仔の適応度に影響を与える父系微生物叢の乱れ

　父系微生物叢の乱れによる仔の適応度への影響に関する研究（Argaw-Denboba et al., 2024）が公表されました。腸内微生物叢は、宿主と環境が相互作用する境界面で作用し、ヒトの恒常性や代謝網に影響を及ぼします。したがって、腸内の微生物生態系の均衡を乱す環境因子は、体細胞組織全体にわたる生理学的応答および疾患関連応答を形作る可能性があります。しかし、腸内微生物叢が生殖細胞系列に及ぼす全身的な影響や、その結果として生殖細胞系列から生じるF1仔に及ぼす影響については、まだ調べられていません。

　本論文は、腸内微生物叢がマウスにおいて、受胎前の父系環境と世代間の健康との間で重要な境界として作用することを示します。将来父親になるマウスの腸内微生物叢の乱れは、そのマウスの仔の低出生体重や重度の発育不全や早期死亡の可能性を高めました。疾患危険性の伝達は生殖細胞系列を介して起こり、非吸収性抗生物質や浸透圧性下剤などによる腸内微生物叢の広範囲な乱れにより引き起こされますが、受胎前に父親の微生物叢を回復させることで救済されました。

　この作用は、レプチンシグナル伝達の障害、精巣の代謝物特性の変化、精子内での小分子RNAペイロードの再マッピングなど、雄の生殖器系で誘導されるディスバイオーシス（細菌叢破綻）に対する動的な応答と結びついています。その結果、父親の細菌叢破綻は、子宮内（in utero）胎盤機能不全危険性上昇の引き金となっており、哺乳類での世代間作用の胎盤起源が明らかになりました。本論文では、雄における調節性の「腸–生殖細胞系列軸」が明らかになり、この軸は環境曝露に対する感受性を持ち、胎盤の機能に影響を及ぼして仔の適応度をプログラムします。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


微生物学：父系マイクロバイオームの乱れは仔の適応度に影響を与える

微生物学：父親の腸内微生物相が仔の適応度に影響を及ぼす仕組み

　J Hackettたちは今回、雄マウスの腸内微生物相の乱れが、そのマウスの仔の適応度を損なうことを示し、これまで知られていなかった父系の腸–生殖細胞系列軸を実証している。


参考文献：
Argaw-Denboba A. et al.(2024): Paternal microbiome perturbations impact offspring fitness. Nature, 629, 8012, 652–659.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07336-w