片親起源効果の根底にある利己的な対立

 片親起源効果(parent-of-origin effect)を進化させた機構に関する研究(Pliota et al., 2024)が公表されました。ゲノムインプリンティングは、母親由来ゲノムと父親由来ゲノムが同等でなくなる現象で、多くの植物種および哺乳類種において独立に進化してきた重要な過程です。親族理論によれば、インプリンティングは、両親の間で発現の異なる対立遺伝子に作用する、対立する選択圧の必然的な結果であるとされています。しかし、これらのエピジェネティックな差異が最初にどのように進化するのか、ほとんど解明されていなません。

 本論文では、この基本的な疑問を解明するのに役立つ可能性のある、遺伝子発現に働く片親起源効果を特定し、それを分子的に解明したことが報告されます。毒素-抗毒素エレメント(TA)は、非保有者に害を及ぼすことによって集団内に広がる利己的エレメントです。本論文は、線虫の一種(Caenorhabditis tropicalis)の2つの野生分離株間の相互交雑において、slow-1/grow-1 TAは父親由来の場合に特異的に不活性であることを見いだしました。この片親起源効果は、宿主防御のPIWI結合RNA(piRNA)経路によるslow-1毒素の転写抑制に起因します。

 この抑制は、PIWIアルゴノートおよびSET-32ヒストンメチルトランスフェラーゼの活性を必要とし、低分子RNAを介して世代を超えて受け継がれます。注目すべきことに、slow-1/grow-1が母親由来の場合、slow-1の抑制は、その母親由来mRNAの翻訳に非依存的な役割によって停止します。つまり、SLOW-1タンパク質ではなくslow-1転写産物の卵への積み込みが、piRNAを介する抑制への拮抗に必要かつ充分であることを意味します。この知見は、片親起源効果がpiRNA経路を取り入れることで進化でき、その伝播に性を必要とする利己的な遺伝子の広がりを妨害できる、と示しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


遺伝学:RNAを介する片親起源効果の根底にある利己的な対立

遺伝学:片親起源効果を進化させた機構

 今回、線虫の一種Caenorhabditis tropicalisを用いた研究で、PIWI結合RNA(piRNA)経路を用いてゲノムインプリンティングを調節する、利己的な毒素-抗毒素エレメントが明らかにされている。



参考文献:
Pliota P. et al.(2024): Selfish conflict underlies RNA-mediated parent-of-origin effects. Nature, 628, 8006, 122–129.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07155-z

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