ネアンデルタール人とデニソワ人と現生人類の進化史
古代ゲノム研究も含めて遺伝学的研究に基づくネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)と現生人類(Homo sapiens)の進化史に関する概説(Zeberg et al., 2024)が公表されました。近年の古代ゲノム研究の進展は目覚ましく、現代人の特定の表現型がネアンデルタール人やデニソワ人といった非現生人類ホモ属(古代型ホモ属、絶滅ホモ属)に由来する事例の報告も増えつつあります。当ブログでもそうした研究をできるだけ取り上げるようにしていますが、とても最新の研究の全容を把握できていないので、今後も本論文のような古代ゲノム研究の概説を時に取り上げていき、デニソワ人に関するまとめ(関連記事)などに反映していくつもりです。
●要約
現生人類の祖先はネアンデルタール人およびデニソワ人の祖先と60万年前頃に分岐しました。4万年前頃まで、これら3集団は並行して存在し、時に遭遇し、遺伝子を好感しました。重要な疑問は、他の2集団【ネアンデルタール人とデニソワ人】ではなく現生人類が生き残り、人口増え、複雑な文化を発展させた理由です。本論文は、これら3集団間の遺伝的違いと、その機能的結果の一部を考察します。多様な集団からの現代人のゲノム配列がより多く利用可能になるにつれて、存在するとしても、ごく少数の違いが、全てのネアンデルタール人およびデニソワ人から全ての現生人類を区別するだろう、と予測されます。現生人類を構成するものの遺伝的基盤は、遺伝的特徴の組み合わせとして考えるのが最適で、その遺伝的特徴にはおそらく、現代人の各個体全員に存在するものはないだろう、と本論文は提案します。
●研究史
ヒトの集団が、アフリカで60万年前頃に現生人類の祖先から分岐しました【その場所がアジア南西部だった可能性も考えられると思います】。その集団の構成員は最終的にアフリカを去り、ユーラシアの西部ではネアンデルタール人、東部ではデニソワ人となりました。その後、現生人類、つまり現代人全員の祖先がアフリカで出現し、アフリカ大陸全域およびアフリカ大陸を越えて拡大し、ネアンデルタール人およびデニソワ人や、アフリカ外においてその時点で存在していた可能性が高い他の人類と遭遇しました。結果として、ネアンデルタール人とデニソワ人は、その時点で存在していたいわゆる古代型のヒトの他の分類群と同様に、4万年前頃までに考古学的記録から消滅しました(図1)。現生人類は、急速に変化し、ひじょうに多くの人口と地球の全ての生息可能地の植民を可能とした、文化と技術を発展させ続けました。主要な謎は、現生人類の人口がひじょうに多くなり、文化的に多様になったのに対して、ネアンデルタール人とデニソワ人が消滅した理由です。
ネアンデルタール人とデニソワ人と現生人類は共通の祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)を有していますが、相互の接触は限定的でした。それは、ヒトの進化が過去50万年間において実質的に3回起きたことを意味します。ゲノム配列を用いて、これらの集団の進化史と集団間の限定的な接触の側面を再構築できます。現生人類について、数十万人の現代人のゲノムは、過去45000年間に生きていた数千人のゲノム規模データがあります(Karczewski et al., 2020、Mallick et al., 2024)。ネアンデルタール人については、高品質の3個体(Mafessoni et al., 2020、Prüfer et al., 2014、Prüfer et al., 2017)のゲノム配列と、中程度もしくは低品質のゲノム配列が十数点あり(Castellano et al., 2014、Hajdinjak et al., 2018)、ネアンデルタール人の殆ど若しくは全個体さえ有していた可能性が高い、遺伝的多様体の特定が可能です。現時点で、高品質のデニソワ人のゲノムは1点のみが利用可能です(Meyer et al., 2012)。より古いゲノム利用可能になるでしょうが、古代の遺伝的差異に関する知識は、常に現代人に関する知識よりも限られているままになるでしょう。以下は本論文の図1です。
これらヒトの3分類群から得られたゲノムの比較では、これら3分類群がアフリカ外で遭遇した時に何度か遺伝子を交換した、と示されています(図1)。ネアンデルタール人は、現生人類の祖先と関連する集団から10万年以上前に遺伝子流動を受け取りました(Kuhlwilm et al., 2016、Chen et al., 2020、Harris et al., 2023)。さらに、ネアンデルタール人とデニソワ人は遺伝子を交換しており(Prüfer et al., 2014)、たとえば、シベリア南部では9万~8万年前頃に、ネアンデルタール人の母親とデニソワ人の父親の1個体が特定されました(Slon et al., 2018)。現生人類はアフリカと近東から10万年前頃以降に拡大を始めるとネアンデルタール人(Green et al., 2010)やデニソワ人(Meyer et al., 2012)と混合しました。結果として、サハラ砂漠以南のアフリカ外に遺伝的起源のある現代人全員は、ネアンデルタール人に由来する遺伝的多様体を有しています(Sankararaman et al., 2014)。現代詩アジア人の祖先はデニソワ人とも混合したので(Meyer et al., 2012、Reich et al., 2010)、アジア祖先系統の人々はネアンデルタール人の多様体に加えてデニソワ人の多様体を有しています。デニソワ人からのこの遺伝的寄与は、オセアニアの一部の人口集団においてとくに大きくなっています(Reich et al., 2010、Sankararaman et al., 2016)。
この分野は現在、集団間の混合の説明を超えて、ホモ属集団間で異なる遺伝的多様体の機能的影響の調査を始めつつあります。本論文は、生理学的に関連する多様体に重点を置きつつ、現代人におけるネアンデルタール人およびデニソワ人起源遺伝的多様体の研究から何を学べるのか、議論します。本論文は、単一の遺伝的多様体が特定の形質と関連づけられてきた事例に焦点を当てます。他の側面は、別の文献(Reilly et al., 2022)で再検討されてきました。ネアンデルタール人もしくはデニソワ人において現れた多くの祖先的多様体もしくは多様体が、一部の現在の人口集団において低頻度もしくは中程度の頻度で見つかることを考えて、本論文は、現生人類をネアンデルタール人やデニソワ人や今では絶滅した他のヒト分類群と区別する遺伝学的および生物学的基盤についてどのように考えることができるのかも、考察します。
●古代の多様体
現生人類と古代型のヒトが混合すると、その第一世代の子供は、現生人類の染色体一式と古代型のヒトの染色体一式を有していました。そうした子供たちが現生人類集団で暮らし、次に子供を産むと、ネアンデルタール人もしくはデニソワ人の染色体は、組換えの過程に起因して各世代で分解され、入れ替えられます。結果として、現生人類と古代型のヒトが遭遇して以来、約2000世代経過すると、古代型のDNA断片はより短くなり、現在では、現代人のゲノム内に散在して見られます(図2A)。古代型DNA断片の予測される長さは1/(r×N)として推定され、rは組換え率、Nは世代数です。100万塩基対(mega base pairs、略してMbp)あたり平均で約1 cM(センチモルガン)の組換え率と、2000世代前に起きた単一の混合事象との単純化した仮定下では、現在の古代型DNA断片について予測される典型的な長さは、約5000塩基対(5kbp)です。しかし、古代型DNA断片は見つかる各領域について、異なる長さの断片の分布としておらわれ、その末端は過去の組換え事象を表しています。しかし、断片1ヶ所が約2000世代前の遺伝子流動により起きたと確信するには、かなりの長さでなければなりません。以下は本論文の図2です。
ヒトゲノムには、ネアンデルタール人もしくはデニソワ人のゲノムと類似しているDNA断片もあり、それは。これらの断片が、古代型のヒトから現生人類へともたらされたからではなく、古代型のヒトと現生人類の両方で、50万年前頃に共通祖先を有して以降、独立して存続してきたからです。組換えはそうした断片でずっと長く作用してきたので、12 kbpより長い可能性は、上述の組換え率の仮定下では0.05未満で、これはネアンデルタール人系統の19500世代の長さと、現生人類系統の21500世代の長さです。これにより、共通祖先から継承されたDNA断片(平均で12 kbp以上である可能性は低そうです)と、より新しくネアンデルタール人もしくはデニソワ人から継承されたDNA断片(50kbpと予測されます)との間で予測される規模の違いに関して、おおよその着想が得られます。しかし、特定の断片を検証するさいには、古代型DNA断片それ自体が見つかるゲノムの一部における、局所的な組換え率に規模が依存する、と考慮することが重要です。この割合は、ゲノム全体だけではなく、人口集団間および経時的にも変わります。
1世代1部位あたり1.61×10⁻⁸の変異率と、19500世代のネアンデルタール人系統の長さを仮定すると、50kbpの典型的な長さでネアンデルタール人から継承されたDNA断片1ヶ所には、ネアンデルタール人系統で起きた変異から生じた約16個の多様体があるでしょう。つまり、それらはネアンデルタール人において「派生的」です(図1)。さらに、現生人類はネアンデルタール人とは独立して、ほぼ同数の派生的変化を蓄積してきました。最後に、ネアンデルタール人と現生人類は、祖先人口集団において相互との違いを有していたDNA断片のさまざまな異形を継承していることが多いので、現生人類とネアンデルタール人のDNA断片間の違いの数は、より多くなる可能性さえあります。したがって、古代型DNA断片は、周辺領域より多くの一塩基多様体(Single Nucleotide Variant、略してSNV)を有している点で、ヒトゲノムにおいて際立っていることが多くあります。
●古代の遺伝子流動
ネアンデルタール人の多様体はアフリカ外の全人口集団で見られ、非アフリカ系現代人のゲノムの最大2%を構成していますが、ある人口集団のさまざまな個体がさまざまなネアンデルタール人の多様体を有していることは多くあり、個々の多様体の頻度が人口集団間で劇的に異なることも時にあります。より少ない数のネアンデルタール人の派生的多様体は、ネアンデルタール人が消滅した後のヨーロッパおよびアジア西部からの遺伝子流動の結果として、サハラ砂漠以南のアフリカでも見つかっています(Chen et al., 2020)。
現代人のゲノムにおけるネアンデルタール人由来DNAの割合が約2%で比較的一貫している事実(Sankararaman et al., 2014)から、ネアンデルタール人からの寄与の大半は比較的初期、おそらくは6万年前頃に、アフリカを去って非アフリカ系現代人全員の祖先になった人口集団で起きた、と示唆されます。それにも関わらず、ヨーロッパの4万年以上前となる標本に由来する現生人類のゲノムの分析から、ネアンデルタール人は現生人類集団に局所的にも寄与した、と示されてきました。たとえば、ルーマニアの4万年前頃の1個体は、その家系の4~6世代前にネアンデルタール人の祖先がおり(Fu et al., 2015)、ブルガリアの1ヶ所の遺跡で見つかった45000年前頃の個体群にも近いネアンデルタール人の親族がいました(Hajdinjak et al., 2021)。しかし、これら初期現生人類集団の多くは、現在の人口集団へと遺伝的多様体を寄与した子孫を、多くは残さなかったか、あるいは全く残すことさえありませんでした。したがって、ネアンデルタール人による【非アフリカ系現代人全員の主要な祖先集団への1回の寄与が起きた】その後の【現生人類集団への】寄与は、現在の人口集団にはさほど影響を及ぼさなかったかもしれません(Fu et al., 2015、Hajdinjak et al., 2021)。
アジア本土およびアメリカ大陸先住民人口集団で見られるデニソワ人に由来する多様体は、現代人のゲノムの約0.2%に寄与しています。オセアニアの多くの人口集団では、そのゲノムの5%以上がデニソワ人起源です(Sankararaman et al., 2016、Larena et al., 2021)。デニソワ人からの遺伝的寄与は、少なくとも二つの異なるデニソワ人集団に由来します(Browning et al., 2018)。これらのデニソワ人の遺伝的寄与のうちの一つは、シベリア南部の遺骸から配列決定されたデニソワ人のゲノム(Meyer et al., 2012)とひじょうに密接に関連しており、その痕跡は日本や中国やアジア東部の他地域の現代人で見つけることができます。他のデニソワ人集団は、アジア東部および南部を含めて、アジアの大半の人口集団の祖先に寄与しました。このデニソワ人集団は、現在利用可能なデニソワ人のゲノムとはずっと遠い関係でした(Browning et al., 2018)。さらに、他のデニソワ人集団から太平洋の人々の祖先への寄与もあったかもしれません(Larena et al., 2021、Jacobs GS et al., 2019、Choin et al., 2021)。興味深い問題は、古代型のヒトおよび現生人類の系統で蓄積された遺伝的変化が、これらヒトの3分類群【ネアンデルタール人とデニソワ人と現生人類】の生理機能にどのように影響を及ぼしたのか、ということで、これらの人類集団のうち2集団(ネアンデルタール人とデニソワ人)は絶滅しました。
●古代型と現代型の多様体の影響の研究
ネアンデルタール人とデニソワ人により現代人へともたらされた遺伝的多様体の存在(通常はSNVですが、DNA配列における挿入や欠失やその他の変化もあります)は、そうした多様体が現代人において表現型と関連しているのかどうか問うことによって、そうした多様体の影響の調査を可能とします。これらの多様体は、ネアンデルタール人もしくはデニソワ人系統で起きた変異から由来したかもしれず、つまり、ネアンデルタール人やデニソワ人の系統において派生的か、あるいは、より稀ですが、この古代型2集団【ネアンデルタール人とデニソワ人】につながる共通系統で起きた変化に由来します。注目すべきことに、古代DNA断片は、現代人が現生人類において起きた変異によりもたらされた派生的変異を有している部位で、祖先の多様体も導入(Rinker et al., 2020)できます(図1)。
現生人類系統で発生し、ほぼ全ての現代人個体に存在する多様体は、表現型と関連づけることにより研究できず、それは、ほぼ全員これらの多様体が欠けていないので、対照群が存在しないからです。同様に、古代型のヒトで出現し、現生人類に寄与しなかった多様体は、現代人では研究できません。しかし、これらの多様体は、モデル体系で研究できます。たとえば、多様体はゲノム編集により祖先的状態もしくは古代型のヒトで見られる状態へと実験的に変化させることができます。次にこれらの多様体の影響は、細胞培養もしくはヒト器官の生理機能を部分的に模倣する原形質類器官で研究できます。別の可能ライは、マウスのゲノムへ現生人類もしくは古代型のヒトの遺伝的多様体を導入し、生物でその影響を研究することです。しかし、古代型多様体の実際の保因者の研究が、ひじょうに多くの情報をもたらすことはよくあります。これを可能にするには、いくつかの要件を満たさねばなりません。
要件の一つは、古代型多様体が、関連研究もしくは遺伝的および表現型の情報の利用可能な人口コホート(特定の性質が一致する個体で構成される集団)で検出されるのに充分なほど、高い頻度で見られることです。そうした研究とコホートはほぼヨーロッパ人の子孫の人口集団で生成されてきたので、デニソワ人より多くのネアンデルタール人の多様体がこれまで研究されてきました。しかし、日本生物銀行や東北医療大銀行や韓国ゲノムおよび疫学研究など、大規模な生物銀行がアジアでも次第に確立されてきており、デニソワ人からの遺伝的寄与も研究する可能性を開きつつあります。
現代人における古代型の遺伝的多様体研究のもう一つの要件は、検出されるのに充分な大きさの表現型の影響を有している必要があることです。単一の多様体の影響は小さいことが多く、数万もしくは数十万個体のコホートでは検出できないかもしれません。幸いなことに、遺伝的多様体の一部の種類は、研究できる表現型の影響を有している可能性が比較的高くなっています。たとえば、発現に影響を及ぼす多様体、もしくは膜組織を横断して分子を輸送する酵素あるいはタンパク質のアミノ酸配列は、細胞における化学的反応の触媒作用もしくは分子の蓄積など、測定可能な過程に直接的に影響を及ぼす効果があるかもしれません。しかし、対象となる多くの形質は遺伝的複雑で、つまりは多くの遺伝的多様体に影響を受けます。さらに、複雑な形質に関わる古代型の多様体は検出困難かもしれず、それは、その影響が、現代人にはもはや存在しないかひじょうに稀かもしれないゲノムにおいて他に、古代型多様体に依拠しているかもしれないからです。本論文は以下で、ネアンデルタール人に現れた遺伝的多様体を、次にデニソワ人に現れた多様体を考察し、最後に現生人類で現れた多様体を調べます。
●ネアンデルタール人において現れた遺伝的多様体
ネアンデルタール人に関して、高品質な3点のゲノムと低品質の十数点のゲノムが利用可能です。これら少数にも関わらず、ネアンデルタール人のゲノムは年代では13万年前頃から45000年前頃までとなり、ヨーロッパ西部からシベリア南部までのネアンデルタール人の範囲の大半を網羅しています。したがって、ネアンデルタール人で派生し、利用可能なネアンデルタール人のゲノムにおいて同型接合の形態で存在する多様体は、後期ネアンデルタール人集団において高頻度で存在した可能性がひじょうに高そうです。ほとんどのそうした多様体が研究されてきており、それは、遺伝子流動の結果としてそうした多様体が現代人でも見られるからです。本論文は、ネアンデルタール人で現れ、ヒトの生理機能のさまざまな側面に影響を及ぼす、数点の多様体を考察します。
●代謝
表現型の影響が説明されている現代人における最初のネアンデルタール人由来のDNA断片は、17番染色体上にあります。このDNA断片には、肝臓におけるピルビン酸輸送体タンパク質SLC16A11発現に影響を及ぼす調節多様体と、細胞表面においてその発言に必要なシャペロンとのSLC16A11の相互作用を気な称させるアミノ酸置換があります。SLC16A11のこの減少した細胞表面発現は、2型糖尿病の危険性増加と関連する脂肪酸と脂質代謝への変化をもたらします(Sankararaman et al., 2014)。これらの多様体はさまざまな長さのDNA断片に位置していますが(ここと以下では、0~1の間の規模でr²>0.8の人口集団におけるネアンデルタール人的なアレルの関連を有すると定義されます)、全て73 kbのDNA断片を共有しています。医学的重要性の代謝的結果を伴う一部のネアンデルタール人の遺伝子多様体も報告されてきており、たとえば、タンパク質カロリー栄養失調の危険性を増加せるもの(Simonti et al., 2016)や、一般的に使用される薬の代謝に影響を及ぼすものです。
●感覚器官
現代人における表現型の影響を伴う別のネアンデルタール人DNA断片は2番染色体上に位置し、末梢神経終末で痛覚を開始するナトリウムチャネル(Nav1.7タンパク質)をコードしています。ネアンデルタール人では、このタンパク質にはアミノ酸3個の変化があり、これらのアミノ酸変化のうち2個の組み合わせは、チャネルが活性化した後に不応性維持の時間を短縮し、刺激後にチャネルがより長くひらいた状態となります。これは、神経細胞をより敏感にさせるかもしれません。イギリスの人々の約0.4%は、SCN9A のネアンデルタール人型を伴う23 kb(r²>0.8)のDNA断片を有しています。これらの保因者は、質問事項で非保因者よりも多くの痛みを経験する、と報告しています。この増加は、寿命が8もしくは9年伸びるごとに人々が経験する痛みの増加にほぼ相当します(Zeberg et al., 2020A)。異型接合の形態でSCN9A のネアンデルタール人型を発現している人々はより多くの痛みを経験するので、同型接合のけいたいでこのタンパク質型を有していたネアンデルタール人は、現代人よりも痛みに敏感だった、と示唆したくなります。もしそうならば、痛みへの先天的な無感覚を引き起こす、SCN9Aにおける両アレルの機能喪失変異のネアンデルタール人型が平均余命を減少させる、ということを考えると、これは選択的利点でさえあるかもしれません。
●妊娠
11蕃染色体上のネアンデルタール人起源の56kbのDNA断片は、遺伝子発現を調節する転写因子として、ステロイドホルモンであるプロゲステロンにより活性化される、プロゲステロン受容体をコードしています。この断片他の型にはいくつかの違いがあり、コードされたタンパク質とAlu要素の挿入におけるアミノ酸多様体が含まれ、Alu要素はヒトや他の霊長類における転写因子です。一部の人口集団では、この遺伝子のネアンデルタール人型が保因者の頻度において最大21%で見られます。この遺伝子は現代人において早産の危険性増加と関連しているので、とくに現代的な医療保護のないネアンデルタール人にとって進化的な不利益を表している、と示唆されてきました。しかし、このネアンデルタール人型の多様体は妊娠初期の出血や竜山の危険性の約15%減少や、より多くのキョウダイがいることとも関連しています。
したがって、この多様体は進化的な相殺(トレードオフ)を表している、と推測したくなります。この相殺では、ネアンデルタール人の多様体は流産をもたらすだろう妊娠を救いますが、その代償はこれらの妊娠の一部が早産をもたらすことです。注目すべきことに、ネアンデルタール人のプロゲステロン受容体遺伝子の二つの異なる型が現生人類に寄与しており、過去1万年間の個体群の骨格遺骸での発生増加により示されるように、両者とも頻度が上昇してきました(Zeberg et al., 2020B)。両方のネアンデルタール人型はプロゲステロン受容体のより高い発現をもたらすので、妊娠中のより高いプロゲステロン効果を媒介するかもしれません。これは、プロゲステロン投与が以前に竜山を経験した女性の流産率を低下させる、との以前の調査結果と一致し、より高いホルモン水準もしくはより高い受容体水準により媒介されるプロゲステロン効果の増加が、危険性のある妊娠を保護するかもしれない、と示唆されます。
●免疫系
感染症は主要な選択要因なので、多くの御台型の遺伝子多様体の運命に影響を及ぼしました。たとえば、ウイルスと相互作用する遺伝子をコードするネアンデルタール人のDNA断片は、とくに高頻度に上昇した可能性が高そうなので、現代ヨーロッパ人の祖先では有利だった可能性が高そうです(Enard, and Petrov., 2018)。同様に、とくにウイルスに対する反応と関連する遺伝子の転写に影響を及ぼすネアンデルタール人の多様体は、現在の人口集団に頻繁にもたらされました(Quach et al., 2016)。さらに、自然免疫遺伝子を含むゲノム領域には、コーディングゲノムの残りよのも多くのネアンデルタール人の多様体が含まれているようです(Deschamps et al., 2016)。病原体に対して免疫応答に影響を及ぼす一部のネアンデルタール人の遺伝子多様体も、自己免疫疾患のり危険性を増加させるかもしれません(Sankararaman et al., 2014、Dannemann et al., 2016)。
免疫の古代型の寄与の一例は、4番染色体上の143kb長のDNA断片です。この断片には、トル様受容体をコードする3個の遺伝子が含まれており、トル様受容体は樹状細胞および大食細胞(マクロファージ)で発現し、微生物の保存された特徴を認識し、自然免疫応答を活性化させます。この領域のネアンデルタール人の多様体2個とデニソワ人の多様体1個が、現生人類において見られます(Dannemann et al., 2016)。これら3個の古代型多様体は現生人類に寄与し、現生人類において存続してきたので、有利に作用してきたようです。古代型多様体はその受容体の発現を増加させ、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染症への耐性増加と関連しています。免疫応答に影響を及ぼす他の多様体と同様に、これらの多様体は現在の人口集団間で頻度が異なっており、病原体からの局所的選択がそれらに影響を及ぼしたかもしれない、と示唆されます。
感染症への応答に影響を及ぼす古代型多様体の顕著な一例は、3番染色体上の49kbのネアンデルタール人DNA断片です。この断片には13個のヌクレオチド置換が含まれ症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2、略してSARS-CoV-2)を伴う感染症からの、人工呼吸器の必要性もしくは重死亡危険性がほぼ2倍高くなります。その根底にある機序は、この断片上でコードされる遺伝子の一つであるLZTFL1の発現だけではなく、他の遺伝子の発現も含んでいるかもしれません。
3番染色体上のネアンデルタール人多様体も、この領域の他の遺伝子、とくにCCR5の発現に影響を及ぼし、CCR5は、ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus、略してHIV)の共受容体として機能する炎症性細胞遊走因子(ケモカイン)受容体をコードします。この多様体は、ネアンデルタール人DNA断片を有する個体群では発現が少なく、HIVに感染する危険性を約25%減少させることにつながります。したがって、このネアンデルタール人断片はSARS-CoV-2世界的流行病では負に選択されましたが、他の状況では正の影響を及ぼします。これは、過去にもあった事例のようです。ネアンデルタール人型多様体がアジア南部では保因者頻度約60%に達したのに対して、アジア東部ではほぼ存在せず(Zeberg, and Pääbo., 2020)、過去の他の感染症がネアンデルタール人DNA断片の頻度をアジア南部では増加させ、アジア東部では減少させた、とおそらくは示唆しています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症度の関連研究でも、ネアンデルタール人に由来すると以前に示された12番染色体上の75kb長のDNA断片は、重篤な疾患に対して保護的である、と明らかにされました。残念ながら、その影響の大きさは、3番染色体上のネアンデルタール人の危険性多様体よりもほぼ5倍小さくなっています(Zeberg, and Pääbo., 2021)。12番染色体の断片は、二本鎖RNAを分解するリボヌクレアーゼ(RNase)の活性と関わる分子を合成する3個の遺伝子をコードします。ネアンデルタール人型多様体はこれらの遺伝子のうち1個の祖先的なスプライス形態をコードし、これはSARS-CoV-2ウイルスが複製する膜組織構造に局在するので、恐らくはこれと他のRNAウイルスにより感染した細胞を除去する効率がより高そうです。古代の現生人類1641個体においてこの多様体を経時的に追跡すると、ヨーロッパの人口集団において過去に頻度が2回上昇し(Zeberg, and Pääbo., 2021)、おそらくは感染症への応答だろう、と示されました。
多くのネアンデルタール人型多様体が感染症と関連する表現型に影響を及ぼしている、という事実は偶然ではないかもしれません。感染症は人口集団に影響を及ぼす主因で、経時的にとくに急速に変化します。ユーラシアの古代型のヒト集団は異なる病原性の課題に直面し、その免疫系の適応を必要としました。病原体へのそうした局所的な適応は、現生人類においてよく説明されている現象で、顕著な一例は、鎌状赤血球症とマラリア耐性との間の関係です。古代型のヒトも同様の進化圧を経た、ということを疑う理由はほとんどありません。古代型のヒトと現生人類との間の免疫系の違いは、その長い地理的な分離の明確な現れかもしれません。
●複雑な形質
慎重もしくは認知能力のようなほとんどのヒトの形質は、人口集団において連続的に変化し、ゲノムの多くの部分の多くの遺伝的多様体や環境に影響を受けます。古代型のヒトからの遺伝子流動がそうした複雑な形質にどのように影響を及ぼしたのか、研究することは困難で、それは、最も顕著には、各遺伝的多様体の影響の大きさが一般的に小さいからです。したがって、現在の分析は、個々の多様体と複雑な票気系との間の直接的な比較に依拠していません。代わりに、1人口集団における全てのネアンデルタール人もしくはデニソワ人の多様体は、組み合わされると、特定の方向性で複雑な形質に影響を及ぼす傾向があるのか、あるいは複雑な疾患の危険性の分散の割合を説明するのかどうか、調べられています。たとえば、そうした研究では、ネアンデルタール人のアレル(対立遺伝子)が鬱病や日光誘発性皮膚障害の危険性における差異の顕著な割合を説明する、と示されてきました(Simonti et al., 2016)。
一部の研究でも、特定の形質に影響を及ぼす古代型多様体の過剰もしくは過少存在があるのかどうか、問われてきました。一般的に、複雑な形質は予測されているよりもネアンデルタール人祖先系統に影響を受けない、と分かりました。405点の複雑な形質のうち、皮膚科学的形質が最も影響を受けましたが、認知形質はネアンデルタール人型DNAに最も影響を受けませんでした。後者の観察は、脳における遺伝子の発現では、他の器官における遺伝子の発現よりネアンデルタール人型多様体の影響は少ないことが多い、との観察と一致します。
●遺伝子発現
多くの複雑な形質は、遺伝子発現水準により影響を受けるかもしれません。ある研究では、ある遺伝子のネアンデルタール人型多様体1個と現代型多様体1個を有する個体群において、ネアンデルタール人型多様体は現生人類型多様体より発現が少ない傾向にある、と示されました(McCoy et al., 2017)。これは精巣と脳、とくに小脳と大脳基底核において顕著で、ネアンデルタール人型調節配列に対する選択はそれらの組織でとくに強い、と示唆されます。これは、認知形質に関するネアンデルタール人型多様体の相対的に低い影響と一致します。
より古い古代型の多様体は、より最近の古代型の多様体よりも、現生人類では耐性がありました。シベリアのネアンデルタール人(Prüfer et al., 2014)とクロアチアのネアンデルタール人(Prüfer et al., 2017)との間で共有されている多様体は、これらの個体の一方でのみ見つかる多様体より古い可能性が高そうですが、ネアンデルタール人とデニソワ人との間で共有されている多様体はさらに古い可能性が高そうです。遺伝子調節の事例では、遺伝子の発現を上方制御する古代型多様体は現在の人口集団では少なく、例外はネアンデルタール人とデニソワ人との間で共有されている多様体である、と示されてきました。
したがって、長期間古代型集団で存続してきた多様体は、ネアンデルタール人でより新しい起源の多様体よりも、現生人類に有利な影響を及ぼしてきたかもしれません。これは、古代型集団が浄化選択を通じて有害なアレルの除去の時間をより長く有していたからかもしれません。より古い古代型多様体が、現生人類の祖先と共有されていた祖先的形質とより適合していたかもしれません。さらに、後期ネアンデルタール人では有害な遺伝的多様体がとくに容易に蓄積されたかもしれず、それは、ネアンデルタール人の人口規模が小さく、わずかに有害な多様体がより容易に頻繁に発生しやすくなったからです(Harris, and Nielsen., 2016)【最近の研究(Harris et al., 2023)はこの見解に否定的です】。
●デニソワ人において現れた遺伝的多様体
現時点で、デニソワ人の高品質なゲノムは1点しか利用可能ではないので、特定の多様体がデニソワ人においてどの程度で存在したのか、ほとんど分かっていません。さらに、表現型への影響を伴うデニソワ人からの遺伝的寄与の事例は比較的少数しか知られていません。その主要な理由は、アジアで利用できる関連研究と生物銀行が少ないからで、幸いにも、この状況は急速に変わりつつあります。
●高地適応
現在の人口集団へのデニソワ人からの影響の顕著な一例は、チベット人では80%以上のアレル頻度で見られるものの、他のアジアの人口集団では存在しないかひじょうに稀である、2番染色体上の33kb長のデニソワ人DNA断片です(Huerta-Sánchez et al., 2014、Zhang et al., 2021)。そのDNA断片は、低酸素水準への適応と関わっている低酸素により誘発される転写因子である、EPAS1(Endothelial PAS Domain Protein 1、内皮PASドメインタンパク質1)をコードしています。デニソワ人はチベット高原に存在していたので(Chen et al., 2019、Zhang et al., 2020)、デニソワ人の一部は高地での生活に適応し、おそらくはこの遺伝的素質を現生人類がこの地域に到来した時に現生人類にもたらしたのかもしれません。
●寒冷適応と顔の形態
デニソワ人からの遺伝的寄与の別の一例は、WARSおよびTBX15遺伝子のある1番染色体上の28kb長の断片です。この断片は、グリーンランドのイヌイットといくつかの他の人口集団のほぼ100%に存在します。デニソワ人型多様体は、おそらくは褐色脂肪を誘発することにより、低温への適応に影響を与えるかもしれない、遺伝子の発現に影響を及ぼします(Fumagalli et al., 2015)。不思議なことに、この断片は上唇の厚さおよびその突出とも関連づけられてきました。じっさい、その祖先型は粥状動脈硬化および炎症性腸疾患とも関連づけられてきており、炎症性腸疾患は、酸化圧力により悪化するかもしれない炎症性構成要素を有する疾患です。これは、この酵素の現代型が酸化圧力に対してより優れた保護を提供する、という仮説を裏づけます。
●スプライシング
タンパク質NOVA1は、転写物の3’末端のスプライシングとプロセシングに関わっています。NOVA1は、現生人類では1点のアミノ酸置換があります。祖先型多様体を有するよう改変されたヒト幹細胞から生成された脳原形質類器官は、形態とシナプス性タンパク質の発現と電気生理における違いを示しました。この実験は、遺伝学的違いの生理学的関連を研究するのに貴重な手法ですが、観察された影響は、ゲノム編集の副作用として発生することが多い、標的遺伝子の欠失に起因するかもしれません。興味深いことに、NOVA1の祖先型は現在のデータベースでは、他のデータと表現型が利用可能な、精密医療のための横断研究(Trans-Omics for Precision Medicine、略してTOPMed)計画に含まれている少なくとも4個体で見られます。したがって、祖先型多様体の影響は、ヒト保因者で研究できるかもしれません。
●神経発生
細胞分裂中の染色体分離と関わっている3個のタンパク質、つまりKIF18AとKNL1とSPAG5はそれぞれ、現生人類固有のアミノ酸置換を1個と2個と3個有しています。これら6個の変化をマウスに導入することで(単独もしくは組み合わせて)、KNL1とKIF18Aにおける現生人類の変化は有糸分裂の一部である、染色体が2個の娘細胞に引き離される寸前に整列する中期を延長する、と明らかにされました。この延長は、脳発達中において神経細胞を生成する未分化型前駆細胞で観察されます。
3個の祖先型多様体が、脳原形質類器官を生成するのに用いられるヒト幹細胞のKNL1とKIF18Aに導入されると、中期の短縮が観察されました。注目すべきことに、祖先型多様体を有する原形質類器官における中期の短縮は、チンパンジーとヒトの原形質類器官間で観察される中期の長さの違いと類似しています。現生人類における中期の延長は、染色体誤分離数の減少と相関しているようです。これが示唆するのは、これらの変化が初期の神経発生における染色体分離の精度を高めるかもしれない、ということです。興味深いことに、KNL1の現生人類型は、現生人類の祖先からの遺伝子流動の結果として一部の後期ネアンデルタール人に見られ、ヒトの3分類群【ネアンデルタール人とデニソワ人と現生人類】間の接触が多く起きた証拠を追加します。
現生人類では、五炭糖リン酸塩経路におけるトランスケトラーゼ様1(transketolase-like 1、略してTKTL1)には、1個のアミノ酸置換があります。タンパク質の古代のヒト型と現生人類型がマウスもしくはフェレットの発達中の脳で過剰発現されると、現生人類型はより多くの基底放射状グリア細胞をもたらします。逆に、TKTL1の祖先型を有する幹細胞から生成されたヒト脳原形質類器官は、より少ない基底放射状グリア細胞と神経細胞を生成します。これが示唆するのは、このアミノ酸置換が発達の初期に神経発生に影響する代謝変化を引き起こす、ということです。
染色体分離に影響を及ぼすKNL1とKIF18Aにおける変化と、神経前駆細胞の生成に影響を及ぼすTKTL1における変化は両方、初期の脳発達中に影響を及ぼします。これらの影響が成人の脳に何らかの結果をもたらすのかどうかの解明には、他の機序が補完する可能性があるので、さらなる研究が必要です。
●現代人における祖先型多様体
歴史的に、ヨーロッパ系の人々はゲノム研究の主要な対象とされてきました。したがって、全現代人に存在すると考えられていた遺伝的変化の最初の一覧は不完全で、それは、世界の人口集団の一部しか検証していなかったからです。世界のより多くの地域からより多くのヒトゲノムが配列決定されるにつれて、現代人には存在しないと考えられていた祖先型の遺伝的多様体が、一部の人口集団で見つかっています。逆に、ヨーロッパ系の人口集団は他地域ではほぼ存在しない祖先型多様体を有している、と分かっています。
祖先型多様体が現在も見られる理由は二つあります。第一に、一部の祖先型多様体は現生人類と古代型のヒトの共通祖先が60万年前頃に生きていた時以来、存続してきました。これはアフリカにおいてとくに頻度が高く、アフリカではアフリカ外の地域より遺伝的多様性が大きくなっています。第二に、祖先型多様体はネアンデルタール人とデニソワ人により現代人にもたらされてきました。たとえばオセアニア(Meyer et al., 2012、Larena et al., 2021)など、古代型祖先系統をより高水準で有している人口集団は、再導入された祖先型多様体をとくに高水準で有している可能性が高そうです。
図3は、アフリカ南部の先住民の多様な1集団であるコイサン人(Khoi-San)25個体と、フィリピンの1先住民集団であるアエタ人(Ayta)25個体のゲノム(Larena et al., 2021)を用いて、これら二つの仮定的状況を示しています。現代人でほぼ固定されていると考えられていた113個の多様体のうち、42個がコイサン人かアエタ人か両方で見つかります(図3)。顕著な事例はTKTL1です。TKTL1の祖先型は全体的な頻度約0.03%で現代人に存在します。しかし、コイサン人ではその頻度は約32%です。祖先型のTKTL1多様体の高頻度は、ほとんどの他集団で失われてしまった遺伝的多様体の一例である可能性が高そうです。以下は本論文の図3です。
継続中および将来のゲノム配列決定計画は、地理的により多様な人口集団を含むので、現時点では派生型でしか知られていないゲノム変化のより祖先型さえ見つかる可能性が高そうです。最終的に、ゲノム情報だけではなく表現型の情報も含む生物銀行が、より多様で以前には研究が不充分だった集団を含めるならば、多くの古代型多様体および生理学的に関連する表現型に対するその影響の調査を可能とするでしょう。
●ヒトの現代性の組み合わされた見解
ほとんどのヒトが派生的多様体を有する場合における稀な祖先型多様体の存在は、遺伝学的観点から現生人類をどう定義するのかについて、問題を提起します。これに関して展望を得るには、古人類学者が、骨格の頑丈さや顕著な眼窩上隆起や後頭骨の「束髪」などの特徴を用いて、骨格形態に基づいてネアンデルタール人と現生人類をどのように定義しているのか、検証するのが有益かもしれません。これらの特徴の大半は、ネアンデルタール人において派生的です。しかし、これらの特徴は現生人類でも見つけることができます。たとえば、一部の現代人はネアンデルタール人と同じくらい頑丈な骨格もしくは眼窩上隆起を有しています。それにも関わらず、ネアンデルタール人だけがこれらの特徴の全て若しくは殆どの組み合わせを有しています。
同様に、螻蛄婆の表現型の遺伝的基盤は、派生的な遺伝的特徴の組み合わせとして見るべきで、そうした派生的特徴の全てが、現生人類全員に存在するわけではありません。むしろ、一部の派生的な現代的特徴は、一部の現代人ではその祖先的形態に存在しているかもしれず、それは、そうした派生的特徴が古代型のヒトと現生人類の共通祖先から存続してきたか、古代型の遺伝子流動のためです。したがって、遺伝学的観点からは、現生人類は派生的多様体の組み合わせを有しているものとして定義でき、そうした派生的多様体は一般的ではあるものの、現代人全員に存在するわけではありません(図4)。逆に、現生人類に典型的な一部の派生的多様体は、一部のネアンデルタール人で見られるKNL1の派生型により示されるように、現生人類から古代型のヒトへともたらされた多様体を有するのに充分なほど後期に生きた一部の古代型のヒトに存在しています。以下は本論文の図4です。
もちろん、現生人類はほぼ完全に固定されているいくつかの変化(ひじょうに稀な復帰変異を無視するならば)も示すかもしれません。一例は、芳香族炭化水素受容体(aryl hydrocarbon receptor、略してAHR)のアミノ酸を変化させ、芳香族炭化水素を代謝する酵素の発現誘発能力を低下させる、AHR遺伝子における置換です。この多様体は、本論文が把握している限りでは、これまでどの現代人でも見られません。
ネアンデルタール人とデニソワ人によりもたらされた多様体を欠いている、現代人のゲノム領域がいくつかあります。それらは、現生人類で固定された多様体においてとくに豊富で、それは、そうした領域には古代型からの遺伝的寄与がほとんど含まれないからです。これらのゲノム領域は、現生人類の独自性の理解にとってとくに興味深いかもしれません(Sankararaman et al., 2014、Sankararaman et al., 2016、Vernot et al., 2016)。
●まとめと展望
ネアンデルタール人とデニソワ人のゲノムから、ネアンデルタール人とデニソワ人は現生人類と60万年前頃に共通祖先を有していた、と示されてきました。対照的に、現代人全員の祖先は、おそらく30万年前頃に存在していました。結果として、ネアンデルタール人とデニソワ人のゲノムの1.5~7%だけが、古代型ゲノムが現代人の差異の範囲外にある領域で構成されています。これらの領域には、現生人類と古代型のヒトとの間で頻度が大きく異なる、遺伝的多様体が存在します。しかし、ゲノムの他の領域の多様体は、これらの集団でも異なるかもしれません。
ゲノム領域の両種類【古代型と現代型】における違いは、現生人類の表現型にとって重要である可能性が高そうです。遺伝学的観点から現生人類は、各個体がこれらの遺伝的特徴のほとんどではあるものの、必ずしも全てではない遺伝的特徴の組み合わせとして最適に定義されます。じっさい、いくつかの若しくは多くの重要な変化の「爆発的な組み合わせ」が一緒になり、現生人類の祖先となった人口集団において高頻度になった可能性が高そうです。これらの変化は、現生人類の前と同時代の両方に存在した他のヒトと大きく異なる歴史的軌跡に現生人類が乗り出すことを可能とした、遺伝的基盤だったかもしれません。将来の壮大な課題は、これらのゲノム変化を特定することです。
古代型のヒトと現生人類との間の遺伝子流動は、現生人類と古代型のヒト両方に典型的な多様体の多くの生理学的結果の研究方法を提供します。現生人類で変化した多様体の事例では、集団間の混合は現代人に祖先型をもたらしたことが多くありました。しかし、古代型の遺伝子流動によりもたらされた多様体は稀であることが多く、その研究の能力を制約します。有望な展望は、生物銀行がより大きくなるだけではなく、その治験参加者の祖先系統の観点でもより多様になっていくことです。これが重要なのは、大規模な人口集団では稀な多様体が時には、無作為な遺伝的浮動がより大きな人口集団よりも大きな役割を果たす、より小さな人口集団ではかなりの頻度に達するからです(図3)。したがって、一部の祖先型多様体の表現型の影響は、小さな人口集団で研究できるかもしれません。
最後に、祖先型多様体が発達中もしくは成人個体において影響と関連している場合、そうした祖先型多様体はどのような意味でも「祖先的」もしくは「病的」ではない、と念頭に置いておくことは重要です。そうした祖先型多様体は、現生人類と密接に関連している健康な古代型のヒトで数十万年間よく機能しており、その殆ど若しくは全てが、おそらく現代人において機能しています。
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●要約
現生人類の祖先はネアンデルタール人およびデニソワ人の祖先と60万年前頃に分岐しました。4万年前頃まで、これら3集団は並行して存在し、時に遭遇し、遺伝子を好感しました。重要な疑問は、他の2集団【ネアンデルタール人とデニソワ人】ではなく現生人類が生き残り、人口増え、複雑な文化を発展させた理由です。本論文は、これら3集団間の遺伝的違いと、その機能的結果の一部を考察します。多様な集団からの現代人のゲノム配列がより多く利用可能になるにつれて、存在するとしても、ごく少数の違いが、全てのネアンデルタール人およびデニソワ人から全ての現生人類を区別するだろう、と予測されます。現生人類を構成するものの遺伝的基盤は、遺伝的特徴の組み合わせとして考えるのが最適で、その遺伝的特徴にはおそらく、現代人の各個体全員に存在するものはないだろう、と本論文は提案します。
●研究史
ヒトの集団が、アフリカで60万年前頃に現生人類の祖先から分岐しました【その場所がアジア南西部だった可能性も考えられると思います】。その集団の構成員は最終的にアフリカを去り、ユーラシアの西部ではネアンデルタール人、東部ではデニソワ人となりました。その後、現生人類、つまり現代人全員の祖先がアフリカで出現し、アフリカ大陸全域およびアフリカ大陸を越えて拡大し、ネアンデルタール人およびデニソワ人や、アフリカ外においてその時点で存在していた可能性が高い他の人類と遭遇しました。結果として、ネアンデルタール人とデニソワ人は、その時点で存在していたいわゆる古代型のヒトの他の分類群と同様に、4万年前頃までに考古学的記録から消滅しました(図1)。現生人類は、急速に変化し、ひじょうに多くの人口と地球の全ての生息可能地の植民を可能とした、文化と技術を発展させ続けました。主要な謎は、現生人類の人口がひじょうに多くなり、文化的に多様になったのに対して、ネアンデルタール人とデニソワ人が消滅した理由です。
ネアンデルタール人とデニソワ人と現生人類は共通の祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)を有していますが、相互の接触は限定的でした。それは、ヒトの進化が過去50万年間において実質的に3回起きたことを意味します。ゲノム配列を用いて、これらの集団の進化史と集団間の限定的な接触の側面を再構築できます。現生人類について、数十万人の現代人のゲノムは、過去45000年間に生きていた数千人のゲノム規模データがあります(Karczewski et al., 2020、Mallick et al., 2024)。ネアンデルタール人については、高品質の3個体(Mafessoni et al., 2020、Prüfer et al., 2014、Prüfer et al., 2017)のゲノム配列と、中程度もしくは低品質のゲノム配列が十数点あり(Castellano et al., 2014、Hajdinjak et al., 2018)、ネアンデルタール人の殆ど若しくは全個体さえ有していた可能性が高い、遺伝的多様体の特定が可能です。現時点で、高品質のデニソワ人のゲノムは1点のみが利用可能です(Meyer et al., 2012)。より古いゲノム利用可能になるでしょうが、古代の遺伝的差異に関する知識は、常に現代人に関する知識よりも限られているままになるでしょう。以下は本論文の図1です。
これらヒトの3分類群から得られたゲノムの比較では、これら3分類群がアフリカ外で遭遇した時に何度か遺伝子を交換した、と示されています(図1)。ネアンデルタール人は、現生人類の祖先と関連する集団から10万年以上前に遺伝子流動を受け取りました(Kuhlwilm et al., 2016、Chen et al., 2020、Harris et al., 2023)。さらに、ネアンデルタール人とデニソワ人は遺伝子を交換しており(Prüfer et al., 2014)、たとえば、シベリア南部では9万~8万年前頃に、ネアンデルタール人の母親とデニソワ人の父親の1個体が特定されました(Slon et al., 2018)。現生人類はアフリカと近東から10万年前頃以降に拡大を始めるとネアンデルタール人(Green et al., 2010)やデニソワ人(Meyer et al., 2012)と混合しました。結果として、サハラ砂漠以南のアフリカ外に遺伝的起源のある現代人全員は、ネアンデルタール人に由来する遺伝的多様体を有しています(Sankararaman et al., 2014)。現代詩アジア人の祖先はデニソワ人とも混合したので(Meyer et al., 2012、Reich et al., 2010)、アジア祖先系統の人々はネアンデルタール人の多様体に加えてデニソワ人の多様体を有しています。デニソワ人からのこの遺伝的寄与は、オセアニアの一部の人口集団においてとくに大きくなっています(Reich et al., 2010、Sankararaman et al., 2016)。
この分野は現在、集団間の混合の説明を超えて、ホモ属集団間で異なる遺伝的多様体の機能的影響の調査を始めつつあります。本論文は、生理学的に関連する多様体に重点を置きつつ、現代人におけるネアンデルタール人およびデニソワ人起源遺伝的多様体の研究から何を学べるのか、議論します。本論文は、単一の遺伝的多様体が特定の形質と関連づけられてきた事例に焦点を当てます。他の側面は、別の文献(Reilly et al., 2022)で再検討されてきました。ネアンデルタール人もしくはデニソワ人において現れた多くの祖先的多様体もしくは多様体が、一部の現在の人口集団において低頻度もしくは中程度の頻度で見つかることを考えて、本論文は、現生人類をネアンデルタール人やデニソワ人や今では絶滅した他のヒト分類群と区別する遺伝学的および生物学的基盤についてどのように考えることができるのかも、考察します。
●古代の多様体
現生人類と古代型のヒトが混合すると、その第一世代の子供は、現生人類の染色体一式と古代型のヒトの染色体一式を有していました。そうした子供たちが現生人類集団で暮らし、次に子供を産むと、ネアンデルタール人もしくはデニソワ人の染色体は、組換えの過程に起因して各世代で分解され、入れ替えられます。結果として、現生人類と古代型のヒトが遭遇して以来、約2000世代経過すると、古代型のDNA断片はより短くなり、現在では、現代人のゲノム内に散在して見られます(図2A)。古代型DNA断片の予測される長さは1/(r×N)として推定され、rは組換え率、Nは世代数です。100万塩基対(mega base pairs、略してMbp)あたり平均で約1 cM(センチモルガン)の組換え率と、2000世代前に起きた単一の混合事象との単純化した仮定下では、現在の古代型DNA断片について予測される典型的な長さは、約5000塩基対(5kbp)です。しかし、古代型DNA断片は見つかる各領域について、異なる長さの断片の分布としておらわれ、その末端は過去の組換え事象を表しています。しかし、断片1ヶ所が約2000世代前の遺伝子流動により起きたと確信するには、かなりの長さでなければなりません。以下は本論文の図2です。
ヒトゲノムには、ネアンデルタール人もしくはデニソワ人のゲノムと類似しているDNA断片もあり、それは。これらの断片が、古代型のヒトから現生人類へともたらされたからではなく、古代型のヒトと現生人類の両方で、50万年前頃に共通祖先を有して以降、独立して存続してきたからです。組換えはそうした断片でずっと長く作用してきたので、12 kbpより長い可能性は、上述の組換え率の仮定下では0.05未満で、これはネアンデルタール人系統の19500世代の長さと、現生人類系統の21500世代の長さです。これにより、共通祖先から継承されたDNA断片(平均で12 kbp以上である可能性は低そうです)と、より新しくネアンデルタール人もしくはデニソワ人から継承されたDNA断片(50kbpと予測されます)との間で予測される規模の違いに関して、おおよその着想が得られます。しかし、特定の断片を検証するさいには、古代型DNA断片それ自体が見つかるゲノムの一部における、局所的な組換え率に規模が依存する、と考慮することが重要です。この割合は、ゲノム全体だけではなく、人口集団間および経時的にも変わります。
1世代1部位あたり1.61×10⁻⁸の変異率と、19500世代のネアンデルタール人系統の長さを仮定すると、50kbpの典型的な長さでネアンデルタール人から継承されたDNA断片1ヶ所には、ネアンデルタール人系統で起きた変異から生じた約16個の多様体があるでしょう。つまり、それらはネアンデルタール人において「派生的」です(図1)。さらに、現生人類はネアンデルタール人とは独立して、ほぼ同数の派生的変化を蓄積してきました。最後に、ネアンデルタール人と現生人類は、祖先人口集団において相互との違いを有していたDNA断片のさまざまな異形を継承していることが多いので、現生人類とネアンデルタール人のDNA断片間の違いの数は、より多くなる可能性さえあります。したがって、古代型DNA断片は、周辺領域より多くの一塩基多様体(Single Nucleotide Variant、略してSNV)を有している点で、ヒトゲノムにおいて際立っていることが多くあります。
●古代の遺伝子流動
ネアンデルタール人の多様体はアフリカ外の全人口集団で見られ、非アフリカ系現代人のゲノムの最大2%を構成していますが、ある人口集団のさまざまな個体がさまざまなネアンデルタール人の多様体を有していることは多くあり、個々の多様体の頻度が人口集団間で劇的に異なることも時にあります。より少ない数のネアンデルタール人の派生的多様体は、ネアンデルタール人が消滅した後のヨーロッパおよびアジア西部からの遺伝子流動の結果として、サハラ砂漠以南のアフリカでも見つかっています(Chen et al., 2020)。
現代人のゲノムにおけるネアンデルタール人由来DNAの割合が約2%で比較的一貫している事実(Sankararaman et al., 2014)から、ネアンデルタール人からの寄与の大半は比較的初期、おそらくは6万年前頃に、アフリカを去って非アフリカ系現代人全員の祖先になった人口集団で起きた、と示唆されます。それにも関わらず、ヨーロッパの4万年以上前となる標本に由来する現生人類のゲノムの分析から、ネアンデルタール人は現生人類集団に局所的にも寄与した、と示されてきました。たとえば、ルーマニアの4万年前頃の1個体は、その家系の4~6世代前にネアンデルタール人の祖先がおり(Fu et al., 2015)、ブルガリアの1ヶ所の遺跡で見つかった45000年前頃の個体群にも近いネアンデルタール人の親族がいました(Hajdinjak et al., 2021)。しかし、これら初期現生人類集団の多くは、現在の人口集団へと遺伝的多様体を寄与した子孫を、多くは残さなかったか、あるいは全く残すことさえありませんでした。したがって、ネアンデルタール人による【非アフリカ系現代人全員の主要な祖先集団への1回の寄与が起きた】その後の【現生人類集団への】寄与は、現在の人口集団にはさほど影響を及ぼさなかったかもしれません(Fu et al., 2015、Hajdinjak et al., 2021)。
アジア本土およびアメリカ大陸先住民人口集団で見られるデニソワ人に由来する多様体は、現代人のゲノムの約0.2%に寄与しています。オセアニアの多くの人口集団では、そのゲノムの5%以上がデニソワ人起源です(Sankararaman et al., 2016、Larena et al., 2021)。デニソワ人からの遺伝的寄与は、少なくとも二つの異なるデニソワ人集団に由来します(Browning et al., 2018)。これらのデニソワ人の遺伝的寄与のうちの一つは、シベリア南部の遺骸から配列決定されたデニソワ人のゲノム(Meyer et al., 2012)とひじょうに密接に関連しており、その痕跡は日本や中国やアジア東部の他地域の現代人で見つけることができます。他のデニソワ人集団は、アジア東部および南部を含めて、アジアの大半の人口集団の祖先に寄与しました。このデニソワ人集団は、現在利用可能なデニソワ人のゲノムとはずっと遠い関係でした(Browning et al., 2018)。さらに、他のデニソワ人集団から太平洋の人々の祖先への寄与もあったかもしれません(Larena et al., 2021、Jacobs GS et al., 2019、Choin et al., 2021)。興味深い問題は、古代型のヒトおよび現生人類の系統で蓄積された遺伝的変化が、これらヒトの3分類群【ネアンデルタール人とデニソワ人と現生人類】の生理機能にどのように影響を及ぼしたのか、ということで、これらの人類集団のうち2集団(ネアンデルタール人とデニソワ人)は絶滅しました。
●古代型と現代型の多様体の影響の研究
ネアンデルタール人とデニソワ人により現代人へともたらされた遺伝的多様体の存在(通常はSNVですが、DNA配列における挿入や欠失やその他の変化もあります)は、そうした多様体が現代人において表現型と関連しているのかどうか問うことによって、そうした多様体の影響の調査を可能とします。これらの多様体は、ネアンデルタール人もしくはデニソワ人系統で起きた変異から由来したかもしれず、つまり、ネアンデルタール人やデニソワ人の系統において派生的か、あるいは、より稀ですが、この古代型2集団【ネアンデルタール人とデニソワ人】につながる共通系統で起きた変化に由来します。注目すべきことに、古代DNA断片は、現代人が現生人類において起きた変異によりもたらされた派生的変異を有している部位で、祖先の多様体も導入(Rinker et al., 2020)できます(図1)。
現生人類系統で発生し、ほぼ全ての現代人個体に存在する多様体は、表現型と関連づけることにより研究できず、それは、ほぼ全員これらの多様体が欠けていないので、対照群が存在しないからです。同様に、古代型のヒトで出現し、現生人類に寄与しなかった多様体は、現代人では研究できません。しかし、これらの多様体は、モデル体系で研究できます。たとえば、多様体はゲノム編集により祖先的状態もしくは古代型のヒトで見られる状態へと実験的に変化させることができます。次にこれらの多様体の影響は、細胞培養もしくはヒト器官の生理機能を部分的に模倣する原形質類器官で研究できます。別の可能ライは、マウスのゲノムへ現生人類もしくは古代型のヒトの遺伝的多様体を導入し、生物でその影響を研究することです。しかし、古代型多様体の実際の保因者の研究が、ひじょうに多くの情報をもたらすことはよくあります。これを可能にするには、いくつかの要件を満たさねばなりません。
要件の一つは、古代型多様体が、関連研究もしくは遺伝的および表現型の情報の利用可能な人口コホート(特定の性質が一致する個体で構成される集団)で検出されるのに充分なほど、高い頻度で見られることです。そうした研究とコホートはほぼヨーロッパ人の子孫の人口集団で生成されてきたので、デニソワ人より多くのネアンデルタール人の多様体がこれまで研究されてきました。しかし、日本生物銀行や東北医療大銀行や韓国ゲノムおよび疫学研究など、大規模な生物銀行がアジアでも次第に確立されてきており、デニソワ人からの遺伝的寄与も研究する可能性を開きつつあります。
現代人における古代型の遺伝的多様体研究のもう一つの要件は、検出されるのに充分な大きさの表現型の影響を有している必要があることです。単一の多様体の影響は小さいことが多く、数万もしくは数十万個体のコホートでは検出できないかもしれません。幸いなことに、遺伝的多様体の一部の種類は、研究できる表現型の影響を有している可能性が比較的高くなっています。たとえば、発現に影響を及ぼす多様体、もしくは膜組織を横断して分子を輸送する酵素あるいはタンパク質のアミノ酸配列は、細胞における化学的反応の触媒作用もしくは分子の蓄積など、測定可能な過程に直接的に影響を及ぼす効果があるかもしれません。しかし、対象となる多くの形質は遺伝的複雑で、つまりは多くの遺伝的多様体に影響を受けます。さらに、複雑な形質に関わる古代型の多様体は検出困難かもしれず、それは、その影響が、現代人にはもはや存在しないかひじょうに稀かもしれないゲノムにおいて他に、古代型多様体に依拠しているかもしれないからです。本論文は以下で、ネアンデルタール人に現れた遺伝的多様体を、次にデニソワ人に現れた多様体を考察し、最後に現生人類で現れた多様体を調べます。
●ネアンデルタール人において現れた遺伝的多様体
ネアンデルタール人に関して、高品質な3点のゲノムと低品質の十数点のゲノムが利用可能です。これら少数にも関わらず、ネアンデルタール人のゲノムは年代では13万年前頃から45000年前頃までとなり、ヨーロッパ西部からシベリア南部までのネアンデルタール人の範囲の大半を網羅しています。したがって、ネアンデルタール人で派生し、利用可能なネアンデルタール人のゲノムにおいて同型接合の形態で存在する多様体は、後期ネアンデルタール人集団において高頻度で存在した可能性がひじょうに高そうです。ほとんどのそうした多様体が研究されてきており、それは、遺伝子流動の結果としてそうした多様体が現代人でも見られるからです。本論文は、ネアンデルタール人で現れ、ヒトの生理機能のさまざまな側面に影響を及ぼす、数点の多様体を考察します。
●代謝
表現型の影響が説明されている現代人における最初のネアンデルタール人由来のDNA断片は、17番染色体上にあります。このDNA断片には、肝臓におけるピルビン酸輸送体タンパク質SLC16A11発現に影響を及ぼす調節多様体と、細胞表面においてその発言に必要なシャペロンとのSLC16A11の相互作用を気な称させるアミノ酸置換があります。SLC16A11のこの減少した細胞表面発現は、2型糖尿病の危険性増加と関連する脂肪酸と脂質代謝への変化をもたらします(Sankararaman et al., 2014)。これらの多様体はさまざまな長さのDNA断片に位置していますが(ここと以下では、0~1の間の規模でr²>0.8の人口集団におけるネアンデルタール人的なアレルの関連を有すると定義されます)、全て73 kbのDNA断片を共有しています。医学的重要性の代謝的結果を伴う一部のネアンデルタール人の遺伝子多様体も報告されてきており、たとえば、タンパク質カロリー栄養失調の危険性を増加せるもの(Simonti et al., 2016)や、一般的に使用される薬の代謝に影響を及ぼすものです。
●感覚器官
現代人における表現型の影響を伴う別のネアンデルタール人DNA断片は2番染色体上に位置し、末梢神経終末で痛覚を開始するナトリウムチャネル(Nav1.7タンパク質)をコードしています。ネアンデルタール人では、このタンパク質にはアミノ酸3個の変化があり、これらのアミノ酸変化のうち2個の組み合わせは、チャネルが活性化した後に不応性維持の時間を短縮し、刺激後にチャネルがより長くひらいた状態となります。これは、神経細胞をより敏感にさせるかもしれません。イギリスの人々の約0.4%は、SCN9A のネアンデルタール人型を伴う23 kb(r²>0.8)のDNA断片を有しています。これらの保因者は、質問事項で非保因者よりも多くの痛みを経験する、と報告しています。この増加は、寿命が8もしくは9年伸びるごとに人々が経験する痛みの増加にほぼ相当します(Zeberg et al., 2020A)。異型接合の形態でSCN9A のネアンデルタール人型を発現している人々はより多くの痛みを経験するので、同型接合のけいたいでこのタンパク質型を有していたネアンデルタール人は、現代人よりも痛みに敏感だった、と示唆したくなります。もしそうならば、痛みへの先天的な無感覚を引き起こす、SCN9Aにおける両アレルの機能喪失変異のネアンデルタール人型が平均余命を減少させる、ということを考えると、これは選択的利点でさえあるかもしれません。
●妊娠
11蕃染色体上のネアンデルタール人起源の56kbのDNA断片は、遺伝子発現を調節する転写因子として、ステロイドホルモンであるプロゲステロンにより活性化される、プロゲステロン受容体をコードしています。この断片他の型にはいくつかの違いがあり、コードされたタンパク質とAlu要素の挿入におけるアミノ酸多様体が含まれ、Alu要素はヒトや他の霊長類における転写因子です。一部の人口集団では、この遺伝子のネアンデルタール人型が保因者の頻度において最大21%で見られます。この遺伝子は現代人において早産の危険性増加と関連しているので、とくに現代的な医療保護のないネアンデルタール人にとって進化的な不利益を表している、と示唆されてきました。しかし、このネアンデルタール人型の多様体は妊娠初期の出血や竜山の危険性の約15%減少や、より多くのキョウダイがいることとも関連しています。
したがって、この多様体は進化的な相殺(トレードオフ)を表している、と推測したくなります。この相殺では、ネアンデルタール人の多様体は流産をもたらすだろう妊娠を救いますが、その代償はこれらの妊娠の一部が早産をもたらすことです。注目すべきことに、ネアンデルタール人のプロゲステロン受容体遺伝子の二つの異なる型が現生人類に寄与しており、過去1万年間の個体群の骨格遺骸での発生増加により示されるように、両者とも頻度が上昇してきました(Zeberg et al., 2020B)。両方のネアンデルタール人型はプロゲステロン受容体のより高い発現をもたらすので、妊娠中のより高いプロゲステロン効果を媒介するかもしれません。これは、プロゲステロン投与が以前に竜山を経験した女性の流産率を低下させる、との以前の調査結果と一致し、より高いホルモン水準もしくはより高い受容体水準により媒介されるプロゲステロン効果の増加が、危険性のある妊娠を保護するかもしれない、と示唆されます。
●免疫系
感染症は主要な選択要因なので、多くの御台型の遺伝子多様体の運命に影響を及ぼしました。たとえば、ウイルスと相互作用する遺伝子をコードするネアンデルタール人のDNA断片は、とくに高頻度に上昇した可能性が高そうなので、現代ヨーロッパ人の祖先では有利だった可能性が高そうです(Enard, and Petrov., 2018)。同様に、とくにウイルスに対する反応と関連する遺伝子の転写に影響を及ぼすネアンデルタール人の多様体は、現在の人口集団に頻繁にもたらされました(Quach et al., 2016)。さらに、自然免疫遺伝子を含むゲノム領域には、コーディングゲノムの残りよのも多くのネアンデルタール人の多様体が含まれているようです(Deschamps et al., 2016)。病原体に対して免疫応答に影響を及ぼす一部のネアンデルタール人の遺伝子多様体も、自己免疫疾患のり危険性を増加させるかもしれません(Sankararaman et al., 2014、Dannemann et al., 2016)。
免疫の古代型の寄与の一例は、4番染色体上の143kb長のDNA断片です。この断片には、トル様受容体をコードする3個の遺伝子が含まれており、トル様受容体は樹状細胞および大食細胞(マクロファージ)で発現し、微生物の保存された特徴を認識し、自然免疫応答を活性化させます。この領域のネアンデルタール人の多様体2個とデニソワ人の多様体1個が、現生人類において見られます(Dannemann et al., 2016)。これら3個の古代型多様体は現生人類に寄与し、現生人類において存続してきたので、有利に作用してきたようです。古代型多様体はその受容体の発現を増加させ、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染症への耐性増加と関連しています。免疫応答に影響を及ぼす他の多様体と同様に、これらの多様体は現在の人口集団間で頻度が異なっており、病原体からの局所的選択がそれらに影響を及ぼしたかもしれない、と示唆されます。
感染症への応答に影響を及ぼす古代型多様体の顕著な一例は、3番染色体上の49kbのネアンデルタール人DNA断片です。この断片には13個のヌクレオチド置換が含まれ症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2、略してSARS-CoV-2)を伴う感染症からの、人工呼吸器の必要性もしくは重死亡危険性がほぼ2倍高くなります。その根底にある機序は、この断片上でコードされる遺伝子の一つであるLZTFL1の発現だけではなく、他の遺伝子の発現も含んでいるかもしれません。
3番染色体上のネアンデルタール人多様体も、この領域の他の遺伝子、とくにCCR5の発現に影響を及ぼし、CCR5は、ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus、略してHIV)の共受容体として機能する炎症性細胞遊走因子(ケモカイン)受容体をコードします。この多様体は、ネアンデルタール人DNA断片を有する個体群では発現が少なく、HIVに感染する危険性を約25%減少させることにつながります。したがって、このネアンデルタール人断片はSARS-CoV-2世界的流行病では負に選択されましたが、他の状況では正の影響を及ぼします。これは、過去にもあった事例のようです。ネアンデルタール人型多様体がアジア南部では保因者頻度約60%に達したのに対して、アジア東部ではほぼ存在せず(Zeberg, and Pääbo., 2020)、過去の他の感染症がネアンデルタール人DNA断片の頻度をアジア南部では増加させ、アジア東部では減少させた、とおそらくは示唆しています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症度の関連研究でも、ネアンデルタール人に由来すると以前に示された12番染色体上の75kb長のDNA断片は、重篤な疾患に対して保護的である、と明らかにされました。残念ながら、その影響の大きさは、3番染色体上のネアンデルタール人の危険性多様体よりもほぼ5倍小さくなっています(Zeberg, and Pääbo., 2021)。12番染色体の断片は、二本鎖RNAを分解するリボヌクレアーゼ(RNase)の活性と関わる分子を合成する3個の遺伝子をコードします。ネアンデルタール人型多様体はこれらの遺伝子のうち1個の祖先的なスプライス形態をコードし、これはSARS-CoV-2ウイルスが複製する膜組織構造に局在するので、恐らくはこれと他のRNAウイルスにより感染した細胞を除去する効率がより高そうです。古代の現生人類1641個体においてこの多様体を経時的に追跡すると、ヨーロッパの人口集団において過去に頻度が2回上昇し(Zeberg, and Pääbo., 2021)、おそらくは感染症への応答だろう、と示されました。
多くのネアンデルタール人型多様体が感染症と関連する表現型に影響を及ぼしている、という事実は偶然ではないかもしれません。感染症は人口集団に影響を及ぼす主因で、経時的にとくに急速に変化します。ユーラシアの古代型のヒト集団は異なる病原性の課題に直面し、その免疫系の適応を必要としました。病原体へのそうした局所的な適応は、現生人類においてよく説明されている現象で、顕著な一例は、鎌状赤血球症とマラリア耐性との間の関係です。古代型のヒトも同様の進化圧を経た、ということを疑う理由はほとんどありません。古代型のヒトと現生人類との間の免疫系の違いは、その長い地理的な分離の明確な現れかもしれません。
●複雑な形質
慎重もしくは認知能力のようなほとんどのヒトの形質は、人口集団において連続的に変化し、ゲノムの多くの部分の多くの遺伝的多様体や環境に影響を受けます。古代型のヒトからの遺伝子流動がそうした複雑な形質にどのように影響を及ぼしたのか、研究することは困難で、それは、最も顕著には、各遺伝的多様体の影響の大きさが一般的に小さいからです。したがって、現在の分析は、個々の多様体と複雑な票気系との間の直接的な比較に依拠していません。代わりに、1人口集団における全てのネアンデルタール人もしくはデニソワ人の多様体は、組み合わされると、特定の方向性で複雑な形質に影響を及ぼす傾向があるのか、あるいは複雑な疾患の危険性の分散の割合を説明するのかどうか、調べられています。たとえば、そうした研究では、ネアンデルタール人のアレル(対立遺伝子)が鬱病や日光誘発性皮膚障害の危険性における差異の顕著な割合を説明する、と示されてきました(Simonti et al., 2016)。
一部の研究でも、特定の形質に影響を及ぼす古代型多様体の過剰もしくは過少存在があるのかどうか、問われてきました。一般的に、複雑な形質は予測されているよりもネアンデルタール人祖先系統に影響を受けない、と分かりました。405点の複雑な形質のうち、皮膚科学的形質が最も影響を受けましたが、認知形質はネアンデルタール人型DNAに最も影響を受けませんでした。後者の観察は、脳における遺伝子の発現では、他の器官における遺伝子の発現よりネアンデルタール人型多様体の影響は少ないことが多い、との観察と一致します。
●遺伝子発現
多くの複雑な形質は、遺伝子発現水準により影響を受けるかもしれません。ある研究では、ある遺伝子のネアンデルタール人型多様体1個と現代型多様体1個を有する個体群において、ネアンデルタール人型多様体は現生人類型多様体より発現が少ない傾向にある、と示されました(McCoy et al., 2017)。これは精巣と脳、とくに小脳と大脳基底核において顕著で、ネアンデルタール人型調節配列に対する選択はそれらの組織でとくに強い、と示唆されます。これは、認知形質に関するネアンデルタール人型多様体の相対的に低い影響と一致します。
より古い古代型の多様体は、より最近の古代型の多様体よりも、現生人類では耐性がありました。シベリアのネアンデルタール人(Prüfer et al., 2014)とクロアチアのネアンデルタール人(Prüfer et al., 2017)との間で共有されている多様体は、これらの個体の一方でのみ見つかる多様体より古い可能性が高そうですが、ネアンデルタール人とデニソワ人との間で共有されている多様体はさらに古い可能性が高そうです。遺伝子調節の事例では、遺伝子の発現を上方制御する古代型多様体は現在の人口集団では少なく、例外はネアンデルタール人とデニソワ人との間で共有されている多様体である、と示されてきました。
したがって、長期間古代型集団で存続してきた多様体は、ネアンデルタール人でより新しい起源の多様体よりも、現生人類に有利な影響を及ぼしてきたかもしれません。これは、古代型集団が浄化選択を通じて有害なアレルの除去の時間をより長く有していたからかもしれません。より古い古代型多様体が、現生人類の祖先と共有されていた祖先的形質とより適合していたかもしれません。さらに、後期ネアンデルタール人では有害な遺伝的多様体がとくに容易に蓄積されたかもしれず、それは、ネアンデルタール人の人口規模が小さく、わずかに有害な多様体がより容易に頻繁に発生しやすくなったからです(Harris, and Nielsen., 2016)【最近の研究(Harris et al., 2023)はこの見解に否定的です】。
●デニソワ人において現れた遺伝的多様体
現時点で、デニソワ人の高品質なゲノムは1点しか利用可能ではないので、特定の多様体がデニソワ人においてどの程度で存在したのか、ほとんど分かっていません。さらに、表現型への影響を伴うデニソワ人からの遺伝的寄与の事例は比較的少数しか知られていません。その主要な理由は、アジアで利用できる関連研究と生物銀行が少ないからで、幸いにも、この状況は急速に変わりつつあります。
●高地適応
現在の人口集団へのデニソワ人からの影響の顕著な一例は、チベット人では80%以上のアレル頻度で見られるものの、他のアジアの人口集団では存在しないかひじょうに稀である、2番染色体上の33kb長のデニソワ人DNA断片です(Huerta-Sánchez et al., 2014、Zhang et al., 2021)。そのDNA断片は、低酸素水準への適応と関わっている低酸素により誘発される転写因子である、EPAS1(Endothelial PAS Domain Protein 1、内皮PASドメインタンパク質1)をコードしています。デニソワ人はチベット高原に存在していたので(Chen et al., 2019、Zhang et al., 2020)、デニソワ人の一部は高地での生活に適応し、おそらくはこの遺伝的素質を現生人類がこの地域に到来した時に現生人類にもたらしたのかもしれません。
●寒冷適応と顔の形態
デニソワ人からの遺伝的寄与の別の一例は、WARSおよびTBX15遺伝子のある1番染色体上の28kb長の断片です。この断片は、グリーンランドのイヌイットといくつかの他の人口集団のほぼ100%に存在します。デニソワ人型多様体は、おそらくは褐色脂肪を誘発することにより、低温への適応に影響を与えるかもしれない、遺伝子の発現に影響を及ぼします(Fumagalli et al., 2015)。不思議なことに、この断片は上唇の厚さおよびその突出とも関連づけられてきました。じっさい、その祖先型は粥状動脈硬化および炎症性腸疾患とも関連づけられてきており、炎症性腸疾患は、酸化圧力により悪化するかもしれない炎症性構成要素を有する疾患です。これは、この酵素の現代型が酸化圧力に対してより優れた保護を提供する、という仮説を裏づけます。
●スプライシング
タンパク質NOVA1は、転写物の3’末端のスプライシングとプロセシングに関わっています。NOVA1は、現生人類では1点のアミノ酸置換があります。祖先型多様体を有するよう改変されたヒト幹細胞から生成された脳原形質類器官は、形態とシナプス性タンパク質の発現と電気生理における違いを示しました。この実験は、遺伝学的違いの生理学的関連を研究するのに貴重な手法ですが、観察された影響は、ゲノム編集の副作用として発生することが多い、標的遺伝子の欠失に起因するかもしれません。興味深いことに、NOVA1の祖先型は現在のデータベースでは、他のデータと表現型が利用可能な、精密医療のための横断研究(Trans-Omics for Precision Medicine、略してTOPMed)計画に含まれている少なくとも4個体で見られます。したがって、祖先型多様体の影響は、ヒト保因者で研究できるかもしれません。
●神経発生
細胞分裂中の染色体分離と関わっている3個のタンパク質、つまりKIF18AとKNL1とSPAG5はそれぞれ、現生人類固有のアミノ酸置換を1個と2個と3個有しています。これら6個の変化をマウスに導入することで(単独もしくは組み合わせて)、KNL1とKIF18Aにおける現生人類の変化は有糸分裂の一部である、染色体が2個の娘細胞に引き離される寸前に整列する中期を延長する、と明らかにされました。この延長は、脳発達中において神経細胞を生成する未分化型前駆細胞で観察されます。
3個の祖先型多様体が、脳原形質類器官を生成するのに用いられるヒト幹細胞のKNL1とKIF18Aに導入されると、中期の短縮が観察されました。注目すべきことに、祖先型多様体を有する原形質類器官における中期の短縮は、チンパンジーとヒトの原形質類器官間で観察される中期の長さの違いと類似しています。現生人類における中期の延長は、染色体誤分離数の減少と相関しているようです。これが示唆するのは、これらの変化が初期の神経発生における染色体分離の精度を高めるかもしれない、ということです。興味深いことに、KNL1の現生人類型は、現生人類の祖先からの遺伝子流動の結果として一部の後期ネアンデルタール人に見られ、ヒトの3分類群【ネアンデルタール人とデニソワ人と現生人類】間の接触が多く起きた証拠を追加します。
現生人類では、五炭糖リン酸塩経路におけるトランスケトラーゼ様1(transketolase-like 1、略してTKTL1)には、1個のアミノ酸置換があります。タンパク質の古代のヒト型と現生人類型がマウスもしくはフェレットの発達中の脳で過剰発現されると、現生人類型はより多くの基底放射状グリア細胞をもたらします。逆に、TKTL1の祖先型を有する幹細胞から生成されたヒト脳原形質類器官は、より少ない基底放射状グリア細胞と神経細胞を生成します。これが示唆するのは、このアミノ酸置換が発達の初期に神経発生に影響する代謝変化を引き起こす、ということです。
染色体分離に影響を及ぼすKNL1とKIF18Aにおける変化と、神経前駆細胞の生成に影響を及ぼすTKTL1における変化は両方、初期の脳発達中に影響を及ぼします。これらの影響が成人の脳に何らかの結果をもたらすのかどうかの解明には、他の機序が補完する可能性があるので、さらなる研究が必要です。
●現代人における祖先型多様体
歴史的に、ヨーロッパ系の人々はゲノム研究の主要な対象とされてきました。したがって、全現代人に存在すると考えられていた遺伝的変化の最初の一覧は不完全で、それは、世界の人口集団の一部しか検証していなかったからです。世界のより多くの地域からより多くのヒトゲノムが配列決定されるにつれて、現代人には存在しないと考えられていた祖先型の遺伝的多様体が、一部の人口集団で見つかっています。逆に、ヨーロッパ系の人口集団は他地域ではほぼ存在しない祖先型多様体を有している、と分かっています。
祖先型多様体が現在も見られる理由は二つあります。第一に、一部の祖先型多様体は現生人類と古代型のヒトの共通祖先が60万年前頃に生きていた時以来、存続してきました。これはアフリカにおいてとくに頻度が高く、アフリカではアフリカ外の地域より遺伝的多様性が大きくなっています。第二に、祖先型多様体はネアンデルタール人とデニソワ人により現代人にもたらされてきました。たとえばオセアニア(Meyer et al., 2012、Larena et al., 2021)など、古代型祖先系統をより高水準で有している人口集団は、再導入された祖先型多様体をとくに高水準で有している可能性が高そうです。
図3は、アフリカ南部の先住民の多様な1集団であるコイサン人(Khoi-San)25個体と、フィリピンの1先住民集団であるアエタ人(Ayta)25個体のゲノム(Larena et al., 2021)を用いて、これら二つの仮定的状況を示しています。現代人でほぼ固定されていると考えられていた113個の多様体のうち、42個がコイサン人かアエタ人か両方で見つかります(図3)。顕著な事例はTKTL1です。TKTL1の祖先型は全体的な頻度約0.03%で現代人に存在します。しかし、コイサン人ではその頻度は約32%です。祖先型のTKTL1多様体の高頻度は、ほとんどの他集団で失われてしまった遺伝的多様体の一例である可能性が高そうです。以下は本論文の図3です。
継続中および将来のゲノム配列決定計画は、地理的により多様な人口集団を含むので、現時点では派生型でしか知られていないゲノム変化のより祖先型さえ見つかる可能性が高そうです。最終的に、ゲノム情報だけではなく表現型の情報も含む生物銀行が、より多様で以前には研究が不充分だった集団を含めるならば、多くの古代型多様体および生理学的に関連する表現型に対するその影響の調査を可能とするでしょう。
●ヒトの現代性の組み合わされた見解
ほとんどのヒトが派生的多様体を有する場合における稀な祖先型多様体の存在は、遺伝学的観点から現生人類をどう定義するのかについて、問題を提起します。これに関して展望を得るには、古人類学者が、骨格の頑丈さや顕著な眼窩上隆起や後頭骨の「束髪」などの特徴を用いて、骨格形態に基づいてネアンデルタール人と現生人類をどのように定義しているのか、検証するのが有益かもしれません。これらの特徴の大半は、ネアンデルタール人において派生的です。しかし、これらの特徴は現生人類でも見つけることができます。たとえば、一部の現代人はネアンデルタール人と同じくらい頑丈な骨格もしくは眼窩上隆起を有しています。それにも関わらず、ネアンデルタール人だけがこれらの特徴の全て若しくは殆どの組み合わせを有しています。
同様に、螻蛄婆の表現型の遺伝的基盤は、派生的な遺伝的特徴の組み合わせとして見るべきで、そうした派生的特徴の全てが、現生人類全員に存在するわけではありません。むしろ、一部の派生的な現代的特徴は、一部の現代人ではその祖先的形態に存在しているかもしれず、それは、そうした派生的特徴が古代型のヒトと現生人類の共通祖先から存続してきたか、古代型の遺伝子流動のためです。したがって、遺伝学的観点からは、現生人類は派生的多様体の組み合わせを有しているものとして定義でき、そうした派生的多様体は一般的ではあるものの、現代人全員に存在するわけではありません(図4)。逆に、現生人類に典型的な一部の派生的多様体は、一部のネアンデルタール人で見られるKNL1の派生型により示されるように、現生人類から古代型のヒトへともたらされた多様体を有するのに充分なほど後期に生きた一部の古代型のヒトに存在しています。以下は本論文の図4です。
もちろん、現生人類はほぼ完全に固定されているいくつかの変化(ひじょうに稀な復帰変異を無視するならば)も示すかもしれません。一例は、芳香族炭化水素受容体(aryl hydrocarbon receptor、略してAHR)のアミノ酸を変化させ、芳香族炭化水素を代謝する酵素の発現誘発能力を低下させる、AHR遺伝子における置換です。この多様体は、本論文が把握している限りでは、これまでどの現代人でも見られません。
ネアンデルタール人とデニソワ人によりもたらされた多様体を欠いている、現代人のゲノム領域がいくつかあります。それらは、現生人類で固定された多様体においてとくに豊富で、それは、そうした領域には古代型からの遺伝的寄与がほとんど含まれないからです。これらのゲノム領域は、現生人類の独自性の理解にとってとくに興味深いかもしれません(Sankararaman et al., 2014、Sankararaman et al., 2016、Vernot et al., 2016)。
●まとめと展望
ネアンデルタール人とデニソワ人のゲノムから、ネアンデルタール人とデニソワ人は現生人類と60万年前頃に共通祖先を有していた、と示されてきました。対照的に、現代人全員の祖先は、おそらく30万年前頃に存在していました。結果として、ネアンデルタール人とデニソワ人のゲノムの1.5~7%だけが、古代型ゲノムが現代人の差異の範囲外にある領域で構成されています。これらの領域には、現生人類と古代型のヒトとの間で頻度が大きく異なる、遺伝的多様体が存在します。しかし、ゲノムの他の領域の多様体は、これらの集団でも異なるかもしれません。
ゲノム領域の両種類【古代型と現代型】における違いは、現生人類の表現型にとって重要である可能性が高そうです。遺伝学的観点から現生人類は、各個体がこれらの遺伝的特徴のほとんどではあるものの、必ずしも全てではない遺伝的特徴の組み合わせとして最適に定義されます。じっさい、いくつかの若しくは多くの重要な変化の「爆発的な組み合わせ」が一緒になり、現生人類の祖先となった人口集団において高頻度になった可能性が高そうです。これらの変化は、現生人類の前と同時代の両方に存在した他のヒトと大きく異なる歴史的軌跡に現生人類が乗り出すことを可能とした、遺伝的基盤だったかもしれません。将来の壮大な課題は、これらのゲノム変化を特定することです。
古代型のヒトと現生人類との間の遺伝子流動は、現生人類と古代型のヒト両方に典型的な多様体の多くの生理学的結果の研究方法を提供します。現生人類で変化した多様体の事例では、集団間の混合は現代人に祖先型をもたらしたことが多くありました。しかし、古代型の遺伝子流動によりもたらされた多様体は稀であることが多く、その研究の能力を制約します。有望な展望は、生物銀行がより大きくなるだけではなく、その治験参加者の祖先系統の観点でもより多様になっていくことです。これが重要なのは、大規模な人口集団では稀な多様体が時には、無作為な遺伝的浮動がより大きな人口集団よりも大きな役割を果たす、より小さな人口集団ではかなりの頻度に達するからです(図3)。したがって、一部の祖先型多様体の表現型の影響は、小さな人口集団で研究できるかもしれません。
最後に、祖先型多様体が発達中もしくは成人個体において影響と関連している場合、そうした祖先型多様体はどのような意味でも「祖先的」もしくは「病的」ではない、と念頭に置いておくことは重要です。そうした祖先型多様体は、現生人類と密接に関連している健康な古代型のヒトで数十万年間よく機能しており、その殆ど若しくは全てが、おそらく現代人において機能しています。
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