ABO式血液型から推測される人類のアメリカ大陸への移住

 ABO式血液型からアメリカ大陸への人類の移住を推測した研究(Hobgood., 2023)が公表されました。本論文は、ABO式血液型関連遺伝子からアメリカ大陸への人類の移住過程を推測し、それを補強する遺伝子として、シャベル型切歯と関連する遺伝子であるエクトジスプラシンA受容体(ectodysplasin A receptor、略してEDAR)を取り上げています。シャベル型切歯はアジア東部における「北京原人」などアジア東部の非現生人類(Homo sapiens)ホモ属(古代型ホモ属、絶滅ホモ属)にも存在することから、アジア東部における非現生人類ホモ属と現代人との遺伝的連続性を主張する現生人類多地域進化説の重要な形態学的根拠とされてきましたが、現在では遺伝学の観点からもそうした主張はほぼ否定された、と言えるでしょう(関連記事)。


●要約

 アメリカ大陸先住民の起源となる人口集団は、アジアとユーラシアに40000~35000年前頃に暮らしていました。アメリカ大陸先住民の起源集団は30000~25000年前頃にベーリンジア(ベーリング陸橋)に移住し、その頃には最終氷期極大期(Last Glacial Maximum、略してLGM)による海面低下のためベーリンジアを形成する陸橋があった、ということは一致しています。その後、アメリカ大陸先住民の祖先は北アメリカ大陸と南アメリカ大陸へと南方へ移動しましたが、残りのベーリンジア人口集団であるエスキモーはかなどとグリーンランドへ移動しました。遺伝学的証拠は考古学的研究とともに、アメリカ大陸先住民の移動と人口増加の推移の理解に多くのことを付け加えます。

 現在のアメリカ大陸先住民は基本的に全員ABO式血液型のO型で、エスキモーなど他のベーリンジア人口集団は、ABO血液型アレル(対立遺伝子)の多面発現を明らかにした広範な研究を考えると、ABO式血液型の多形性(多型)だったので、ABO式血液型のこの異常な集団頻度分布は、ABO式血液型の多様性のない人口集団が、他の遺伝子では類似しているもののABO式血液型では多形性である人口集団とどのように異なるのか、理解する機会を提供します。移動中の人口集団におけるABO式血液型は、アフリカを去ったそれらの人口集団の時間軸と到着地と文化についての証拠の裏づけを提供します。この証拠の提供については、他の遺伝子がABO式血液型の能力を高めます。

 アメリカ大陸先住民とエスキモーの移住の場合におけるそれらの遺伝子のうち一つは、シャベル型切歯と呼ばれる歯の特徴に関する遺伝子であるエクトジスプラシンA受容体(ectodysplasin A receptor、略してEDAR)で、この遺伝子はアジア北東部人口集団に多く、アメリカ大陸先住民人口集団では固定されています。主要な出アフリカ移住期の時点におけるアフリカにおける既知の気候条件とABO式血液型のA2遺伝子対A1遺伝子の選択のマラリア関連の気候的側面のため、ABO式血液型A1およびシャベル型切歯の頻度と関連するEDAR遺伝子に対するABO式血液型A2遺伝子の集団比は、アフリカを去った人口集団の時系列およびそのさらなる移動と関連しています。

 アメリカ大陸先住民はひじょうに高頻度のシャベル型切歯を有しており、ABO式血液型A2遺伝子を有していないので、この手法を用いて観察され、他の一連の証拠と一致するアジア北東部およびユーラシアからの移動の時系列は、30000~25000年前頃と裏づけられます。さらに、単形性のABO式血液型O型のアメリカ大陸先住民とABO式血液型多形性のエスキモーへのベーリンジア人口集団の分離は、ABO式血液型のアレルの多面発現を裏づける研究に照らして、それぞれの分岐した移動経路と文化と人口増加に関する理解を深めます。


●研究史

 アメリカ大陸先住民は、いくつかの遺伝子において遺伝的な選択的一掃もしくは単形性を示し、最も研究されている二つの遺伝子は、ABO式血液型のO型と、シャベル型切歯の歯の特徴の原因となる2番染色体上の遺伝子であるEDARです。ABO式血液型をコードする遺伝子は9番染色体上にあります。ABO式血液型の集団頻度は大きく異なります。他のどの人口集団とも異なり、アメリカ大陸先住民集団はほぼABO式血液型のO型しか有しておらず、EDARにコードされているシャベル型切歯の特徴はほぼ単形性です。シャベル型切歯は世界の人口集団によって大きく異なり、アメリカ大陸先住民集団において最高頻度で、アジア北東部人口集団ではそれよりわずかに低い頻度です。いくつかの一連の証拠に基づくと、アジアにおけるアメリカ大陸先住民の祖先はABO式血液型に関しては多形性でした。

 アメリカ大陸先住民の祖先は、アジアとユーラシアからベーリンジアとアメリカ大陸へ35000~10000年前頃に移動しました。遅くとも25000年前頃となるLGMの減退までに、アメリカ大陸先住民は約9000人の元々のベーリンジア停止人口集団の1~10%にすぎなかった、と考えている研究者もいます。停止とは、人口集団が高緯度により潜期熾されたひじょうに異なる気候環境で孤立し、したがってその遺伝的構成が祖先人口集団から変化したかもしれないように見える期間を指します。アメリカ大陸先住民はその祖先およびベーリンジア停止人口集団の90%とは異なる人口集団としてLGMに出現したので、停止期間中にベーリンジア停止人口集団の残りから孤立していたようです。アメリカ大陸先住民はABO式血液型およびEDAR遺伝子では単形性で、氷床に沿っておよび/もしくは太平洋海岸に沿って着実に南下しましたが、エスキモーのようにベーリンジア停止人口集団の大半はABO式血液型およびEDAR遺伝子では多形性で、氷河の北方に留まり、カナダおよびグリーンランドへと東進しました。


●仮説/理論

 ABO式血液型遺伝子は、アフリカかにアメリカ大陸への移住において重要と仮定されています。第一に、ABO式血液型のアレル(対立遺伝子)は、アジアからのベーリンジアへの移住およびベーリンジア人口集団の分岐の時期と関連している、と仮定されており、ベーリンジア人口集団では、ベーリンジア停止期に100個体のうち少数がABO式血液型のO型の選択的一掃を経ました。この小集団は全てのアメリカ大陸先住民の祖先人口集団でしたが、残りの最大9000人のベーリンジア停止人口集団であるエスキモーは、カナダを横断して大西洋沿岸とグリーンランドに移動しました。

 シャベル型切歯のEDARアレルは、出アフリカ移動およびベーリンジアへの移動の年代測定、およびベーリンジア停止人口集団がアメリカ大陸先住民を独特なものとした変異をもたらした、と支持する点において、ABO式血液型を裏づけます。マラリア蔓延に対する気候の影響により引き起こされたアフリカの極端な気候のさまざまな地域におけるABO式血液型のA2対A1アレルの選択は人口集団の移動の時系列を提供し、それは、シャベル型切歯およびABO式血液型のA1を有する人口集団の頻度は、アフリカと中東とヨーロッパの低水準からアジア北東部の高水準へと次第に増加します(図1)。以下は本論文の図1です。
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 第二に、ABO式血液型のO型アレルおよびシャベル型切歯のEDARでのアメリカ大陸先住民の単形性は、ABO式血液型およびEDAR両方でのエスキモーの多形性と比較すると、7000万人のアメリカ大陸先住民と20万人未満のエスキモーの現在の世界の人口集団の違いにおいて重要と仮定されています。人口増加におけるこれらの違いは、ABO式血液型のO型およびの競合、EDARの場合は困難な環境に直面する場合の多面発現に基づく遺伝的違いと関連している、と仮定されています。


●仮説/見解の評価

 アメリカ大陸先住民の祖先がベーリンジアに移動し、アメリカ大陸に移動する前のベーリンジア停止期にアメリカ大陸先住民の祖先人口集団で変異が生じ、選択されたように見えるABO式血液型遺伝子はABO式血液型のO型で、具体的にはO1V542となり、これは祖先情報遺伝標識(Ancestral Informative Marker、略してAIM)として受け入れられているアレルです。この遺伝子はアメリカ大陸先住民集団でのみ見られ、エスキモーのような他のベーリンジア停止人口集団もしくは他の世界の人口集団において有意な程度では見られません。このハプロタイプはアジアの共通の遺伝子O1vとは542番目の塩基対における一塩基の変異により分離されており、アメリカ大陸先住民集団では4~60%の頻度で見られます。したがって、ABO式血液型のアレルはアメリカ大陸先住民とアジアにおけるその起源人口集団との間で顕著に異なっており、それは、アメリカ大陸先住民がABO式血液型のO型で固定されている一方で、アジアの紀元前人口集団は多形性で、アメリカ大陸先住民とは異なるABO式血液型のO型アレルを有しているからです。

 他の遺伝的標識も、アメリカ大陸先住民はベーリンジア停止において他の人口集団と分離した小集団だった、という結論を付け加えます。アメリカ大陸先住民の祖先の漢人集団【アメリカ大陸先住民の祖先が漢人というわけではなく、アメリカ大陸先住民と漢人が人類史において比較的近い過去に主要な祖先集団を共有していた、という意味だと思います】の高い遺伝的均一性は、漢人集団がアメリカ大陸先住民の祖先人口集団としての役割を果たす、と裏づける一方で、漢人集団とアメリカ大陸を異なる人口集団として確証します。ベーリンジア停止人口集団、とくに停止中のアメリカ大陸先住民は、その祖先人口集団とはかなり異なる環境で長期間孤立していたので、遺伝的変異および選択を経ました。HLA(Human Leukocyte Antigen、ヒト白血球型抗原)と血液型とミトコンドリアDNA(mtDNA)と他のDNAの研究の結果は、言語学および文化研究と同様に、これと矛盾しません。一例として、常染色体遺伝子座D9S1120はアメリカ大陸において高頻度で見られ遍在していますが、アジアもしくはエスキモー人口集団ではそうではありません。

 アメリカ大陸先住民に遍在する別の遺伝子であるEDARは、人口集団のアフリカからの移住史の解明に役立つ方法で、シャベル型切歯をもたらし、ABO式血液型と関連しています。シャベル型切歯は歯の形態の遺伝的状態で、下側表面で中央部の窪みを隆起が囲んでいるので、シャベル型を形成します。これらの切歯は、アメリカ大陸先住民を含むみアジアの人口集団において最も多く見られます。シャベル型切歯の頻度は、アジアの人口集団では90%ですが、ヨーロッパとアフリカの人口集団では20%未満です。これらの切歯の最高頻度はアメリカ大陸先住民集団で観察され、その割合は87~100%です。アメリカ大陸先住民の起源集団には、現在の内モンゴル自治区およびシベリアが含まれます。内モンゴル自治区ではシャベル型切歯の頻度は80~90%です。数人の研究者によりアメリカ大陸先住民の起源地と示唆されているバイカル湖の近くに暮らすカルムイク人(Kalmuk、Kalmyk)は、シャベル型切歯がとくに高頻度です。

 シャベル型は、祖先的な人類の状態と考えられることが多くあります。シャベル型は100万年前頃のアウストラロピテクス属化石【100万年前頃以降にアウストラロピテクス属が生存していた可能性を示す決定的な証拠はまだないと思いますが、分類について異論のあるパラントロプス属(関連記事)については60万年前頃まで存在していた可能性も指摘されているので(関連記事)、パラントロプス属をアウストラロピテクス属に含めれば、アウストラロピテクス属が100万年前頃まで存在していた可能性も考えられます】とその後のネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)などホモ属種で観察できます。シャベル型はアジア人において高頻度で、現在のヨーロッパ人とアフリカ人ではわずか15~20%ですが、シャベル型はアジア人およびアフリカ人と35000年前頃のヨーロッパ人でさえ中程度の頻度で存在していました。アジア人およびアフリカ人とヨーロッパ人のその期間の化石記録における上顎側切歯は、少なくとも中程度のシャベル型を全人口の頻度でそれぞれ33%と50%占めます。

 したがって、シャベル型切歯はアジア北東部において選択的一掃があったようで、アジア北東部では、シャベル型切歯はEDARと呼ばれる遺伝子と関連しており、EDARには、密な汗腺や太くて濃い直毛や高度に分岐した乳腺管を含む多面発現があります。一部の研究者によると、このEDAR遺伝子の一因は、高度に分岐した乳腺管がビタミンDの利用可能性を増加させ、それにより乳児の生存率を改善沙汰ので、ベーリンジアの高緯度における季節的な日光不足は、この遺伝子をより高水準に選択しただろう、という可能性が指摘されています(関連記事)。シャベル型切歯のある人口集団は、ひじょうに困難な気候の選択圧を経てきたようです。この種類の切歯【シャベル型切歯】は食料と避難所の獲得に役立つ道具だっただろう、と考える研究者もいます。

 アメリカ大陸先住民のアジアの起源人口集団はシャベル型切歯を高頻度で示しますが、アメリカ大陸先住民とは異なり、ABO式血液型では多形性です。アフリカからの移住事象により、遅くとも45000年前頃までには、アフリカから数千年前に移動してきたアジアの人口集団はアジア北部に居住しており、その血液型は現在の人口集団と類似していた可能性が高く、ABO式血液型でO型を45%、A型を25%、B型を30%含んでいた、と推測できます。アジアの集団のおそらく早ければ10万年前頃に中東から移住してきたヨーロッパ集団との接触は、現在のABO式血液型頻度に基づくと、ヨーロッパの人口集団を形成し、ABO式血液型でO型を45%、A型を35%、B型を20%含んでいた、と考えられます。

 アメリカ大陸先住民の祖先人口集団の重要な起源である可能性の高い地域には、現在の内モンゴル自治区とシベリアとバイカル湖周辺地域が含まれ、それらの地域の現代におけるABO式血液型の頻度は、B型が高頻度、O型が中程度、A型が少なくなっており、シャベル型切歯は高頻度です。ユーラシアの人口集団はアジアの人口集団とともに、25000年前頃のLGMにおけるベーリンジでの気候停止において存在した人口集団に大きく寄与しました。したがって、ベーリンジア停止人口集団はEDARと同様にABO式血液型でも多形性だったようです。時間の経過により、アメリカ大陸先住民の小集団におけるABO式血液型とEDARの単形性がもたらされましたが、エスキモーではそうではありませんでした。

 ベーリンジア停止は数千年しか続かない、と考えている研究者もいますが、考古学的証拠では、ヒトは3万年前頃ベーリンジアの遺跡に存在していた、と分かっており、それにはアメリカ大陸先住民が北アメリカ大陸から南アメリカ大陸へ15000~10000年前頃に南進を始めた、と示す証拠が伴い、これらから、ベーリンジアにおける孤立は最大で15000年間続いたかもしれないので、大きな人口変化が容易に起きたかもしれない、と示唆されます。

 世界の人口集団におけるABO式血液型のA2:A1の比率、およびシャベル型切歯の人口集団の頻度の比較は、アメリカ大陸先住民がアジアの人口集団から分離した時期を含めて、さまざまな移住の年代測定に役立ちます。数人の研究者は、アメリカ大陸先住民がアジア北東部の人口集団から40000~25000年前頃の後期更新世にアジア北東部の人口集団から分離した、という言語学と文化的人工遺物を含む一連の証拠を調査してきました。アジアの人口集団と、とくにアジア南東部人と関連していることに加えて、オーストラロ・メラネシア人はアメリカ大陸先住民との関係が遠く、その移住史はアメリカ大陸先住民の移住史を解明します。アジア人がオーストラロ・メラネシア人および日本の狩猟採集民【縄文時代の人類集団のことでしょう】と分岐した後のある時点で、化石記録から論証されるのは、アジア北東部人口集団からアジア南東部人口集団を分離した歯の二分がアジアで発達した、ということです。スンダドントはより南方の集団および太平洋集団で見られ、シャベル型切歯の頻度はより低いのに対して、シノドントはより北東部のアジア人集団で見られ、シャベル型切歯は高頻度です。

 アジア北東部におけるこの顔面と歯の進化には、シャベル型切歯の選択的一掃、および人口集団におけるABO式血液型の高い比率のA 2:A 1が現代ではその人口集団においてシャベル型切歯の頻度と逆相関している、ABO式血液型の進化との交差が含まれます。さまざまな人口集団におけるABO式血液型の高い比率のA 2:A 1は、アフリカの特定の気候条件におけるアフリカからの移動の時期および到着地と関連しているようです。13万~8万年前頃には、アフリカの気候は暑く湿潤でした。その頃のアフリカからの移住はどれも、当初は中東とヨーロッパ中央部【8万年以上前にヨーロッパ中央部に現生人類(Homo sapiens)が存在した証拠はまだ得られていないと思いますが、ギリシアでは21万年前頃の広義の現生人類系統と考えられる頭蓋が発見されています(関連記事)】への方向だったと考えられており、現在のABO式血液型の多形性頻度と高い比率のA 2/A 1が伴っていました。その後、寒冷で乾燥した気候条件において、オーストラリア先住民がアフリカから6万年前頃【この年代については議論があると思います】に移住しました。現在、オーストラリア先住民は研究者により、遺伝的に6万年前頃【この年代については議論があると思います】から変化しなかった、と考えられており、今ではABO式血液型のO型が60%、A1型が40%で、A2型は存在しません。

 オーストラリア先住民とアジア人は、ABO式血液型のA2型ではなくA1型で単形性に近くなっています。現代では、アジア北東部はシャベル型切歯の特徴と関わるEDAR遺伝子の最高頻度の場所です。ABO式血液型のA 2:A 1比は、現代ではアフリカにおいて最高頻度で、アジアでは低頻度です。ABO式血液型のA 2:A 1比は、ある人口集団における低頻度のシャベル型切歯の代理となるかもしれません(図1)。

 ABO式血液型のA2型は、アフリカにおいて選択的一掃を断続的に経たアレルだったようで、温暖で湿潤な気候条件(13万~8万年前頃や現在など)と一致し、アフリカにおける寒冷で乾燥した気候の時期(6万~5万年前頃など)には減少したようです。したがって、ある人口集団のABO式血液型のA 2:A 1比はその移住史を反映しています。ABO式血液型のA2型における上述の気候条件下における13万~8万年前頃と再度現在のアフリカにおける選択は、ABO式血液型のA2型の遺伝子、とくにサハラ砂漠以南のアフリカの温暖湿潤な気候におけるO型遺伝子のあるとA2型比較しての、A1型と関連しているハマダラカの存在およびマラリアの高い致死率により引き起こされた可能性が高そうです。ABO式血液型のA1型には赤血球細胞の抗原のA2型より高い濃度があり、これがA1型のより高い傾向を引き起こし、赤血球細胞花紋板を形成し、それがマラリアに起因する死亡率上昇を引き起こす要因です。

 人口階層化は少なくとも部分的には、これや研究者が血液型で観察してきた他の関連を説明できるかもしれません。ABO式血液型のA2型は、Rh-血液型の人口頻度分布と正に関連しています。さらに、ABO式血液型のB型は、Rh+血液型と関連している、とわかりました。これらの関連は、ABO式血液型のA 2:A 1比はEDARにコードされるシャベル型切歯と逆に関連している、というこの仮説で進められた関連とともに、人口階層化と関連しています。ヨーロッパの人口集団では、他の集団と比較して、Rh-血液型とABO式血液型のA2型は両方ともより一般的です。

 アメリカ大陸先住民がアジア北東部およびユーラシアから移動した時期は、アジア北東部におけるEDARにコードされるシャベル型切歯の選択的一掃の年代測定により裏づけられ、それはアジア北東部人口集団との接触における人口集団のABO式血液型のA 2:A 1比とシャベル型切歯の頻度から年代測定できます。オーストラリアと太平洋の人口集団はシャベル型切歯の頻度がずっと低く、ABO式血液型のA型頻度は中程度~高程度で、基本的に全てA1型です。したがって、オーストラリアと太平洋の人口集団はアジア北東部人口集団と接触したのは、5万年前頃以後であるものの、シャベル型切歯関連遺伝子の一掃前となります。

 日本列島に居住したと記録されている最初の狩猟採集民である「縄文人【縄文時代より前、とくに3万年以上前の日本列島人類がその後の人類と遺伝的につながっていたのか、現時点で確証はないと思います】」とアジア北東部およびユーラシアの分岐人口集団は、縄文人の頻度がより低く、ABO式血液型のA1型遺伝子の頻度は低く、A2型遺伝子はありません。「縄文人」は日本列島に35000年前頃に到来しました【上述のようにこの年代はまだ確定的ではないと思います】。縄文人は、毛深い顔面、湿った耳垢、化石記録に見えるより低い顔面形態、高い鼻梁とより低頻度のシャベル型切歯のある高く広くて平坦な顔面があり、その全てはユーラシア人口集団と関連しているので、「縄文人」はユーラシア人口集団と接触した後で、シャベル型切歯の選択的一掃が起きた前に、アジア北東部を35000年前頃【繰り返しますが、この年代はまだ確定的ではないと思います】に離れて日本列島に到来しました。したがって、EDARでコードされるシャベル型切歯の選択的一掃は、30000~25000年前頃にアジア北東部で起きた、と考えられます。これはベーリンジアへの移住の年代を決定し、それは、ベーリンジア集団が30000~25000年前頃に高頻度のシャベル型切歯を有していたからです。

 したがって、25000年前頃のLGMにおけるベーリンジアの集団は、ひじょうに高い頻度のシャベル型切歯を有しており、その起源人口集団に基づくと、ABO式血液型の頻度はO型45%、A型30%、B型20%だった可能性が高そうです。気候が15000年前頃までに温暖化し始めたので、シベリアへと戻るベーリング陸橋のつながりは浸水していきました。研究者のかんがえはエスキモーの移住史に関して異なりますが、エスキモーがベーリンジア停止においてアメリカ大陸先住民とともに存在していたことは一致しているようです。人口の1~10%を占める1000人(おそらく少なければ100人)のアメリカ大陸先住民がABO式血液型のO型アレルを有しており、O1V242が高頻度で、シャベル型切歯と関連するEDAR遺伝子が単形性だったのに対して、エスキモーは人口の90%を占め、ABO式血液型については多形性で、EDARとO1V242の頻度はアジア北東部のその祖先人口集団と類似していました。これは、ベーリング停止期におけるアメリカ大陸先住民の祖先の孤立を裏づけます。

 ベーリンジア停止人口集団のほとんどは事実上、氷河の北側で孤立するようになり、より小さな下位集団であるアメリカ大陸先住民は、コルディレラ(Cordilleran)氷床とローレンタイド(Laurentide)氷床の間の南側に位置する現在のカナダのアルバータ州無氷回廊を通ってさらな南下できる多発域にいました。アメリカ大陸先住民集団がエスキモーからどのように孤立するようになったのか、まだ合意に達していません。しかし、孤立の結果は、アメリカ大陸先住民におけるABO式血液型のO型の一掃でした。エスキモーはその後、カリブーや他の獲物を追ってカナダおよびグリーンランドへと移動するにつれて北アメリカ大陸を覆う氷床の北側にいたのに対して、アメリカ大陸先住民は氷河の南側で孤立し、気候が変化するにつれて次第に南進しました。

 より高頻度のアレルの固定につながる低頻度のアレルに対する選択は、小さな人口集団で起こり得ます。したがって、アメリカ大陸先住民集団のより小さな規模は、ABO式血液型とEDAR遺伝子の単形性について部分的な説明になるかもしれません。アメリカ大陸先住民集団はおそらくベーリンジアの孤立集団の1/10で、少なければ100個体、多ければ1000個体だったかもしれません。

 ある人口集団がABO式血液型のA型とB型を失う機序の根底にある他の要因は研究されてきましたが、まだ合意には達していません。全員ではないものの一部の研究者は、ABO式血液型のA抗原およびB抗原に対する母親の抗体の産生のため、O型の母親のA型とB型の胎児の死亡率の差を見つけました。さらに、一部の研究者は、ABO式血液型のO型の女性はA型もしくはB型のアレルのある女性よりも生殖能力が高い、と発見しました。しかし、ABO式血液型のO型は、現代において高頻度のO型の人口集団における母親の死亡率増加の根底にある要因である、より高頻度の高血圧および出血を含めて、出産時におけるより高い死亡率をもたらすかもしれません。

 世界中および広範な時代にわたるABO式血液型遺伝子は、ウイルス性および細菌性病原体へのさまざまな感受性の均衡のとれた多形性である、と論証されており、各アレルは環境の生態的地位へと適合しています。いくつかの疾患は、ABO式血液型のO型の選択に有利なようです。最近の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、ABO式血液型のO型人口集団におけるより低い致死率を論証しました。歴史時代、とくにヨーロッパ人との接触後の世界的流行病は、一部の南北アメリカ大陸の先住民共同体における一部の事例での50~90%の人口死亡率を論証してきましたが、研究者は、ひじょうに多様な病気の媒介に曝されているにも関わらず、ABO式血液型のO型での基本的に全てのアメリカ大陸先住民集団の均一な固定を引用して、病気の媒介がアメリカ大陸先住民集団におけるABO式血液型のO型遺伝子の固定を説明する、とは結論づけてきませんでした。たとえば、天然痘はABO式血液型のB型O型を選択しますが、コレラはB型を選択します。ペストはABO式血液型のB型を選択します。

 したがって、ABO式血液型のO型とEDAR遺伝子がアメリカ大陸先住民においでどのように固定されるようになったのかに関して、合意は形成されてきませんでした。一つの興味深い可能性は、ABO式血液型のO型とシャベル型切歯と関連するEDAR遺伝子を有する個体の、運動能力と頑健さと活発さを示唆する研究にあります。ABO式血液型のO型の個体の運動能力の優越性は、とくに困難な環境で進化適応度を高める、と考える研究者もいます。シャベル型切歯をもたらすEDAR遺伝子も、食料と避難所を確保する道具としての使用のため、困難な気候における高い適応度と関連する、と考えられてきました。

 ABO式血液型およびEDAR遺伝子の観点でアメリカ大陸先住民をエスキモーと比較すると、アメリカ大陸の異なる移住に光を当てることができるかもしれません。それは、エスキモーがABO式血液型およびEDAR遺伝子を除いて、アメリカ大陸先住民と遺伝的にひじょうに類似しているからです。考古学的記録によると、エスキモーはベーリンジア停止人口集団において大半を占めていたようですが、19世紀半ばのノルウェーの考古学者によると、ベーリンジア停止期のエスキモーはアメリカ大陸先住民と戦い、必ずしも成功を収めなかったかもしれません。エスキモーは、歴史時代に大西洋沿岸でアメリカ大陸先住民と戦っていた、と記録されています。

 一部の考古学的研究では、エスキモーは元々、ベーリンジア停止期における河川沿いの島の文化だったものの、敵対的な部族により河口まで追われ、そこに留まり、必ずしも選択したのではなく海岸の文化だったのであり、それはエスキモーが海岸へと追い払われたからだ、と結論づけられてきました。数世紀後に、アメリカ大陸北東部大西洋地域から得られた他の証拠により、エスキモーはそこでアメリカ大陸先住民集団により森林から締め出された、と結論づけられました。したがって、アメリカ大陸先住民のABO式血液型のO型とEDAR遺伝子の単形性は、アメリカ大陸先住民が南北アメリカ大陸の全てに居住するにつれて、競争上の生存の利点をもたらしたかもしれません。


●仮説の検証

 ABO式血液型とEDAR遺伝子の人口頻度分布に関して大量のデータがすでに収集されており、先史時代と歴史時代の事象との関連づけの調査が可能となります。ABO式血液型頻度およびEDAR遺伝子によるシャベル型切歯の頻度と文化や政治や経済の構造を比較すると、この理論で仮定された多面発現の裏づけとなるかもしれません。ABO式血液型とEDAR遺伝子の有意な関連がある人口集団の歴史的経過と関連していると論証できるならば、行動への遺伝的影響を、調査される行動の多面発現について他の遺伝子の一覧が増加するにつれて、より深く理解できるでしょう。

 ある人口集団内の全集団および政府などより大きな水準の社会的構造での集団によるこの選択の歴史的比較は、人口集団のABO式血液型やEDAR遺伝子の頻度を含めて、遺伝学での違いに基づいて実行できます。ABO式血液型の遺伝子に関する研究については、かなりの研究がすでに利用可能です。ABO式血液型のO型の進化適応度は、世界中で約63%の遺伝子頻度という最も高頻度のアレルとしての、その地位と一致しているようです。ABO式血液型のA1型アレルは当初、アフリカの最初の既知の現生人類において優勢なアレルだったものの、現在ではABO式血液型のO型によりその地位は置換された、とほとんどの研究者は結論づけています。


●示唆

 気候と関連したマラリアの影響は更新世において部分的に、ABO式血液型のO型の他の血液型に対する選択に役割を果たした、と考えられますが、困苦や運動能力や競争力と関連する多面発現は、過去において役割を果たしたかもしれず、将来も役割を果たし続けるかもしれません。ベーリンジア人口集団は少なくとも90%はエスキモーで、アメリカ大陸先住民は10%以下でしたが、現在の世界の人口は、ほとんどの情報源による、エスキモーは20万人未満で、アメリカ大陸先住民は7000万人です。ABO式血液型のアレルの多面発現と、EDAR遺伝子やABO式血液型遺伝子などのアレルにおける違いを除いての、これらベーリンジアの2集団(アメリカ大陸先住民とエスキモー)の遺伝的類似性を考えると、これらの人口集団における全ての違いの理解は、とくに、アメリカ大陸先住民におけるABO式血液型のO型の単形性を考えると、ABO式血液型アレルの多面発現を明らかにできるかもしれません。その多面発現の理解は、人口集団と同様に個体の水準での理解を深めるでしょう。


参考文献:
Hobgood DK.(2023): ABO gene may be salient to the out of Africa migrations to the Americas. Medical Hypotheses, 182, 111238.
https://doi.org/10.1016/j.mehy.2023.111238

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