『卑弥呼』第121話「最高の軍師」
『ビッグコミックオリジナル』2024年1月5日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハが配下のオオヒコに、津島(ツシマ、現在の対馬でしょう)国のアビル王は間もなく廃人になるだろう、と語るところで終了しました。今回は、津島国の雷邑(イカツノムラ)で、那(ナ)国のトメ将軍が、伊岐(イキ、現在の壱岐諸島でしょう)国のイカツ王の従兄弟で、津島国の先代の王(コヤネ王)の息子であるコミミと会談をしている場面から始まります。トメ将軍は日見子(ヒミコ)であるヤノハからの言伝として、アビル王を倒して新たな王になる野心があるのか、コミミに尋ねます。コヤネ王はアビル王の騙し討ちにより殺されたので、好機さえあれば殺したいが、アビル王の守りは強固なので、容易に近づけない、とコミミはトメ将軍に答えます。挙兵すれば援軍を派遣すると日見子様(ヤノハ)は言っており、山社(ヤマト)の連合軍ならば、質でも数でもアビル王の手勢を圧倒するだろう、とトメ将軍はコミミを説得します。しかしコミミは挙兵を躊躇っており、それは、陸上では山社連合軍が圧倒的に優位であるものの、抜け目のないアビル王は山社連合軍を上陸させず、海上で迎え撃つはずで、海ではアビル王の軍勢が圧倒的に優位というわけです。するとトメ将軍は微笑し、日見子様は負ける戦をしないので、援軍を派遣するからには、きっと何か策があるのだろう、とコミミに伝えます。今の日見子様(ヤノハ)は戦神の声も聞こえるのか、とコミミに問われたトメ将軍は、中土(中華地域のことでしょう)最高の軍師である呂尚(太公望)の生まれ変わりのようなお方だ、と答えます。するとコミミは、今の諸葛亮のような方なのか、と言います。コミミは諸葛亮を知らないトメ将軍に、蜀漢の軍師将軍で、諸葛亮がいなければ劉備も一国の主になれなかったと言われている、と説明します。するとトメ将軍は、諸葛亮殿にお目にかかりたいものだ、と呟きます。
津島国の「首都」である三根(ミネ)では、アビル王がヤノハから渡された秘薬(ヒカゲシビレタケという幻覚作用のあるキノコから作られ、依存性が高く服用すると廃人化します)を服用しており、飲みすぎると体に支障がある、と重臣に諫められていました。日見子(ヤノハ)もそう言っていたが、日見子から同時に貰った不老長寿の薬を、秘薬を吸った後にすぐ飲めば、体は無事だ、とアビル王は重臣に説明します。重臣から、日見子がトメ将軍を待ってまだ豆酘崎(ツツノミサキ)にいる、と報告を受けたアビル王は、先ほど目の前に天日神命(アメノヒノミタマノミコト)が顕れ、自分にお告げを下されて、日見子とて所詮は浅薄で弱い女性なので、いっそ殺して自分が日見彦(ヒミヒコ)になればよい、ということだった、と語ります。日見子に兵を差し向けるよう、命じるアビル王に重臣は驚き、豆酘崎に兵を送るのか、とアビル王に尋ねますが、アビル王は一喝し、津島で日見子を殺せば山社連合軍が押し寄せて大戦になるので、日見子の帰路に、津島と伊岐の間の海上で舟を沈めよ、と重臣に命じます。
その翌日、トメ将軍からコミミにはアビル王を打倒する意思がある、とヤノハは報告を受けます。トメ将軍が、コミミの懸念をさらに伝えようとすると、アカメが現れ、ヤノハはアカメに、山社に戻ってヌカデに指示を伝えるよう、命じます。アカメは、近くの厳原(イヅノバル)の港から旅人に混ざって筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)に戻る、とヤノハに伝えます。アビル王に気づかれずに兵を上陸させる策をヌカデに伝えた、と説明するヤノハに、トメ将軍は改めて感心します。加羅(伽耶、朝鮮半島)の状況についてヤノハに問われたトメ将軍は、加羅には倭人の邑が多くあり、おもに弁韓という地域だ、と説明します。今回冒頭で、173年(以下、西暦は厳密な換算ではなく、1年単位での換算です)5月に、倭の女王卑弥呼が施設を派遣し、礼物を献じて、国交を求めた、との『三国史記』の「新羅本紀」の記事が引用されています。弁韓には加羅を含めて12の国があり、東方の辰韓(後の新羅に相当する地域)にも12の国がある、とトメ将軍から説明を受けたヤノハは、公孫一族の支配が及んでいる帯方郡と楽浪郡に近い地域は何と呼ばれているのか、とトメ将軍に尋ねます。それは馬韓(後の百済に相当する地域)で、54の国がある、とトメ将軍が返答すると、楽浪郡まで行くには馬韓と和議を結ぶ必要がある、とヤノハは思案します。するとトメ将軍は、その点は心配無用とヤノハに説明します。唐の勒島(ロクド、慶尚南道泗川市の沖合の島)の駅役(エキヤク、大陸の国々から倭にわたる人々や品々や情報を中継ぎする役目)のヒホコによると、先代の日見子が没する少し前に、辰韓最強の国である斯盧(シラ)のアダルラ・イサグム王と和議を結んでいる、というわけです。辰韓と良好な関係なら馬韓は倭の使節を通すのか、とヤノハに問われたトメ将軍は、両地域の関係は良好で、互いの友好国は同じく友だ、と答えます。するとヤノハは、やはり先代日見子様は先見の明のある方で、少しでも近づきたい、と言います。トメ将軍はヤノハ一行の3艘の舟を見て、ヤノハがアビル王成敗のため帰国する、と考えていましたが、ヤノハはまだ旅を続けるつもりだ、とトメ将軍に伝えます。伊岐の兵も末盧(マツラ)の兵も自分に命を預けてくれたので、このまま加羅に行き、もし可能ならさらに進んで帯方郡まで行くつもりだ、とヤノハは自分の意図をトメ将軍に伝えます。アビル王の怒りを買うのではないか、と焦るトメ将軍に対して、アビル王は自分の暗殺のためすでに舟団を差し向けたはずで、おそらくは津島と伊岐の間で待ち構えているので、助かる道は加羅に向かう以外にない、とヤノハが説明すると、トメ将軍は感心します。
その半月後、山社国にある「日の巫女」集団の学舎である種智院(シュチイン)では、戦女(イクサメ)が訓練を行なっていました。その教官はククリで、山社の祈祷女(イノリメ)の長であるイスズは、ククリに訓練の進展度を尋ねます。種智院でも選りすぐりの戦女なので戦力に問題はない、と答えるククリに、すぐにでも出立させるよう、イスズは促しますが、戦女は戦うことしかできず、踊り子に化けさせる方の技芸はまだまだだ、と説明します。踊り子に化けさせるための技芸の教官はイクメですが、明らかに下手で、見ていたヌカデは苦笑します。種智院の戦女を踊り子に化けさせて津島に送り込め、という日見子様(ヤノハ)の指示は無茶な話だ、とイクメは困惑しています。ヌカデは、津島のアビル王に気づかれずに兵を送り込むにはそれしか方法がなく、女性は浅薄で弱き者という男どもの思い込みを逆手に取るのだ、とイクメを励まします。ヤノハがトメ将軍の案内で加羅に向かい、勒島に近づいたところで、今回は終了です。
今回は、ヤノハが策士として優れているところを改めて強調するような内容で、故に「最高の軍師」というわけです。ヤノハは加羅へと向かい、この後どこまで朝鮮半島を北上するのか、朝鮮半島でどのような知見を得るのか、たいへん楽しみです。あるいは、遼東公孫氏の支配圏まで行くのでしょうか。遼東公孫氏の登場は当初から予想していましたが、公孫淵がどのような人物として描かれるのか、楽しみです。迫力はあるものの、結局は鞠智彦(ククチヒコ)に敗れた、暈(クマ)の国のイサオ王のような人物ではないか、と予想しています。本作で魏が描かれることは当初から恐らくは多くの読者のように私も予想していましたが、諸葛亮は倭と直接的には関係がなかったでしょうから、言及もないかもしれない、と考えていました。今回、諸葛亮が言及され、倭の魏への遣使と、その前の遼東公孫氏の滅亡では司馬懿が登場するでしょうから、司馬懿から諸葛亮が語られることもあるかもしれません。いよいよ大陸情勢が本格的に描かれるようになり、倭国内でも暈や日下(ヒノモト)との潜在的対立関係は解消されていませんから、ますます壮大な話になってきて、今後の展開がたいへん楽しみです。
津島国の「首都」である三根(ミネ)では、アビル王がヤノハから渡された秘薬(ヒカゲシビレタケという幻覚作用のあるキノコから作られ、依存性が高く服用すると廃人化します)を服用しており、飲みすぎると体に支障がある、と重臣に諫められていました。日見子(ヤノハ)もそう言っていたが、日見子から同時に貰った不老長寿の薬を、秘薬を吸った後にすぐ飲めば、体は無事だ、とアビル王は重臣に説明します。重臣から、日見子がトメ将軍を待ってまだ豆酘崎(ツツノミサキ)にいる、と報告を受けたアビル王は、先ほど目の前に天日神命(アメノヒノミタマノミコト)が顕れ、自分にお告げを下されて、日見子とて所詮は浅薄で弱い女性なので、いっそ殺して自分が日見彦(ヒミヒコ)になればよい、ということだった、と語ります。日見子に兵を差し向けるよう、命じるアビル王に重臣は驚き、豆酘崎に兵を送るのか、とアビル王に尋ねますが、アビル王は一喝し、津島で日見子を殺せば山社連合軍が押し寄せて大戦になるので、日見子の帰路に、津島と伊岐の間の海上で舟を沈めよ、と重臣に命じます。
その翌日、トメ将軍からコミミにはアビル王を打倒する意思がある、とヤノハは報告を受けます。トメ将軍が、コミミの懸念をさらに伝えようとすると、アカメが現れ、ヤノハはアカメに、山社に戻ってヌカデに指示を伝えるよう、命じます。アカメは、近くの厳原(イヅノバル)の港から旅人に混ざって筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)に戻る、とヤノハに伝えます。アビル王に気づかれずに兵を上陸させる策をヌカデに伝えた、と説明するヤノハに、トメ将軍は改めて感心します。加羅(伽耶、朝鮮半島)の状況についてヤノハに問われたトメ将軍は、加羅には倭人の邑が多くあり、おもに弁韓という地域だ、と説明します。今回冒頭で、173年(以下、西暦は厳密な換算ではなく、1年単位での換算です)5月に、倭の女王卑弥呼が施設を派遣し、礼物を献じて、国交を求めた、との『三国史記』の「新羅本紀」の記事が引用されています。弁韓には加羅を含めて12の国があり、東方の辰韓(後の新羅に相当する地域)にも12の国がある、とトメ将軍から説明を受けたヤノハは、公孫一族の支配が及んでいる帯方郡と楽浪郡に近い地域は何と呼ばれているのか、とトメ将軍に尋ねます。それは馬韓(後の百済に相当する地域)で、54の国がある、とトメ将軍が返答すると、楽浪郡まで行くには馬韓と和議を結ぶ必要がある、とヤノハは思案します。するとトメ将軍は、その点は心配無用とヤノハに説明します。唐の勒島(ロクド、慶尚南道泗川市の沖合の島)の駅役(エキヤク、大陸の国々から倭にわたる人々や品々や情報を中継ぎする役目)のヒホコによると、先代の日見子が没する少し前に、辰韓最強の国である斯盧(シラ)のアダルラ・イサグム王と和議を結んでいる、というわけです。辰韓と良好な関係なら馬韓は倭の使節を通すのか、とヤノハに問われたトメ将軍は、両地域の関係は良好で、互いの友好国は同じく友だ、と答えます。するとヤノハは、やはり先代日見子様は先見の明のある方で、少しでも近づきたい、と言います。トメ将軍はヤノハ一行の3艘の舟を見て、ヤノハがアビル王成敗のため帰国する、と考えていましたが、ヤノハはまだ旅を続けるつもりだ、とトメ将軍に伝えます。伊岐の兵も末盧(マツラ)の兵も自分に命を預けてくれたので、このまま加羅に行き、もし可能ならさらに進んで帯方郡まで行くつもりだ、とヤノハは自分の意図をトメ将軍に伝えます。アビル王の怒りを買うのではないか、と焦るトメ将軍に対して、アビル王は自分の暗殺のためすでに舟団を差し向けたはずで、おそらくは津島と伊岐の間で待ち構えているので、助かる道は加羅に向かう以外にない、とヤノハが説明すると、トメ将軍は感心します。
その半月後、山社国にある「日の巫女」集団の学舎である種智院(シュチイン)では、戦女(イクサメ)が訓練を行なっていました。その教官はククリで、山社の祈祷女(イノリメ)の長であるイスズは、ククリに訓練の進展度を尋ねます。種智院でも選りすぐりの戦女なので戦力に問題はない、と答えるククリに、すぐにでも出立させるよう、イスズは促しますが、戦女は戦うことしかできず、踊り子に化けさせる方の技芸はまだまだだ、と説明します。踊り子に化けさせるための技芸の教官はイクメですが、明らかに下手で、見ていたヌカデは苦笑します。種智院の戦女を踊り子に化けさせて津島に送り込め、という日見子様(ヤノハ)の指示は無茶な話だ、とイクメは困惑しています。ヌカデは、津島のアビル王に気づかれずに兵を送り込むにはそれしか方法がなく、女性は浅薄で弱き者という男どもの思い込みを逆手に取るのだ、とイクメを励まします。ヤノハがトメ将軍の案内で加羅に向かい、勒島に近づいたところで、今回は終了です。
今回は、ヤノハが策士として優れているところを改めて強調するような内容で、故に「最高の軍師」というわけです。ヤノハは加羅へと向かい、この後どこまで朝鮮半島を北上するのか、朝鮮半島でどのような知見を得るのか、たいへん楽しみです。あるいは、遼東公孫氏の支配圏まで行くのでしょうか。遼東公孫氏の登場は当初から予想していましたが、公孫淵がどのような人物として描かれるのか、楽しみです。迫力はあるものの、結局は鞠智彦(ククチヒコ)に敗れた、暈(クマ)の国のイサオ王のような人物ではないか、と予想しています。本作で魏が描かれることは当初から恐らくは多くの読者のように私も予想していましたが、諸葛亮は倭と直接的には関係がなかったでしょうから、言及もないかもしれない、と考えていました。今回、諸葛亮が言及され、倭の魏への遣使と、その前の遼東公孫氏の滅亡では司馬懿が登場するでしょうから、司馬懿から諸葛亮が語られることもあるかもしれません。いよいよ大陸情勢が本格的に描かれるようになり、倭国内でも暈や日下(ヒノモト)との潜在的対立関係は解消されていませんから、ますます壮大な話になってきて、今後の展開がたいへん楽しみです。
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