ハクジラ類の閉経の進化
ハクジラ類(シャチ、シロイルカ、イッカクなど)の閉経の進化に関する研究(Ellis et al., 2024)が公表されました。ひじょうに稀な減少である閉経が進化した経緯や理由を明らかにすることは、さまざまな分野で長年にわたる課題となっています。雌は一般に、成体期の全体にわたり生殖を行なうことで、繁殖成功を最大化させることができます。しかしヒトでは、女性は自然寿命を終える数十年前に生殖が停止します。ヒトでの閉経の適応値については理解が進んできましたが、そうした知見の一般性はいまだ明らかにされていません。
ハクジラ類は、閉経が複数回にわたって進化した唯一の哺乳類分類群で、閉経がなぜどのように進化するかに関する理論を相対的な文脈で検証するための好機を提供します。本論文は、比較用のデータベースを構築して解析することにより、競合する進化仮説を検証しました。その結果、ハクジラ類における閉経は、「長生き(live-long)」仮説で予想されるように、雌が生殖寿命を延長させずに個体寿命を延長させたことで進化した、と分かりました。さらに、閉経は、雌が自身と娘の生殖の重なりを増やさずに、自身と孫や子の寿命の重なりを増やすことで、世代間支援の機会を増やすという結果をもたらすことも示されました。
これらの知見は、ヒトの生活史の進化に関して情報をもたらす類似例を提供するとともに、ヒトの閉経を導いたのと同じ経路が、ハクジラ類の閉経の進化を説明できる、と示しています。本論文は人類進化史の観点でも注目され、最近の研究では、チンパンジーにも閉経が存在するかもしれない、と示されています(関連記事)。閉経の研究は、広く哺乳類の進化史の解明に貢献できるかもしれず、今後の研究の進展が注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
進化学:ハクジラの閉経の進化
ハクジラ類(シャチ、シロイルカ、イッカクなど)に閉経が進化したのは、総寿命が延びたためだったという考えを示した論文が、Natureに掲載される。この知見は、閉経が進化したことで、雌のハクジラが娘や孫娘と交尾相手を奪い合うことがなくなり、若い世代の生き残りに役立ったことを示唆している。
閉経は非常にまれな現象で、その進化の過程と理由を解明することが長年の課題になっている。ヒトは女性(雌)の生殖後の寿命が長い唯一の陸上哺乳類種であることが知られているが、ハクジラ類には閉経が複数回進化したことが知られている。ヒトにおける閉経の適応上の価値の理解は進んでいるが、このような知見を他の種にも一般化できるかどうかは明らかでない。
今回、Samuel Ellisらは、ハクジラ類の閉経についての競合する複数の進化仮説を検証するために、新しい比較データベースを構築して解析を行った。その結果、閉経は、雌の生殖寿命を延長することなく総寿命を延長するために進化したことが示唆された。閉経期の雌は、家族の他の若い世代の個体を援助し、例えば、食物を分け合ったり、「仔守り」をしたり、資源が少なくなった時に群れを助けたり、息子を守ったりして、その生存の可能性を高める機会が得られる。閉経により、その個体の寿命において仔や孫の寿命と重複する期間は長くなるが、娘との生殖期の重複が長くなることはなく、繁殖競争を避けることができる。
以上の結果は、閉経は種に対する恩恵がある場合に進化することを示唆している。クジラとヒトの間には明白な相違点があるが、閉経の収斂進化は、一般的な閉経の進化を理解するための新たな手掛かりとなる。
生殖生物学:ハクジラ類における閉経の進化
生殖生物学:ハクジラ類で閉経が進化した理由
閉経はかつて、ヒトに特有のものと考えられていた。しかし、閉経はハクジラ類で複数回にわたり進化したことが分かっている。今回、こうしたハクジラ類における閉経の進化が、雌が生殖寿命を延長させずに個体寿命を延長させたためであることが示された。
参考文献:
Ellis S. et al.(2024): The evolution of menopause in toothed whales. Nature, 627, 8004, 579–585.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07159-9
ハクジラ類は、閉経が複数回にわたって進化した唯一の哺乳類分類群で、閉経がなぜどのように進化するかに関する理論を相対的な文脈で検証するための好機を提供します。本論文は、比較用のデータベースを構築して解析することにより、競合する進化仮説を検証しました。その結果、ハクジラ類における閉経は、「長生き(live-long)」仮説で予想されるように、雌が生殖寿命を延長させずに個体寿命を延長させたことで進化した、と分かりました。さらに、閉経は、雌が自身と娘の生殖の重なりを増やさずに、自身と孫や子の寿命の重なりを増やすことで、世代間支援の機会を増やすという結果をもたらすことも示されました。
これらの知見は、ヒトの生活史の進化に関して情報をもたらす類似例を提供するとともに、ヒトの閉経を導いたのと同じ経路が、ハクジラ類の閉経の進化を説明できる、と示しています。本論文は人類進化史の観点でも注目され、最近の研究では、チンパンジーにも閉経が存在するかもしれない、と示されています(関連記事)。閉経の研究は、広く哺乳類の進化史の解明に貢献できるかもしれず、今後の研究の進展が注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
進化学:ハクジラの閉経の進化
ハクジラ類(シャチ、シロイルカ、イッカクなど)に閉経が進化したのは、総寿命が延びたためだったという考えを示した論文が、Natureに掲載される。この知見は、閉経が進化したことで、雌のハクジラが娘や孫娘と交尾相手を奪い合うことがなくなり、若い世代の生き残りに役立ったことを示唆している。
閉経は非常にまれな現象で、その進化の過程と理由を解明することが長年の課題になっている。ヒトは女性(雌)の生殖後の寿命が長い唯一の陸上哺乳類種であることが知られているが、ハクジラ類には閉経が複数回進化したことが知られている。ヒトにおける閉経の適応上の価値の理解は進んでいるが、このような知見を他の種にも一般化できるかどうかは明らかでない。
今回、Samuel Ellisらは、ハクジラ類の閉経についての競合する複数の進化仮説を検証するために、新しい比較データベースを構築して解析を行った。その結果、閉経は、雌の生殖寿命を延長することなく総寿命を延長するために進化したことが示唆された。閉経期の雌は、家族の他の若い世代の個体を援助し、例えば、食物を分け合ったり、「仔守り」をしたり、資源が少なくなった時に群れを助けたり、息子を守ったりして、その生存の可能性を高める機会が得られる。閉経により、その個体の寿命において仔や孫の寿命と重複する期間は長くなるが、娘との生殖期の重複が長くなることはなく、繁殖競争を避けることができる。
以上の結果は、閉経は種に対する恩恵がある場合に進化することを示唆している。クジラとヒトの間には明白な相違点があるが、閉経の収斂進化は、一般的な閉経の進化を理解するための新たな手掛かりとなる。
生殖生物学:ハクジラ類における閉経の進化
生殖生物学:ハクジラ類で閉経が進化した理由
閉経はかつて、ヒトに特有のものと考えられていた。しかし、閉経はハクジラ類で複数回にわたり進化したことが分かっている。今回、こうしたハクジラ類における閉経の進化が、雌が生殖寿命を延長させずに個体寿命を延長させたためであることが示された。
参考文献:
Ellis S. et al.(2024): The evolution of menopause in toothed whales. Nature, 627, 8004, 579–585.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07159-9
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