ドクチョウの同所的な雑種種分化

 ドクチョウ属(Heliconius)の同所的な雑種種分化に関する研究(Rosser et al., 2024)が報道されました。雑種形成は、複数の系統間での適応の共有を許容し、新たな種の進化を引き起こす可能性があります。しかし、同倍数体雑種種分化の説得力のある例はいまだに稀で、これは、生殖隔離を生じさせるのに雑種形成が不可欠であることを実証するのは困難なためです。本論文は、集団ゲノミクス解析と、種特異的な形質の量的形質座位マッピング(多少の違いを許容しつつ、ヒトゲノム配列内の類似性が高い処理を同定する情報処理)を組み合わせて、ドクチョウ属のチョウにおける雑種種分化の例を調べました。

 その結果、ヘリコニウス・エレバトゥス(Heliconius elevatus)は両方の親種と同所的な雑種であり、独立して進化している系統として少なくとも18万年にわたり存続してきた、と分かりました。これは、一方の親種であるヘリコニウス・パルダリヌス(Heliconius pardalinus)との広範で進行中の遺伝子流動があり、それによりゲノムの99%が均質化されているにもかかわらず生じていました。残りの1%はもう一方の親種であるヘリコニウス・メルポメネ(Heliconius melpomene)からの遺伝子移入で、これはヘリコニウス・エレバトゥス(のゲノム全体にわたり、ヘリコニウス・パルダリヌスからの分岐の島に広く散在していた。これらの島には、色のパターン、翅の形状、寄主植物の選好性、性フェロモン、配偶者選択など、分断選択を受けている多数の形質が含まれています。

 総合的に、これらの形質により、ヘリコニウス・エレバトゥスは自らの適応ピークに位置し、両方の親種との共存が許容されています。この結果は、種分化が生態学的形質の遺伝子移入によって駆動されたこと、および遺伝子流動を伴う種分化は多数の座位が関わる遺伝的構造によって可能になることを示しています。ヒヒ属(Papio)でも異なる系統の混合による種形成など複雑な進化史が推測されており(関連記事)、これは人類も含めて広く生物において見られると考えられる点からも、注目される研究です。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化学:生態学的形質の多数の座位への遺伝子移入で駆動された雑種種分化

進化学:ドクチョウの同所的な雑種種分化

 今回、チョウの大規模集団におけるゲノム研究によって、ドクチョウ属のHeliconius elevatesが、親種からの生態学的形質の遺伝子移入を介して、同倍数体雑種種分化を遂げたことを示す証拠が得られた。



参考文献:
Rosser N. et al.(2024): Hybrid speciation driven by multilocus introgression of ecological traits. Nature, 628, 8009, 811–817.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07263-w

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