オーストラリア先住民の遺伝的構造
オーストラリア先住民の遺伝的構造に関する二つの研究が公表されました。一方の研究(Silcocks et al., 2023)は、オーストラリア先住民のゲノムにおける構造の深さと新規多様体の豊富さを報告しています。オーストラリア先住民には、言語および文化的に豊かな歴史があります。こうした歴史が遺伝的多様性にどのように関係しているのかは、オーストラリア先住民のゲノム研究との関わりが限定的であるため、ほとんど知られていません。この研究は、最も広がりの大きな語族であるパマ・ニュンガン語族(Pama–Nyungan languages)とは異なる言語となるティウィ(Tiwi)語話者を含む、4つの遠隔地先住民共同体に属する159人のゲノムを解析しました。オーストラリア先住民のゲノムのこうした大規模な収集は、先住民共同体との慎重な関わり合いと協議によって可能になりました。
ゲノム解析の結果、オーストラリア全土にわたって極めて明確な集団構造が見られる、と明らかになりました。この構造は、35000~26000年前頃における共同体間の複数の分岐時期、および長期の小さいものの安定した有効人口規模によって駆動されました。パプアニューギニア人集団からの初期の分岐(47000年前頃)やユーラシア人集団からの初期の分岐などを含むこうした人口動態史によって、アフリカ外で見られるものとしては報告例のないこれまでで最も高い遺伝的変動の比率と、全球標本と比べて広範な同型接合性がもたらされました。
こうした変動の大部分は、全球の参照パネルや臨床データセットに認められなかったもので、機能的影響の予想される変動は他の集団よりも同型接合性である可能性が高く、医療ゲノミクスに影響してくると予想されます。こうした調査結果は、オーストラリア先住民が単一の均質な遺伝的集団ではなく、ニューギニアの人々との遺伝的関連性も一様ではないことを明らかにしています。これらのパターンから、オーストラリア先住民の遺伝的多様性の全容はまだ明らかになっておらず、これによってオーストラリア先住民のゲノム医療や公平な医療が妨げられているかもしれない、と示唆されます。
もう一方の研究(Reis et al., 2023)は、オーストラリア先住民におけるゲノム構造の多様性の全体像を報告しています。オーストラリア先住民は、豊かで独特なゲノム多様性を有しています。しかし、アボリジニ系やトレス海峡諸島民系は、歴史的にゲノミクス研究の対象となることは少なく、参照データセットにはほぼ完全に含まれていません。この代表性の欠落に取り組むことは、ヒトゲノムの全球的多様性の理解を深めるためにも、またゲノム医療における公平な転帰を確実なものにするための前提条件としても極めて重要です。
この研究は、集団規模の全ゲノムの長い読み取りの塩基配列解読を適用し、4つの遠隔地先住民共同体についてゲノム構造の多様性の特性を明らかにしました。その結果、大きな挿入・欠失(インデル)多様体(20~49塩基対、n=136797)、構造多様体(50~5万塩基対:塩基対、n=159912)、コピー数変化領域(5万超の塩基対、n=156)が多数明らかになりました。多様体の大部分は、縦列反復配列あるいは散在可動性遺伝因子配列で構成されており(最大90%)、これまでにアノテーション(注釈付け)されていないものでした(最大62%)。構造多様体の大部分はオーストラリア先住民にのみ見られると考えられ(下限推定値12%)、その大半は単一の共同体でのみ見つかっていることから、オーストラリア大陸全体のゲノム構造の多様性について包括的なカタログを作製するには、広範かつ詳細な試料採取が必要と浮き彫りになりました。
本論文はさらに、ゲノム全体の短い縦列反復配列を調べ、50の既知の疾患座位における対立遺伝子の多様性の特徴を明らかにし、タンパク質コード遺伝子内に数百の新規反復配列伸長部位を見いだして、短い縦列反復配列間の多様性と拘束についての独特なパターンを特定しました。本論文は、オーストラリア内外のゲノム構造の多様性の次元と動態に新たな光を投じます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
遺伝学:オーストラリア先住民のゲノムが示す構造の深さと新規バリアントの豊富さ
遺伝学:オーストラリア先住民におけるゲノム構造の多様性の全体像
遺伝学:オーストラリア先住民のゲノムの豊かな多様性
今週号では2報の論文で、オーストラリアの4つの先住民コミュニティーに属する159人を対象にした、全ゲノム塩基配列解読の結果が報告されている。S Leslieたちは、先住民コミュニティーのゲノムには、言語の多様性と複雑な移動の歴史に対応した深い集団構造が存在することを明らかにしている。一方、I Devesonたちは、得られたゲノムの構造バリアントについて調べ、先住民コミュニティーや特定のコミュニティーにのみ見られるバリアントが多いことを示している。これらの結果は、こうした先住民をゲノム研究に含めることの重要性を浮き彫りにしている。
参考文献:
Reis ALM. et al.(2023): The landscape of genomic structural variation in Indigenous Australians. Nature, 624, 7992, 602–610.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06842-7
Silcocks M. et al.(2023): Indigenous Australian genomes show deep structure and rich novel variation. Nature, 624, 7992, 593–601.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06831-w
ゲノム解析の結果、オーストラリア全土にわたって極めて明確な集団構造が見られる、と明らかになりました。この構造は、35000~26000年前頃における共同体間の複数の分岐時期、および長期の小さいものの安定した有効人口規模によって駆動されました。パプアニューギニア人集団からの初期の分岐(47000年前頃)やユーラシア人集団からの初期の分岐などを含むこうした人口動態史によって、アフリカ外で見られるものとしては報告例のないこれまでで最も高い遺伝的変動の比率と、全球標本と比べて広範な同型接合性がもたらされました。
こうした変動の大部分は、全球の参照パネルや臨床データセットに認められなかったもので、機能的影響の予想される変動は他の集団よりも同型接合性である可能性が高く、医療ゲノミクスに影響してくると予想されます。こうした調査結果は、オーストラリア先住民が単一の均質な遺伝的集団ではなく、ニューギニアの人々との遺伝的関連性も一様ではないことを明らかにしています。これらのパターンから、オーストラリア先住民の遺伝的多様性の全容はまだ明らかになっておらず、これによってオーストラリア先住民のゲノム医療や公平な医療が妨げられているかもしれない、と示唆されます。
もう一方の研究(Reis et al., 2023)は、オーストラリア先住民におけるゲノム構造の多様性の全体像を報告しています。オーストラリア先住民は、豊かで独特なゲノム多様性を有しています。しかし、アボリジニ系やトレス海峡諸島民系は、歴史的にゲノミクス研究の対象となることは少なく、参照データセットにはほぼ完全に含まれていません。この代表性の欠落に取り組むことは、ヒトゲノムの全球的多様性の理解を深めるためにも、またゲノム医療における公平な転帰を確実なものにするための前提条件としても極めて重要です。
この研究は、集団規模の全ゲノムの長い読み取りの塩基配列解読を適用し、4つの遠隔地先住民共同体についてゲノム構造の多様性の特性を明らかにしました。その結果、大きな挿入・欠失(インデル)多様体(20~49塩基対、n=136797)、構造多様体(50~5万塩基対:塩基対、n=159912)、コピー数変化領域(5万超の塩基対、n=156)が多数明らかになりました。多様体の大部分は、縦列反復配列あるいは散在可動性遺伝因子配列で構成されており(最大90%)、これまでにアノテーション(注釈付け)されていないものでした(最大62%)。構造多様体の大部分はオーストラリア先住民にのみ見られると考えられ(下限推定値12%)、その大半は単一の共同体でのみ見つかっていることから、オーストラリア大陸全体のゲノム構造の多様性について包括的なカタログを作製するには、広範かつ詳細な試料採取が必要と浮き彫りになりました。
本論文はさらに、ゲノム全体の短い縦列反復配列を調べ、50の既知の疾患座位における対立遺伝子の多様性の特徴を明らかにし、タンパク質コード遺伝子内に数百の新規反復配列伸長部位を見いだして、短い縦列反復配列間の多様性と拘束についての独特なパターンを特定しました。本論文は、オーストラリア内外のゲノム構造の多様性の次元と動態に新たな光を投じます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
遺伝学:オーストラリア先住民のゲノムが示す構造の深さと新規バリアントの豊富さ
遺伝学:オーストラリア先住民におけるゲノム構造の多様性の全体像
遺伝学:オーストラリア先住民のゲノムの豊かな多様性
今週号では2報の論文で、オーストラリアの4つの先住民コミュニティーに属する159人を対象にした、全ゲノム塩基配列解読の結果が報告されている。S Leslieたちは、先住民コミュニティーのゲノムには、言語の多様性と複雑な移動の歴史に対応した深い集団構造が存在することを明らかにしている。一方、I Devesonたちは、得られたゲノムの構造バリアントについて調べ、先住民コミュニティーや特定のコミュニティーにのみ見られるバリアントが多いことを示している。これらの結果は、こうした先住民をゲノム研究に含めることの重要性を浮き彫りにしている。
参考文献:
Reis ALM. et al.(2023): The landscape of genomic structural variation in Indigenous Australians. Nature, 624, 7992, 602–610.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06842-7
Silcocks M. et al.(2023): Indigenous Australian genomes show deep structure and rich novel variation. Nature, 624, 7992, 593–601.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06831-w
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