カカオの栽培化の拡大
カカオ(Theobroma cacao)の栽培化の拡大に関する研究(Lanaud et al., 2024)が公表されました。ヒトには植物の輸送と交易の長い歴史があり(関連記事)、栽培化された植物の進化に寄与してきました。カカオは南アメリカ大陸の新熱帯区に起源があり、その現生系統は世界で最も重要な作物の一つで、その果実の中の種子(カカオ豆)はチョコレートやアルコール飲料やココアバターなどの製品の原料となります。カカオには11の遺伝的集団が存在すると分かっており、それには、広範に用いられているクリオロ系統やナシオナル系統などが含まれます。しかし、カカオの栽培化とこれらの地域における利用について、ほとんど知られていません。
本論文では、南および中央アメリカ大陸の先コロンブス期文化の大規模な標本から得られた土器残留物(19の文化に由来する352点)が、考古ゲノム学および生化学的手法を用いて分析されました。より具体的には、古代のカカオのDNAの有無と、カカオの現生系統に存在する3種類のメチルキサンチン(弱刺激薬)成分であるテオブロミンとテオフィリンとカフェインの有無を調べ、古代のカカオの残渣を本論文は特定しました。また本論文は、カカオの現生系統の試料(76点)から得た遺伝情報を用いて、これらの土器に付着していた古代のカカオの祖先系統を明らかにしました。
本論文では初めて、アマゾンの原産地外での南アメリカ大陸におけるカカオの広範な利用が示され、5000年間さかのぼることになり、カカオはアマゾン川流域で栽培化されてから間もなくして、太平洋沿岸部で広範に栽培されるようになり、古代のカカオの系統には高水準の多様性があった、と分かりました。それは、アマゾン地域と太平洋沿岸との間の文化的相互作用により支えられていた可能性が高そうです。ヒトによる、地理的に遠いカカオ個体群間の強い遺伝的混合が早ければ中期完新世において南アメリカ大陸で起きており、それは新たな環境へのカカオの適応に有利だった、と観察されました。カカオの栽培化のこの複雑な歴史は、現在のカカオの木の個体群の基礎で、その知識は遺伝的資源のより適切な管理に役立つことができます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
植物科学:カカオ栽培化の拡大をたどる
カカオ(Theobroma cacao、「神々の食物」という意味)は、今から5000年以上前にアマゾン川流域から交易路を経由して中南米の他の地域に広がった可能性があることを示す論文が、Scientific Reportsに掲載される。この知見は、古代の容器に残されていた物質の分析に基づくもので、さまざまなカカオの系統がどのように育種されたかを明らかにするとともに、古代の中南米文化においてカカオ製品がこれまで考えられていたよりも広範に使用されていたことを示唆している。
カカオの現生系統は、世界で最も重要な作物の1つであり、その果実の中の種子(カカオ豆)はチョコレート、アルコール飲料、ココアバターなどの製品の原料となる。11の遺伝的グループが存在することが知られており、そこには、広範に用いられているクリオロ系統やナシオナル系統などが含まれる。カカオがもともとアマゾン川の上流域で栽培化された作物であることは十分に解明されているが、その使用が、中南米全土に存在した他の文化にどのように広がったかは明らかになっていない。
今回、Claire Lanaudらは、コロンブス到来以前の時代(今から約5900~400年前)にエクアドル、コロンビア、ペルー、メキシコ、ベリーズ、パナマに存在した19の文化に由来する352点の土器の残留物を分析した。Lanaudらは、古代のカカオのDNAの有無と、カカオの現生系統に存在す3種類のメチルキサンチン(弱刺激薬)成分であるテオブロミン、テオフィリン、カフェインの有無を調べ、古代のカカオの残渣を特定した。また、Lanaudらは、カカオの現生系統の試料(76点)から得た遺伝情報を用いて、上述の土器に付着していた古代のカカオの祖先系統を明らかにした。これにより、古代のカカオの系統がどのように多様化して広がったかが明らかになるかもしれない。
今回の知見は、カカオが今から5000年以上前にアマゾン川流域で栽培化されてから間もなく太平洋沿岸部で広範に栽培されるようになり、古代のカカオの系統に高いレベルの多様性があったことを実証しており、このことは、遺伝的に異なるカカオの集団が一緒に育種されていたことを示している。Lanaudらはまた、ペルーのアマゾン川流域を起源とするカカオの遺伝子型がエクアドルの沿岸部のバルディビアで発見されたことは、これらの地域の文化の相互交流が長期にわたって続いていたことを示唆していると述べている。ペルーのカカオの系統は、コロンビアのカリブ海沿岸地域で発見された遺物からも検出された。Lanaudらは、以上の結果を合わせると、カカオの系統が国を越えて広く拡散し、さまざまな文化でカカオが使用されるようになるにつれて、新しい環境に適応するために交雑育種されたことが示されたと示唆している。
Lanaudらは、カカオの遺伝的来歴と多様性をより深く理解できれば、カカオの現生系統が直面している病気や気候変動などの脅威に対抗するために役立つかもしれないと結論付けている。
参考文献:
Lanaud C. et al.(2024): A revisited history of cacao domestication in pre-Columbian times revealed by archaeogenomic approaches. Scientific Reports, 14, 2972.
https://doi.org/10.1038/s41598-024-53010-6
本論文では、南および中央アメリカ大陸の先コロンブス期文化の大規模な標本から得られた土器残留物(19の文化に由来する352点)が、考古ゲノム学および生化学的手法を用いて分析されました。より具体的には、古代のカカオのDNAの有無と、カカオの現生系統に存在する3種類のメチルキサンチン(弱刺激薬)成分であるテオブロミンとテオフィリンとカフェインの有無を調べ、古代のカカオの残渣を本論文は特定しました。また本論文は、カカオの現生系統の試料(76点)から得た遺伝情報を用いて、これらの土器に付着していた古代のカカオの祖先系統を明らかにしました。
本論文では初めて、アマゾンの原産地外での南アメリカ大陸におけるカカオの広範な利用が示され、5000年間さかのぼることになり、カカオはアマゾン川流域で栽培化されてから間もなくして、太平洋沿岸部で広範に栽培されるようになり、古代のカカオの系統には高水準の多様性があった、と分かりました。それは、アマゾン地域と太平洋沿岸との間の文化的相互作用により支えられていた可能性が高そうです。ヒトによる、地理的に遠いカカオ個体群間の強い遺伝的混合が早ければ中期完新世において南アメリカ大陸で起きており、それは新たな環境へのカカオの適応に有利だった、と観察されました。カカオの栽培化のこの複雑な歴史は、現在のカカオの木の個体群の基礎で、その知識は遺伝的資源のより適切な管理に役立つことができます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
植物科学:カカオ栽培化の拡大をたどる
カカオ(Theobroma cacao、「神々の食物」という意味)は、今から5000年以上前にアマゾン川流域から交易路を経由して中南米の他の地域に広がった可能性があることを示す論文が、Scientific Reportsに掲載される。この知見は、古代の容器に残されていた物質の分析に基づくもので、さまざまなカカオの系統がどのように育種されたかを明らかにするとともに、古代の中南米文化においてカカオ製品がこれまで考えられていたよりも広範に使用されていたことを示唆している。
カカオの現生系統は、世界で最も重要な作物の1つであり、その果実の中の種子(カカオ豆)はチョコレート、アルコール飲料、ココアバターなどの製品の原料となる。11の遺伝的グループが存在することが知られており、そこには、広範に用いられているクリオロ系統やナシオナル系統などが含まれる。カカオがもともとアマゾン川の上流域で栽培化された作物であることは十分に解明されているが、その使用が、中南米全土に存在した他の文化にどのように広がったかは明らかになっていない。
今回、Claire Lanaudらは、コロンブス到来以前の時代(今から約5900~400年前)にエクアドル、コロンビア、ペルー、メキシコ、ベリーズ、パナマに存在した19の文化に由来する352点の土器の残留物を分析した。Lanaudらは、古代のカカオのDNAの有無と、カカオの現生系統に存在す3種類のメチルキサンチン(弱刺激薬)成分であるテオブロミン、テオフィリン、カフェインの有無を調べ、古代のカカオの残渣を特定した。また、Lanaudらは、カカオの現生系統の試料(76点)から得た遺伝情報を用いて、上述の土器に付着していた古代のカカオの祖先系統を明らかにした。これにより、古代のカカオの系統がどのように多様化して広がったかが明らかになるかもしれない。
今回の知見は、カカオが今から5000年以上前にアマゾン川流域で栽培化されてから間もなく太平洋沿岸部で広範に栽培されるようになり、古代のカカオの系統に高いレベルの多様性があったことを実証しており、このことは、遺伝的に異なるカカオの集団が一緒に育種されていたことを示している。Lanaudらはまた、ペルーのアマゾン川流域を起源とするカカオの遺伝子型がエクアドルの沿岸部のバルディビアで発見されたことは、これらの地域の文化の相互交流が長期にわたって続いていたことを示唆していると述べている。ペルーのカカオの系統は、コロンビアのカリブ海沿岸地域で発見された遺物からも検出された。Lanaudらは、以上の結果を合わせると、カカオの系統が国を越えて広く拡散し、さまざまな文化でカカオが使用されるようになるにつれて、新しい環境に適応するために交雑育種されたことが示されたと示唆している。
Lanaudらは、カカオの遺伝的来歴と多様性をより深く理解できれば、カカオの現生系統が直面している病気や気候変動などの脅威に対抗するために役立つかもしれないと結論付けている。
参考文献:
Lanaud C. et al.(2024): A revisited history of cacao domestication in pre-Columbian times revealed by archaeogenomic approaches. Scientific Reports, 14, 2972.
https://doi.org/10.1038/s41598-024-53010-6
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