大相撲春場所千秋楽

 今場所は1横綱4大関で、全員初日には出場してきましたから、昨年(2023年)前半は1横綱1大関で、初場所は横綱が、春場所は横綱も大関も休場したことを考えると、「豪華な」番付に戻った、と言えるかもしれません。しかし、早くも2日目で横綱と大関に無敗がいなくなるなど、上位陣が全体的に充実しているとは評価し難いように思います。満身創痍の照ノ富士関はいつ引退してもおかしくない、と最近ではずっと思っていましたが、今場所は6日目で4敗となり、7日目から休場しました。照ノ富士関が引退できないのは、一人横綱なので横綱不在を避けようとしている意図もあるのでしょうが、あるいは年寄株をまだ入手できていないからでしょうか。

 大関陣では角番で陥落どころか引退の可能性もある、とさえ私が考えていた貴景勝関は、状態が完調に戻ることはもうないかもしれませんが、今場所は一定以上の力を出せる状態にあったようで、9日目まで7勝2敗と好調でした。しかし、そこから3連敗となり、大関陥落かと懸念されたところ、13日目に琴ノ若関に組み止められながらも何とか勝ち、その一番で負傷して14日目と千秋楽は休場し、けっきょく8勝6敗1休で何とか角番を脱しました。貴景勝関が横綱に昇進することはないでしょうし、今後どのくらい大関の地位を保てるのか分かりませんが、組むとさっぱりで突き押し一辺倒の相撲ながら、大関としてよく健闘しているとは思います。現在の上位陣との力関係を考えると、貴景勝関はもう1回優勝できるかもしれませんが、その可能性は低そうです。

 本当に意外だったのは、横綱の照ノ富士を除けば最も安定した強さがある、と私も評価していた霧島関で、場所前も好調を伝えられていたのに、初日から強敵相手とはいえ4連敗してしまいました。霧島関は後半に強く、それは豊富な稽古量のため他の力士よりも終盤で疲れにくいからだろう、と私は考えており、優勝は無理でも立て直して勝ち越せるのではないか、と4日目終了時点では予想していましたが、早くも11日目に負け越してしまいました。けっきょく霧島関は5勝10敗に終わり、初日もしくは3日目あたりから状態が悪かったのでしょうが、霧島関は横綱に最も近いと思っているので、状態を戻せば来場所は優勝争いに加わってくるのではないか、と思います。

 優勝争いは、新入幕の尊富士関が引っ張る予想外の展開となりました。確かに、尊富士関は期待の力士として注目されていましたが、幕内下位を相手に勝ち越すと、9日目からは上位戦となり、今場所好調の阿炎関、1敗の大の里関、大関で2敗の琴ノ若関を破り、11日目終了時点で全勝だったのは、本当に見事だと思います。尊富士関は後半には続けて上位陣と対戦し、12日目にはついに豊昇龍関に負けたものの、13日目には若元春関に堂々と勝ち、14日目を迎えた時点で、優勝争いは1敗の尊富士関と3敗の大の里関および豊昇龍関に絞られました。

 14日目には、まず尊富士関が大関経験者ですでに勝ち越している朝乃山関と対戦し、朝乃山関が厳しい攻めで寄り切って勝ちましたが、この一番で尊富士関は負傷したようで、千秋楽の出場も難しいように見えました。大の里関は阿炎関と対戦し、阿炎関に得意の喉輪からの突きで押し込まれたものの、はたき込んで勝ち、優勝争いは千秋楽までもつれることになりました。豊昇龍関は結びの一番で琴ノ若関と対戦し、寄り倒されて負けて4敗となり、優勝争いから脱落しました。豊昇龍関は今場所相撲内容があまりよくなかったので、最近分の悪い琴ノ若関に負けても不思議ではありませんが、琴ノ若関よりも勝負強い印象がありましたし、ここは豊昇龍関が勝ち、千秋楽は大の里関に勝って優勝するのかな、と予想していただけに、意外でした。豊昇龍関は、最近分が悪いことと、今場所調子があまりよくないことを意識しすぎたのか、変わり気味に上手を取りにいき、自滅した感もあります。

 千秋楽は、2敗の尊富士関を3敗の大の里関が追いかける展開となり、尊富士関は4敗と好調な豪ノ山関と、大の里関は結び前の一番で豊昇龍関との対戦となりましたが、当然休場すると思っていた尊富士関が出場してきたのには本当に驚きました。尊富士関は14日目の取り組み後には、千秋楽はもちろん来場所も休場になりそうと思っていたくらいなので、もちろん部外者には負傷の程度が分からないとはいえ、まだ先があるだけに、この選択が今後身体に深刻な影響を及ぼさないよう、願っています。尊富士関は負傷を感じさせないような力強い相撲で豪ノ山関を圧倒して押し倒しで勝ち、13勝2敗で110年振りとなる新入幕優勝を果たしました。たいへんな快挙ですが、すでに24歳であることも考慮すべきではないかな、とも思います。尊富士関の真価が問われるのは幕内上位に昇進する来場所以降で、大の里関や今場所8勝7敗と勝ち越した熱海富士関とともに、大関さらには横綱を目指してもらいたいものです。

 結び前の豊昇龍関と大の里関の一番は、優勝争いと無関係になったものの、両者ともに気合が入っていたようで、豊昇龍関が攻め込まれながらも下手投げで勝ちました。大の里関は11勝4敗で、新入幕の先場所に続いて二桁勝利としましたが、体格と力に頼った強引な相撲が目立ち、土俵際の詰めに甘いところがあり、大関を目指すにはまだ課題が多そうです。ただ、大関相手にも力負けしないような取り口はたいへん魅力的です。新大関の琴ノ若関は10勝5敗で、今場所は昇進祝いなどで調整の難しいところもあったでしょうから、来場所以降のさらなる活躍が期待できそうです。豊昇龍関は11勝4敗で、尊富士関に今場所初黒星をつけるなど存在感を示しましたが、相変わらず強引な相撲も見られ、大怪我が心配されます。ただ、そうした取り口が豊昇龍関の持ち味とも言えるかもしれません。

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