アラビカコーヒーノキの遺伝的歴史
アラビカコーヒーノキ(Coffea arabica)の遺伝的歴史に関する研究(Scalabrin et al., 2024)が公表されました。最近の異質四倍体種であるアラビカコーヒーノキは、世界のコーヒー生産量の約60%を支えています。市販のコーヒーは、おもにロブスタコーヒーノキ(Coffea canephora)とアラビカコーヒーノキを原料として生産されており、それぞれロブスタコーヒーとアラビカコーヒーとして知られています。アラビカコーヒーノキは、現在のロブスタコーヒーノキと他の近縁種(Coffea eugeniodes)の各祖先間の交雑に由来します。この交雑の結果、アラビカコーヒーの風味と巨大で複雑なゲノムが得られ、これが品種改良や遺伝学的研究において難題を生み出しています。現在、アラビカコーヒーノキについては、いくつかの部分ゲノムアセンブリが利用できますが、その遺伝的多様性を生み出す機構は解明されていません。
アラビカコーヒーノキの遺伝的多様性を生み出した機序のより深い理解のため、本論文は長い読み取り技術で得られた染色体水準のアセンブリを提示し、それにはこれまで調べることのできなかった領域(セントロメア周辺領域)が含まれます。異なる構造的および機能的特性を有する2ヶ所のゲノム区画が、ロブスタコーヒーノキと他の近縁種(Coffea eugeniodes)の同祖ゲノムで特定され、とくにカフェイン生合成に関与する遺伝子に違いが見られました。大規模な系統(accession)一式(174点の試料)から得られたデータの再配列決定は、アラビカコーヒーノキの原産地中心部における低い種内多様性を明らかにします。
限定的な数のゲノム領域全体において、アラビカコーヒーノキの栽培種の一部では、特定のゲノム領域で多様性が高いと示され、この多様性は、恐らくいわゆるティモール雑種に由来する遺伝子移入の結果として、一部の栽培化された属模式種における祖先種の1種、つまりロブスタコーヒーノキ内で観察された水準と同様の水準にまで増加しました。また、同祖染色体間での少ない初期に発生した交換に加えて、異数性や欠失や重複や交換を含む、多くの最近の染色体異常があったことも、明らかになります。これらの事象は生殖細胞質において依然として多型で、そうした変化の少ない種における遺伝的差異の基本的供給源を表しているかもしれません。これらの知見は、アラビカコーヒーの商業的成功にとってきわめて重要で、病害抵抗性や新たな風味といった望ましい形質を有する新しいコーヒー品種の開発に役立つ可能性があります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
遺伝学:アラビカコーヒーノキの遺伝的来歴を調べる
世界のコーヒー生産量の約60%を支えるアラビカコーヒーノキのゲノムアセンブリが改善され、アラビカ種の独特の風味と病原体に対する抵抗性に寄与している可能性のある遺伝的多様性のいくつかの原因が明らかになった。このことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。
市販のコーヒーは、主にロブスタコーヒーノキ(Coffea canephora)とアラビカコーヒーノキ(Coffea arabica)を原料として生産されており、それぞれロブスタコーヒーとアラビカコーヒーとして知られている。アラビカコーヒーノキは、現在のロブスタコーヒーノキと他の近縁種Coffea eugeniodesのそれぞれの祖先の間の交雑に由来する。この交雑の結果、アラビカコーヒーの風味と巨大で複雑なゲノムが得られ、これが品種改良や遺伝学的研究において難題を生み出している。現在、アラビカコーヒーノキについては、いくつかの部分ゲノムアセンブリが利用できるが、その遺伝的多様性を生み出す機構は解明されていない。
今回、Michele Morgante、Gabriele Di Gasperoらは、最新の塩基配列決定技術を用いて、これまでより完全なアラビカコーヒーノキのゲノムアセンブリを作成し、その染色体の詳細な構造解析が可能になった。これまで調べることのできなかった領域(例えば、セントロメア周辺領域)を含むゲノム解析が可能になり、2つの親種(ロブスタコーヒーノキとC. eugeniodes)に由来するゲノムの構造、機能、進化に違いがあることが分かった。特に、カフェイン生合成に関与する遺伝子に違いが見られた。また、さまざまなコーヒーノキ属種から収集した試料(174点)のゲノムを解析し、アラビカコーヒーノキ種内の遺伝的多様性が非常に低いことが分かった。アラビカコーヒーノキの栽培種の一部では、特定のゲノム領域で多様性が高いことが判明し、この多様性をもたらす2つの要因が、染色体異常と、ロブスタ種とアラビカ種の雑種(ティモール・ハイブリッド)由来の染色体断片であることが示された。ティモール・ハイブリッドは、ロブスタコーヒーの病害抵抗性とアラビカコーヒーの独特の風味を兼ね備えた多くの現栽培種の親系統となった。
著者らは、アラビカコーヒーノキの遺伝的多様性はアラビカコーヒーの商業的成功にとって極めて重要であり、今回の知見が、病害抵抗性や新たな風味プロファイルといった望ましい形質を有する新しいコーヒー品種の開発に役立つ可能性があるという見解を示している
参考文献:
Scalabrin S. et al.(2024): A chromosome-scale assembly reveals chromosomal aberrations and exchanges generating genetic diversity in Coffea arabica germplasm. Nature Communications, 15, 463.
https://doi.org/10.1038/s41467-023-44449-8
アラビカコーヒーノキの遺伝的多様性を生み出した機序のより深い理解のため、本論文は長い読み取り技術で得られた染色体水準のアセンブリを提示し、それにはこれまで調べることのできなかった領域(セントロメア周辺領域)が含まれます。異なる構造的および機能的特性を有する2ヶ所のゲノム区画が、ロブスタコーヒーノキと他の近縁種(Coffea eugeniodes)の同祖ゲノムで特定され、とくにカフェイン生合成に関与する遺伝子に違いが見られました。大規模な系統(accession)一式(174点の試料)から得られたデータの再配列決定は、アラビカコーヒーノキの原産地中心部における低い種内多様性を明らかにします。
限定的な数のゲノム領域全体において、アラビカコーヒーノキの栽培種の一部では、特定のゲノム領域で多様性が高いと示され、この多様性は、恐らくいわゆるティモール雑種に由来する遺伝子移入の結果として、一部の栽培化された属模式種における祖先種の1種、つまりロブスタコーヒーノキ内で観察された水準と同様の水準にまで増加しました。また、同祖染色体間での少ない初期に発生した交換に加えて、異数性や欠失や重複や交換を含む、多くの最近の染色体異常があったことも、明らかになります。これらの事象は生殖細胞質において依然として多型で、そうした変化の少ない種における遺伝的差異の基本的供給源を表しているかもしれません。これらの知見は、アラビカコーヒーの商業的成功にとってきわめて重要で、病害抵抗性や新たな風味といった望ましい形質を有する新しいコーヒー品種の開発に役立つ可能性があります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
遺伝学:アラビカコーヒーノキの遺伝的来歴を調べる
世界のコーヒー生産量の約60%を支えるアラビカコーヒーノキのゲノムアセンブリが改善され、アラビカ種の独特の風味と病原体に対する抵抗性に寄与している可能性のある遺伝的多様性のいくつかの原因が明らかになった。このことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。
市販のコーヒーは、主にロブスタコーヒーノキ(Coffea canephora)とアラビカコーヒーノキ(Coffea arabica)を原料として生産されており、それぞれロブスタコーヒーとアラビカコーヒーとして知られている。アラビカコーヒーノキは、現在のロブスタコーヒーノキと他の近縁種Coffea eugeniodesのそれぞれの祖先の間の交雑に由来する。この交雑の結果、アラビカコーヒーの風味と巨大で複雑なゲノムが得られ、これが品種改良や遺伝学的研究において難題を生み出している。現在、アラビカコーヒーノキについては、いくつかの部分ゲノムアセンブリが利用できるが、その遺伝的多様性を生み出す機構は解明されていない。
今回、Michele Morgante、Gabriele Di Gasperoらは、最新の塩基配列決定技術を用いて、これまでより完全なアラビカコーヒーノキのゲノムアセンブリを作成し、その染色体の詳細な構造解析が可能になった。これまで調べることのできなかった領域(例えば、セントロメア周辺領域)を含むゲノム解析が可能になり、2つの親種(ロブスタコーヒーノキとC. eugeniodes)に由来するゲノムの構造、機能、進化に違いがあることが分かった。特に、カフェイン生合成に関与する遺伝子に違いが見られた。また、さまざまなコーヒーノキ属種から収集した試料(174点)のゲノムを解析し、アラビカコーヒーノキ種内の遺伝的多様性が非常に低いことが分かった。アラビカコーヒーノキの栽培種の一部では、特定のゲノム領域で多様性が高いことが判明し、この多様性をもたらす2つの要因が、染色体異常と、ロブスタ種とアラビカ種の雑種(ティモール・ハイブリッド)由来の染色体断片であることが示された。ティモール・ハイブリッドは、ロブスタコーヒーの病害抵抗性とアラビカコーヒーの独特の風味を兼ね備えた多くの現栽培種の親系統となった。
著者らは、アラビカコーヒーノキの遺伝的多様性はアラビカコーヒーの商業的成功にとって極めて重要であり、今回の知見が、病害抵抗性や新たな風味プロファイルといった望ましい形質を有する新しいコーヒー品種の開発に役立つ可能性があるという見解を示している
参考文献:
Scalabrin S. et al.(2024): A chromosome-scale assembly reveals chromosomal aberrations and exchanges generating genetic diversity in Coffea arabica germplasm. Nature Communications, 15, 463.
https://doi.org/10.1038/s41467-023-44449-8
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