牛乳摂取量と2型糖尿病との関連
取り上げるのが遅れてしまいましたが、牛乳摂取量と2型糖尿病(type 2 diabetes、略してT2D)との関連についての研究(Luo et al., 2024)が公表されました。牛乳はヒトの食性に含まれることが多いものの、牛乳摂取量と2型糖尿病との間の関係には依然として議論の余地があります。ラクターゼ(Lactase、略してLCT、乳糖分解酵素)遺伝子の一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism、略してSNP)rs4988235の遺伝子型は、成人になってからもラクターゼ活性が持続する(lactase persistence、略してLP)のかどうかを決めています。LP個体群(遺伝子型AA/AG)は、成人になってからも乳糖含有量の多い乳製品(牛乳など)を簡単に消化できますが、ラクターゼ非活性持続(lactase non-persistent、略してLNP)個体群(遺伝子型GG)は、ラクターゼが欠失し、多くの場合、乳糖不耐症となります。
本論文では、ヒスパニック共同体健康研究/ラテンアメリカ人研究のデータ(12653個体)を用いて、宿主の遺伝子型と腸内細菌叢と血中の代謝産物水準を解析しました(追跡期間の中央値は6年)。牛乳の摂取量は、2回の24時間思い出し法(参加者に過去24時間に飲食したもの全てを思い出してもらう方法)と、食事傾向調査によって評価されました。その結果、両性において、より多い牛乳摂取量LNP個体群におけるT2Dのより低い危険性と関連しているものの、乳糖分解酵素活性持続個体群では関連していない、と示されます。牛乳摂取量が1杯(液量カップ1杯、約237ml)増えると、LNP個体群のみで、T2Dの発症危険性が約30%低下しました。本論文はこの調査結果を、イギリス生物銀行(United Kingdom Biobank、略してUKB)で確証します。
さらなる分析から、LNP個体群のうち、より多い牛乳摂取量は、ビフィズス菌(Bifidobacterium)種の増加とプレボテラ(Prevotella)属種の減少など腸内細菌叢の変化や、インドレプロピオン酸の増加と分岐鎖アミノ酸代謝産物の減少など循環代謝産物と関連している、と明らかになります。これらの代謝産物の多くは、同定された牛乳関連の真正細菌と関連しており、LNP個体群における牛乳摂取量とT2Dとの間の関連を部分的に媒介します。本論文は、LNP個体群における牛乳摂取量とT2Dとの間の保護的関連、およびこの関連における腸内細菌叢と血中代謝産物の関与の可能性を示します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
健康:一部の人では、牛乳の摂取量の増加と2型糖尿病のリスク低下に関連が見られる
ラクターゼ(乳糖分解酵素)を作らないラクターゼ活性非持続性の成人において、牛乳の摂取量の増加は2型糖尿病(T2D)のリスク低下に関連していることを示した論文が、Nature Metabolismに掲載される。ラクターゼが欠失している人に限られたことだが、牛乳の摂取量増加が腸内微生物相の特定の細菌のレベルと血中代謝産物のレベルを変化させ、これらがT2Dのリスク低下に結び付くことが分かった。
LCT(ラクターゼ)遺伝子の一塩基多型(SNP)のrs4988235という遺伝子型は、成人になってからもラクターゼ発現が持続するかどうかを決めている。ラクターゼ活性持続性(遺伝子型AA/AG)の人は、成人になってからも乳糖含有量の多い乳製品(牛乳など)を簡単に消化できるが、ラクターゼ活性非持続性(GG)の人は、ラクターゼが欠失し、多くの場合、乳糖不耐症となる。
今回、Qibin Qiらは、ヒスパニック系地域健康研究/ラテン系研究(HCHS/SOL)の参加者最大1万2653人について、宿主の遺伝子型、腸内微生物相、血中の代謝産物レベルを解析した(追跡期間の中央値は6年)。牛乳の摂取量は、2回の24時間思い出し法(参加者に過去24時間に飲食したもの全てを思い出してもらう方法)と、食事傾向アンケートによって評価した。牛乳摂取量が1杯(液量カップ1杯、約237ミリリットル)増えると、ラクターゼ活性非持続性の人に限り、T2Dの発症リスクがおよそ30%低下した。牛乳摂取量とLCT遺伝子型、T2Dリスクの関係は、英国バイオバンクの16万7172人の調査でも確かめられた。
ヒスパニック系とラテン系のコホートで見ると、ラクターゼ活性非持続性の人では、牛乳摂取量が腸内細菌種の存在量の明確な変化に関連することが分かった。観察されたビフィズス菌(Bifidobacterium)種の増加は、T2Dリスクの低下と相関していた。また、牛乳摂取量は、ラクターゼ活性非持続性の人の血中代謝物レベルの特異的変化にも関連していた。例えば、分枝鎖アミノ酸の変化やトリプトファン代謝物の変化などで、これらもT2Dリスクの低下に関連があった。一方、ラクターゼ活性持続性の参加者では、T2Dリスクとの関連は全く見られなかった。また、細菌種の存在量の変化と代謝産物レベルの変化は相関することが分かった。これらの知見は、牛乳摂取量が腸内微生物相の組成や血中代謝物のプロフィールに、宿主のLCT遺伝子型に依存した影響を及ぼす可能性があることを示しており、牛乳摂取がラクターゼの欠失した人のT2Dを防ぐのに役立つことを示唆している。
参考文献:
Luo K. et al.(2024): Variant of the lactase LCT gene explains association between milk intake and incident type 2 diabetes. Nature Metabolism, 6, 1, 169–186.
https://doi.org/10.1038/s42255-023-00961-1
本論文では、ヒスパニック共同体健康研究/ラテンアメリカ人研究のデータ(12653個体)を用いて、宿主の遺伝子型と腸内細菌叢と血中の代謝産物水準を解析しました(追跡期間の中央値は6年)。牛乳の摂取量は、2回の24時間思い出し法(参加者に過去24時間に飲食したもの全てを思い出してもらう方法)と、食事傾向調査によって評価されました。その結果、両性において、より多い牛乳摂取量LNP個体群におけるT2Dのより低い危険性と関連しているものの、乳糖分解酵素活性持続個体群では関連していない、と示されます。牛乳摂取量が1杯(液量カップ1杯、約237ml)増えると、LNP個体群のみで、T2Dの発症危険性が約30%低下しました。本論文はこの調査結果を、イギリス生物銀行(United Kingdom Biobank、略してUKB)で確証します。
さらなる分析から、LNP個体群のうち、より多い牛乳摂取量は、ビフィズス菌(Bifidobacterium)種の増加とプレボテラ(Prevotella)属種の減少など腸内細菌叢の変化や、インドレプロピオン酸の増加と分岐鎖アミノ酸代謝産物の減少など循環代謝産物と関連している、と明らかになります。これらの代謝産物の多くは、同定された牛乳関連の真正細菌と関連しており、LNP個体群における牛乳摂取量とT2Dとの間の関連を部分的に媒介します。本論文は、LNP個体群における牛乳摂取量とT2Dとの間の保護的関連、およびこの関連における腸内細菌叢と血中代謝産物の関与の可能性を示します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
健康:一部の人では、牛乳の摂取量の増加と2型糖尿病のリスク低下に関連が見られる
ラクターゼ(乳糖分解酵素)を作らないラクターゼ活性非持続性の成人において、牛乳の摂取量の増加は2型糖尿病(T2D)のリスク低下に関連していることを示した論文が、Nature Metabolismに掲載される。ラクターゼが欠失している人に限られたことだが、牛乳の摂取量増加が腸内微生物相の特定の細菌のレベルと血中代謝産物のレベルを変化させ、これらがT2Dのリスク低下に結び付くことが分かった。
LCT(ラクターゼ)遺伝子の一塩基多型(SNP)のrs4988235という遺伝子型は、成人になってからもラクターゼ発現が持続するかどうかを決めている。ラクターゼ活性持続性(遺伝子型AA/AG)の人は、成人になってからも乳糖含有量の多い乳製品(牛乳など)を簡単に消化できるが、ラクターゼ活性非持続性(GG)の人は、ラクターゼが欠失し、多くの場合、乳糖不耐症となる。
今回、Qibin Qiらは、ヒスパニック系地域健康研究/ラテン系研究(HCHS/SOL)の参加者最大1万2653人について、宿主の遺伝子型、腸内微生物相、血中の代謝産物レベルを解析した(追跡期間の中央値は6年)。牛乳の摂取量は、2回の24時間思い出し法(参加者に過去24時間に飲食したもの全てを思い出してもらう方法)と、食事傾向アンケートによって評価した。牛乳摂取量が1杯(液量カップ1杯、約237ミリリットル)増えると、ラクターゼ活性非持続性の人に限り、T2Dの発症リスクがおよそ30%低下した。牛乳摂取量とLCT遺伝子型、T2Dリスクの関係は、英国バイオバンクの16万7172人の調査でも確かめられた。
ヒスパニック系とラテン系のコホートで見ると、ラクターゼ活性非持続性の人では、牛乳摂取量が腸内細菌種の存在量の明確な変化に関連することが分かった。観察されたビフィズス菌(Bifidobacterium)種の増加は、T2Dリスクの低下と相関していた。また、牛乳摂取量は、ラクターゼ活性非持続性の人の血中代謝物レベルの特異的変化にも関連していた。例えば、分枝鎖アミノ酸の変化やトリプトファン代謝物の変化などで、これらもT2Dリスクの低下に関連があった。一方、ラクターゼ活性持続性の参加者では、T2Dリスクとの関連は全く見られなかった。また、細菌種の存在量の変化と代謝産物レベルの変化は相関することが分かった。これらの知見は、牛乳摂取量が腸内微生物相の組成や血中代謝物のプロフィールに、宿主のLCT遺伝子型に依存した影響を及ぼす可能性があることを示しており、牛乳摂取がラクターゼの欠失した人のT2Dを防ぐのに役立つことを示唆している。
参考文献:
Luo K. et al.(2024): Variant of the lactase LCT gene explains association between milk intake and incident type 2 diabetes. Nature Metabolism, 6, 1, 169–186.
https://doi.org/10.1038/s42255-023-00961-1
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