『卑弥呼』第127話「湖南」
『ビッグコミックオリジナル』2024年4月5日号掲載分の感想です。前回は、朝鮮半島の馬韓の湖南(コナム)国に向かうため、近くの邑に到着したヤノハ一行が、毒矢に倒れている邑人を見て、邑人が「鬼は外」と呟いているのを聞いたところで終了しました。今回は、ヤノハ一行がその邑で、邑人の遺骸の確認をしている場面から始まります。遺骸は合計20体で、全員屈強な体躯の者たちです。ヤノハは、男性が氏の直前に呟いた、「鬼は外」の意味が気になっていました。オオヒコが周囲を調べて、酒盛りの最中に吸収され、全員フグ毒の鏃で射殺されていた、と判明します。賊は海から来たのか、とトメ将軍が推測すると、ヤノハと旧知の漢人(という分類を作中の舞台である紀元後3世紀に用いてよいのか、疑問は残りますが)である何(ハウ)が、大量の武器と鎧兜が保存されている倉庫にヤノハを案内します。ヤノハは、女子供がいないのは戦人の邑だったからだろうか、と推測すると、ヌカデが現れ、女子供と老人が見つかった、と報告し伸す。そこには、多数の他人事の死骸があり、虫が湧いていることから、ある程度時間が経過していたようです。この遺骸の傷は、矢ではなく刀か槍で、この邑には堀も塀もないことから、戦のない平和な地だったのか、とヤノハ一行は推測します。目達(メタ)国のスイショウ王の指示により朝鮮半島に残った人々の邑の長であるヒホコが、敵の正体が見えない限り、一刻も早くこの地を去るべきだ、と進言すると、騎馬兵2人が現れ、警戒するトメ将軍とオオヒコをヤノハは制します。ヒホコの通訳により、騎馬兵2人が、倭国の使者と見たが、王がお呼びだ、と伝えてきたことが分かります。トメ将軍はひとまず自分が倭の使節の長として面会する、と言ってヤノハも許可し、馬に乗った戦人を初めて見たヤノハは、徒歩であればひとたまりもない、と改めて痛感します。
日下(ヒノモト)国の庵戸宮(イオトノミヤ)では、吉備津彦(キビツヒコ)と名乗るようになったイサセリが、双子の姉であるモモソを出迎えていました。「都」である軽(カル)の様子を知りたい吉備津彦に、突然大君が死亡したので、摂政と大臣の大騒ぎも無理はなく、御大喪の後に、新大君の御即位をいつにするか、自分に占えと言われた、とモモソは説明します。クニクル王君(記紀の孝元天皇、つまり大日本根子彦国牽天皇でしょうか)の死因を問われたモモソは、急な病としか言えない、とはぐらかしますが、吉備津彦はモモソに耳打ちして、真の理由を尋ねます。モモソは、クニクル王君の息子であるハニヤス(武埴安彦命でしょうか)のことだから、毒茸か附子(ブス、トリカブト)を用いると思ったが、意外にもおそらくフグの肝を用いた、と答えます。コケモモの汁で割ったから生臭さもなく、クニクル王君は疑わずに飲んだ、というわけです。ハニヤスは吉備津彦のことを好きと言っているから安心するよう言ったモモソは、吉備津彦が次の王君、つまりクニクル王君の後継者とされていたネコ王子(記紀の開花天皇、つまり稚日本根子彦大日日天皇でしょうか)が大丈夫なのか、案じていると悟り、ネコ王子に、ハニヤスは役に立つから他の弟妹と分け隔てなく付き合うよう諭した、と吉備津彦に伝えます。ネコ王子は憔悴しているのではない、と吉備津彦に問われたモモソは、それがなかなかのお方で、もうすっかり自分について考えているようだ、と答えます。ネコ王子はどのような世にしたいと考えているのか、と吉備津彦に問われたモモソは、まず名前を変えたいと言っている、と答えます。父親であるクニクル王君にも祖父であるフトニ王(大日本根子彦太瓊天皇、つまり記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)にも名前にネコがついているので、根の子、つまり黄泉の国という意味だから早死にしたのではないか、とネコ王子は考えているわけです。そこでネコ王子は、自分のもう一つの名であるビビと呼ぶよう、モモソに伝えていました。ビビは日々、つまり天照様が二柱だから長寿だろうと考えているのだ、とモモソはネコ王子の意図を推測します。そんなことはどうでもよい、と毒づいた吉備津彦は、ビビの新王君は今後の日下をどう考えているのか、とモモソに尋ねます。モモソが、吉備津彦将軍の好きなようにさせるつもりで、戦がしたければどうぞということだ、と答えると、なかなか話の分かる大君だ、と吉備津彦は満足そうです。
湖南国では、トメ将軍を代表としてヤノハ一行が湖南王と謁見し、湖南王は韓の言葉ではなく漢の言葉であいさつしました。ヤノハは、湖南王が遼東の公孫一族の影響下にある、と察します。ヤノハ一行の通訳は何が務め、トメ将軍が挨拶すると、湖南王はトメ将軍に、帯方郡への通行証が欲しいのか、と尋ねます。トメ将軍がそうだと答えると、湖南王は、条件を提示します。その条件についてトメ将軍が尋ねると、鬼を知っているか、と湖南王は問うてきました。知っている、とトメ将軍が答えると、今度は「ソト」を知っているか、と湖南王は訪ねてきました。ソトとは中土(中華地域のことでしょう)の文字で「蘇塗」と記し、鬼が棲む邑だ、と湖南王の配下は説明します。湖南王は、馬韓には鬼人を祭る邑が数ヶ所あり、古くからの掟があって、どんな凶悪な科人(トガビト)でもそこに逃げ込めば、王でも手を出せない、とヤノハ一行に説明します。蘇塗とは千穂(現在の高千穂でしょうか)のような隠れ里で、それが「鬼は外」の意味なのか、とヌカデとヤノハは推測します。ヤノハ一行が見た邑はその者たちの仕業なのか、とトメ将軍に問われた湖南王は肯定し、蘇塗の一つが叛乱を起こしたので、トメ将軍一行に成敗を命じる、と伝えます。それが帯方郡までの通行証を得るための必須の条件なのか、とトメ将軍が問うと、湖南王は肯定します。なぜ倭人がその者たちを討伐しなければならないのか、トメ将軍に問われた湖南王は、蘇塗の民を先導した者がおり、その者はまず、湖南王の殺害、さらには辰韓と弁韓、朝鮮全土の支配が目的だ、と答えます。叛乱軍の頭が何者なのか、トメ将軍に問われた湖南王は、人にして鬼神の仕業で、その者は顔中に黥を彫った醜い倭人だ、と答えます。湖南王から、敵が倭人の率いる軍団なら、そなたたち倭人に破る責任があるだろう、とヤノハ一行が言われたところで、今回は終了です。
今回は、日下の政治情勢と、馬韓でのヤノハ一行の動向が描かれました。日下では、クニクル王君が毒殺され、ネコ王子がビビ王として即位することになり、新王君は吉備津彦に軍事を任せるようですから、日下が近いうちに山社(ヤマト)国連合に攻め込むことになりそうです。一方、ヤノハはそれに対抗するため、魏の後ろ盾を得ようとしていますが、それには遼東公孫氏が立ちはだかり、さらに遼東公孫氏に策を仕掛けるため帯方郡に行く前に、蘇塗の邑を討伐するよう命じられ、困難な状況に陥ります。蘇塗の邑の叛乱を先導した倭人とは、倭国内の勢力とつながりがあるのか、気になるところで、ハニヤスと同じくフグ毒を用いていることから、ヤノハが魏と結ぶことを警戒した日下の指示かもしれません。ただ、そもそも倭人なのか、そうだとして何が目的なのか、まだ断定できないというか、どうも予想しにくいところがあります。朝鮮半島情勢も本格的に描かれてきて、今後は遼東公孫氏も登場するでしょうから、ますます壮大な話になっており、今後の展開もたいへん楽しみです。
日下(ヒノモト)国の庵戸宮(イオトノミヤ)では、吉備津彦(キビツヒコ)と名乗るようになったイサセリが、双子の姉であるモモソを出迎えていました。「都」である軽(カル)の様子を知りたい吉備津彦に、突然大君が死亡したので、摂政と大臣の大騒ぎも無理はなく、御大喪の後に、新大君の御即位をいつにするか、自分に占えと言われた、とモモソは説明します。クニクル王君(記紀の孝元天皇、つまり大日本根子彦国牽天皇でしょうか)の死因を問われたモモソは、急な病としか言えない、とはぐらかしますが、吉備津彦はモモソに耳打ちして、真の理由を尋ねます。モモソは、クニクル王君の息子であるハニヤス(武埴安彦命でしょうか)のことだから、毒茸か附子(ブス、トリカブト)を用いると思ったが、意外にもおそらくフグの肝を用いた、と答えます。コケモモの汁で割ったから生臭さもなく、クニクル王君は疑わずに飲んだ、というわけです。ハニヤスは吉備津彦のことを好きと言っているから安心するよう言ったモモソは、吉備津彦が次の王君、つまりクニクル王君の後継者とされていたネコ王子(記紀の開花天皇、つまり稚日本根子彦大日日天皇でしょうか)が大丈夫なのか、案じていると悟り、ネコ王子に、ハニヤスは役に立つから他の弟妹と分け隔てなく付き合うよう諭した、と吉備津彦に伝えます。ネコ王子は憔悴しているのではない、と吉備津彦に問われたモモソは、それがなかなかのお方で、もうすっかり自分について考えているようだ、と答えます。ネコ王子はどのような世にしたいと考えているのか、と吉備津彦に問われたモモソは、まず名前を変えたいと言っている、と答えます。父親であるクニクル王君にも祖父であるフトニ王(大日本根子彦太瓊天皇、つまり記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)にも名前にネコがついているので、根の子、つまり黄泉の国という意味だから早死にしたのではないか、とネコ王子は考えているわけです。そこでネコ王子は、自分のもう一つの名であるビビと呼ぶよう、モモソに伝えていました。ビビは日々、つまり天照様が二柱だから長寿だろうと考えているのだ、とモモソはネコ王子の意図を推測します。そんなことはどうでもよい、と毒づいた吉備津彦は、ビビの新王君は今後の日下をどう考えているのか、とモモソに尋ねます。モモソが、吉備津彦将軍の好きなようにさせるつもりで、戦がしたければどうぞということだ、と答えると、なかなか話の分かる大君だ、と吉備津彦は満足そうです。
湖南国では、トメ将軍を代表としてヤノハ一行が湖南王と謁見し、湖南王は韓の言葉ではなく漢の言葉であいさつしました。ヤノハは、湖南王が遼東の公孫一族の影響下にある、と察します。ヤノハ一行の通訳は何が務め、トメ将軍が挨拶すると、湖南王はトメ将軍に、帯方郡への通行証が欲しいのか、と尋ねます。トメ将軍がそうだと答えると、湖南王は、条件を提示します。その条件についてトメ将軍が尋ねると、鬼を知っているか、と湖南王は問うてきました。知っている、とトメ将軍が答えると、今度は「ソト」を知っているか、と湖南王は訪ねてきました。ソトとは中土(中華地域のことでしょう)の文字で「蘇塗」と記し、鬼が棲む邑だ、と湖南王の配下は説明します。湖南王は、馬韓には鬼人を祭る邑が数ヶ所あり、古くからの掟があって、どんな凶悪な科人(トガビト)でもそこに逃げ込めば、王でも手を出せない、とヤノハ一行に説明します。蘇塗とは千穂(現在の高千穂でしょうか)のような隠れ里で、それが「鬼は外」の意味なのか、とヌカデとヤノハは推測します。ヤノハ一行が見た邑はその者たちの仕業なのか、とトメ将軍に問われた湖南王は肯定し、蘇塗の一つが叛乱を起こしたので、トメ将軍一行に成敗を命じる、と伝えます。それが帯方郡までの通行証を得るための必須の条件なのか、とトメ将軍が問うと、湖南王は肯定します。なぜ倭人がその者たちを討伐しなければならないのか、トメ将軍に問われた湖南王は、蘇塗の民を先導した者がおり、その者はまず、湖南王の殺害、さらには辰韓と弁韓、朝鮮全土の支配が目的だ、と答えます。叛乱軍の頭が何者なのか、トメ将軍に問われた湖南王は、人にして鬼神の仕業で、その者は顔中に黥を彫った醜い倭人だ、と答えます。湖南王から、敵が倭人の率いる軍団なら、そなたたち倭人に破る責任があるだろう、とヤノハ一行が言われたところで、今回は終了です。
今回は、日下の政治情勢と、馬韓でのヤノハ一行の動向が描かれました。日下では、クニクル王君が毒殺され、ネコ王子がビビ王として即位することになり、新王君は吉備津彦に軍事を任せるようですから、日下が近いうちに山社(ヤマト)国連合に攻め込むことになりそうです。一方、ヤノハはそれに対抗するため、魏の後ろ盾を得ようとしていますが、それには遼東公孫氏が立ちはだかり、さらに遼東公孫氏に策を仕掛けるため帯方郡に行く前に、蘇塗の邑を討伐するよう命じられ、困難な状況に陥ります。蘇塗の邑の叛乱を先導した倭人とは、倭国内の勢力とつながりがあるのか、気になるところで、ハニヤスと同じくフグ毒を用いていることから、ヤノハが魏と結ぶことを警戒した日下の指示かもしれません。ただ、そもそも倭人なのか、そうだとして何が目的なのか、まだ断定できないというか、どうも予想しにくいところがあります。朝鮮半島情勢も本格的に描かれてきて、今後は遼東公孫氏も登場するでしょうから、ますます壮大な話になっており、今後の展開もたいへん楽しみです。
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