『卑弥呼』第122話「鬼」
『ビッグコミックオリジナル』2024年1月20日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハが那(ナ)国のトメ将軍の案内で、加羅(伽耶、朝鮮半島)の勒島(ロクド、慶尚南道泗川市の沖合の島)に近づいたところで終了しました。今回は、その1ヶ月後、津島(ツシマ、現在の対馬でしょう)国の「首都」である三根(ミネ)で、津島国の重臣2人が、兵士から日見子(ヒミコ)、つまりヤノハの行方が不明と報告を受けている場面から始まります。津島と伊岐(イキ、現在の壱岐諸島でしょう)の間の海上に日見子(ヤノハ)がいない、と兵士から報告を受けた重臣は焦っており、まだ津島を旅立っていないのではないか、と推測する兵士に、津島のどこにどう隠れるのだ、と苛立ちます。重臣は津島に出入りする舟と海上の舟の全てを調べるよう、兵士に命じます。重臣2人は、津島国のアビル王にどう報告すべきか迷い、ヤノハから渡された幻覚作用のある薬を服用し過ぎたためか、中毒になりかけており、状態がよくないアビル王には報告しない、と判断します。
暈(クマ)国の鞠智里(ククチノサト、現在の熊本県菊池市でしょうか)では、暈国の大夫で実質的な最高権力者である鞠智彦(ククチヒコ)が、配下の志能備(シノビ)から民の様子について報告を受けていました。暈国の隅々を巡ったところ、厲鬼(レイキ)、つまり疫病の祟りは癒えて、民は安らかに日々を送っている、と志能備の頭領から報告を受けた鞠智彦は、それは嬉しいことだ、と笑顔で言います。鞠智彦様のおかげと民は皆手を合わせている、と志能備の頭領から報告を受けた鞠智彦は、自分が考えもなしに田油津日女(タブラツヒメ)を国に入れてもよいと認めたからで、志能備には迷惑をかけた、と労います。何か言いたげな志能備の頭領に鞠智彦が言うよう促すと、田油津日女は忌々しい女で、民を救うどころか実は暈の裏切り者だった、と国中に触れ回りたい、と志能備の頭領は本音を打ち明けます。すると鞠智彦はそれを禁じ、田油津日女は神の遣いで、厲鬼を追い払って姿を消した、ということでよいのだ、と志能備の頭領を諭します。志能備が退出すると、ウガヤがアビル王からの文を鞠智彦に届けます。そこには、アビル王が鞠智彦と通じていることは日見子(ヤノハ)に見破られ、日見子が津島に乗り込んだ、とありました。命知らずな女だ、とウガヤは呆れたように言い、アビル王は日見子をどうするつもりなのか、鞠智彦に尋ねます。鞠智彦は、アビル王が日見子を殺そうとするだろう、と答えます。では日見子の運はもはや尽きた、とウガヤが言いかけると、簡単に殺されるはずないだろう、と鞠智彦は否定します。日見子はアビル王の一枚も二枚も上手というわけで、鞠智彦は日見子がいかなる策で津島国を攻め落とすのか、という方を楽しみにしていました。
勒島では、現在は吉国(ヨシノクニ、吉野ケ里遺跡の一帯と思われます)と呼ばれている目達(メタ)国のスイショウ王の指示により朝鮮半島に残った人々の邑の長であるヒホコを、ヤノハとトメ将軍が訪ねていました。駅役(エキヤク、大陸の国々から倭にわたる人々や品々や情報を中継ぎする役目)についてヤノハから問われたヒホコは、勒島に留まり、倭に向かう全ての舟を見分する役目だ、と答えます。つまり、倭国に至る前に敵か味方かを判断する役目です。中土(中華地域のことでしょう)への道が開けた時に不可欠な仕事で、両国の関係が良好ならば必要ないものの、悪化した場合は最初の防波堤になる、とトメ将軍から説明を受けたヤノハは、ヒホコに引き続き駅役を務めるよう要請し、ヒホコも受け入れますが、ヒホコは自分に子がおらず、今は元気なものの老齢なので近いうちに次の駅役を決めねばならない、とヤノハに伝えます。誰か思い当たる人物はいるのか、とヤノハに問われたヒホコは、自分の邑にはない、と答えます。ヤノハから駅役を務められそうな人物に心当たりがないか、尋ねられたトメ将軍は、一人いるが、異国に骨を埋める覚悟があるのか分からない、と答えます。ヤノハはトメ将軍に、その者に打診するよう、指示します。いつ弁韓に向かうのか、ヒホコに尋ねられたヤノハは、津島からの報せをしばらく待ち、それから動くつもりだ、と答えます。
その翌日、津島沿岸では、津島国の兵士が近づいてきた舟を全て検分していました、船員はこの1ヶ月間、急に厳しくなったことに困惑しますが、アビル王の命だと兵士は説明します。その3艘の舟には、ヌカデと踊り子に偽装した山社国(ヤマトノクニ)の戦女(イクサメ)が載っていました。男性は小童のナツハ(チカラオ)がイヌを連れているだけで、女性と小童だけなら入港を許可してもよいのではないか、と部下から進言された什長(トオノオサ)は迷います。近頃、踊り子と称する女性ばかり入港することを、什長は不審に思っていました。什長は舟の小屋に誰かいるのではないか、と判断して顔を出すよう命じますが、船員は、神様のお遣いが乗っている、という理由で断ろうとします。什長はなおも、祈祷女(イノリメ)でも誰でも顔を見せよと命じ、田油津日女の仮面を装着したアカメが顔を見せます。兵士の1人が田油津日女と気づき、知らない什長や他の兵士に、田油津日女は筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の厲鬼を追い払った生き神様だ、と説明します。なおも不審に思っている什長に対して配下の兵士は、山社の日見子様(ヤノハ)を凌ぐ祈祷女と言われている方で、顔を見たら罰が当たる、と説明します。配下の兵士は、津島の民の安寧のため田油津日女が来たことに感激し、什長は動揺します。
勒島では、ヤノハが対岸の弁韓を見ており、北上すれば馬韓、その北に帯方郡、さらに北方に楽浪郡があり、その北には公孫一族の本拠地である遼東群があることを、トメ将軍とともに確認していました。どこまで行くつもりなのか、トメ将軍に問われたヤノハは、その前に津島からの遣いを待とう、と答えます。ヤノハは、アビル王を倒す目的だけで津島に戦女を差し向けたわけではなく、戦女は海を渡って勒島で使節になる、とトメ将軍に説明します。ヤノハは自分の意図を理解していないトメ将軍に、使節とともに遼東に赴いて公孫淵に謁見を申し出る、と打ち明けます。そのための貢物も戦女にもたせている、というわけです。魏への朝貢を諦め、公孫一族から倭王の称号を得るつもりなのか、とトメ将軍に問われたヤノハは即座に否定し、貢物を贈るのは公孫淵に会うための口実だ、と答えます。公孫淵に会って魏に朝貢したいから無事に通らせてくれ、とでも願い出るのか、とトメ将軍に問われたヤノハは、鬼になる、と答えます。その意図が分からないトメ将軍に、自分は鬼となって公孫一族を呪い殺すつもりだ、とヤノハが説明するところで今回は終了です。
今回は、ヤノハがアビル王だけではなく、その先の遼東公孫氏の打倒まで視野に入れて、山社国からヌカデやアカメや戦女を呼び寄せていることが描かれました。ヤノハの智謀と用意周到さが改めて示され、この点でヤノハの人物造形は初回からずっと揺らいでいない、と言えるでしょう。こうした確かな人物造形も、本作の魅力となっています。津島国のアビル王打倒はどうやら成功しそうですが、その後にヤノハが遼東公孫氏をどのように「呪い殺す」のか、現時点では思いつきませんでした。あるいは、アビル王に贈った幻覚作用と依存性のある薬を遼東公孫氏にも贈るのでしょうか。トメ将軍の方にも遼東公孫氏打倒構想があるようですから(第118話)、トメ将軍がその構想をヤノハに打ち明け、二人でより確実に遼東公孫氏を打倒しようと動き出すのかもしれません。。いよいよ大陸情勢が本格的に描かれるようになりそうで、たいへん楽しみです。司馬懿など魏の要人の登場はもっと先かもしれませんが、公孫淵は近いうちに登場しそうですから、どのような人物造形になるのか、注目しています。
暈(クマ)国の鞠智里(ククチノサト、現在の熊本県菊池市でしょうか)では、暈国の大夫で実質的な最高権力者である鞠智彦(ククチヒコ)が、配下の志能備(シノビ)から民の様子について報告を受けていました。暈国の隅々を巡ったところ、厲鬼(レイキ)、つまり疫病の祟りは癒えて、民は安らかに日々を送っている、と志能備の頭領から報告を受けた鞠智彦は、それは嬉しいことだ、と笑顔で言います。鞠智彦様のおかげと民は皆手を合わせている、と志能備の頭領から報告を受けた鞠智彦は、自分が考えもなしに田油津日女(タブラツヒメ)を国に入れてもよいと認めたからで、志能備には迷惑をかけた、と労います。何か言いたげな志能備の頭領に鞠智彦が言うよう促すと、田油津日女は忌々しい女で、民を救うどころか実は暈の裏切り者だった、と国中に触れ回りたい、と志能備の頭領は本音を打ち明けます。すると鞠智彦はそれを禁じ、田油津日女は神の遣いで、厲鬼を追い払って姿を消した、ということでよいのだ、と志能備の頭領を諭します。志能備が退出すると、ウガヤがアビル王からの文を鞠智彦に届けます。そこには、アビル王が鞠智彦と通じていることは日見子(ヤノハ)に見破られ、日見子が津島に乗り込んだ、とありました。命知らずな女だ、とウガヤは呆れたように言い、アビル王は日見子をどうするつもりなのか、鞠智彦に尋ねます。鞠智彦は、アビル王が日見子を殺そうとするだろう、と答えます。では日見子の運はもはや尽きた、とウガヤが言いかけると、簡単に殺されるはずないだろう、と鞠智彦は否定します。日見子はアビル王の一枚も二枚も上手というわけで、鞠智彦は日見子がいかなる策で津島国を攻め落とすのか、という方を楽しみにしていました。
勒島では、現在は吉国(ヨシノクニ、吉野ケ里遺跡の一帯と思われます)と呼ばれている目達(メタ)国のスイショウ王の指示により朝鮮半島に残った人々の邑の長であるヒホコを、ヤノハとトメ将軍が訪ねていました。駅役(エキヤク、大陸の国々から倭にわたる人々や品々や情報を中継ぎする役目)についてヤノハから問われたヒホコは、勒島に留まり、倭に向かう全ての舟を見分する役目だ、と答えます。つまり、倭国に至る前に敵か味方かを判断する役目です。中土(中華地域のことでしょう)への道が開けた時に不可欠な仕事で、両国の関係が良好ならば必要ないものの、悪化した場合は最初の防波堤になる、とトメ将軍から説明を受けたヤノハは、ヒホコに引き続き駅役を務めるよう要請し、ヒホコも受け入れますが、ヒホコは自分に子がおらず、今は元気なものの老齢なので近いうちに次の駅役を決めねばならない、とヤノハに伝えます。誰か思い当たる人物はいるのか、とヤノハに問われたヒホコは、自分の邑にはない、と答えます。ヤノハから駅役を務められそうな人物に心当たりがないか、尋ねられたトメ将軍は、一人いるが、異国に骨を埋める覚悟があるのか分からない、と答えます。ヤノハはトメ将軍に、その者に打診するよう、指示します。いつ弁韓に向かうのか、ヒホコに尋ねられたヤノハは、津島からの報せをしばらく待ち、それから動くつもりだ、と答えます。
その翌日、津島沿岸では、津島国の兵士が近づいてきた舟を全て検分していました、船員はこの1ヶ月間、急に厳しくなったことに困惑しますが、アビル王の命だと兵士は説明します。その3艘の舟には、ヌカデと踊り子に偽装した山社国(ヤマトノクニ)の戦女(イクサメ)が載っていました。男性は小童のナツハ(チカラオ)がイヌを連れているだけで、女性と小童だけなら入港を許可してもよいのではないか、と部下から進言された什長(トオノオサ)は迷います。近頃、踊り子と称する女性ばかり入港することを、什長は不審に思っていました。什長は舟の小屋に誰かいるのではないか、と判断して顔を出すよう命じますが、船員は、神様のお遣いが乗っている、という理由で断ろうとします。什長はなおも、祈祷女(イノリメ)でも誰でも顔を見せよと命じ、田油津日女の仮面を装着したアカメが顔を見せます。兵士の1人が田油津日女と気づき、知らない什長や他の兵士に、田油津日女は筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の厲鬼を追い払った生き神様だ、と説明します。なおも不審に思っている什長に対して配下の兵士は、山社の日見子様(ヤノハ)を凌ぐ祈祷女と言われている方で、顔を見たら罰が当たる、と説明します。配下の兵士は、津島の民の安寧のため田油津日女が来たことに感激し、什長は動揺します。
勒島では、ヤノハが対岸の弁韓を見ており、北上すれば馬韓、その北に帯方郡、さらに北方に楽浪郡があり、その北には公孫一族の本拠地である遼東群があることを、トメ将軍とともに確認していました。どこまで行くつもりなのか、トメ将軍に問われたヤノハは、その前に津島からの遣いを待とう、と答えます。ヤノハは、アビル王を倒す目的だけで津島に戦女を差し向けたわけではなく、戦女は海を渡って勒島で使節になる、とトメ将軍に説明します。ヤノハは自分の意図を理解していないトメ将軍に、使節とともに遼東に赴いて公孫淵に謁見を申し出る、と打ち明けます。そのための貢物も戦女にもたせている、というわけです。魏への朝貢を諦め、公孫一族から倭王の称号を得るつもりなのか、とトメ将軍に問われたヤノハは即座に否定し、貢物を贈るのは公孫淵に会うための口実だ、と答えます。公孫淵に会って魏に朝貢したいから無事に通らせてくれ、とでも願い出るのか、とトメ将軍に問われたヤノハは、鬼になる、と答えます。その意図が分からないトメ将軍に、自分は鬼となって公孫一族を呪い殺すつもりだ、とヤノハが説明するところで今回は終了です。
今回は、ヤノハがアビル王だけではなく、その先の遼東公孫氏の打倒まで視野に入れて、山社国からヌカデやアカメや戦女を呼び寄せていることが描かれました。ヤノハの智謀と用意周到さが改めて示され、この点でヤノハの人物造形は初回からずっと揺らいでいない、と言えるでしょう。こうした確かな人物造形も、本作の魅力となっています。津島国のアビル王打倒はどうやら成功しそうですが、その後にヤノハが遼東公孫氏をどのように「呪い殺す」のか、現時点では思いつきませんでした。あるいは、アビル王に贈った幻覚作用と依存性のある薬を遼東公孫氏にも贈るのでしょうか。トメ将軍の方にも遼東公孫氏打倒構想があるようですから(第118話)、トメ将軍がその構想をヤノハに打ち明け、二人でより確実に遼東公孫氏を打倒しようと動き出すのかもしれません。。いよいよ大陸情勢が本格的に描かれるようになりそうで、たいへん楽しみです。司馬懿など魏の要人の登場はもっと先かもしれませんが、公孫淵は近いうちに登場しそうですから、どのような人物造形になるのか、注目しています。
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