景観の動態と顕生代における生物圏の多様化

　景観の動態と顕生代における生物圏の多様化に関する研究（Salles et al., 2023）が公表されました。生物圏の長期的な多様化は、物理的な環境の変化に応答します。しかし、顕生代の初期において、大陸で生命の多様化が始まったのは海洋よりも遅い時期で、それはほぼ単調なものでした。これに対して、海洋の生命は時代とともに多数の属の増減を経て多様化しました。地球力学的および気候的な強制力の変化に関する包括的な評価では、地球上の生命進化の長期的なパターンに関して、統一理論は得られていません。

　本論文は、気候モデルとプレートテクトニクスモデルを組み合わせて、地球景観の発展を顕生代全体（カンブリア紀以降の過去5億4000万年間）にわたって数値的に再構築し、これを海洋動物および陸上植物の属レベルの古多様性データセットと比較しました。その結果、生物多様性は景観の動態に強く依存しており、景観動態は大陸領域でも海洋領域でも常にそれらの環境収容力を決定づけてきた、と示されました。

　海洋では、多様性は、一次生産に栄養素を供給する河川堆積物のフラックスに密接に適応していました。これに対し陸上では、植物の多様化は、大陸の表面が広大な内陸流域の堆積物被覆で作り替えられるまでは不毛な土壌条件によって妨げられていましたが、堆積物の被覆によって土壌依存性の有根植物相の発展が促進され、景観の多様性が増すにつれて、そうした植物相の発展がさらに促進されました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化学：景観の動態と顕生代における生物圏の多様化

進化学：生物多様性は景観の変化によって形作られた

　今回、過去5億4000万年にわたる陸地から海洋への堆積物フラックスのモデルによって、海洋生物と陸上生物の化石記録に見られる違いが説明された。海洋では、動物の多様性は河川を介した栄養素の利用可能性に左右されてきたのに対し、大陸では、植物の多様性は表面が堆積物で覆われた後に景観の多様化に伴い発展したと見られる。


参考文献：
Salles T. et al.(2023): Landscape dynamics and the Phanerozoic diversification of the biosphere. Nature, 624, 7990, 115–121.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06777-z