『卑弥呼』第124話「神の重さ」

 『ビッグコミックオリジナル』2024年2月20日号掲載分の感想です。ついに同じ原作者の『イリヤッド』の123話を超えたことになり、できるだけ長く連載が続いてもらいたいものです。前回は、加羅(伽耶、朝鮮半島)の勒島(ロクド、慶尚南道泗川市の沖合の島)で、津島(ツシマ、現在の対馬でしょう)の方を見ているヤノハからやや離れたところで、トメ将軍がイセキに、ヤノハはについていけば生涯退屈しない、と言って駅役(エキヤク、大陸の国々から倭にわたる人々や品々や情報を中継ぎする役目)を引き受けるよう、説得していたところで終了しました。イセキは、伊岐(イキ、現在の壱岐諸島でしょう)国の日守(ヒマモ)りでトメ将軍一行の伊岐から黒島までの航海で示齊を務めたアシナカの縁戚のようです。今回は、勒島の丘に新たに建てた小屋で、ヤノハが何かを唱えている場面から始まります。オオヒコと那(ナ)国のトメ将軍は、津島国のアビル王を呪うための鬼道なのだろう、と推測します。

 津島国の雷邑(イカツノムラ)では、アビル王に殺害された津島国の先代の王(コヤネ王)の息子であるコミミが、津島国の「首都」である三根(ミネ)への進軍とアビル王の討伐を兵士に訴えていました。三根では、田油津日女(タブラツヒメ、正体はアカメ)一行を先導するヌカデに、津島国の庶民と思われる老人が、コミミの挙兵により夜にはここは戦場となるので、万が一、田油津日女に危害が及んではならないということで、すぐ立ち去るよう、警告します。するとヌカデは、嵐が来ようとも、地が揺れようとも、ましてや戦ごときで田油津日女が怯むと思うのか、と老人を一喝します。アビル王には、重臣二人が覗見(ウカガミ、間者、内通者)からコミミ叛乱との報告が届いている、と伝えます。重臣二人は、敵兵はたかだか百人で、赤子の手をひねるようなものだ、と言いますが、アビル王はヤノハから渡された薬物を乱用したためか表情は虚ろで、皆を殺せ、と呼吸を乱しながら命令します。

 三根では、田油津日女一行の前にアビル王の軍が立ちはだかり、指揮官らしき男性が、舞などもってのほかなので、今すぐ津島から去るよう、ヌカデに命じます。顕人神(アラヒトガミ)である田油津日女に無礼だ、とヌカデが一喝すると、アビル王からは、島人以外皆殺しにせよ、とのお触れが出ている、と指揮官らしき男性は言って、抜刀し、去らねば死んでもらうぞ、とヌカデに警告します。そこへ、刃物を咥えたイヌ(オオカミ?)が指揮官らしき男性の喉を切り裂き、殺害します。このイヌ(オオカミ?)に直接的に指示しているのは、ヤノハの弟であるナツハ(チカラオ)です。田油津日女(アカメ)が輿から降りて、踊り子に偽装した山社国(ヤマトノクニ)の戦女(イクサメ)たちは一斉に抜刀します。夜になり、三根近郊では、コミミは配下の兵士から、自分たちの動きに気付いているはずのアビル王はなぜ襲ってこないのか、と問われていました。コミミはヌカデと協議したさいに、自分の手勢はわずかでアビル王にはとても敵わないから、日見子(ヒミコ、ヤノハ)様はどれくらいの兵を貸してくれるのか、と尋ねました。するとヌカデは、我々の兵はすでに津島に入っており、「コミミ殿は戦わずして、三根に凱旋できるであろう」というヤノハの言葉をコミミに伝えていました。このやり取りを想起したコミミは、奇妙だが日見子様(ヤノハ)の言葉を信じて三根に向かう、と配下の兵士に伝えます。

 勒島のヤノハは、ヌカデたちが三根に入った頃で、夜にはコミミ軍が到着する、と予測していました。心の弱いアビル王は薬に依存し、毎日飲み続けているはずなので、自分の生み出した幻に圧し潰されるのは時間の問題だ、とヤノハは読んでいました。そのアビル王は三根の館で、皆殺しだ、自分こそ天日神命(アメノヒノミタマノミコト)の生まれ変わりにして真の倭王だ、と叫びます。その直後、アビル王は落胆した様子で、神に問いかけます。なぜ自分に倭国王になれなど、大それたことを言ったのか、自分にそのような器量がないことは分かっているはずだ、というわけです。アビル王は、もはや耐えられない、と呟いて座り込みます。コミミの軍が三根に上陸すると、すでに多くの兵士が殺害されていました。勒島では、ヤノハが小屋から出てきて、トメ将軍とオオヒコに祈祷が終わったことを伝えます。三根では、アビル王の重臣二人が残った兵と共にコミミに降伏しました。アビル王の兵は誰に殺されたのか、とコミミに問われた重臣二人は、何者か分からないが、恐ろしい戦女の奇襲だった、と答えます。コミミにアビル王の動向を尋ねられたアビル王の重臣二人は、アビル王が先ほど死んだ、と伝えます。以前から状態が悪く、自分たちが駆けつけた時にはすでに死んでいた、というわけです。コミミはヤノハの言葉通りになったことに感服するとともに、恐れているようでもあります。勒島のヤノハが、トメ将軍とオオヒコを前に、次の敵は中土(中華地域のことでしょう)への道に立ちふさがる公孫一族だ、と力強く宣言するところで、今回は終了です。 


 今回は、ヤノハの策謀により津島国のアビル王が死亡し、津島国を掌握する過程が描かれました。ヤノハの読みの鋭さが改めて描かれ、朝鮮半島までの道のりは確保できましたが、次は倭国外の遼東公孫氏が敵となるわけで、ヤノハがどのような策で遼東公孫氏を排除するのか、注目されます。これまでにもヤノハは強敵と対峙し、その智謀と行動力で道を切り開いてきましたが、今度は倭国外の相手との戦いとなり、これまで以上に窮地に追い込まれる可能性も考えられます。作中では、現時点で228年(以下、西暦は厳密な換算ではなく、1年単位での換算です)頃なので、魏への遣使にはまだ10年ほどあります。ヤノハの遼東公孫氏打倒策は、短期的なものではなく、ある程度長期的なのかもしれません。また、トメ将軍の方にも遼東公孫氏打倒構想があるようですから(第118話)、こちらも注目されます。日下(ヒノモト)連合との戦いの頃には、魏への遣使まで随分先のように思えましたが、意外と早くに描かれるかもしれず、そうすると、完結がさほど遠くない可能性も考えられます。ただ、日下のみならず暈(クマ)との関係、さらには、ヤノハは息子(ヤエト、養父母の付けた名はニニギ)を殺す、とのモモソの予言も描かれるでしょうから、完結は当分先かな、とも思います。大陸情勢がいよいよ本格的に描かれそうなので、今後の展開にも大いに期待しています。

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