大河ドラマ『光る君へ』第19回「放たれた矢」

 今回は、内覧に任じられた藤原道長(三郎)と、関白を望んで叶わなかった藤原伊周との政争と、それをめぐる周囲の思惑が中心に描かれました。伊周は父親の道隆により経験に見合わないほど高い地位に引き立てられ、道隆の強引な入内工作もあり、本作では中関白家全体が貴族層で広く反感を買っているように思います。伊周の妹で一条天皇の中宮である定子はそれをよく理解しており、前回兄の伊周に、もっと人望を得るよう忠告したのでしょうが、伊周は叔父の道長に地位を追い抜かれた焦りからか、道長への反感と敵意を表に出してしまい、道長が鷹揚なだけに、伊周の器の小ささが印象づけられたように思われ、すでに貴族層から見限られつつあるようにも見えます。

 こうした状況で、伊周と弟の隆家が意図せず花山院に矢を射かけてしまい、これが伊周と隆家の失脚につながり、道長は政敵の自滅により政権を強化できたわけですが、本作の準主人公とも言うべき道長にとって重要な出来事だっただけに、定子が伊周を匿ったことも含めて、次回もこの長徳の変が描かれるようです。まだ理想主義的で、権力の亡者になる兆候の見えない道長が、政権の安定によりどう変わってくるのか、あるいは内面が変わらないのに周囲には変わったように見えるのか、それらとも異なる話になるのか、本作の評価に大きく関わってくると考えているので、たいへん注目しています。

 紫式部(まひろ)は、親しくしている清少納言(ききょう)の取次により、清少納言が仕えている定子に拝謁することになり、しかも予期せず一条天皇にも拝謁することになります。これは創作でしょうが、紫式部はここで試験(科挙)により身分の低い者でも国政に携われる宋のような制度を日本にも導入してもらいたい、との政治的理想を述べます。これに対して、一条天皇は好意的に受け取ったようですが、定子の反応はかなり冷淡に見えました。分をわきまえよ、と思ったのかもしれませんが、それ以上に、父も父方祖父も摂関で兄が内大臣である定子にとって、紫式部の進言は最上級貴族への批判であり、否定にもつながる、との危機感や反感があったのでしょうか。

 今回も紫式部と清少納言は親しく、その友情が破綻する兆候は見えませんが、あるいは、清少納言が心酔する定子の紫式部への冷淡な評価により、紫式部と清少納言の関係が変わっていき、破綻するのかもしれません。それとも、後に紫式部は日記で清少納言を腐すことになるものの、表面的な解釈ではなくひねりがあり、両者の友情は本質的に変わらない、といった仕掛けがあるのでしょうか。紫式部と清少納言の関係は本作の見どころの一つになりそうで、定子没後の清少納言の描写も含めて楽しみです。

 紫式部の父である藤原為時は10年近く無官でしたが、従五位下に昇進し、次回以降で越前守に任じられることになるのでしょう。これを、為時が藤原兼家の意向に従わなかったことと、紫式部と道長が深い関係にあることと結びつけたのは、上手い創作だと思います。さらに、宋人が若狭に到来し、宋人一行には越前で対処するとの方針と、為時の深い学識および宋を理想とする国造りとの紫式部の一条天皇への進言と結びつけるのは、よく練られた構成だと思います。もうすぐ、越前での紫式部と為時の話が始まるでしょうが、宋人への対応だけではなく、当時の地方の状況も描かれるのではないか、と期待しています。

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