道徳の低下の検証

 取り上げるのが遅れてしまいましたが、道徳が低下したとの見解を検証した研究(Mastroianni, and Gilbert., 2023)が公表されました。事例証拠から、「人々は道徳が低下しつつあると考えている」、と示されています。本論文は、記録保管所データと一次データ(1249万2983点)を用いた一連の研究で、世界中の少なくとも60ヶ国の人々がモラルは低下しつつあると考えており、これらの人々は、少なくとも70年間そう信じていて、それが加齢に伴う個人の道徳低下と、続く世代での道徳低下の両方が原因だと考えている、と示します。次に本論文は、自分と同世代の人々の道徳に関する人々の報告は、時間が経過しても低下しないことを示します。これは、道徳が低下しているとの認識は思い違いであることを示唆しています。

 さらに本論文は、すでによく分かっている2つの心理学的現象(情報への偏った曝露と情報に対する偏った記憶)に基づいた単純な機構により、道徳低下という思い違いが生じ得ることを示し、また、道徳低下の認識が弱まったり、消えたり、逆転したりする状況(つまり、回答者がよく知る人々や、回答者が生まれる以前に生きていた人々のモラルについて質問された場合)について、この機構による2つの予測を裏づける調査結果を報告します。これらの知見により、道徳低下という認識は、広く浸透していて、永続的であり、根拠がなく、容易に作り出せる、と明らかになりました。このような思い違いは、乏しい資源の不適切な配分、社会的支援の使用不足、社会的影響についての研究に影響を与えます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


社会科学:モラル低下という思い違い

社会科学:モラルは本当に低下しているのか

 今回、人々は自分と同じ世代の人々のモラルは変わっていないと回答するにもかかわらず、一般的にはモラルが時とともに低下しつつあると考えていることが報告された。これは、モラル低下という認識が思い違いであることを示唆している。著者たちはさらに、情報への曝露の偏りと記憶の偏りがその原因であることも示唆している。



参考文献:
Mastroianni AM, and Gilbert DT.(2023): The illusion of moral decline. Nature, 618, 7966, 782–789.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06137-x

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