『卑弥呼』第126話「鬼は外」
『ビッグコミックオリジナル』2024年3月20日号掲載分の感想です。前回は、加羅(伽耶、朝鮮半島)に上陸したヤノハが那(ナ)国のトメ将軍に、遼東公孫氏に対して、燃える炎に少しだけ油を足そうと思う、と伝えたところで終了しました。今回は、加羅の弁韓で、ヤノハが一人で海を見ている場面から始まります。ヤノハが警固を立てずに一人でいるのは、異国で目立つことを避けたのだろう、とトメ将軍は改めて感心します。ヌカデに話しかけられたヤノハは、弁韓でも南方では倭人が大勢おり、人も景色も倭国とさほど差異を感じなかったが、馬韓に近いこの港では驚きの連続だ、と率直に語ります。ヤノハはその一例として大きな動物を指し、それはヤノハと旧知の漢人(という分類を作中の舞台である紀元後3世紀に用いてよいのか、疑問は残りますが)である何(ハウ)によると、漢人は馬(マア)、弁韓人はマイと呼ぶ、とヌカデはヤノハに伝えます。中土(中華地域のことでしょう)の馬はもっと大きく、戦の時は人が乗って自在に操るそうだ、とヤノハが言うと、倭人は造作もなく駆逐されるな、とヌカデは自重するように言います。ヤノハは、漢人が車輪(チェールェン)と呼んでいるものにも注目しも中土には二つの車輪を箱に載せ、人が操る武器(ユーラシア西方から伝わった戦車のことでしょう)もあるそうだ、とヤノハに言います。どちらも倭国に持ち込まれたら我々はひとたまりもないので、魏の後ろ盾を得ることは、魏に征服される危険もあるわけで、自分の考えは甘かったかもしれない、とヤノハは反省します。しかしヌカデはヤノハに、やすやすと魏に侵略されないよい方法を思いついたのではないか、と尋ねます。ヤノハは、幸運なこととして、まだ中土には馬を多数載せて大海を渡れる大型船がないことを挙げます。しかし、車輪は持ち込める、とヌカデに指摘されたヤノハは、車輪を見ていたが、木や岩や石のない平らな道でしか効果を発揮しない、と答えます。ヌカデは、ヤノハが倭国にあえて整えられた道を造らないつもりではないか、と推測します。
日下(ヒノモト)国の軽(カル)では、吉備津彦(キビツヒコ)と名乗るようになったイサセリに、甥のハニヤスが話しかけます。ハニヤスは、吉備津彦の異母兄であるクニクル王(記紀の孝元天皇、つまり大日本根子彦国牽天皇でしょうか)の息子です。王君の霊祭(コトダママツリ)に呼ばれたのか、と問われたハニヤスは、自分は正妻の子ではないので違う、と答えます。正妻の子ではなくとも、ハニヤスの異母兄であるマコト(彦太忍信命でしょうか?)は招待されたぞ、と指摘する吉備津彦に、自分は王君に嫌われている鬼っ子だ、とハニヤスは言います。自分のことを鬼っ子と言うな、と呆れながら窘める吉備津彦に、今日はせめて御前のお手伝いに来た、と言います。吉備津彦はどう接すればよいのか迷ったのか、上手くやれ、といって立ち去ります。儀式終了後の宴で、クニクル王は夢に父親である先代王君、つまりフトニ王(大日本根子彦太瓊天皇、つまり記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)が現れた、と参加者に語ります。クニクル王は、戦に明け暮れ、民の暮らしに無頓着だったことを後悔していたので、自分は、戦のない日下を造ろうと、誓いを新たにした、と語って、古の王君たちに想いを馳せ、大いに飲食しよう、と言って宴会が始まりますが、吉備津彦とモモソは不満そうです。するとクニクル王は、料理に魚が出ていることについて、後継者であるネコ王子(記紀の開花天皇、つまり稚日本根子彦大日日天皇でしょうか)に不満を述べ伸す。後継者として食事会を取り仕切るよう命じたが、自分は魚が苦手だと伝えただろう、というわけです。するとネコ王子は恐縮しつつ、王君霊祭に鯛は欠かせないので、せめて一口だけでも、と進言し、クニクル王も、そこまで言うなら、と仕方なく鯛を食べますが、生臭さに顔をしかめます。するとハニヤスが現れ、コケモモの汁で口を清めるよう、進言します。クニクル王は、気の利く童だと感心し、どこかで見た顔だと気づくものの、誰だか思い出せません。ハニヤスが名乗ると、クニクル王は気まずそうにしてコケモモの汁を飲み、美味い、と言います。その様子を、ハニヤスだけではなく吉備津彦とモモソも注意深く見ていました。するとクニクル王は、舌が痺れて発音が乱れてきて倒れ、モモソは嬉しさを隠せないような表情でクニクル王に駆け寄ります。
加羅では、目達(メタ)国のスイショウ王の指示により朝鮮半島に残った人々の邑の長であるヒホコの案内により、ヤノハ一行が馬韓の間近まで舟で進んでいました。馬韓に上陸した後は、湖南(コナム)という国に行く、とヒホコはヤノハに伝えます。漢人は湖南に、古難という文字をあてていました。重要な国なのか、ヤノハに問われたヒホコは、馬韓と辰韓は古には辰という大国で、今は馬韓52ヶ国の一つである月支(ゲッシ)国の王が辰王を名乗っており、次に力を持つのが、自らを臣智と称する湖南国の王だ、と答えます。つまり、湖南の臣智に気に入れられなければ辰王には謁見できず、遼東半島までたどり着けないのだ、とヤノハは悟ります。馬韓に上陸後しばらくしても、誰とも会わないことをヤノハ一行は不審に思い、ヒホコは近くの邑で様子を聞くことにします。その邑に着くと、矢の刺さった人々が倒れており、住居から一人の男性が朦朧とした様子で現れ、「アグマ」と呟きます。その男にも毒矢が刺さっており、「アグマネワン」と呟きます。これは「鬼は」という意味だ、とヒホコに伝えられたオオヒコは、次の言葉は「そと」と聞こえた、と言います。つまり、「鬼は外」というわけで、その様子をヤノハ一行が見ているところで今回は終了です。
今回は、ヤノハ一行の朝鮮半島での見聞と、日下国の陰謀が描かれました。朝鮮半島で馬や車輪を見たヤノハは、中土と倭国との文化水準の違いを痛感し、魏とどう付き合うべきなのか、改めて思案したようで、こうした理解力の速さと柔軟性が、政治家としてのヤノハの資質と言えるでしょう。ヤノハはすでに、中土からの使者に倭国の地理を正確に把握させないよう、ミマアキが考えていること(第42話)も知っているでしょうから、魏との通交もそれを踏まえて行ない、そのため『三国志』において倭国の地理が曖昧になった、という設定なのかもしれません。弁韓の邑の様子は次回以降に描かれるでしょうが、どのような状況なのか、注目されます。日下国では陰謀によりクニクル王が死ぬか廃人となり、ネコ王子が次の王君となって、吉備津彦とモモソの野心と進言により日下国は再び筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)征服と倭国統一を図るのでしょう。作中では現時点で228年頃のようなので、この戦いが魏への遣使の前後どちらになるのか、という点とともに、最終的に山社(ヤマト)連合と日下連合の関係がどう決着するのかも注目されます。
日下(ヒノモト)国の軽(カル)では、吉備津彦(キビツヒコ)と名乗るようになったイサセリに、甥のハニヤスが話しかけます。ハニヤスは、吉備津彦の異母兄であるクニクル王(記紀の孝元天皇、つまり大日本根子彦国牽天皇でしょうか)の息子です。王君の霊祭(コトダママツリ)に呼ばれたのか、と問われたハニヤスは、自分は正妻の子ではないので違う、と答えます。正妻の子ではなくとも、ハニヤスの異母兄であるマコト(彦太忍信命でしょうか?)は招待されたぞ、と指摘する吉備津彦に、自分は王君に嫌われている鬼っ子だ、とハニヤスは言います。自分のことを鬼っ子と言うな、と呆れながら窘める吉備津彦に、今日はせめて御前のお手伝いに来た、と言います。吉備津彦はどう接すればよいのか迷ったのか、上手くやれ、といって立ち去ります。儀式終了後の宴で、クニクル王は夢に父親である先代王君、つまりフトニ王(大日本根子彦太瓊天皇、つまり記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)が現れた、と参加者に語ります。クニクル王は、戦に明け暮れ、民の暮らしに無頓着だったことを後悔していたので、自分は、戦のない日下を造ろうと、誓いを新たにした、と語って、古の王君たちに想いを馳せ、大いに飲食しよう、と言って宴会が始まりますが、吉備津彦とモモソは不満そうです。するとクニクル王は、料理に魚が出ていることについて、後継者であるネコ王子(記紀の開花天皇、つまり稚日本根子彦大日日天皇でしょうか)に不満を述べ伸す。後継者として食事会を取り仕切るよう命じたが、自分は魚が苦手だと伝えただろう、というわけです。するとネコ王子は恐縮しつつ、王君霊祭に鯛は欠かせないので、せめて一口だけでも、と進言し、クニクル王も、そこまで言うなら、と仕方なく鯛を食べますが、生臭さに顔をしかめます。するとハニヤスが現れ、コケモモの汁で口を清めるよう、進言します。クニクル王は、気の利く童だと感心し、どこかで見た顔だと気づくものの、誰だか思い出せません。ハニヤスが名乗ると、クニクル王は気まずそうにしてコケモモの汁を飲み、美味い、と言います。その様子を、ハニヤスだけではなく吉備津彦とモモソも注意深く見ていました。するとクニクル王は、舌が痺れて発音が乱れてきて倒れ、モモソは嬉しさを隠せないような表情でクニクル王に駆け寄ります。
加羅では、目達(メタ)国のスイショウ王の指示により朝鮮半島に残った人々の邑の長であるヒホコの案内により、ヤノハ一行が馬韓の間近まで舟で進んでいました。馬韓に上陸した後は、湖南(コナム)という国に行く、とヒホコはヤノハに伝えます。漢人は湖南に、古難という文字をあてていました。重要な国なのか、ヤノハに問われたヒホコは、馬韓と辰韓は古には辰という大国で、今は馬韓52ヶ国の一つである月支(ゲッシ)国の王が辰王を名乗っており、次に力を持つのが、自らを臣智と称する湖南国の王だ、と答えます。つまり、湖南の臣智に気に入れられなければ辰王には謁見できず、遼東半島までたどり着けないのだ、とヤノハは悟ります。馬韓に上陸後しばらくしても、誰とも会わないことをヤノハ一行は不審に思い、ヒホコは近くの邑で様子を聞くことにします。その邑に着くと、矢の刺さった人々が倒れており、住居から一人の男性が朦朧とした様子で現れ、「アグマ」と呟きます。その男にも毒矢が刺さっており、「アグマネワン」と呟きます。これは「鬼は」という意味だ、とヒホコに伝えられたオオヒコは、次の言葉は「そと」と聞こえた、と言います。つまり、「鬼は外」というわけで、その様子をヤノハ一行が見ているところで今回は終了です。
今回は、ヤノハ一行の朝鮮半島での見聞と、日下国の陰謀が描かれました。朝鮮半島で馬や車輪を見たヤノハは、中土と倭国との文化水準の違いを痛感し、魏とどう付き合うべきなのか、改めて思案したようで、こうした理解力の速さと柔軟性が、政治家としてのヤノハの資質と言えるでしょう。ヤノハはすでに、中土からの使者に倭国の地理を正確に把握させないよう、ミマアキが考えていること(第42話)も知っているでしょうから、魏との通交もそれを踏まえて行ない、そのため『三国志』において倭国の地理が曖昧になった、という設定なのかもしれません。弁韓の邑の様子は次回以降に描かれるでしょうが、どのような状況なのか、注目されます。日下国では陰謀によりクニクル王が死ぬか廃人となり、ネコ王子が次の王君となって、吉備津彦とモモソの野心と進言により日下国は再び筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)征服と倭国統一を図るのでしょう。作中では現時点で228年頃のようなので、この戦いが魏への遣使の前後どちらになるのか、という点とともに、最終的に山社(ヤマト)連合と日下連合の関係がどう決着するのかも注目されます。
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