古代の染色体異常
取り上げるのが遅れてしまいましたが、古代の染色体異常を報告した研究(Rohrlach et al., 2024)が公表されました。異数性、とくにトリソミーは現在、ヒト遺伝学で観察される最も一般的な遺伝子異常を表しています。染色体トリソミーを有する人は、細胞内に特定の染色体が2本ではなく3本あります。21番染色体のトリソミーはダウン症候群を引き起こし、18番染色体のトリソミーはエドワーズ症候群を引き起こします。これまでに古代人におけるダウン症候群の症例は、ほんの数例しか報告されておらず、その主因は、古代のDNA試料を解析するための最新の技術がなかったために、遺伝性疾患の特定が困難だったことにあります。特定の古代社会がどのように遺伝性疾患の影響を受け、それらにどのように対応したかは、まだ解明されていません。
本論文は、歴史時代および先史時代の人口集団におけるトリソミーの存在を調べるため、対象の染色体のいずれかの3コピーの存在について、古代人約1万個体を検査しました。その結果、21番染色体トリソミー(ダウン症候群)の6事例と18番色体トリソミー(エドワーズ症候群)の1事例の明らかな遺伝学的証拠が、新石器時代(紀元前3500年頃)のアイルランド(関連記事)と青銅器時代のブルガリア(紀元前2700年頃)およびギリシア(紀元前1300年頃)と鉄器時代(紀元前600年頃)のスペインと近世(1720年)のフィンランドで見つかり、全事例は乳児もしくは出産前後の埋葬にあります。
骨格遺骸の比較骨学的検査の実行により、重複する骨格指標が見つかり、その多くはこれらの症候群(ダウン症候群とエドワーズ症候群)と一致します。興味深いことに、21トリソミーの3事例と18トリソミーの1事例は初期鉄器時代スペイン(紀元前800~紀元前400年頃)の同時代の2ヶ所の遺跡で検出されており、それらの社会におけるトリソミー保因者の埋葬のより高い頻度を示唆しているかもしれません。注目すべきことに、丁寧に行なわれた埋葬と、これらの個体とともに見つかった副葬品(青銅の指輪、地中海産の貝殻、3頭のヒツジやヤギの遺骸など)によると、埋葬慣行の観点から、古代の社会は18および21トリソミーのこれらの個体をその共同体の構成員として認知していた可能性が高い、と示唆されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
遺伝学:はるか昔のトリソミー症例
最も古くて約5500年前のものとされる先史時代の骨格遺物から、古代の染色体異常の症例(ダウン症候群6例とエドワーズ症候群1例)が明らかになったことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。著者らは、今回の知見によって、先史時代または先史以降の骨格遺物からエドワーズ症候群の存在が初めて特定されたという見解を示している。
染色体トリソミーを有する人は、細胞内に特定の染色体が2本ではなく3本ある。21番染色体のトリソミーはダウン症候群を引き起こし、18番染色体のトリソミーはエドワーズ症候群を引き起こす。これまでに古代人におけるダウン症候群の症例は、ほんの数例しか報告されていない。古代のDNA試料を解析するための最新の技術がなかったために、遺伝性疾患を特定するのが困難だったことが主たる理由だ。特定の古代社会がどのように遺伝性疾患の影響を受け、それらにどのように対応したかは、いまだ解明されていない。
今回、Adam Rohrlachらは、古代のヒト骨格遺物から採取した約1万例のゲノムをスクリーニングして染色体トリソミーを検出し、ダウン症候群6例とエドワーズ症候群1例を特定した。トリソミーが検出された骨格の持ち主のほとんどは、出生前または出生直後に死亡しており、新石器時代(紀元前3500年ごろ)のアイルランド、青銅器時代のブルガリア(紀元前2700年ごろ)とギリシャ(紀元前1300年ごろ)、鉄器時代(紀元前600年ごろ)のスペイン、中世後(1720年)のフィンランドのいずれかの出身であった。一部の症例は特に古く、2例が青銅器時代(紀元前2700年ごろ)のもので、もう1例が新石器時代(紀元前3500年ごろ)のものだった。Rohrlachらは、これらの人々の全てが死後にさまざまな儀式を通じて丁重に葬られていたと考えられるとし、地域社会の一員として認められていたことが示されており、いくつかの症例では破格の埋葬がなされたり、精巧な副葬品が用いられたりしていたと述べている。例えば、初期鉄器時代のスペインのナバラで埋葬された人は、青銅の指輪、地中海産の貝殻、3頭のヒツジやヤギの遺骸に囲まれて埋葬されていた。
今回の知見は、はるか昔の地域社会でトリソミーがどのように認識されていたかについての考え方を示している。
参考文献:
Rohrlach AB. et al.(2024): Cases of trisomy 21 and trisomy 18 among historic and prehistoric individuals discovered from ancient DNA. Nature Communications, 15, 1294.
https://doi.org/10.1038/s41467-024-45438-1
本論文は、歴史時代および先史時代の人口集団におけるトリソミーの存在を調べるため、対象の染色体のいずれかの3コピーの存在について、古代人約1万個体を検査しました。その結果、21番染色体トリソミー(ダウン症候群)の6事例と18番色体トリソミー(エドワーズ症候群)の1事例の明らかな遺伝学的証拠が、新石器時代(紀元前3500年頃)のアイルランド(関連記事)と青銅器時代のブルガリア(紀元前2700年頃)およびギリシア(紀元前1300年頃)と鉄器時代(紀元前600年頃)のスペインと近世(1720年)のフィンランドで見つかり、全事例は乳児もしくは出産前後の埋葬にあります。
骨格遺骸の比較骨学的検査の実行により、重複する骨格指標が見つかり、その多くはこれらの症候群(ダウン症候群とエドワーズ症候群)と一致します。興味深いことに、21トリソミーの3事例と18トリソミーの1事例は初期鉄器時代スペイン(紀元前800~紀元前400年頃)の同時代の2ヶ所の遺跡で検出されており、それらの社会におけるトリソミー保因者の埋葬のより高い頻度を示唆しているかもしれません。注目すべきことに、丁寧に行なわれた埋葬と、これらの個体とともに見つかった副葬品(青銅の指輪、地中海産の貝殻、3頭のヒツジやヤギの遺骸など)によると、埋葬慣行の観点から、古代の社会は18および21トリソミーのこれらの個体をその共同体の構成員として認知していた可能性が高い、と示唆されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
遺伝学:はるか昔のトリソミー症例
最も古くて約5500年前のものとされる先史時代の骨格遺物から、古代の染色体異常の症例(ダウン症候群6例とエドワーズ症候群1例)が明らかになったことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。著者らは、今回の知見によって、先史時代または先史以降の骨格遺物からエドワーズ症候群の存在が初めて特定されたという見解を示している。
染色体トリソミーを有する人は、細胞内に特定の染色体が2本ではなく3本ある。21番染色体のトリソミーはダウン症候群を引き起こし、18番染色体のトリソミーはエドワーズ症候群を引き起こす。これまでに古代人におけるダウン症候群の症例は、ほんの数例しか報告されていない。古代のDNA試料を解析するための最新の技術がなかったために、遺伝性疾患を特定するのが困難だったことが主たる理由だ。特定の古代社会がどのように遺伝性疾患の影響を受け、それらにどのように対応したかは、いまだ解明されていない。
今回、Adam Rohrlachらは、古代のヒト骨格遺物から採取した約1万例のゲノムをスクリーニングして染色体トリソミーを検出し、ダウン症候群6例とエドワーズ症候群1例を特定した。トリソミーが検出された骨格の持ち主のほとんどは、出生前または出生直後に死亡しており、新石器時代(紀元前3500年ごろ)のアイルランド、青銅器時代のブルガリア(紀元前2700年ごろ)とギリシャ(紀元前1300年ごろ)、鉄器時代(紀元前600年ごろ)のスペイン、中世後(1720年)のフィンランドのいずれかの出身であった。一部の症例は特に古く、2例が青銅器時代(紀元前2700年ごろ)のもので、もう1例が新石器時代(紀元前3500年ごろ)のものだった。Rohrlachらは、これらの人々の全てが死後にさまざまな儀式を通じて丁重に葬られていたと考えられるとし、地域社会の一員として認められていたことが示されており、いくつかの症例では破格の埋葬がなされたり、精巧な副葬品が用いられたりしていたと述べている。例えば、初期鉄器時代のスペインのナバラで埋葬された人は、青銅の指輪、地中海産の貝殻、3頭のヒツジやヤギの遺骸に囲まれて埋葬されていた。
今回の知見は、はるか昔の地域社会でトリソミーがどのように認識されていたかについての考え方を示している。
参考文献:
Rohrlach AB. et al.(2024): Cases of trisomy 21 and trisomy 18 among historic and prehistoric individuals discovered from ancient DNA. Nature Communications, 15, 1294.
https://doi.org/10.1038/s41467-024-45438-1
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