2023年の古人類学界

 あくまでも私の関心に基づいたものですが、年末になったので、今年(2023年)も古人類学界について振り返っていくことにします。近年ずっと繰り返していますが、今年も古代DNA研究の進展には目覚ましいものがありました。正直なところ、最新の研究動向にまったく追いついていけていないのですが、今後も少しでも多く取り上げていこう、と考えています。当ブログでもそれなりの数の古代DNA研究を取り上げましたが、知っていてもまだ取り上げていない研究も少なくありませんし、何よりも、まだ知らない研究も多いのではないか、と思います。古代DNA研究の目覚ましい進展を踏まえて、今年もネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)といった非現生人類ホモ属(古代型ホモ属、絶滅ホモ属)と、現生人類(Homo sapiens)とに分けます。とくに重要と判断した研究については、冒頭に★をつけています。



(1)非現生人類ホモ属のDNA研究

 ★査読前論文ですが、フランス地中海地域の後期ネアンデルタール人のゲノムデータを報告した研究では、ヨーロッパの後期ネアンデルタール人においても遺伝的に異なる系統が複数存在した、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202304article_13.html

 まだ論文としては刊行されていませんが、スペイン北部のエル・カスティーヨ(El Castillo)洞窟の中部旧石器時代の堆積物からDNAを解析した研究では、ネアンデルタール人のミトコンドリアDNA(mtDNA)および核DNAが報告されており、中部旧石器時代の堆積物でのDNA解析という点で、たいへん注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202309article_24.html

 現生人類のアフリカからの拡大に伴うネアンデルタール人からの遺伝的影響の時空間的差異を推定した研究では、現代人ではユーラシア東部の方がユーラシア西部よりもネアンデルタール人からのより大きな遺伝的影響を示す理由について改めて、ネアンデルタール人からの遺伝的影響をほぼ全く受けていないと推測される、「亡霊(ゴースト)」人口集団である「基底部ユーラシア人」がユーラシア西部現代人の祖先に遺伝的影響を残したから、と推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202310article_24.html

 ★ネアンデルタール人と現生人類との双方向での遺伝子移入を示した研究では、現生人類だけではなくネアンデルタール人においても、同じゲノム領域で相手からの遺伝子移入の枯渇が明らかにされており、現生人類の特定のゲノム領域におけるネアンデルタール人からの遺伝子移入の枯渇が、現生人類よりも人口規模の小さいネアンデルタール人で弱い有害なアレル(対立遺伝子)が蓄積される傾向にあったからというよりも、種分化に起因する遺伝的不適合だった可能性が示唆されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202310article_27.html



(2)現生人類の古代DNA研究


●アフリカ

 DNAの保存においてヨーロッパなどよりも不利なアフリカは、古代DNA研究に不向きな地域と言えるでしょうが、それでも近年では古代DNA研究の進展が見られます。前近代(1250~1800年頃)のスワヒリ海岸の都市部の人類遺骸のゲノムデータを報告した研究では、アジア南西部および南部からの遺伝的影響が明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202304article_2.html

 ★アフリカ北西部の新石器時代個体群のゲノムデータを報告した研究では、イベリア半島とレヴァントからの遺伝的影響が改めて示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202306article_18.html

 カナリア諸島の前近代住民のゲノムデータを報告した研究では、その遺伝的構成要素は、モロッコ新石器時代集団的なものとともに、サハラ砂漠以南のアフリカやユーラシアにおける青銅器時代の拡大と関連するものも含まれていた、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202308article_24.html

 アフリカは現代人で最も遺伝的多様性の高い地域ですが、現代人の遺伝学的研究は、ヨーロッパなど他地域よりも遅れており、現代人の遺伝的多様性の把握を妨げています。直接的な古代DNA研究ではありませんが、古代DNA研究も踏まえつつ、アフリカの現代人集団の遺伝的構造を大規模に報告した研究が今年は相次いで報告され、アフリカの現代人集団の遺伝的多様性がさらに詳細に把握されるようになりました。

 ★アフリカの多様な現代人集団の高品質なゲノムデータを報告した研究では、遺伝的に高度に分岐した「亡霊」人口集団からの複数の遺伝子移入事象の可能性が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202303article_8.html

 アフリカの1333個体の新たなゲノムデータを報告した研究では、カネム・ボルヌ帝国との関連の可能性が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202304article_7.html

 アフリカにおける現生人類の複雑な進化を推測した研究では、これまで指摘されていた、アフリカの現代人集団における未知の非現生人類ホモ属系統からの遺伝子移入がなかった可能性も示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202305article_31.html

 アフリカ南西部の現代人のゲノムデータを報告した研究では、遺伝学的にこれまで知られていなかった祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)が新たに特定されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202309article_27.html


●ユーラシア西部

 ユーラシア西部の古代DNA研究は今年も大きく進展し、当ブログで取り上げた研究だけでもかなりの数となるので、とくに重要と判断したものを以下に列挙します。シチリア島の上部旧石器時代人類のゲノムデータを報告した研究では、これまで知られていなかった遺伝的系統が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202301article_8.html

 古代人48個体の新たなゲノムデータを報告した研究では、スカンジナビア半島の鉄器時代~現代までの人類集団の遺伝的構成の変化が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202301article_18.html

 エーゲ海地域の古代人102個体のゲノムデータを報告した研究では、新石器時代~青銅器時代のエーゲ海地域の人類集団の遺伝的構成の時空間的差異とともに、高頻度の族内婚を示しました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202301article_27.html

 ★ヨーロッパ全域の狩猟採集民116個体の新たなゲノムデータを報告した研究では、上部旧石器時代から新石器時代のヨーロッパの、とくにこれまで不明なところが多分に残っていた最終氷期極大期(Last Glacial Maximum、略してLGM)前後の人口史をより詳しく解明した、画期的成果と言えそうで、とくに注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202303article_3.html

 ★上述の研究と関連して、イベリア半島南部の上部旧石器時代個体のゲノムデータを報告した研究では、イベリア半島をヨーロッパ西部のLGM前の祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)にとって退避地だった可能性が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202303article_7.html

 コーカサス南部の新石器時代3個体の新たなゲノムデータを報告した研究では、アナトリア半島農耕民関連人口集団とコーカサス/イラン人口集団との間の近い過去の遺伝子流動の可能性が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202303article_31.html

 ピクト人のゲノムデータを報告した研究では、スコットランド西部やウェールズやアイルランド島北部やノーサンブリアの個体群との間の遺伝的類似性が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202305article_9.html

 アナトリア半島とレヴァントの先土器新石器時代B集団の学際的研究では、新石器化の初期段階における肥沃な三日月地帯内のつながりと関連する多様な遺伝的起源と、近親婚の証拠が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202307article_18.html

 ヨーロッパ南東部の新石器時代から前期青銅器時代までの古代人135個体のゲノムデータを報告した研究では、草原地帯の人類集団と農耕民集団との遺伝的接触が、これまでの想定より約1000年早かった、と示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202308article_13.html

 ★石器時代ヨーロッパ中央部および東部の人類のゲノムデータを報告した研究では、ウクライナのドニエプル川下流域周辺の人類集団が、中石器時代から新石器時代末まで4000年以上にわたって、農耕を取り入れながら遺伝的連続性を示していた、と明らかにされ、農耕の拡大が大規模な人類集団の移動と混合を伴わない場合もあったかもしれない、と指摘されており、たいへん注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202308article_15.html

 ★古代ゲノムデータからフランス新石器時代の社会構造を推測した研究では、大規模な家系図が復元されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202308article_18.html

 ポーランドの鉄器時代と中世の人類集団のゲノムデータを報告した研究では、ヨーロッパ東部および中央部における鉄器時代と中世との間の遺伝的連続が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202308article_30.html

 1991年にアルプス山脈で発見されたアイスマン(Iceman)と呼ばれるミイラの以前よりも高品質なゲノムデータを報告した研究では、先行研究とは異なり、検出可能な草原地帯関連祖先系統が示されませんでした。
https://sicambre.seesaa.net/article/202309article_15.html

 ★まだ論文としては刊行されていませんが、ドイツのテューリンゲン州のオーラ川流域に位置するラニスのイルゼン洞窟遺跡で発見された個体に関する研究では、この個体群が文化的には中部旧石器から上部旧石器への「移行期インダストリー」とされる LRJ(Lincombian-Ranisian-Jerzmanowician)技術複合(中部旧石器時代と上部旧石器時代との間の移行期の技術複合で地理的にはイギリスからポーランドまでのヨーロッパ北部の平原に分布しています)と関連しており、遺伝的には、チェコで発見され、非アフリカ系現代人系統でユーラシア東西の現代人系統の分岐前に分岐し、現在ではほぼ絶滅したと考えられているチェコで発見されたズラティクンと呼ばれる個体と類似している、と示されています。今ではほぼ完全に絶滅した集団が、かつてヨーロッパには広範に分布していた可能性が示されたわけで、たいへん注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202309article_22.html

 ★これと関連して、クリミアの上部旧石器時代の現生人類のゲノムデータを報告した研究では、ズラティクン個体により表される集団の遺伝的痕跡がクリミアの上部旧石器時代個体で明確に残っている、と示されており、たいへん注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202310article_31.html

 5世紀のパンノニアの墓地の被葬者のゲノムデータを報告した研究では、(準)同時代のヨーロッパ人よりも遺伝的多様性が高い、と示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202310article_8.html

 新アッシリアの宮殿の煉瓦から得られた古代DNAを報告した研究は、古代DNA研究の範囲をさらに広げた点で注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202311article_16.html

 ポーランドの上部旧石器時代人類の歯の遺伝学的分析結果を報告した研究では、最小限の侵襲で分析する手法が示され、今後の研究への応用という点で注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202311article_23.html

 ローマ期ブリテン島の1個体のゲノムと同位体の分析では、サルマティア人との遺伝的類似性と外部からの到来が明らかになり、ローマ帝国における軍隊の移動と関連している可能性が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202312article_24.html


●ユーラシア東部

 扶南期のカンボジアの男児個体におけるアジア南部からの遺伝的影響を報告した研究では、現在の人口集団に基づく遺伝学的推定年代よりも約千年早く始まった、と示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202301article_10.html

 ★中期完新世にさかのぼるアジア北部古代人のゲノムデータを報告した研究では、これまで知られていなかった遺伝的構成のアルタイ地域の中期完新世狩猟採集民の存在が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202301article_15.html

 現代日本人と「縄文人」のゲノムデータを用いた研究では、現代日本人の遺伝的構成の地域差が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202302article_19.html

 ★チベット高原の5100~100年前頃となる89個体のゲノム規模データを報告した研究では、現代チベット人の形成過程と地域差がより詳しく解明されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202303article_22.html

 ★匈奴西部辺境地の墓地で発見された個体のゲノムデータを報告した研究では、特定の共同体内の遺伝的多様性が匈奴帝国全体と匹敵するものの、社会的地位の高低により遺伝的多様性には差異があり、より高位の個体群の方が遺伝的多様性は低い、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202304article_19.html

 ★ロシアのシベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で発見された上部旧石器時代のシカの歯で作られたペンダントからDNAを解析した研究では、このペンダントを装着していた人物が女性で、遺伝的には古代北ユーラシア人と近いことを示しており、古代DNA研究の対象範囲をさらに広げた点で、たいへん注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202305article_5.html

 ★中国南西部の後期新石器時代遺跡の人類のゲノムデータを報告した研究では、人口移動ではなく文化伝播による稲作農耕拡散の可能性が示されており、たいへん注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202310article_25.html

 「縄文人」と現代人のゲノムデータを用いた研究では、沖縄島と宮古諸島の人類集団の形成史が推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202311article_3.html

 突厥王族出身の北周の阿史那皇后のゲノムデータを報告した研究では、突厥王族のゲノムがほぼ完全にアジア北東部的な遺伝的構成要素で占められている可能性と、テュルク語族言語の拡大における人口拡大よりも文化拡散の大きな影響の可能性が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202311article_19.html

 既知の古代人のゲノムデータを用いて、「縄文人」の遺伝的構造、および非縄文文化圏の「縄文人」的な遺伝的構成の個体の起源が推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202312article_26.html

 ★タイ北西部の鉄器時代の33個体のゲノムデータを報告した研究では、他の多くのアジア南東部本土現代人集団と同様に、その遺伝的構成は在来の狩猟採集民と新石器時代の長江流域集団(福建省の前期新石器時代個体により表される仮定的な集団)および黄河流域新石器時代集団的な要素でモデル化できる、と示され、古代DNAの保存に適していないアジア南東部の古代ゲノム研究という点で意義は大きいと思います。
https://sicambre.seesaa.net/article/202312article_28.html


●アメリカ大陸

 アラスカ南東部の3000年前頃の女性個体のゲノムデータを報告した研究では、アラスカ南東部における少なくとも3000年間の母系の遺伝的連続性と、古代および現在の太平洋北西部沿岸北方のアメリカ大陸先住民と最も密接に関連していることが示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202305article_4.html

 メキシコの先スペイン期遺跡個体の遺伝的データを報告した研究では、2つの古代の標本抽出されていない「亡霊」人口集団のメキシコ北部および中央部の先スペイン期人口集団への寄与が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202305article_17.html

 北アメリカ大陸東岸の初期植民地住民のゲノムデータを報告した研究では、アフリカ系の人々とヨーロッパ系の人々が、墓地で区別されつつ、共存していた、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202306article_20.html

 アメリカ合衆国サウスカロライナ州の墓地で発見された18世紀後半の遺骸のゲノムデータを報告した研究では、アフリカ系の人々の起源地が西部および西部中央と推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202307article_5.html

 マチュ・ピチュ遺跡で発見された人々のゲノムデータを報告した研究では、インカ皇帝に仕えたマチュ・ピチュの家臣集団は遺伝的にたいへん異質で、インカ帝国全域およびアマゾン地域の集団と関連する遺伝的祖先系統を示す、と明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202307article_28.html

 南アメリカ大陸東部の沿岸の古代人のゲノムデータを報告した研究では、ブラジルの南東部および南部沿岸の同時代のサンバキ(貝塚)集団における遺伝的異質性が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202308article_9.html

 アメリカ合衆国カリフォルニア州とメキシコ北西部における7400~200年前頃の人口史を推測した研究は多数の古代人のゲノムデータに基づいており、古代ゲノム研究の進展が改めて窺えます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202312article_13.html


●アジア南東部島嶼部とワラセアとオセアニア

 古代DNA研究も踏まえて、ボルネオ島(カリマンタン島)の現代の狩猟採集民の人口史を推測した研究では、伝統的に狩猟採集民だったプナン人の祖先によるボルネオ島での長期の居住が推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202311article_7.html


●非ヒト動物の古代DNA解析

 バンドウイルカの古代ゲノムデータを報告した研究では、遠洋と沿岸の個体群間の網状の進化史が明らかにされています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202307article_26.html

 絶滅したシチリアオオカミのゲノムデータを報告した研究では、シチリアオオカミがヨーロッパの銅器時代および青銅器時代のイヌと関連する系統からの祖先系統を有している、と示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202308article_1.html

 トラの古代DNAデータを報告した研究では、現在の中国南西部が後期更新世のトラにとって退避地だったかもしれない、と示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202311article_5.html

 ヨーロッパと近東のヤマネコの古代DNAデータを報告した研究では、イエネコとヨーロッパヤマネコとの間の遺伝的混合が限定的だった、と示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202311article_12.html

 更新世に絶滅したケブカサイのミトコンドリアDNAデータを報告した研究では、現在の中国北部がケブカサイにとって退避地だったかもしれない、と示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202311article_26.html


●総説的論文

 古代ゲノム研究に基づく完新世における人類の拡散に関する概説や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202303article_12.html
★古代DNA研究も踏まえつつ、アフリカの中期石器時代と後期石器時代における現生人類の行動の複雑さを整理した考古学的視点からの概説や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202306article_14.html
アフリカの人口史の概説や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202306article_22.html
★弥生時代を中心とした日本列島の古代ゲノム研究の概説があります。
https://sicambre.seesaa.net/article/202312article_17.html

 ★ユーラシア西部における後期更新世人類の進化に関する証拠を再検討した研究では、少ない証拠からの安易な推測、さらにはその推測(仮定)の前提化(事実化)が厳しく批判されており、私も反省するところが多々ありました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202310article_3.html



(3)現生人類拡散の見直し

 今年は、現生人類の拡散に関する有力説に見直しを迫ったり、その意義に再考を迫ったりするようないくつかの研究が印象に残りました。

 ★フランス地中海地域におけるヨーロッパ最古となる弓矢技術を報告した研究からは、弓矢など現生人類に固有の投射武器により、現生人類はネアンデルタール人に対して優位に立って置換した、というような見解をもはや単純には支持すべきでないことが示唆されているように思います。
https://sicambre.seesaa.net/article/202302article_24.html

 ★石器技術の比較から更新世における現生人類のレヴァントからヨーロッパへの3回の主要な拡散を推測した研究は、最近の古代DNA研究との関連でも注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202305article_7.html

 ★ラオスで発見された現生人類遺骸が6万年以上前であることを報告した研究からは、現代人の主要な祖先ではない現生人類集団の6万年以上前となるユーラシア東部圏への拡散の可能性が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202306article_16.html

 アフリカ西部における中期石器文化が完新世最初期まで続いていたことを報告した研究からは、現生人類の文化の多様性が改めて示されているように思います。
https://sicambre.seesaa.net/article/202308article_3.html

 北アメリカ大陸における2万年以上前と推定される人類の足跡の痕跡を報告した研究からは、現代および先コロンブス期の一部の南アメリカ大陸先住民集団のゲノムにおける、アンダマン諸島およびオーストラレーシア(オーストラリアとニュージーランドとその近隣の南太平洋諸島で構成される地域)の現代人と関連する祖先系統をもたらしたのが、アメリカ大陸に2万年以上前に存在した人類集団である可能性も考えられます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202310article_15.html



上記の3区分に当てはまりませんが、その他にも注目される研究があります。

 ★オルドワン(Oldowan、オルドヴァイ文化)石器の年代が300万年前頃までさかのぼる可能性を示した研究では、パラントロプス属が石器を製作していたかもしれない、と指摘されており、ホモ属以外の石器使用の可能性という点で、たいへん注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202302article_12.html

 ★オルドワン石器の次の様式となるアシューリアン(Acheulian、アシュール文化)石器群が、エチオピア高地では195万年前頃までさかのぼることを報告した研究も、たいへん注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202312article_12.html

 ホモ・エレクトス(Homo erectus)のジャワ島への到達年代は180万年前頃までさかのぼることを示した研究では、ジャワ島へのホモ・エレクトスの拡散を150万年前頃以降とする先行研究で提示された年代が見直されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202306article_27.html

 アンデルタール人の象徴的能力についての証拠も蓄積されつつあり、食動物頭蓋の象徴的使用の可能性を示した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202302article_7.html
5万年以上前となるネアンデルタール人の線刻を報告した研究があります。
https://sicambre.seesaa.net/article/202306article_25.html



 この他にも取り上げるべき研究は多くあるはずですが、読もうと思っていながらまだ読んでいない論文もかなり多く、古人類学の最新の動向になかなか追いつけていないのが現状で、重要な研究でありながら把握しきれていないものも多いのではないか、と思います。この状況を劇的に改善させられる自信はまったくないので、せめて今年並には本・論文を読み、地道に最新の動向を追いかけていこう、と考えています。なお、過去の回顧記事は以下の通りです。

2006年
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_27.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_28.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_29.html

2007年
https://sicambre.seesaa.net/article/200712article_28.html

2008年
https://sicambre.seesaa.net/article/200812article_25.html

2009年
https://sicambre.seesaa.net/article/200912article_25.html

2010年
https://sicambre.seesaa.net/article/201012article_26.html

2011年
https://sicambre.seesaa.net/article/201112article_24.html

2012年
https://sicambre.seesaa.net/article/201212article_26.html

2013年
https://sicambre.seesaa.net/article/201312article_33.html

2014年
https://sicambre.seesaa.net/article/201412article_32.html

2015年
https://sicambre.seesaa.net/article/201512article_31.html

2016年
https://sicambre.seesaa.net/article/201612article_29.html

2017年
https://sicambre.seesaa.net/article/201712article_29.html

2018年
https://sicambre.seesaa.net/article/201812article_42.html

2019年
https://sicambre.seesaa.net/article/201912article_57.html

2020年
https://sicambre.seesaa.net/article/202012article_40.html

2021年
https://sicambre.seesaa.net/article/202112article_32.html

2022年
https://sicambre.seesaa.net/article/202212article_29.html

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