喫煙が免疫応答に及ぼす持続的影響
喫煙が免疫応答に及ぼす持続的影響に関する研究(Saint-André et al., 2024)が公表されました。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染後に観察された臨床転帰の多様性からも分かるように、免疫応答(細菌感染、ウイルス感染など)は個人ごとに大きく異なり、その固有の変動性では年齢や性や遺伝的要因が大きな役割を担っていますが、修正可能な環境要因(生活様式など)もまた寄与している可能性があります。しかし、サイトカイン(人体が病原体に感染したときに分泌され、病原体と戦うために必要な免疫応答を調整する役割を担っているタンパク質)の分泌(免疫チャレンジに対する宿主応答の重要な要素)にそうした差異を生じさせている変数は、あまり明らかにされていません。
本論文は、136の変数(環境要因)を調べた結果、喫煙とサイトメガロウイルス潜伏感染とBMI(ボディーマス指数)がサイトカイン応答の変動性の大きな誘因で、その影響の大きさは年齢や性や遺伝的性質と同程度である、と明らかになりました。喫煙は、自然免疫応答と適応免疫応答の両方に影響を与えることも分かり、とくに、自然免疫応答への影響は禁煙後速やかに消失し、血漿CEACAM6レベルと特異的に関連しているのに対して、適応免疫応答への影響は禁煙後も長く持続し、エピジェネティック記憶と関連していることは重要です。
これは、サイトカイン応答に対する過去の喫煙の影響と、特定のシグナルのトランス活性化因子および代謝調節因子のDNAメチル化との関連によって裏づけられました。本論文の知見は、サイトカイン分泌の変動性と関連する3つの新たな変数を特定し、短期および長期の免疫応答調節における喫煙の役割を明らかにしています。この研究には、再現コホート(特定の性質が一致する個体で構成される集団)が存在しないことや、研究対象者の遺伝的多様性が小さいことなど、いくつかの限界がありますが、本論文の知見は、感染症や癌や自己免疫疾患の発症危険性に対して臨床的な意味を有するかもしれません。この研究は、進化的観点でも注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
免疫学:喫煙が免疫応答に及ぼす影響は長く続く
喫煙が特定のヒト免疫応答に持続的な影響を及ぼし、その影響は禁煙後も長く続くことを報告する論文が、今週、Natureに掲載される。今回の研究は、免疫応答の個体間変動に寄与する可能性のある数々の要因を調べることを目的としたもので、ボディマス指数(BMI)と一般的なウイルスであるサイトメガロウイルスの潜伏感染も免疫応答に大きな影響を及ぼす要因であることが明らかになった。今回の知見は、感染症やその他の免疫関連疾患(がん、自己免疫疾患など)の発症リスクの基盤となっているかもしれない諸要因を洞察する手掛かりになる可能性がある。
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染後に観察された臨床転帰の多様性から分かるように、免疫攻撃(細菌感染、ウイルス感染など)に対する応答の個体間変動は大きい。この変動には年齢、性別、遺伝的要因が大きな役割を果たしているが、修正可能な環境要因(生活様式など)もまた寄与している可能性がある。このような変数が免疫応答にどのように影響するかを理解できれば、治療法やワクチンの設計を改善できるかもしれない。
今回、Darragh Duffy、Violaine Saint-Andreらは、1000人を対象とした研究で、136の環境要因が免疫応答の個体間変動に及ぼす影響を調べた。著者らが特に着目したのは、サイトカインというタンパク質の分泌だ。サイトカインは、人体が病原体に感染したときに分泌され、病原体と戦うために必要な免疫応答を調整する役割を担っている。今回研究対象となった環境要因のうち、喫煙が免疫応答に最も大きな影響を及ぼすことが判明した。喫煙は、一般的な免疫応答である自然免疫と、より特殊化した病原体特異的な適応免疫の両方に影響を及ぼしていた。自然免疫応答(炎症応答の増加など)への影響は一過性であり、禁煙後に消失したが、適応免疫応答への影響は禁煙後も数年にわたって持続し、感染時やその他の免疫攻撃時のサイトカイン分泌量に影響が見られた。
BMIとサイトメガロウイルスもサイトカイン分泌に特筆すべき影響を及ぼしたことが分かったが、喫煙に関連した分散は、修正できない要因(年齢、性別、遺伝的性質など)に関連した分散と同等レベルに達していた。Duffyらは、再現コホートが存在しないことや研究対象者の遺伝的多様性が小さいことなど、今回の研究にいくつかの限界があることを認めている。しかし、今回の知見は、喫煙がヒトの健康に及ぼす影響を洞察する新たな手掛かりとなり、免疫応答の個人間変動において修正可能な環境要因が果たしている役割の理解を助ける。同時掲載のNews & Viewsでは、Yang LuoとSimon Stentが、今回の研究知見は「禁煙と健康的な生活様式をさらに奨励するための科学的根拠」になると指摘している。
医学研究:喫煙は適応免疫を変化させて持続的な影響をもたらす
Cover Story:喫煙に対する警告:禁煙しても免疫応答の変化は何年も続く
免疫チャレンジに対する免疫系の応答は、人それぞれである。この多くは、年齢、性、遺伝的性質の結果であるが、生活様式などの環境要因も寄与している可能性がある。今回D DuffyとV Saint-Andréたちは、1000人の人々の免疫応答に対する136種の環境要因の影響を調べている。調べた全ての要因のうち、喫煙の影響が重大で、自然(全身)免疫と適応(病原体特異的)免疫の両方に影響を及ぼすことが分かった。自然免疫に対する喫煙の影響は禁煙後に消失したが、適応免疫に対する影響は禁煙後も数年にわたって続き、例えば、感染後に放出されるサイトカインのレベルを変化させた。
参考文献:
Saint-André V. et al.(2024): Smoking changes adaptive immunity with persistent effects. Nature, 626, 8000, 827–835.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06968-8
本論文は、136の変数(環境要因)を調べた結果、喫煙とサイトメガロウイルス潜伏感染とBMI(ボディーマス指数)がサイトカイン応答の変動性の大きな誘因で、その影響の大きさは年齢や性や遺伝的性質と同程度である、と明らかになりました。喫煙は、自然免疫応答と適応免疫応答の両方に影響を与えることも分かり、とくに、自然免疫応答への影響は禁煙後速やかに消失し、血漿CEACAM6レベルと特異的に関連しているのに対して、適応免疫応答への影響は禁煙後も長く持続し、エピジェネティック記憶と関連していることは重要です。
これは、サイトカイン応答に対する過去の喫煙の影響と、特定のシグナルのトランス活性化因子および代謝調節因子のDNAメチル化との関連によって裏づけられました。本論文の知見は、サイトカイン分泌の変動性と関連する3つの新たな変数を特定し、短期および長期の免疫応答調節における喫煙の役割を明らかにしています。この研究には、再現コホート(特定の性質が一致する個体で構成される集団)が存在しないことや、研究対象者の遺伝的多様性が小さいことなど、いくつかの限界がありますが、本論文の知見は、感染症や癌や自己免疫疾患の発症危険性に対して臨床的な意味を有するかもしれません。この研究は、進化的観点でも注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
免疫学:喫煙が免疫応答に及ぼす影響は長く続く
喫煙が特定のヒト免疫応答に持続的な影響を及ぼし、その影響は禁煙後も長く続くことを報告する論文が、今週、Natureに掲載される。今回の研究は、免疫応答の個体間変動に寄与する可能性のある数々の要因を調べることを目的としたもので、ボディマス指数(BMI)と一般的なウイルスであるサイトメガロウイルスの潜伏感染も免疫応答に大きな影響を及ぼす要因であることが明らかになった。今回の知見は、感染症やその他の免疫関連疾患(がん、自己免疫疾患など)の発症リスクの基盤となっているかもしれない諸要因を洞察する手掛かりになる可能性がある。
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染後に観察された臨床転帰の多様性から分かるように、免疫攻撃(細菌感染、ウイルス感染など)に対する応答の個体間変動は大きい。この変動には年齢、性別、遺伝的要因が大きな役割を果たしているが、修正可能な環境要因(生活様式など)もまた寄与している可能性がある。このような変数が免疫応答にどのように影響するかを理解できれば、治療法やワクチンの設計を改善できるかもしれない。
今回、Darragh Duffy、Violaine Saint-Andreらは、1000人を対象とした研究で、136の環境要因が免疫応答の個体間変動に及ぼす影響を調べた。著者らが特に着目したのは、サイトカインというタンパク質の分泌だ。サイトカインは、人体が病原体に感染したときに分泌され、病原体と戦うために必要な免疫応答を調整する役割を担っている。今回研究対象となった環境要因のうち、喫煙が免疫応答に最も大きな影響を及ぼすことが判明した。喫煙は、一般的な免疫応答である自然免疫と、より特殊化した病原体特異的な適応免疫の両方に影響を及ぼしていた。自然免疫応答(炎症応答の増加など)への影響は一過性であり、禁煙後に消失したが、適応免疫応答への影響は禁煙後も数年にわたって持続し、感染時やその他の免疫攻撃時のサイトカイン分泌量に影響が見られた。
BMIとサイトメガロウイルスもサイトカイン分泌に特筆すべき影響を及ぼしたことが分かったが、喫煙に関連した分散は、修正できない要因(年齢、性別、遺伝的性質など)に関連した分散と同等レベルに達していた。Duffyらは、再現コホートが存在しないことや研究対象者の遺伝的多様性が小さいことなど、今回の研究にいくつかの限界があることを認めている。しかし、今回の知見は、喫煙がヒトの健康に及ぼす影響を洞察する新たな手掛かりとなり、免疫応答の個人間変動において修正可能な環境要因が果たしている役割の理解を助ける。同時掲載のNews & Viewsでは、Yang LuoとSimon Stentが、今回の研究知見は「禁煙と健康的な生活様式をさらに奨励するための科学的根拠」になると指摘している。
医学研究:喫煙は適応免疫を変化させて持続的な影響をもたらす
Cover Story:喫煙に対する警告:禁煙しても免疫応答の変化は何年も続く
免疫チャレンジに対する免疫系の応答は、人それぞれである。この多くは、年齢、性、遺伝的性質の結果であるが、生活様式などの環境要因も寄与している可能性がある。今回D DuffyとV Saint-Andréたちは、1000人の人々の免疫応答に対する136種の環境要因の影響を調べている。調べた全ての要因のうち、喫煙の影響が重大で、自然(全身)免疫と適応(病原体特異的)免疫の両方に影響を及ぼすことが分かった。自然免疫に対する喫煙の影響は禁煙後に消失したが、適応免疫に対する影響は禁煙後も数年にわたって続き、例えば、感染後に放出されるサイトカインのレベルを変化させた。
参考文献:
Saint-André V. et al.(2024): Smoking changes adaptive immunity with persistent effects. Nature, 626, 8000, 827–835.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06968-8
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