、これら中国における初期人類の決定的な同定が依然として困難だからです。
中国で発見されたホモ・エレクトスの可能性が高い化石と石器には、泥河湾盆地(Nihewan basin)の馬圏溝3(Majuangou III)遺跡の166万年前頃の石器群や、上砂嘴(Shangshazui)遺跡の170万~160万年前頃の石器群(Ao et al., 2013)や、尚晨(Shang Chen)に近い陝西省藍田県の公王嶺遺跡の163万年前頃の頭蓋(Zhu et al., 2015)が含まれます。中国南部の雲南省楚雄イ族自治州元謀(Yuanmou)でも170万年前頃の切歯が発見されましたが(Zhu et al., 2008)、その年代決定には疑問が残っています。化石と石器の証拠をまとめると、中国におけるホモ・エレクトスの出現の控えめな年代は170万~160万年前頃です。
中期更新世の状況では、周口店地点1(Zhoukoudian Locality 1)で、6点の無傷の頭蓋や四肢骨断片や100点以上の歯から構成される、重大な発見がありました(Shen et al., 2009)。これらの化石の年代範囲は、78万~30万年前です。中国で発見された他の化石には、湖北省鄖(Yunxian)県の80万年前頃もしくは恐らくそれ以前の化石や、山東省沂源(Yiyuan)県の64万年前頃の化石や、中国南部の安徽省馬鞍山市和県(Hexian)の41万年前頃と推定されている化石が含まれます。注目すべきことに、一部の研究者は、和県の化石と中国北部のホモ・エレクトス標本との間の形態学的差異を観察しており、和県の化石がデニソワ人もしくは異なるかもしれない系統と示唆しています(Kaifu, 2017、Liu et al., 2017)。現時点での理解では、中国におけるホモ・エレクトスの消滅は40万~30万年前頃に位置づけられます。
インドネシアのジャワ島では、ホモ・エレクトスの歴史は150万年前頃から最近では10万年前頃と、かなりの期間にわたっています。この地域の最古の証拠は、ジャワ島東部のプルニン(Perning)遺跡のモジョケルト(Mojokerto)で発見された子供の頭蓋により表され、その年代は149万~143万年前頃で、現時点では最古の化石の発見となります。ジャワ島の主要な人類遺跡では、豊富な発見がありました。サンギラン(Sangiran)およびトリニール(Trinil)遺跡の年代は130万~80万年前頃で、最も有名な発見です(Matsu'ura et al., 2020、Hyodo et al., 2011)。サンギラン遺跡における人類の最初の出現は130万年前頃と推定されており、150万年前頃以前ではない一方で、サンギラン遺跡の最新の遺骸の年代は79万年前頃です。
他の遺跡には、おそらく中期更新世後期ではあるものの、確実な年代測定が報告されていないサンブンマチャン(Sambungmacan)や、年代測定されていないガウィ(Ngawi)や10万年前頃のガンドン(Ngandong)が含まれます。以前に、ジャワ島のホモ・エレクトスの最後の存在を表すガンドン遺跡の最新の年代が、7万~4万年前頃と推定されました(Yokoyama et al., 2008)。しかし、最近の改訂はこの年代をさらにさかのぼらせており、117000~108000年前頃の範囲が示唆されているので(Rizal et al., 2020)、この地域におけるホモ・エレクトスの改訂された年表が提供されました。
●ホモ・フロレシエンシスとホモ・ルゾネンシス
ホモ・フロレシエンシスは、ジャワ島の東側に位置するフローレス島のリアン・ブア(Liang Bua)洞窟で発見されました(関連記事)。少なくとも14個体で構成されるこれらの化石は、LB1(Liang Bua 1)として知られる成人女性のよく保存された部分的骨格により例示されます。このLB1個体は身長約1mで、426 cm³の小さな脳容量を有しています(Kubo et al., 2013)。この小さなサイズは、ホモ・エレクトスから進化したかもしれない島嶼小型化の結果と仮定されています(Diniz-Filho and Raia, 2017)。ホモ・フロレシエンシスの化石が10万~6万年前頃と年代測定された一方で、関連する石器はこれらの人類の居住期間を19万~5万年前頃へと拡張します(Sutikna et al., 2016)。
フローレス島における人類の活動のそれ以前の証拠は、フローレス島中央部のソア盆地(Soa Basin)のウォロ・セゲ(Wolo Sege)遺跡の層における石器の発見に由来し、100万年以上前と年代測定されており(Brumm et al., 2010)、フローレス島における人類の化石証拠以前の到来を示唆しています。さらに、ホモ・フロレシエンシスと類似した70万年前頃の下顎と歯が、フローレス島のソア盆地のマタ・メンゲ(Mata Menge)遺跡で発見されました。この発見から、ホモ・フロレシエンシスの独特な特徴につながる島嶼小型化の過程は、その時点までに進行中もしくは完全に発現していたかもしれない、と示唆されます(Brumm et al., 2016、van den Bergh et al., 2016a)。
ホモ・ルゾネンシスは、ルソン島のカラオ洞窟(Callao Cave)で発見された人類です(Détroit et al., 2019)。その化石は67000年前頃と報告されましたが、後に134000年前頃と改訂されました。ホモ・ルゾネンシスの大臼歯のサイズは他の人類と比較して小さく、現生人類やホモ・フロレシエンシスと類似した特徴ですが、その指と足の骨は細長く湾曲しており、アウストラロピテクス属と類似した特徴です。したがって、ホモ・ルゾネンシスの形態は祖先的特徴と派生的特徴の独特な混在を示しており、ホモ・ルゾネンシスと命名され、新種として記載されました(Détroit et al., 2019)。石器と解体痕のある動物の骨がルソン島では70万年前頃に発見されており、ホモ・ルゾネンシスよりずっと早い人類の存在が示唆されます(Ingicco et al., 2018)。ホモ・ルゾネンシスの系統発生は不明ですが、ホモ・フロレシエンシスと同様にホモ・エレクトスの子孫かもしれない、と示唆する研究もあります。超古代型人類(ホモ・ルゾネンシスが仮定されています)からルソン島の現代人への遺伝子移入の可能性を調べた研究もありますが、そうした混合を検出できませんでした(Teixeira et al., 2021、Choin et al., 2021)。
これら2種【ホモ・フロレシエンシスとホモ・ルゾネンシス】の注目すべき生物地理学的特徴は、その島嶼生息地です。ホモ・ルゾネンシスが居住していたルソン島はハクスリー線の東側で、ホモ・フロレシエンシスが居住していたフローレス島はウォレス線の東側です。この地理的分布から、ホモ・フロレシエンシスとホモ・ルゾネンシスはそれぞれ独立して生物地理学的障壁を渡ったかもしれない、と示唆されます。フローレス島から海を渡って300km北方のスラウェシ島では、20万~10万年前頃と年代測定された石器が発見されており、未知の人類系統がスラウェシ島にも暮らしていた、と示唆されます(van den Bergh et al., 2016b)。各人類がどのように渡海したのか不明ですが、意図的もしくは偶然に成功し、世界の他地域からの長期にわたって孤立して、独自に進化しました。
●デニソワ人
シベリアのデニソワ洞窟で発見された小さな指骨からの古代DNA解析は、新たな古代型人類集団の存在を初めて明らかにし、デニソワ人(関連記事)と命名されました(Reich et al., 2010)。遺伝学的分析から、ネアンデルタール人とデニソワ人の共通祖先は現生人類の祖先から70万~50万年前頃に分岐し、次にデニソワ人系統がネアンデルタール人の祖先から40万年以上前に分岐した、と示唆されています(Prüfer et al., 2017)。
現代人へのデニソワ人の遺伝的寄与は、フィリピンとメラネシアとオーストラリアの人々でとくに高い、と示されてきました(Reich et al., 2011、Larena et al., 2021)。驚くべきことに、デニソワ洞窟から遠く離れて暮らしているこれらの人口集団はデニソワ人からの高水準の遺伝的寄与を有していますが、遺伝子移入した人口集団はデニソワ洞窟で知られている人口集団と遺伝的に異なります(Browning et al., 2018)。アジア現代人のゲノム解析から、デニソワ人と現生人類との間で複数回の交雑事象があり、そのうち1回もしくは複数回はウォレス線の東側で3万年前頃に起きた、と示唆されました(Jacobs et al., 2019a)。
デニソワ人は、その形態に関する情報の不足のため、新種としてまだ報告されていません。現時点では、デニソワ洞窟で発見された骨のわずか数点の断片が確実にデニソワ人に分類できますが、中華人民共和国甘粛省甘南チベット族自治州夏河(Xiahe)県のチベット高原北東端の海抜3280mに位置する白石崖溶洞(Baishiya Karst Cave)で発見された、16万年以上前と推定される右側下顎(夏河下顎骨)は、デニソワ人とのプロテオームの類似性を示します。ラオスのフアパン(Huà Pan)県に位置するタム・グ・ハオ2(Tam Ngu Hao 2)洞窟で発見された1点の大臼歯の形態はデニソワ人を表していますが、ネアンデルタール人とのわずかな形態学的類似性も示しており、生体分子の証拠は決定的ではありませんでした(Demeter et al., 2022)。デニソワ人は、その存在がおもに古代DNA解析を通じて明らかにされてきた人類で、既存の分類されていない化石の一部はデニソワ人の可能性があります(Chen et al., 2019)。
デニソワ人はデニソワ洞窟に20万年前頃にまでさかのぼって共住しており(Brown et al., 2022、Zavala et al., 2021)、最も新しい居住は76000~52000年前頃と報告されました(Douka et al., 2019、Jacobs Z et al., 2019b)。デニソワ人のミトコンドリアDNA(mtDNA)解析から、デニソワ洞窟におけるデニソワ人の居住は連続的ではなかった、と示唆されています。ネアンデルタール人の骨の断片もデニソワ洞窟で発見されており、その古代DNA解析は、ネアンデルタール人の母親とデニソワ人の父親の間の第一世代の子供を明らかにしました(Slon et al., 2018)。16万年前頃のデニソワ人かもしれない下顎が発見されたと報告されている白石崖溶洞(Chen et al., 2019)では、古代の堆積物DNAも10万~6万年前頃に相当する層におけるデニソワ人の存在を示しています(Zhang et al., 2020)。
●デニソワ人の分布
デニソワ人に関する問題の一つは、その地理的分布です。現時点で、デニソワ人はデニソワ洞窟とチベット高原でのみ確認されており、恐らくはラオスでも特定されています。現代人のゲノム解析から、パプアでの1回、アジア東部での1回、アジア南部もしくは南東部での1回の、少なくとも3回の混合事象があった、と示唆されています(Choin et al., 2021、Larena et al., 2021、Browning et al., 2018、Jacobs et al., 2019a)。このため、デニソワ人はアジアの広範な地域に居住していたかもしれない、と提案されてきました(Reich et al., 2011、Ruan et al., 2023)。この仮説は、化石証拠の欠如のため批判されることが多くあります。しかし、単一の形態学的およびゲノム的に均一な種がアジア全域に分布していた、と仮定する必要はありません。
ゲノム研究では、デニソワ人には少なくとも4系統がある、と報告されてきました(Choin et al., 2021、Reich et al., 2011、Browning et al., 2018、Jacobs GS et al., 2019)。本論文はこれら4系統をD0・D1・D2・D3と呼びます(図3)。これらのうち、D3のみが化石情報とゲノム情報の間での対応が知られており、シベリアのデニソワ3号標本に相当します。他の系統は異なる形態学的特徴を有し、さまざまな類似性でD3と進化的に関連し、アジアとオセアニアのさまざまな地域に居住していたかもしれません。D3との、アジア東部における高い類似性のD0、パプアとおそらく密接な低い類似性のD1、アジア南部もしくは南東部における中間的な類似性のD2です。各系統はD3を除いて少なくとも1回ヒト【現生人類】と交雑し、D3の遺伝的寄与は現代人では見られません(Jacobs GS et al., 2019)。他の研究では、デニソワ人は恐らくホモ・エレクトスである超古代型人類集団と225000年以上前に交雑した、と示されました(Prüfer et al., 2014、Hubisz et al., 2020)。これは2回起きたかもしれず、1回はデニソワ人およびネアンデルタール人の共通祖先と、もう1回はデニソワ人が【ネアンデルタール人系統と】分岐した後です(Rogers et al., 2020)。以下は本論文の図3です。
各系統の分岐と混合事象の場所との間の年齢を考慮すると、デニソワ人の拡散に関する以下のような仮説を推測できます。つまり、中東周辺に居住していたデニソワ人とネアンデルタール人の共通祖先は超古代型人類と交雑し、その後でデニソワ人の祖先がネアンデルタール人の祖先集団と分岐し、アジアへと移動しました。そのうち一部はパプアへと広がり、アジア南東部島嶼部に居住しました(D1)。別の集団はアジア南部もしくは南東部に残り(D2)、そこから別の集団がアジア東部へとさらに北方に移動しました(D0とD3)。この移動期間の初期段階において、デニソワ人は超古代型人類集団と遭遇し、交雑しました。D0集団はアジア東部のどこかに居住しました。D3集団はシベリアのアルタイ山脈に到達し(D3)、そこでネアンデルタール人と遭遇して交雑しました。これは、現生人類と交雑したデニソワ人集団の歴史のみを反映している、と注意することが重要です。混合なしに絶滅した他の人口集団が存在したならば、現代人のゲノム解析はそうした集団についての情報を提供しないでしょう。
●アジア東部における未知の系統発生関係の化石
ホモ・エレクトスの出現に続いて、曖昧な分類群の人類化石が、とくに中期~後期更新世の中国で発見されてきました。これらの人類を、ホモ・ハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)や古代型サピエンスや後期の古代型のヒトや後期の古代型ホモ属と呼ぶ研究者もいます。これらの化石の形態は多様で、おそらく複数の系統を含んでいます(Kaifu, 2017、Ni et al., 2021、Roksandic et al., 2022)。これらの化石には、祖先的および派生的両方の形態学的特徴があります(Kaifu, 2017)。これらの化石はさまざまな遺跡から発掘されてきており、その形態からの系統発生の推定は困難です。
デニソワ人かもしれない標本もいくつかあります。これらの化石のうち一例は、河南省許昌市(Xuchang)霊井(Lingjing)遺跡で発見された125000~105000年前頃の頭蓋1点で(Li et al., 2017)、これはネアンデルタール人もしくはデニソワ人と類似している、と報告されています(Gokhman et al., 2019)。中国北部の黒竜江省ハルビン市で発見された148000年以上前の頭蓋1点は新種ホモ・ロンギ(Homo longi)と提案され、この個体の形態学的特徴はデニソワ人と密接に関連していると考えられています(Ni et al., 2021、Ji et al., 2021、Shao et al., 2021)。先行研究(Chen et al., 2019)では、夏河県で発見された推定されるデニソワ人の下顎は台湾沖で発見された19万~1万年前頃の澎湖1号(Penghu 1)および中国北部の泥河湾盆地の侯家窰(Xujiayao)遺跡で発見された37万~10万年前頃の歯と類似している、と報告されました。澎湖1号化石の形態は、41万年前頃となる中国南部の安徽省馬鞍山市(Ma'anshan)和県(Hexian)で発見された下顎化石とも類似しています(Chang et al., 2015)。
これらの化石の形態学的多様性の一部は、混合に起因するかもしれません。混合がネアンデルタール人とヒト【現生人類】、もしくはデニソワ人とヒトとの間で何回も起きたことを考えると、異なる人類が同時代に地理的に近い地域に居住していた場合に、混合は頻繁に起きていた可能性があります。アジアを越えた注目すべき事例は、ルーマニア南西部の「骨の洞窟(Peştera cu Oase、略してPO)」で発見されたワセ1号(Oase 1)で、これは現生人類の下顎1点です。この化石は形態学的に現生人類とネアンデルタール人の混在と主張されており、ゲノム解析はその後、このワセ1号個体が4~6世代前にネアンデルタール人の祖先を有している、と明らかにしました(Fu et al., 2015)。そうした交雑はデニソワ人とホモ・エレクトスのような超古代型人類との間で起きており、その形態学的特徴に影響を及ぼしていたかもしれません。
一般的に、中期~後期更新世これら分類されていない化石はとくに注目に値し、それは、デニソワ人を含めて更新世の人類間の系統発生的関係に光を当てる、と期待されるからです。そのうち一部はホモ・エレクトスなど超古代型人類間の混合にも影響を受けているかもしれません。後期古代型ホモ属はさまざまな分類群で構成されており、その一部がまだ記載されていない新種かもしれない可能性は高そうです。形態だけに基づいてこれらの化石を分類するのは困難で(試みの一例としては、Ni et al., 2021)、系統発生的関係は形態学的技術とDNAやタンパク質など生体分子的技術の組み合わせを用いて解決されるべきです。
●現生人類
現生人類は少なくとも30万年前頃までにはアフリカに出現しており(Hublin et al., 2017)、その後でアフリカから拡大し、その最初期の発見の一つが、ギリシア南部のマニ半島のアピディマ洞窟(Apidima Cave)で発見された21万年前頃となる頭蓋1点です(Harvati et al., 2019)。いくつかのヒト化石はレヴァントでも発見されており、イスラエルのカルメル山にあるミスリヤ洞窟(Misliya Cave)で発見された152000年前頃の上顎(Hershkovitz et al., 2018)や、イスラエルのスフール(Skhul)洞窟およびカフゼー(Qafzeh)洞窟で発見された12万~9万年前頃の頭蓋があります。これらの化石が裏づけているのは、ヒト【現生人類】はアフリカ外の生息地を10万年以上前に複数回拡大した、ということですが、遺伝学的研究が裏づけているのは、これらの拡散はその後の現生人類に殆ど若しくは全く遺伝的に寄与していない(Choin et al., 2021、Mallick et al., 2016、Narasimhan et al., 2019)、ということです。55000年以上前のアフリカ外人口集団は、消滅し、その後の拡散において拡大した人口集団により完全に置換されたようです。これは、現代人と古代人のmtDNAおよびY染色体DNAの分析により裏づけられ、これら片親性遺伝標識(母系のミトコンドリアDNAと父系のY染色体)のハプログループの分岐年代に基づいて、非アフリカ系人口集団は55000年前頃未満に世界中に拡大した、と示唆されます(Hallast et al., 2021)。
EA/SEAへの55000年前頃以前となる【現生人類の】初期拡散を提案した研究者もいます。中国では、12万~6万年前頃のヒト【現生人類】化石がおもに南部で発見されており、アジア東部への現生人類の初期拡散が示唆されます。広西壮族(チワン族)自治区の智人洞窟(Zhiren Cave)の10万年前頃となる下顎1点と2点の歯(Liu et al., 2010)と、湖南省永州市道県の福岩洞窟(Fuyan Cave)で発見された12万~6万年前頃の47点の歯(Liu et al., 2015)は、現生人類と同定されてきました。広西チワン族自治区の陸那洞窟(Luna Cave)や柳江・通天岩洞窟(Liujiang-Tongtianyan Cave)や智人洞窟と湖南省張家界市の黄龍洞(Huanglongdong)など、他の遺跡からも、55000年以上前の現生人類化石が報告されています【最近の研究(Ge et al., 2024)によると、柳江の現生人類遺骸の年代は33000~23000年前頃と推定されています】。アジア南東部では、化石が中国に近いラオス北部のタンパリン(Tam Pa Ling)遺跡で発見されており、その一部は7万年以上前と年代測定されました(Demeter et al., 2022、Freidline et al., 2023)。アジア南東部から得られた他の証拠には、インドネシアのスマトラ島のリダ・アジャー(Lida Ajer)洞窟の73000~63000年前頃の2点の歯(Westaway et al., 2017)や、オーストラリアのマジェドベベ(Madjedbebe)岩陰遺跡の磨製握斧端など65000年前頃の石器群が含まれます(Clarkson et al., 2017)。
55000年以上前となるEA/SEAへの初期拡散は、過去10年間にわたって激しい議論の対象となってきており(O'Connell et al., 2018)、発見に関する二つの大きな懸念があります。最初の懸念は、化石の年代測定に関わります。放射性炭素年代測定は55000年前頃が上限で、この時間枠を超えてのアジアにおけるヒト【現生人類】の移動の調査に適していません。より古い化石の年代推定には、ウラン系列法や電子スピン共鳴法(electron spin resonance、略してESR)や発光年代測定が作用され、これらの技術は化石が発見された層の年代測定によく使用されます。先行研究(Kaifu et al., 2022)は、最近のヒト【現生人類】遺骸の洞窟堆積物のより古い層序への嵌入を報告し、人類標本の直接的な年代測定と分類学的評価の必要性を強調します。第二は、化石の形態学的分類に関するものです。デニソワ人が現生人類の到来前にEA/SEA全域にすでに拡散し、30000~25000年前頃まで存在していたかもしれないことを考えると、55000年前頃以前と年代測定された化石と石器は、デニソワ人もしくは現生人類の所産かもしれません。初期拡散とされるほとんどの化石は歯もしくは骨の断片で、これらの標本の正確な分類学的割り当てを複雑にすることが多くあります。
その後の、55000年前頃以後となるアジアへの拡散は、化石証拠と遺伝学的情報の両方により確証されています。中国北部では、42000~39000年前頃と年代測定された下顎と頭蓋後方(首から下)の骨が、北京の南西56kmにある田园(田園)洞窟(Tianyuan Cave)で回収されました(Shang et al., 2007)。古代DNA解析から、この標本は遺伝的にアジア東部およびアメリカ大陸の現生人類集団と密接に関連しており、すでにネアンデルタール人やデニソワ人と交雑していた、と明らかになりました(Yang et al., 2017)。
中国南部では、44000~38500年前頃と年代測定された現生人類化石が広西チワン族自治区来賓市の麒麟山(Qilinshan)遺跡で発見されました。アジア南東部では、46000年前頃と年代測定された頭蓋1点と下顎1点がラオス北部のタンパリンで発掘されましたが(Freidline et al., 2023)、タンパリン遺跡にはより古い現生人類遺骸もあります。ボルネオ島のニア洞窟(Niah Cave)の「ディープスカル(Deep Skull、略してDS)」は45000~39000年前頃と年代測定され、47000年前頃と年代測定された脛骨断片1点が、フィリピンのパラワン州のタボン洞窟(Tabon Cave)で発見されました。初期および後期の拡散に関するこの証拠の蓄積は、移動パターンの複雑さと動態を強調します。これらの調査結果は、ヒトの歴史に関する理解を深めるだけではなく、連続的な学際的研究の重要性を浮き彫りにもします。
●多様な人類の拡散と絶滅
人類とその地理的分布と存続に関する理解により多くの断片が継続的に追加されるにつれて、新たな問題が生じ、さまざまな人類がどのように拡散し、なぜ消滅したのか、ということについての詳細は不明なままです。現在の化石記録と遺伝学的証拠から、人類の拡散に関する一つの妥当で首尾一貫した仮定的状況は以下のようなものです。つまり、ホモ・エレクトスはアフリカに出現し、ユーラシア大陸へと200万年前頃に拡大し、その後でヨーロッパとアジア東部(中国)とアジア南東部(ジャワ島)に居住しました。その後、現生人類とネアンデルタール人とデニソワ人の共通祖先が2集団に分岐し、一方はアフリカに存在し(その後、現生人類へとつながります)、他方はある時点で中東周辺に居住していました。後者【現生人類系統と分岐した後のネアンデルタール人とデニソワ人の共通祖先】は、超古代型人類集団(おそらくはホモ・エレクトス)と70万~60万年前頃に交雑しました。その後、ユーラシアの人類集団は2集団に分岐しました。一方は西方(ヨーロッパとアジア西部)に居住してネアンデルタール人へとつながった一方で、もう一方はアジアに居住してデニソワ人へとつながりました。
デニソワ人はユーラシアでホモ・エレクトスと交雑し、その生態的地位を占めました。ある時点で、デニソワ人もアジア東部および南東部へと拡大し、そこでデニソワ人集団はさまざまな貝集団に分岐しました(D0とD1とD2とD3、詳細は上述のデニソワ人の項目)。一方で、ホモ・エレクトスはアジア東部では40万年前頃、アジア南東部では10万年前頃に絶滅したかもしれません。デニソワ人はアルタイ地域に到達し、最終的には14万~8万年前頃に数回ネアンデルタール人と遭遇して交雑しました。一方で、一部の現生人類は20万年以上前にアフリカを離れました。この最初の移住は失敗しましたが、この時点でのネアンデルタール人との交雑はそのゲノムに痕跡を残しました(Bergström et al., 2021)。その後、出アフリカ事象が数回あり、アジアに到達したかもしれませんが、現代人の祖先につながった人口集団はアフリカを55000年前頃に離れました。現代人の祖先につながった人口集団はアジア西部でネアンデルタール人と、EA/SEAでデニソワ人と交雑しました。本論文が、デニソワ人に寄与した超古代型人類をホモ・エレクトスと考えていることに要注意です。ホモ・エレクトスとデニソワ人以外の人類がアジアに移住したか、ホモ・エレクトスから進化した可能性はありますが、証拠の不足のため本論文では検証されません。
●同化の仮定的状況の仮説
さまざまな人類の絶滅理由は、不明なままです。人類の絶滅についての一般的に提案されている説明は、環境変化および他の人類との生態学的地位をめぐる競合です(Louys and Roberts, 2020、Banks et al., 2008)。最近、ネアンデルタール人とヒト【現生人類】との間の繰り返しの交雑がネアンデルタール人の同化につながった、と提案されました(Stringer and Crété, 2022)。遺伝学的証拠からさまざまな人類間で複数の混合があった、という事実を考えると、同化はアジアにおいても同様に人類の一部の絶滅に寄与したかもしれません。この仮説は、異なる人類が遭遇したさいには、交雑が起きて、より小さな集団はより大きな集団に吸収された、と仮定しています。
結果として、多様な人類間でさまざまな相互作用と交雑があり、最終的には現生人類が唯一の現生種となりました。移動を妨げる多くの島や山のあるEA/SEAの地理的条件は、多様な人類の進化と生存に適した環境を提供したかもしれません。これも、さまざまな人類が暮らしていたEA/SEAが、この可能性の検証に理想的な場所であることを意味します。たとえば、デニソワ人と超古代型人類との間の混合を考えると、ホモ・エレクトスの絶滅はデニソワ人との交雑および同化により説明できるかもしれません。この仮説の検証には、アジアでは少ない追加の化石記録が必要です。次章では、EA/SEAにおける人類史の解明に有望な手法が紹介されます。
●今後の方向性
古代DNAは、人類史の理解を書き換えてきました。古代ゲノムの解析を通じて、研究者は移動パターンの追跡と、異なる人口集団の起源の正確な特定と、人類進化における重要な分岐点の解明に成功してきました。これらの研究は、さまざまな人類間の交雑と混合の事例の解明も齎し、移動に関する従来のモデルに異議を唱え、現代人の遺伝的遺産の複雑な性質を強調しました。さらに、人口動態や人口統計学的変化や進化的適応への洞察が収集されてきて、ヒトの歴史の微妙な理解を提供します。本質的に、古代ゲノミクスはヒトの祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)の複雑なつづれ織りの理解力を一新してきており、過去のより詳細で相互に関連した物語ょ解明しました(Bergström et al., 2021)。
しかし、これら古代ゲノムには強い地理的偏りがあり(Mallick et al., 2024)、EA/SEAは過小評価されています(アフリカも同様です)。これは、少ない化石の発見や、とくに、骨が分解して消滅し、時には酸性土壌と結合することの多い高温湿潤環境で顕著である、これらの化石の乏しい分子保存状態の結果である可能性が高そうです。本論文はこれに関して、古代プロテオミクスと堆積物の古代DNA解析が、化石が存在しないか保存状態の悪いEA/SEAの古代人類の調査に代替的な手法として役立てるかもしれない、と考えています(表1)。
●古代プロテオミクス
古代プロテオミクスもしくは古プロテオミクスは、系統発生再構築の代替的な生体分子的手法として注目を集めてきました。タンパク質は時として、古代DNAが保存されない100万年以上前の石灰化組織に保存されています(Cappellini et al., 2019、Welker et al., 2019)。系統発生的に情報をもたらすタンパク質配列は、中国南部の190万年前頃と年代測定された標本1点(Welker et al., 2019)や200万年前頃の南アフリカ共和国の標本からさえ回収されており、この手法がEA/SEAにおける人類進化も解明できる可能性を示唆しています。タンパク質の種類とペプチドにおけるアミノ酸組成は、タンパク質の保存に影響を及ぼします。歯のエナメル質は、骨や象牙質の生体燐灰石よりも、さほど多孔性ではなく高度に結晶化されており、結晶が大きいので、分解と元素置換の影響を受けにくくなっています。エナメル質のそうした化学的および物理的特徴は、骨と比較してエナメル質におけるより良好なタンパク質保存に役立つでしょう(Cappellini et al., 2019)。
古代プロテオーム解析は人類化石に適用され、その有効性を証明してきました。白石崖溶洞の下顎1点は、象牙質の古代プロテオーム解析によりデニソワ人の可能性があると同定され、ヒト【現生人類】とネアンデルタール人とアルタイ山脈のデニソワ人では見つからなかったアミノ酸置換さえ示しました(Chen et al., 2019)。949000~772000年前頃と年代測定されたホモ・アンテセッサー(Homo antecessor)の歯のエナメル質のプロテオーム解析も実行され、それが現生人類とネアンデルタール人とデニソワ人の姉妹群である、と明らかになりました(Welker et al., 2020)。歯のエナメル質のアメロゲニンはX染色体とY染色体の間の配列が異なるので、古代標本の生物学的性別がアメロゲニンのペプチド配列の回収により決定できます(Demeter et al., 2022、Welker et al., 2019)。この手法は、生物学的性別を考慮した人類の形態学的分析の将来を開くことになるかもしれません。
古代プロテオーム解析は有望ですが、限界がないわけではありません。そうした限界の一つは、プロテオミクスを用いて希望する水準で分類群を常に同定できるとは限らないことです。これは部分的には、コドンの縮重は、異なるDNA配列が同じタンパク質配列をコードするかもしれない、と意味しており、密接に関連した種間を区別するプロテオミクスの能力を低下させるからです。さらに、ほとんどの組織は生物のタンパク質全体の小さな部分集合のみを発現します。対照的に、DNA解析には非コード領域が含まれ、遺伝情報のより完全な一式と系統発生研究のより高い解像度を提供します。これらの限界は、人類のペプチドが区別できない事例におい例証されています(たとえば、Demeter et al., 2022)。古代DNA解析は現時点で系統発生的関係と種の多様性へのより詳細な洞察を提供しますが、抽出手法とデータ分析経路の継続的発展が、古代プロテオーム解析能力と解像度を強化します。
●堆積物の古代DNA
環境DNAの解析は、海水や湖や堆積物や排泄物などさまざまな環境と物質の生物多様性の解明にとって、ますます標準的な手法になりつつあります。これらの中で、堆積物の古代DNAは、化石のない堆積物でさえ、古環境と過去の生態系の再構築にとって強力な手法と証明されてきました。これは、生物がその生涯を通して、DNAとして環境に痕跡を残し、これらの分枝が保護されて保存され得る、という事実と関連しています。最近では、人類のゲノム規模分析が堆積物の古代DNAでも実行されてきており、他の生物での堆積物古代DNAの保存は200万年前頃までさかのぼりました(Kjær et al., 2022)。堆積物古代DNAの起源と挙動はまだよく理解されていませんが、先行研究では、【非ヒト】動物と人類のDNAは小さな粒子、とくに骨と排泄物の断片に集中している、と報告されました。さらに、大きな岩の下など「半閉鎖的」環境は、DNA保存の寿命に寄与する、と示されました。
古人類学の分野では、洞窟から得られた堆積物古代DNAが、古環境だけではなく、多様な人類の存在の解明に使用されてきました(Slon et al., 2017)。重要な成果は、デニソワ洞窟の堆積物標本におけるネアンデルタール人とデニソワ人両方の古代のmtDNAの発見でした(Slon et al., 2017)。いくつかの研究は、mtDNAに加えて核DNAの取得にさえ成功しました(Gelabert et al., 2021、Vernot et al., 2021)。デニソワ人のmtDNAはチベット高原の白石崖溶洞でも見つかっており、10万~6万年前頃のデニソワ人の存在が示唆されます(Zhang et al., 2020)。これらの研究は全て、人類のDNAは化石のない遺跡からさえ入手でき、人類のいた遺跡に関する共存情報も得られる、と示しています。さらに、mtDNAの構成要素モデルとDNA断片配列(k-mer)多様性手法の両方を用いて、これら古代の環境ゲノムに寄与している個体数を推定する試みがなされてきましたが、両手法と関連する不確実性を減らすには、さらなる検証が必要です(Slon et al., 2017、Vernot et al., 2021)。考古学的堆積物から得られたDNAは、堆積物の年代測定手法と組み合わせて、その存在だけではなく、どれくらい長くそこで暮らしていたのかも示唆します。
堆積物古代DNAが古人類学について語ることのできる、以下の三つの主要な論題があります。(1)人類の系統発生と人口構造です。堆積物から得られた人類のDNAは、人口統計学と混合事象に加えて、進化と拡散の歴史を明らかにします。たとえば、堆積物古代DNAは、ネアンデルタール人の移住パターンへの洞察を提供し、人口置換を明らかにしてきました(Vernot et al., 2021)。それは、遺跡内の親族関係とあり得る居住および配偶パターンにも光を当てます。(2)分子年代測定です。これは、分子時計を用いて、系統もしくは人口集団が他者から分岐した年代を推測する手法です。分子年代測定はおもにこの分野で用いられており、ある人類がどの系統に属すのか、また他の人類および現代人の既知の配列を有する堆積物から抽出されたDNA配列の比較により、どれくらい古いのか、判断されます。分子年代測定は、ゲノムからの大まかな年代推定取得と、妨害や侵入の存在の評価の手段を提供し、放射性炭素年代測定やOSLやウラン-トリウム(U/Th)系列など従来の年代測定手法の補完を可能とします。いくつかの研究は、じゅうらいの年代測定を用いての年代を分子年代測定での年代と比較し、その一貫性を確証してきました(Zavala et al., 2021、Gelabert et al., 2021)。この手法は、原則として全分類群に適用可能です(Kjær et al., 2022)。(3)古環境です。堆積物から得られた動物と植物のDNAも、人類が適応してきた環境について語ることができます。たとえば、堆積物古代DNAは、環境がヒトに適していたのかどうか、推測するのに役立ちます(Pedersen et al., 2016)。堆積物古代DNAは、人々がその環境をどう利用し、環境にどう影響を及ぼしたのかも、論証できます。花粉や可視的化石や脂質分析など他の手法を組み合わせることにより、人類と人類が暮らした環境へのより深い洞察の取得を可能とします。
手法と分析の改善は継続中で、とくにEA/SEAの堆積物古代DNA研究には必要です(表1)。捕獲濃縮はすでに、特定の分類群、とくに人類のDNAのみを探すのに用いられています(Zavala et al., 2021、Slon et al., 2017、Vernot et al., 2021)。充分な量の古代DNAを得るには、堆積物の種類と標本抽出戦略と場所が重要ですが徹底的な検証が依然として必要です。一部の種類の鉱物もしくは化学物質は、PCR(polymerase chain reaction、ポリメラーゼ連鎖反応)阻害剤の共抽出もしくは鉱物とDNAの強い結合のため、DNA解析を失敗させるかもしれません。これらの問題を解決する抽出手法が必要です。30~35塩基対より短いDNAも、擬似配列を避けるために通常は除去されますが、ひじょうに短いDNAは高度に分化された標本に豊富に存在するかもしれません。このひじょうに短い分子は、設計された確率的手法や他の手法を用いて、分析に含めることができるかもしれません。
●まとめ
近年では、EA/SEAにおける人類の拡散と進化に関する理解は、複数の方法論を通じて大きく改善されてきました。デニソワ人の発見は、ゲノムと形態学の研究において新たな研究分野を開きました。デニソワ人の頭蓋はまだ特定されておらず、それが中期~後期更新世の他の化石との形態学的比較を妨げてきたので、生体分子的手法により証明された頭蓋が、既存の未分類の化石の混乱の解明に重要な標本となるかもしれません。人類化石のプロテオーム解析と人類の遺跡における堆積物古代DNA解析も、EA/SEAにおけるホモ属の進化史と混合事象を解明するでしょう。ヒトの移住史の解像度を高めるためには、現在の事実に基づく妥当な仮定的状況の構築と、将来の研究の方向性の明確化が必須です。その結果が既存の仮定的状況と一致するかしないか調べることにより、歴史のより正確な理解を得ることができます。本論文は、そうした仮定的状況を提示し、考察の基礎を築きます。
さまざまな人類間で複数の混合があった事実を考えると、人類は相互作用なしに局所的に共存することは稀で、むしろ遭遇したさいには繰り返しの混合を経た可能性が高そうです。移動を妨げる多くの島と山があるEA/SEAの地理的条件は、多様な人類にとって進化と生存の適した環境を提供してきたかもしれません。現時点では、人類の記録の比較的疎らな性質のため、EA/SEAにおける人類の時空間的分布について多くが不明なままです。この混沌の中にあってさえ、アジアにおけるホモ属の多様性と混合の複雑さは明らかです。これは、人類の進化と拡散とってのアジアの重要性も示唆しています。人類間の複数の混合を考えると、ある標本を単一の種に分類できない事例を検討する必要があります。DNAやタンパク質など古代の生体分子は、そうした事例を明確にするのに役立つでしょう。EA/SEAにおける系統発生の正確な推定と確実な年代測定のある化石は、人類進化のじゅうらいの枠組みを変えるかもしれません。我々は今移行期におり、今後10年間に、さらなる発見によって、EA/SEAにおけるホモ属の進化と拡大はより確実になるでしょう。
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澤藤りかい、蔦谷匠、石田肇(2021)「アジア東部のホモ属に関するレビュー」『パレオアジア文化史学:アジアにおけるホモ・サピエンス定着プロセスの地理的編年的枠組みの構築2020年度研究報告書(PaleoAsia Project Series 32)』P101-112
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●要約
アジア東部および南東部は、100万年以上にわたって多様な人類の重要な生息地として機能してきました。これは、化石からの新たな発見や年代や形態学的証拠は古代の生体分子を報告してきた、過去10年間の多くの研究により論証されてきました。このことは、人類の進化と拡散についての理解を一新させました。しかし、既存の文献には、この分野の依然として不確実なもしくは議論のある側面に取り組むのに必要なさまざまな科学分野からの洞察を組み合わせる、包括的概説が不足しています。本論文は、アジア東部および南東部に暮らしていたさまざまな人類の時期と分布の統合を提供します。本論文は次に、二つの生体分子的手法、つまりこの地域における人類史の解明にとってたいへん有望な、古代プロテオミクスと堆積物の古代DNAを再調査します。
●研究史
近年、重要な遺跡の新たな発掘数とともに現代および古代の遺伝学の知識が増加したことで、アジア東部および南東部(East and Southeast Asia、略してEA/SEA)の人類の進化と移動の歴史における予期せぬ複雑さが明らかになりました。これらの新たな発見は2010年代以降に報告されてきており、この地域における人類の進化史に関する見解を一新しました。たとえば、シベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で発見された指骨の分析により最初は特徴づけられた、種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)はその後、おそらくはチベット高原(Chen et al., 2019)とラオス(Demeter et al., 2022)に存在した、と示されました。
さらに、他の人類がルソン島で発見され、ホモ・ルゾネンシスと命名されました(Détroit et al., 2019)。さらに、新しい正確な年代がいくつかの重要な標本と遺跡について刊行されており、EA/SEAのホモ・フロレシエンシス(Sutikna et al., 2016)とホモ・エレクトス(Matsu'ura et al., 2020)の年代を改訂しました。全ての発見は、EA/SEA内でのホモ属の進化と拡散に関する理解の一新に重要な役割を果たしてきました。EA/SEAの人類化石に焦点を当てる有益な総説が、最近刊行されました(Galway-Witham et al., 2019)。しかし、これらには複数分野にまたがる発見の統合が不足しており、(1)何が未知なのか、(2)EA/SEAにおいて人類学的に何が論争中なのか、(3)これらの未解決の問題の解決に役立つことのできる新たな手法は、包括的に考察されていません。
本論文はこの総説で、人類の化石記録と年代測定と古代DNAと古代プロテオミクスを含む、さまざまな分野の研究を調査します。本論文の目的は、EA/SEAに焦点を当てる古人類学における将来の研究の方向性の理解を深めることです。本論文はまず、現生人類を含めて、EA/SEAに生息していたさまざまな人類種の年代と分布の統合を提供します(図1および図2)。以下は本論文の図1です。
本論文は次に、さまざまな分野からの洞察を統合し、EA/SEAにおける人類史のあり得る仮定的状況を再構築します。本論文は交雑の頻度の可能性も浮き彫りにし、さまざまな人類が共存する場合、競合ではなく同化が起きたかもしれない、と提案します。本論文は最後に、古代プロテオミクスと堆積物の古代DNAが、人類の進化と分布の解明に使用できる有望な手法である、と提案します。本論文はEA/SEAに焦点を当て、アジアの南部と中央部と西部をこの総説から除外し、それはアジア南部の人類化石遺跡の少なさと、アジア中央部および西部におけるネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)とデニソワ人に関する異なる古人類学的状況のためです。以下は本論文の図2です。
●ホモ・エレクトス
ホモ・エレクトスの分類に関してさまざまな見解があり、たとえばアフリカのホモ・エレクトスはホモ・エルガスター(Homo ergaster)と呼ばれる別種とされます。本論文では、ホモ・エレクトスのより広範な定義(広義のホモ・エレクトス)が用いられ、アフリカのホモ・エレクトスは同じ分類群の一部とみなされます。ホモ・エレクトスは現在、アフリカから拡大した最初の人類と認識されており、ユーラシア全域を東方へ移動し、その後でアジア南東部へと南方に移動した、と考えられています。ホモ・エレクトスの化石記録はヨーロッパと中国とジャワ島に集中しており、中間地域については利用可能なデータがほとんどありません。
ホモ・エレクトスの可能性が高い最初期の化石の一部は南アフリカ共和国のドリモレン(Drimolen)古洞窟遺跡群で発見された204万年前頃の頭蓋(Herries et al., 2020)と、エチオピア高地のメルカ・クンチュレ(Melka Kunture)層で発見された200万年前頃の下顎(Mussi et al., 2023)ですが、アフリカ外でのホモ・エレクトスの存在の一般的に受け入れられている最古の証拠は、180万年前頃となるジョージア(グルジア)のドマニシ(Dmanisi)遺跡で発見されました(Ferring et al., 2011、Lordkipanidze et al., 2013)。
中国では、最近の発見がそれ以前の人類の存在を示唆していますが、その証拠は少なく、おもに陝西省藍田県(Lantian County)公王嶺(Gongwangling)の近くにある尚晨(Shangchen)で発見された210万年前頃の石器(Zhu et al., 2018)と、242万~180万年前頃となる湖北省恩施トゥチャ族ミャオ族自治州建始(Jianshi)県の竜骨洞(Longgu Cave)の人類の歯に基づいています。ドマニシ化石に先行するかもしれないこれらの発見は、ホモ・エレクトスもしくは他の人類がドマニシ遺跡の時期より早く中国に到達した、という興味深い可能性を示唆します。しかし、包括的な化石記録の少なさのため、これらの結論には注意深く対処せねばならず、それは、これら中国における初期人類の決定的な同定が依然として困難だからです。
中国で発見されたホモ・エレクトスの可能性が高い化石と石器には、泥河湾盆地(Nihewan basin)の馬圏溝3(Majuangou III)遺跡の166万年前頃の石器群や、上砂嘴(Shangshazui)遺跡の170万~160万年前頃の石器群(Ao et al., 2013)や、尚晨(Shang Chen)に近い陝西省藍田県の公王嶺遺跡の163万年前頃の頭蓋(Zhu et al., 2015)が含まれます。中国南部の雲南省楚雄イ族自治州元謀(Yuanmou)でも170万年前頃の切歯が発見されましたが(Zhu et al., 2008)、その年代決定には疑問が残っています。化石と石器の証拠をまとめると、中国におけるホモ・エレクトスの出現の控えめな年代は170万~160万年前頃です。
中期更新世の状況では、周口店地点1(Zhoukoudian Locality 1)で、6点の無傷の頭蓋や四肢骨断片や100点以上の歯から構成される、重大な発見がありました(Shen et al., 2009)。これらの化石の年代範囲は、78万~30万年前です。中国で発見された他の化石には、湖北省鄖(Yunxian)県の80万年前頃もしくは恐らくそれ以前の化石や、山東省沂源(Yiyuan)県の64万年前頃の化石や、中国南部の安徽省馬鞍山市和県(Hexian)の41万年前頃と推定されている化石が含まれます。注目すべきことに、一部の研究者は、和県の化石と中国北部のホモ・エレクトス標本との間の形態学的差異を観察しており、和県の化石がデニソワ人もしくは異なるかもしれない系統と示唆しています(Kaifu, 2017、Liu et al., 2017)。現時点での理解では、中国におけるホモ・エレクトスの消滅は40万~30万年前頃に位置づけられます。
インドネシアのジャワ島では、ホモ・エレクトスの歴史は150万年前頃から最近では10万年前頃と、かなりの期間にわたっています。この地域の最古の証拠は、ジャワ島東部のプルニン(Perning)遺跡のモジョケルト(Mojokerto)で発見された子供の頭蓋により表され、その年代は149万~143万年前頃で、現時点では最古の化石の発見となります。ジャワ島の主要な人類遺跡では、豊富な発見がありました。サンギラン(Sangiran)およびトリニール(Trinil)遺跡の年代は130万~80万年前頃で、最も有名な発見です(Matsu'ura et al., 2020、Hyodo et al., 2011)。サンギラン遺跡における人類の最初の出現は130万年前頃と推定されており、150万年前頃以前ではない一方で、サンギラン遺跡の最新の遺骸の年代は79万年前頃です。
他の遺跡には、おそらく中期更新世後期ではあるものの、確実な年代測定が報告されていないサンブンマチャン(Sambungmacan)や、年代測定されていないガウィ(Ngawi)や10万年前頃のガンドン(Ngandong)が含まれます。以前に、ジャワ島のホモ・エレクトスの最後の存在を表すガンドン遺跡の最新の年代が、7万~4万年前頃と推定されました(Yokoyama et al., 2008)。しかし、最近の改訂はこの年代をさらにさかのぼらせており、117000~108000年前頃の範囲が示唆されているので(Rizal et al., 2020)、この地域におけるホモ・エレクトスの改訂された年表が提供されました。
●ホモ・フロレシエンシスとホモ・ルゾネンシス
ホモ・フロレシエンシスは、ジャワ島の東側に位置するフローレス島のリアン・ブア(Liang Bua)洞窟で発見されました(関連記事)。少なくとも14個体で構成されるこれらの化石は、LB1(Liang Bua 1)として知られる成人女性のよく保存された部分的骨格により例示されます。このLB1個体は身長約1mで、426 cm³の小さな脳容量を有しています(Kubo et al., 2013)。この小さなサイズは、ホモ・エレクトスから進化したかもしれない島嶼小型化の結果と仮定されています(Diniz-Filho and Raia, 2017)。ホモ・フロレシエンシスの化石が10万~6万年前頃と年代測定された一方で、関連する石器はこれらの人類の居住期間を19万~5万年前頃へと拡張します(Sutikna et al., 2016)。
フローレス島における人類の活動のそれ以前の証拠は、フローレス島中央部のソア盆地(Soa Basin)のウォロ・セゲ(Wolo Sege)遺跡の層における石器の発見に由来し、100万年以上前と年代測定されており(Brumm et al., 2010)、フローレス島における人類の化石証拠以前の到来を示唆しています。さらに、ホモ・フロレシエンシスと類似した70万年前頃の下顎と歯が、フローレス島のソア盆地のマタ・メンゲ(Mata Menge)遺跡で発見されました。この発見から、ホモ・フロレシエンシスの独特な特徴につながる島嶼小型化の過程は、その時点までに進行中もしくは完全に発現していたかもしれない、と示唆されます(Brumm et al., 2016、van den Bergh et al., 2016a)。
ホモ・ルゾネンシスは、ルソン島のカラオ洞窟(Callao Cave)で発見された人類です(Détroit et al., 2019)。その化石は67000年前頃と報告されましたが、後に134000年前頃と改訂されました。ホモ・ルゾネンシスの大臼歯のサイズは他の人類と比較して小さく、現生人類やホモ・フロレシエンシスと類似した特徴ですが、その指と足の骨は細長く湾曲しており、アウストラロピテクス属と類似した特徴です。したがって、ホモ・ルゾネンシスの形態は祖先的特徴と派生的特徴の独特な混在を示しており、ホモ・ルゾネンシスと命名され、新種として記載されました(Détroit et al., 2019)。石器と解体痕のある動物の骨がルソン島では70万年前頃に発見されており、ホモ・ルゾネンシスよりずっと早い人類の存在が示唆されます(Ingicco et al., 2018)。ホモ・ルゾネンシスの系統発生は不明ですが、ホモ・フロレシエンシスと同様にホモ・エレクトスの子孫かもしれない、と示唆する研究もあります。超古代型人類(ホモ・ルゾネンシスが仮定されています)からルソン島の現代人への遺伝子移入の可能性を調べた研究もありますが、そうした混合を検出できませんでした(Teixeira et al., 2021、Choin et al., 2021)。
これら2種【ホモ・フロレシエンシスとホモ・ルゾネンシス】の注目すべき生物地理学的特徴は、その島嶼生息地です。ホモ・ルゾネンシスが居住していたルソン島はハクスリー線の東側で、ホモ・フロレシエンシスが居住していたフローレス島はウォレス線の東側です。この地理的分布から、ホモ・フロレシエンシスとホモ・ルゾネンシスはそれぞれ独立して生物地理学的障壁を渡ったかもしれない、と示唆されます。フローレス島から海を渡って300km北方のスラウェシ島では、20万~10万年前頃と年代測定された石器が発見されており、未知の人類系統がスラウェシ島にも暮らしていた、と示唆されます(van den Bergh et al., 2016b)。各人類がどのように渡海したのか不明ですが、意図的もしくは偶然に成功し、世界の他地域からの長期にわたって孤立して、独自に進化しました。
●デニソワ人
シベリアのデニソワ洞窟で発見された小さな指骨からの古代DNA解析は、新たな古代型人類集団の存在を初めて明らかにし、デニソワ人(関連記事)と命名されました(Reich et al., 2010)。遺伝学的分析から、ネアンデルタール人とデニソワ人の共通祖先は現生人類の祖先から70万~50万年前頃に分岐し、次にデニソワ人系統がネアンデルタール人の祖先から40万年以上前に分岐した、と示唆されています(Prüfer et al., 2017)。
現代人へのデニソワ人の遺伝的寄与は、フィリピンとメラネシアとオーストラリアの人々でとくに高い、と示されてきました(Reich et al., 2011、Larena et al., 2021)。驚くべきことに、デニソワ洞窟から遠く離れて暮らしているこれらの人口集団はデニソワ人からの高水準の遺伝的寄与を有していますが、遺伝子移入した人口集団はデニソワ洞窟で知られている人口集団と遺伝的に異なります(Browning et al., 2018)。アジア現代人のゲノム解析から、デニソワ人と現生人類との間で複数回の交雑事象があり、そのうち1回もしくは複数回はウォレス線の東側で3万年前頃に起きた、と示唆されました(Jacobs et al., 2019a)。
デニソワ人は、その形態に関する情報の不足のため、新種としてまだ報告されていません。現時点では、デニソワ洞窟で発見された骨のわずか数点の断片が確実にデニソワ人に分類できますが、中華人民共和国甘粛省甘南チベット族自治州夏河(Xiahe)県のチベット高原北東端の海抜3280mに位置する白石崖溶洞(Baishiya Karst Cave)で発見された、16万年以上前と推定される右側下顎(夏河下顎骨)は、デニソワ人とのプロテオームの類似性を示します。ラオスのフアパン(Huà Pan)県に位置するタム・グ・ハオ2(Tam Ngu Hao 2)洞窟で発見された1点の大臼歯の形態はデニソワ人を表していますが、ネアンデルタール人とのわずかな形態学的類似性も示しており、生体分子の証拠は決定的ではありませんでした(Demeter et al., 2022)。デニソワ人は、その存在がおもに古代DNA解析を通じて明らかにされてきた人類で、既存の分類されていない化石の一部はデニソワ人の可能性があります(Chen et al., 2019)。
デニソワ人はデニソワ洞窟に20万年前頃にまでさかのぼって共住しており(Brown et al., 2022、Zavala et al., 2021)、最も新しい居住は76000~52000年前頃と報告されました(Douka et al., 2019、Jacobs Z et al., 2019b)。デニソワ人のミトコンドリアDNA(mtDNA)解析から、デニソワ洞窟におけるデニソワ人の居住は連続的ではなかった、と示唆されています。ネアンデルタール人の骨の断片もデニソワ洞窟で発見されており、その古代DNA解析は、ネアンデルタール人の母親とデニソワ人の父親の間の第一世代の子供を明らかにしました(Slon et al., 2018)。16万年前頃のデニソワ人かもしれない下顎が発見されたと報告されている白石崖溶洞(Chen et al., 2019)では、古代の堆積物DNAも10万~6万年前頃に相当する層におけるデニソワ人の存在を示しています(Zhang et al., 2020)。
●デニソワ人の分布
デニソワ人に関する問題の一つは、その地理的分布です。現時点で、デニソワ人はデニソワ洞窟とチベット高原でのみ確認されており、恐らくはラオスでも特定されています。現代人のゲノム解析から、パプアでの1回、アジア東部での1回、アジア南部もしくは南東部での1回の、少なくとも3回の混合事象があった、と示唆されています(Choin et al., 2021、Larena et al., 2021、Browning et al., 2018、Jacobs et al., 2019a)。このため、デニソワ人はアジアの広範な地域に居住していたかもしれない、と提案されてきました(Reich et al., 2011、Ruan et al., 2023)。この仮説は、化石証拠の欠如のため批判されることが多くあります。しかし、単一の形態学的およびゲノム的に均一な種がアジア全域に分布していた、と仮定する必要はありません。
ゲノム研究では、デニソワ人には少なくとも4系統がある、と報告されてきました(Choin et al., 2021、Reich et al., 2011、Browning et al., 2018、Jacobs GS et al., 2019)。本論文はこれら4系統をD0・D1・D2・D3と呼びます(図3)。これらのうち、D3のみが化石情報とゲノム情報の間での対応が知られており、シベリアのデニソワ3号標本に相当します。他の系統は異なる形態学的特徴を有し、さまざまな類似性でD3と進化的に関連し、アジアとオセアニアのさまざまな地域に居住していたかもしれません。D3との、アジア東部における高い類似性のD0、パプアとおそらく密接な低い類似性のD1、アジア南部もしくは南東部における中間的な類似性のD2です。各系統はD3を除いて少なくとも1回ヒト【現生人類】と交雑し、D3の遺伝的寄与は現代人では見られません(Jacobs GS et al., 2019)。他の研究では、デニソワ人は恐らくホモ・エレクトスである超古代型人類集団と225000年以上前に交雑した、と示されました(Prüfer et al., 2014、Hubisz et al., 2020)。これは2回起きたかもしれず、1回はデニソワ人およびネアンデルタール人の共通祖先と、もう1回はデニソワ人が【ネアンデルタール人系統と】分岐した後です(Rogers et al., 2020)。以下は本論文の図3です。
各系統の分岐と混合事象の場所との間の年齢を考慮すると、デニソワ人の拡散に関する以下のような仮説を推測できます。つまり、中東周辺に居住していたデニソワ人とネアンデルタール人の共通祖先は超古代型人類と交雑し、その後でデニソワ人の祖先がネアンデルタール人の祖先集団と分岐し、アジアへと移動しました。そのうち一部はパプアへと広がり、アジア南東部島嶼部に居住しました(D1)。別の集団はアジア南部もしくは南東部に残り(D2)、そこから別の集団がアジア東部へとさらに北方に移動しました(D0とD3)。この移動期間の初期段階において、デニソワ人は超古代型人類集団と遭遇し、交雑しました。D0集団はアジア東部のどこかに居住しました。D3集団はシベリアのアルタイ山脈に到達し(D3)、そこでネアンデルタール人と遭遇して交雑しました。これは、現生人類と交雑したデニソワ人集団の歴史のみを反映している、と注意することが重要です。混合なしに絶滅した他の人口集団が存在したならば、現代人のゲノム解析はそうした集団についての情報を提供しないでしょう。
●アジア東部における未知の系統発生関係の化石
ホモ・エレクトスの出現に続いて、曖昧な分類群の人類化石が、とくに中期~後期更新世の中国で発見されてきました。これらの人類を、ホモ・ハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)や古代型サピエンスや後期の古代型のヒトや後期の古代型ホモ属と呼ぶ研究者もいます。これらの化石の形態は多様で、おそらく複数の系統を含んでいます(Kaifu, 2017、Ni et al., 2021、Roksandic et al., 2022)。これらの化石には、祖先的および派生的両方の形態学的特徴があります(Kaifu, 2017)。これらの化石はさまざまな遺跡から発掘されてきており、その形態からの系統発生の推定は困難です。
デニソワ人かもしれない標本もいくつかあります。これらの化石のうち一例は、河南省許昌市(Xuchang)霊井(Lingjing)遺跡で発見された125000~105000年前頃の頭蓋1点で(Li et al., 2017)、これはネアンデルタール人もしくはデニソワ人と類似している、と報告されています(Gokhman et al., 2019)。中国北部の黒竜江省ハルビン市で発見された148000年以上前の頭蓋1点は新種ホモ・ロンギ(Homo longi)と提案され、この個体の形態学的特徴はデニソワ人と密接に関連していると考えられています(Ni et al., 2021、Ji et al., 2021、Shao et al., 2021)。先行研究(Chen et al., 2019)では、夏河県で発見された推定されるデニソワ人の下顎は台湾沖で発見された19万~1万年前頃の澎湖1号(Penghu 1)および中国北部の泥河湾盆地の侯家窰(Xujiayao)遺跡で発見された37万~10万年前頃の歯と類似している、と報告されました。澎湖1号化石の形態は、41万年前頃となる中国南部の安徽省馬鞍山市(Ma'anshan)和県(Hexian)で発見された下顎化石とも類似しています(Chang et al., 2015)。
これらの化石の形態学的多様性の一部は、混合に起因するかもしれません。混合がネアンデルタール人とヒト【現生人類】、もしくはデニソワ人とヒトとの間で何回も起きたことを考えると、異なる人類が同時代に地理的に近い地域に居住していた場合に、混合は頻繁に起きていた可能性があります。アジアを越えた注目すべき事例は、ルーマニア南西部の「骨の洞窟(Peştera cu Oase、略してPO)」で発見されたワセ1号(Oase 1)で、これは現生人類の下顎1点です。この化石は形態学的に現生人類とネアンデルタール人の混在と主張されており、ゲノム解析はその後、このワセ1号個体が4~6世代前にネアンデルタール人の祖先を有している、と明らかにしました(Fu et al., 2015)。そうした交雑はデニソワ人とホモ・エレクトスのような超古代型人類との間で起きており、その形態学的特徴に影響を及ぼしていたかもしれません。
一般的に、中期~後期更新世これら分類されていない化石はとくに注目に値し、それは、デニソワ人を含めて更新世の人類間の系統発生的関係に光を当てる、と期待されるからです。そのうち一部はホモ・エレクトスなど超古代型人類間の混合にも影響を受けているかもしれません。後期古代型ホモ属はさまざまな分類群で構成されており、その一部がまだ記載されていない新種かもしれない可能性は高そうです。形態だけに基づいてこれらの化石を分類するのは困難で(試みの一例としては、Ni et al., 2021)、系統発生的関係は形態学的技術とDNAやタンパク質など生体分子的技術の組み合わせを用いて解決されるべきです。
●現生人類
現生人類は少なくとも30万年前頃までにはアフリカに出現しており(Hublin et al., 2017)、その後でアフリカから拡大し、その最初期の発見の一つが、ギリシア南部のマニ半島のアピディマ洞窟(Apidima Cave)で発見された21万年前頃となる頭蓋1点です(Harvati et al., 2019)。いくつかのヒト化石はレヴァントでも発見されており、イスラエルのカルメル山にあるミスリヤ洞窟(Misliya Cave)で発見された152000年前頃の上顎(Hershkovitz et al., 2018)や、イスラエルのスフール(Skhul)洞窟およびカフゼー(Qafzeh)洞窟で発見された12万~9万年前頃の頭蓋があります。これらの化石が裏づけているのは、ヒト【現生人類】はアフリカ外の生息地を10万年以上前に複数回拡大した、ということですが、遺伝学的研究が裏づけているのは、これらの拡散はその後の現生人類に殆ど若しくは全く遺伝的に寄与していない(Choin et al., 2021、Mallick et al., 2016、Narasimhan et al., 2019)、ということです。55000年以上前のアフリカ外人口集団は、消滅し、その後の拡散において拡大した人口集団により完全に置換されたようです。これは、現代人と古代人のmtDNAおよびY染色体DNAの分析により裏づけられ、これら片親性遺伝標識(母系のミトコンドリアDNAと父系のY染色体)のハプログループの分岐年代に基づいて、非アフリカ系人口集団は55000年前頃未満に世界中に拡大した、と示唆されます(Hallast et al., 2021)。
EA/SEAへの55000年前頃以前となる【現生人類の】初期拡散を提案した研究者もいます。中国では、12万~6万年前頃のヒト【現生人類】化石がおもに南部で発見されており、アジア東部への現生人類の初期拡散が示唆されます。広西壮族(チワン族)自治区の智人洞窟(Zhiren Cave)の10万年前頃となる下顎1点と2点の歯(Liu et al., 2010)と、湖南省永州市道県の福岩洞窟(Fuyan Cave)で発見された12万~6万年前頃の47点の歯(Liu et al., 2015)は、現生人類と同定されてきました。広西チワン族自治区の陸那洞窟(Luna Cave)や柳江・通天岩洞窟(Liujiang-Tongtianyan Cave)や智人洞窟と湖南省張家界市の黄龍洞(Huanglongdong)など、他の遺跡からも、55000年以上前の現生人類化石が報告されています【最近の研究(Ge et al., 2024)によると、柳江の現生人類遺骸の年代は33000~23000年前頃と推定されています】。アジア南東部では、化石が中国に近いラオス北部のタンパリン(Tam Pa Ling)遺跡で発見されており、その一部は7万年以上前と年代測定されました(Demeter et al., 2022、Freidline et al., 2023)。アジア南東部から得られた他の証拠には、インドネシアのスマトラ島のリダ・アジャー(Lida Ajer)洞窟の73000~63000年前頃の2点の歯(Westaway et al., 2017)や、オーストラリアのマジェドベベ(Madjedbebe)岩陰遺跡の磨製握斧端など65000年前頃の石器群が含まれます(Clarkson et al., 2017)。
55000年以上前となるEA/SEAへの初期拡散は、過去10年間にわたって激しい議論の対象となってきており(O'Connell et al., 2018)、発見に関する二つの大きな懸念があります。最初の懸念は、化石の年代測定に関わります。放射性炭素年代測定は55000年前頃が上限で、この時間枠を超えてのアジアにおけるヒト【現生人類】の移動の調査に適していません。より古い化石の年代推定には、ウラン系列法や電子スピン共鳴法(electron spin resonance、略してESR)や発光年代測定が作用され、これらの技術は化石が発見された層の年代測定によく使用されます。先行研究(Kaifu et al., 2022)は、最近のヒト【現生人類】遺骸の洞窟堆積物のより古い層序への嵌入を報告し、人類標本の直接的な年代測定と分類学的評価の必要性を強調します。第二は、化石の形態学的分類に関するものです。デニソワ人が現生人類の到来前にEA/SEA全域にすでに拡散し、30000~25000年前頃まで存在していたかもしれないことを考えると、55000年前頃以前と年代測定された化石と石器は、デニソワ人もしくは現生人類の所産かもしれません。初期拡散とされるほとんどの化石は歯もしくは骨の断片で、これらの標本の正確な分類学的割り当てを複雑にすることが多くあります。
その後の、55000年前頃以後となるアジアへの拡散は、化石証拠と遺伝学的情報の両方により確証されています。中国北部では、42000~39000年前頃と年代測定された下顎と頭蓋後方(首から下)の骨が、北京の南西56kmにある田园(田園)洞窟(Tianyuan Cave)で回収されました(Shang et al., 2007)。古代DNA解析から、この標本は遺伝的にアジア東部およびアメリカ大陸の現生人類集団と密接に関連しており、すでにネアンデルタール人やデニソワ人と交雑していた、と明らかになりました(Yang et al., 2017)。
中国南部では、44000~38500年前頃と年代測定された現生人類化石が広西チワン族自治区来賓市の麒麟山(Qilinshan)遺跡で発見されました。アジア南東部では、46000年前頃と年代測定された頭蓋1点と下顎1点がラオス北部のタンパリンで発掘されましたが(Freidline et al., 2023)、タンパリン遺跡にはより古い現生人類遺骸もあります。ボルネオ島のニア洞窟(Niah Cave)の「ディープスカル(Deep Skull、略してDS)」は45000~39000年前頃と年代測定され、47000年前頃と年代測定された脛骨断片1点が、フィリピンのパラワン州のタボン洞窟(Tabon Cave)で発見されました。初期および後期の拡散に関するこの証拠の蓄積は、移動パターンの複雑さと動態を強調します。これらの調査結果は、ヒトの歴史に関する理解を深めるだけではなく、連続的な学際的研究の重要性を浮き彫りにもします。
●多様な人類の拡散と絶滅
人類とその地理的分布と存続に関する理解により多くの断片が継続的に追加されるにつれて、新たな問題が生じ、さまざまな人類がどのように拡散し、なぜ消滅したのか、ということについての詳細は不明なままです。現在の化石記録と遺伝学的証拠から、人類の拡散に関する一つの妥当で首尾一貫した仮定的状況は以下のようなものです。つまり、ホモ・エレクトスはアフリカに出現し、ユーラシア大陸へと200万年前頃に拡大し、その後でヨーロッパとアジア東部(中国)とアジア南東部(ジャワ島)に居住しました。その後、現生人類とネアンデルタール人とデニソワ人の共通祖先が2集団に分岐し、一方はアフリカに存在し(その後、現生人類へとつながります)、他方はある時点で中東周辺に居住していました。後者【現生人類系統と分岐した後のネアンデルタール人とデニソワ人の共通祖先】は、超古代型人類集団(おそらくはホモ・エレクトス)と70万~60万年前頃に交雑しました。その後、ユーラシアの人類集団は2集団に分岐しました。一方は西方(ヨーロッパとアジア西部)に居住してネアンデルタール人へとつながった一方で、もう一方はアジアに居住してデニソワ人へとつながりました。
デニソワ人はユーラシアでホモ・エレクトスと交雑し、その生態的地位を占めました。ある時点で、デニソワ人もアジア東部および南東部へと拡大し、そこでデニソワ人集団はさまざまな貝集団に分岐しました(D0とD1とD2とD3、詳細は上述のデニソワ人の項目)。一方で、ホモ・エレクトスはアジア東部では40万年前頃、アジア南東部では10万年前頃に絶滅したかもしれません。デニソワ人はアルタイ地域に到達し、最終的には14万~8万年前頃に数回ネアンデルタール人と遭遇して交雑しました。一方で、一部の現生人類は20万年以上前にアフリカを離れました。この最初の移住は失敗しましたが、この時点でのネアンデルタール人との交雑はそのゲノムに痕跡を残しました(Bergström et al., 2021)。その後、出アフリカ事象が数回あり、アジアに到達したかもしれませんが、現代人の祖先につながった人口集団はアフリカを55000年前頃に離れました。現代人の祖先につながった人口集団はアジア西部でネアンデルタール人と、EA/SEAでデニソワ人と交雑しました。本論文が、デニソワ人に寄与した超古代型人類をホモ・エレクトスと考えていることに要注意です。ホモ・エレクトスとデニソワ人以外の人類がアジアに移住したか、ホモ・エレクトスから進化した可能性はありますが、証拠の不足のため本論文では検証されません。
●同化の仮定的状況の仮説
さまざまな人類の絶滅理由は、不明なままです。人類の絶滅についての一般的に提案されている説明は、環境変化および他の人類との生態学的地位をめぐる競合です(Louys and Roberts, 2020、Banks et al., 2008)。最近、ネアンデルタール人とヒト【現生人類】との間の繰り返しの交雑がネアンデルタール人の同化につながった、と提案されました(Stringer and Crété, 2022)。遺伝学的証拠からさまざまな人類間で複数の混合があった、という事実を考えると、同化はアジアにおいても同様に人類の一部の絶滅に寄与したかもしれません。この仮説は、異なる人類が遭遇したさいには、交雑が起きて、より小さな集団はより大きな集団に吸収された、と仮定しています。
結果として、多様な人類間でさまざまな相互作用と交雑があり、最終的には現生人類が唯一の現生種となりました。移動を妨げる多くの島や山のあるEA/SEAの地理的条件は、多様な人類の進化と生存に適した環境を提供したかもしれません。これも、さまざまな人類が暮らしていたEA/SEAが、この可能性の検証に理想的な場所であることを意味します。たとえば、デニソワ人と超古代型人類との間の混合を考えると、ホモ・エレクトスの絶滅はデニソワ人との交雑および同化により説明できるかもしれません。この仮説の検証には、アジアでは少ない追加の化石記録が必要です。次章では、EA/SEAにおける人類史の解明に有望な手法が紹介されます。
●今後の方向性
古代DNAは、人類史の理解を書き換えてきました。古代ゲノムの解析を通じて、研究者は移動パターンの追跡と、異なる人口集団の起源の正確な特定と、人類進化における重要な分岐点の解明に成功してきました。これらの研究は、さまざまな人類間の交雑と混合の事例の解明も齎し、移動に関する従来のモデルに異議を唱え、現代人の遺伝的遺産の複雑な性質を強調しました。さらに、人口動態や人口統計学的変化や進化的適応への洞察が収集されてきて、ヒトの歴史の微妙な理解を提供します。本質的に、古代ゲノミクスはヒトの祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)の複雑なつづれ織りの理解力を一新してきており、過去のより詳細で相互に関連した物語ょ解明しました(Bergström et al., 2021)。
しかし、これら古代ゲノムには強い地理的偏りがあり(Mallick et al., 2024)、EA/SEAは過小評価されています(アフリカも同様です)。これは、少ない化石の発見や、とくに、骨が分解して消滅し、時には酸性土壌と結合することの多い高温湿潤環境で顕著である、これらの化石の乏しい分子保存状態の結果である可能性が高そうです。本論文はこれに関して、古代プロテオミクスと堆積物の古代DNA解析が、化石が存在しないか保存状態の悪いEA/SEAの古代人類の調査に代替的な手法として役立てるかもしれない、と考えています(表1)。
●古代プロテオミクス
古代プロテオミクスもしくは古プロテオミクスは、系統発生再構築の代替的な生体分子的手法として注目を集めてきました。タンパク質は時として、古代DNAが保存されない100万年以上前の石灰化組織に保存されています(Cappellini et al., 2019、Welker et al., 2019)。系統発生的に情報をもたらすタンパク質配列は、中国南部の190万年前頃と年代測定された標本1点(Welker et al., 2019)や200万年前頃の南アフリカ共和国の標本からさえ回収されており、この手法がEA/SEAにおける人類進化も解明できる可能性を示唆しています。タンパク質の種類とペプチドにおけるアミノ酸組成は、タンパク質の保存に影響を及ぼします。歯のエナメル質は、骨や象牙質の生体燐灰石よりも、さほど多孔性ではなく高度に結晶化されており、結晶が大きいので、分解と元素置換の影響を受けにくくなっています。エナメル質のそうした化学的および物理的特徴は、骨と比較してエナメル質におけるより良好なタンパク質保存に役立つでしょう(Cappellini et al., 2019)。
古代プロテオーム解析は人類化石に適用され、その有効性を証明してきました。白石崖溶洞の下顎1点は、象牙質の古代プロテオーム解析によりデニソワ人の可能性があると同定され、ヒト【現生人類】とネアンデルタール人とアルタイ山脈のデニソワ人では見つからなかったアミノ酸置換さえ示しました(Chen et al., 2019)。949000~772000年前頃と年代測定されたホモ・アンテセッサー(Homo antecessor)の歯のエナメル質のプロテオーム解析も実行され、それが現生人類とネアンデルタール人とデニソワ人の姉妹群である、と明らかになりました(Welker et al., 2020)。歯のエナメル質のアメロゲニンはX染色体とY染色体の間の配列が異なるので、古代標本の生物学的性別がアメロゲニンのペプチド配列の回収により決定できます(Demeter et al., 2022、Welker et al., 2019)。この手法は、生物学的性別を考慮した人類の形態学的分析の将来を開くことになるかもしれません。
古代プロテオーム解析は有望ですが、限界がないわけではありません。そうした限界の一つは、プロテオミクスを用いて希望する水準で分類群を常に同定できるとは限らないことです。これは部分的には、コドンの縮重は、異なるDNA配列が同じタンパク質配列をコードするかもしれない、と意味しており、密接に関連した種間を区別するプロテオミクスの能力を低下させるからです。さらに、ほとんどの組織は生物のタンパク質全体の小さな部分集合のみを発現します。対照的に、DNA解析には非コード領域が含まれ、遺伝情報のより完全な一式と系統発生研究のより高い解像度を提供します。これらの限界は、人類のペプチドが区別できない事例におい例証されています(たとえば、Demeter et al., 2022)。古代DNA解析は現時点で系統発生的関係と種の多様性へのより詳細な洞察を提供しますが、抽出手法とデータ分析経路の継続的発展が、古代プロテオーム解析能力と解像度を強化します。
●堆積物の古代DNA
環境DNAの解析は、海水や湖や堆積物や排泄物などさまざまな環境と物質の生物多様性の解明にとって、ますます標準的な手法になりつつあります。これらの中で、堆積物の古代DNAは、化石のない堆積物でさえ、古環境と過去の生態系の再構築にとって強力な手法と証明されてきました。これは、生物がその生涯を通して、DNAとして環境に痕跡を残し、これらの分枝が保護されて保存され得る、という事実と関連しています。最近では、人類のゲノム規模分析が堆積物の古代DNAでも実行されてきており、他の生物での堆積物古代DNAの保存は200万年前頃までさかのぼりました(Kjær et al., 2022)。堆積物古代DNAの起源と挙動はまだよく理解されていませんが、先行研究では、【非ヒト】動物と人類のDNAは小さな粒子、とくに骨と排泄物の断片に集中している、と報告されました。さらに、大きな岩の下など「半閉鎖的」環境は、DNA保存の寿命に寄与する、と示されました。
古人類学の分野では、洞窟から得られた堆積物古代DNAが、古環境だけではなく、多様な人類の存在の解明に使用されてきました(Slon et al., 2017)。重要な成果は、デニソワ洞窟の堆積物標本におけるネアンデルタール人とデニソワ人両方の古代のmtDNAの発見でした(Slon et al., 2017)。いくつかの研究は、mtDNAに加えて核DNAの取得にさえ成功しました(Gelabert et al., 2021、Vernot et al., 2021)。デニソワ人のmtDNAはチベット高原の白石崖溶洞でも見つかっており、10万~6万年前頃のデニソワ人の存在が示唆されます(Zhang et al., 2020)。これらの研究は全て、人類のDNAは化石のない遺跡からさえ入手でき、人類のいた遺跡に関する共存情報も得られる、と示しています。さらに、mtDNAの構成要素モデルとDNA断片配列(k-mer)多様性手法の両方を用いて、これら古代の環境ゲノムに寄与している個体数を推定する試みがなされてきましたが、両手法と関連する不確実性を減らすには、さらなる検証が必要です(Slon et al., 2017、Vernot et al., 2021)。考古学的堆積物から得られたDNAは、堆積物の年代測定手法と組み合わせて、その存在だけではなく、どれくらい長くそこで暮らしていたのかも示唆します。
堆積物古代DNAが古人類学について語ることのできる、以下の三つの主要な論題があります。(1)人類の系統発生と人口構造です。堆積物から得られた人類のDNAは、人口統計学と混合事象に加えて、進化と拡散の歴史を明らかにします。たとえば、堆積物古代DNAは、ネアンデルタール人の移住パターンへの洞察を提供し、人口置換を明らかにしてきました(Vernot et al., 2021)。それは、遺跡内の親族関係とあり得る居住および配偶パターンにも光を当てます。(2)分子年代測定です。これは、分子時計を用いて、系統もしくは人口集団が他者から分岐した年代を推測する手法です。分子年代測定はおもにこの分野で用いられており、ある人類がどの系統に属すのか、また他の人類および現代人の既知の配列を有する堆積物から抽出されたDNA配列の比較により、どれくらい古いのか、判断されます。分子年代測定は、ゲノムからの大まかな年代推定取得と、妨害や侵入の存在の評価の手段を提供し、放射性炭素年代測定やOSLやウラン-トリウム(U/Th)系列など従来の年代測定手法の補完を可能とします。いくつかの研究は、じゅうらいの年代測定を用いての年代を分子年代測定での年代と比較し、その一貫性を確証してきました(Zavala et al., 2021、Gelabert et al., 2021)。この手法は、原則として全分類群に適用可能です(Kjær et al., 2022)。(3)古環境です。堆積物から得られた動物と植物のDNAも、人類が適応してきた環境について語ることができます。たとえば、堆積物古代DNAは、環境がヒトに適していたのかどうか、推測するのに役立ちます(Pedersen et al., 2016)。堆積物古代DNAは、人々がその環境をどう利用し、環境にどう影響を及ぼしたのかも、論証できます。花粉や可視的化石や脂質分析など他の手法を組み合わせることにより、人類と人類が暮らした環境へのより深い洞察の取得を可能とします。
手法と分析の改善は継続中で、とくにEA/SEAの堆積物古代DNA研究には必要です(表1)。捕獲濃縮はすでに、特定の分類群、とくに人類のDNAのみを探すのに用いられています(Zavala et al., 2021、Slon et al., 2017、Vernot et al., 2021)。充分な量の古代DNAを得るには、堆積物の種類と標本抽出戦略と場所が重要ですが徹底的な検証が依然として必要です。一部の種類の鉱物もしくは化学物質は、PCR(polymerase chain reaction、ポリメラーゼ連鎖反応)阻害剤の共抽出もしくは鉱物とDNAの強い結合のため、DNA解析を失敗させるかもしれません。これらの問題を解決する抽出手法が必要です。30~35塩基対より短いDNAも、擬似配列を避けるために通常は除去されますが、ひじょうに短いDNAは高度に分化された標本に豊富に存在するかもしれません。このひじょうに短い分子は、設計された確率的手法や他の手法を用いて、分析に含めることができるかもしれません。
●まとめ
近年では、EA/SEAにおける人類の拡散と進化に関する理解は、複数の方法論を通じて大きく改善されてきました。デニソワ人の発見は、ゲノムと形態学の研究において新たな研究分野を開きました。デニソワ人の頭蓋はまだ特定されておらず、それが中期~後期更新世の他の化石との形態学的比較を妨げてきたので、生体分子的手法により証明された頭蓋が、既存の未分類の化石の混乱の解明に重要な標本となるかもしれません。人類化石のプロテオーム解析と人類の遺跡における堆積物古代DNA解析も、EA/SEAにおけるホモ属の進化史と混合事象を解明するでしょう。ヒトの移住史の解像度を高めるためには、現在の事実に基づく妥当な仮定的状況の構築と、将来の研究の方向性の明確化が必須です。その結果が既存の仮定的状況と一致するかしないか調べることにより、歴史のより正確な理解を得ることができます。本論文は、そうした仮定的状況を提示し、考察の基礎を築きます。
さまざまな人類間で複数の混合があった事実を考えると、人類は相互作用なしに局所的に共存することは稀で、むしろ遭遇したさいには繰り返しの混合を経た可能性が高そうです。移動を妨げる多くの島と山があるEA/SEAの地理的条件は、多様な人類にとって進化と生存の適した環境を提供してきたかもしれません。現時点では、人類の記録の比較的疎らな性質のため、EA/SEAにおける人類の時空間的分布について多くが不明なままです。この混沌の中にあってさえ、アジアにおけるホモ属の多様性と混合の複雑さは明らかです。これは、人類の進化と拡散とってのアジアの重要性も示唆しています。人類間の複数の混合を考えると、ある標本を単一の種に分類できない事例を検討する必要があります。DNAやタンパク質など古代の生体分子は、そうした事例を明確にするのに役立つでしょう。EA/SEAにおける系統発生の正確な推定と確実な年代測定のある化石は、人類進化のじゅうらいの枠組みを変えるかもしれません。我々は今移行期におり、今後10年間に、さらなる発見によって、EA/SEAにおけるホモ属の進化と拡大はより確実になるでしょう。
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