更新世にさかのぼるオーストラリアにおける人為的な火の制御

 更新世にさかのぼるオーストラリアにおける人為的な火の制御を報告した研究(Bird et al., 2024)が公表されました。オーストラリア大陸にヨーロッパ人が到来した時点で、洗練された先住民社会はオーストラリアの広範な熱帯サバンナ全域で土地の管理を行なっていました。オーストラリアの先住民共同体において火は長い間、景観を社会に有益な形に管理するために用いられており、意図的な火事は、植物や動物の個体数と生物多様性の両方に影響を及ぼしてきました。

 火は、制御不能な山火事を減らし、植生構造を維持し、生物多様性を強化するための、燃料負荷と接続性を操作するのに人々が用いた主要な手段の一つでした。一方で、自然の火事(たとえば、落雷によって着火した火など)も広範に広がっており、地域の気候条件が景観の燃えやすさの傾向を決定しています。オーストラリアでは、人類が存在した何万年も前にさかのぼる詳細な火事の記録がないため、自然の火事の体制に対する人類の影響がいつ始まったのか、決定は困難でした。この「自然な」火災体制からヒトが制御する火災体制への変化がいつ起きたのかは、不明です。

 本論文は、オーストラリアのノーザンテリトリー州にあるギラウィーン・ラグーン(Girraween lagoon)で得られた、植生の燃焼のさいに形成される微小炭化水素と安定多環芳香族炭化水素の蓄積率の比較による、連続的な湖水記録を通じて、過去15万年間の火事の発生率と強度を評価しました。乾燥地全体の花粉の割合としての草(おもにC₄植物)の花粉も、安定多環芳香族炭化水素の炭素同位体組成と比較されました。その結果、高い統計的確度で、低頻度でより強度の火災からより高頻度で低強度の火災へと、火事の変化が少なくとも11000年前頃に発生していた、と確証されました。

 この変化は、少なくとも先住民の管理により調節された火事にほぼ自然な火事が上書きされたことを示していました。本論文の調査結果から、ヒトの火の使用は完新世にわたって火災体制を変化させてきた、と論証するとともに、人々が将来増加する可能性の高強度の火事の可能性をどう制御するのかも示します。人類の火の制御は中期更新世にまでさかのぼり、現生人類(Homo sapiens)に限らず他のホモ属も使用していたことはほぼ確実ですが(関連記事)、現生人類は後期更新世以降、さらに大規模かつ高度に火を制御するようになったのかもしれません。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


1万1000年前に始まったオーストラリアの山火事に対する人類の影響

 オーストラリアのサバンナにおける火事の様相への人類の大きな影響は、ほぼ1万1000年前に始まったことが、湖堆積物中の木炭層の分析から明らかになった。このことを報告する論文がNature Geoscienceに掲載される。今回の知見は、気候変動の結果として山火事の頻度が増大するのをどのように管理するかについて、我々の理解を深めるのに役に立つ可能性がある。

 火は長い間、オーストラリアの先住民コミュニティーで、景観を彼らの社会に有益な形に管理するため(例えば山火事を防ぐなど)に用いられており、意図的な火事は、植物や動物の個体数と生物多様性の両方に影響を及ぼしてきた。一方で、自然の火事(例えば落雷によって着火した火など)もまた広範に広がっており、地域の気候条件が景観の燃えやすさの傾向を決定している。オーストラリアにおいて、人類が存在した何万年も前にさかのぼる詳細な火事の記録がないために、自然の火事の体制に対する人類の影響がいつ始まったかを決定することが困難となっていた。

 今回、Michael Birdらは、オーストラリアのノーザンテリトリー州にあるギラウィーン・ラグーンで得られた堆積物中の木炭と火災由来の化合物を分析し、過去15万年にわたるサバンナ生態系における火事の頻度と強度を再現した。その結果、およそ1万1000年前に、頻度が少なくより強度の強い火事から、頻度が多いが強度の小さい火事への、明瞭な変化が始まったことが分かった。Birdらは、これは、人類が火事を景観レベルで改変し始めたことを反映している可能性があると指摘している。

 Birdらは、今回の知見は、人類がより強度の強い火事が起こる可能性を管理できた可能性を示していると結論付けている。Birdらはまた、先住民の管理技術を再実行することで将来の火事のリスクを軽減できるかもしれないと示唆している。



参考文献:
Bird MI. et al.(2024): Late Pleistocene emergence of an anthropogenic fire regime in Australia’s tropical savannahs. Nature Geoscience, 17, 3, 233–240.
https://doi.org/10.1038/s41561-024-01388-3

この記事へのコメント