大河ドラマ『光る君へ』第17回「うつろい」

 今回から朝廷の政局が大きく動き、藤原道長(三郎)が政権を掌握し、長期にわたって続くことになるわけですが、道長は本作の準主人公と言えるだけに、この過程は丁寧に描かれるようです。道隆は病に倒れ、強引に内大臣にまで昇進させていた息子の伊周を後継の関白とするつもりでしたが、伊周には道隆が病中の内覧しか認められませんでした。道隆は、父親である兼家の存命中には権力の亡者という印象を受けませんでしたが、自身が兼家の後継者として政権を掌握すると、子孫への権力継承に固執し、貴族層からの反感や政治が見えなくなっていったように思います。

 子孫への継承も含めて権力に固執した点では道長も同様だと思いますが、これまでに描かれてきた、恬淡としていて正義感の強い人物像からは、やや想像しにくいところがあります。道長も地位というか権力を手に入れて、立場が変わるとともに兄の道隆と同様に権力の亡者へと変貌していった、という展開になるのかもしれませんが、準主人公とも言うべき重要人物だけに、紫式部(まひろ)との関係も絡めて、もっと複雑な話になりそうな気もします。政権を獲得した道長がどう変わっていくのか、あるいはどこが変わらないのか、という描写は本作の評価に関わる重要な要素になりそうなので、注目しています。

 道長の政権掌握に重要な役割を果したのが、道長の姉で一条天皇の母親である詮子だったことはよく知られているでしょうが、本作でも、詮子は道隆や道兼を嫌っており、道長を気にかけて可愛がっている感がありましたから、詮子が道長の政権掌握を後押しする展開になるのだとしたら、説得力のある描写になりそうです。詮子は道隆のみならず中関白家全体、とくに伊周を嫌っているようで、伊周を関白とするくらいなら道兼の方がよい、とさえ考えており、詮子の政局での重要な役割が描かれています。その詮子への対抗から定子も政局観が優れてきた感もあり、詮子と定子の政争も見どころになっています。なお、伊周が道長との政争に敗れたのは、一条天皇が、寵愛する定子の兄とはいえ、あまりにも強引な振る舞いが目立った伊周を忌避していたからかもしれませんが(関連記事)、本作では少なくとも現時点で、一条天皇は伊周を嫌っておらず、その若さを懸念しているだけのようです。

 結果的にごく短期間の関白に終わったものの、覚醒した感のある道兼も目立っており、道長と協調して疫病対策に取り組んでいますが、こうした道兼の「改心」が紫式部の娘と道兼の息子との結婚の伏線になるのでしょうか。紫式部はこうした朝廷の権力闘争に直接主体的に関われるような身分ではありませんが、道長に準主人公的な役割を担わせることにより、朝廷の権力闘争が話の流れに自然に位置づけられているように思います。これは構成の妙と言うべきでしょうか。紫式部はついに『源氏物語』へとつながる本格的な一歩を踏み出した感があり、こうした主人公の成長が描かれているところも、本作の見どころになっています。朝廷の権力闘争もなかなか魅力的に描かれていますし、ここまでは私がこれまでに視聴した大河ドラマでも上位に入るくらい楽しめています。

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