兵庫県内の縄文時代~古墳時代の人骨のミトコンドリアDNA解析

 兵庫県内の縄文時代~古墳時代の人骨のミトコンドリアDNA(mtDNA)解析結果を報告した研究(神澤他.,2023)が公表されました。弥生時代以降の日本列島の人類集団では、在来の「縄文人(縄文文化関連個体群)」的な遺伝的構成要素と、アジア東部大陸部から到来した新たな遺伝的構成要素(渡来系)が混合していき、現代では後者の方が圧倒的に影響は大きくなっています(関連記事)。ただ、弥生時代以降の日本列島におけるこの遺伝的変容は時空間的な差異が大きかったようで、弥生時代と古墳時代に関しては、古代ゲノム研究の進展によりそうした傾向が明らかになりつつあります(関連記事)。故に、日本列島の人類史の遺伝学的な観点での解明には、時空間的により広範な古代DNAの解析が必要となります。

 本論文は、縄文時代から古墳時代にかけての、兵庫県の9ヶ所の遺跡で発見された13個体(縄文時代1個体と弥生時代1個体と古墳時代11個体)のmtDNA解析結果を報告します。このうち、弥生時代の1個体を除いてmtDNAの解析に成功しました。この12個体については、短い平均断片長(100塩基対未満)および脱アミノ化パターンといった古代DNAに典型的な特徴が示され、内在性DNAと確認されました。これらのmtDNAからハプログループ(mtHg)が決定されました(表2)。以下は本論文の表2です。
画像

 日笠山貝塚の縄文時代個体のmtHgは、縄文文化関連個体群に多いN9bの下位系統のN9b1aで、現代日本人にも見られますが、縄文時代も含めて日本列島の古代人ではまだ検出されていません。熊本県宇城市三隅町戸馳島の浜ノ洲貝塚では既知の下位系統に分類されないmtHg-N9bの2系統が検出されており、mtHg-N9bの祖型段階から分岐した新規系統だったことからも、mtHg-N9bでも地域的な特徴が存在するかもしれません。現代日本人でも見られるmtHg-N9b1aが兵庫県の縄文時代遺跡で確認されたことは、西日本の縄文文化関連個体群の遺伝的要素が現代日本人に継承されている可能性を示唆しています。

 古墳時代には、渡来系集団に由来するmtHgのみが検出されるようになり、現在の兵庫県において縄文時代から遺伝的構成が大きく変化しているかもしれない、と示唆されます。また、本論文で分析された9個体では多くのmtHgが確認されており、遺伝的に多様だった可能性が示唆されます。これら兵庫県の古墳時代遺跡で確認されたmtHgは、地理的に近い鳥取県の弥生時代後期~古墳時代の遺跡や岡山県の古墳時代の遺跡で発見された人類遺骸とmtHgの下位系統の水準での共有が見られます。ただ、岡山県の古墳時代の人類遺骸では縄文系と考えられるmtHg系統が12系統のうち4系統で検出されている点は、兵庫県と大きく異なります。

 鳥坂古墳群2号墳の人骨3体は、母系で血縁関係の可能性が示されています。この3個体は第1主体部と第2主体部と分かれて出土しており、年代が同時期であることからも、血縁関係の可能性が改めて示されます。この3個体のうち、1 号人骨と2 号人骨は成人の男性で、親子関係ではないことから、兄弟の可能性が高そうです。3 号人骨も1 号および2 号人骨と兄弟の可能性がありますが、年齢は5~6歳と離れており、これら3個体の正確な血縁関係の推定には、核ゲノムデータが必要となります。


参考文献:
神澤秀明、角田恒雄、安達登、篠田謙一(2023)「兵庫県内出土縄文・弥生・古墳人骨のミトコンドリアDNA分析」『国立歴史民俗博物館研究報告』第242集P111-121
https://rekihaku.repo.nii.ac.jp/records/2000025

この記事へのコメント