メキシコ人の遺伝的多様性
メキシコ人の遺伝的多様性を報告した二つの研究が公表されました。一方の研究(Sohail et al., 2023)は、メキシコ生物銀行計画で得られたメキシコ人のゲノムデータを報告しています。ラテンアメリカの人々を調べたゲノム研究はまだにたいへん少なく、詳細な遺伝学的歴史や複雑形質の構造は、データが不充分なため明らかになっていません。こうした不足を補うために、メキシコ生物銀行計画は、メキシコの全32州にわたる農村部および都市部898地域の6057人について、複雑形質や疾患情報と結びつけられた、ゲノム規模の180万の遺伝子標識の分解能で遺伝型決定が行なわれ、貴重な全国的遺伝型・表現型データベースが作成されました。
本論文は、祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)の逆重畳と同祖対立遺伝子(identity-by-descent、略してIBD)断片の推定を用いて、メソアメリカ地域全体の祖先人口集団の規模を経時的に推測し、先住民時代と植民地時代と植民地後時代の人口動態を明らかにしました。異なる人口動態の歴史を反映する、異なる祖先系統のゲノム領域間で、同型接合連続領域(runs of homozygosity、略してROH)に変動が見られ、これは異なる人口動態の歴史を反映しており、その結果、稀で有害な多様体の分布も異なっていました。
22の複雑形質についてゲノム規模関連研究(genome-wide association study、略してGWAS)が行なわれ、いくつかの形質は、イギリス生物銀行のGWASよりも、メキシコ生物銀行のGWASを用いた方がより正確に予測できる、と分かりました。体格指数や中性脂肪やぶどう峠や身長の予測因子としてのROHゲノム長といった、形質の多様性に関連する遺伝要因および環境要因が特定されました。本論文は、メキシコ人における遺伝学的歴史についての手がかりを示すとともに、複雑形質の構造を明らかにしており、この両方が精密医療や予防医療の新構想を世界中で利用できるようにするのに重要です。
もう一方の研究(Ziyatdinov et al., 2023)は、メキシコシティーの成人14万人の遺伝子型および塩基配列決定を報告しています。メキシコシティー前向き研究(Mexico City Prospective Study)は、20年前にメキシコシティーのコヨアカン(Coyoacán)とイスタパラパ(Iztapalapa)の市街地から募集された15万人以上の成人からなる前向きコホート(特定の性質が一致する個体で構成される集団)です。本論文は、全員に対して遺伝子型とエキソーム塩基配列データを生成し、選ばれた9950人に対して全ゲノム塩基配列解読データを生成しました。
個体間の祖先系統構成で高水準の関連性と大きな不均一性が見つかりました。塩基配列解読が行なわれた参加者のほとんどは、アメリカ大陸先住民とヨーロッパ人とアフリカ人の祖先系統の広範な混合で、メキシコの中央部と南部と南東部の先住民集団からの混合が多かった、と示されました。メキシコ先住民のゲノム部分ではコード領域の変動水準は低いものの、アフリカ系およびヨーロッパ系起源の部分と比較して、同型接合の機能喪失型多様体が過剰に見られました。
本論文は、1億4200万のゲノム多様体の祖先系統異的アレル(対立遺伝子頻度)を推定しました。エキソーム多様体のメキシコ先住民祖先に対する有効標本規模は91856で、これらは全て公開ブラウザーから利用できます。また、全ゲノム塩基配列解読を用いて、補完参照パネルが開発されました。このパネルは、メキシコの中央部と南部と南東部の先住民祖先系統の割合が高い参加者のありふれた多様体については、既存のパネルよりも優れていました。本論文は、多様な人口集団での遺伝学的研究の価値を示しており、ヒスパニック/ラテン系集団がおもにメキシコ系であるメキシコとアメリカ合衆国における今後の遺伝学研究に、基礎的補完とアレル頻度についての情報源を提供します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
ゲノミクス:メキシコバイオバンクはさまざまな祖先系の集団ゲノミクスと医療ゲノミクスを推進
ゲノミクス:メキシコシティーの成人14万人に対する遺伝子型決定、塩基配列解読および解析
Cover Story:メキシコのヒトのゲノミクス:バイオバンクによって得られたメキシコの多様な集団の遺伝子に関する知見
表紙は、ウイチョル族先住民の絵画に着想を得て描かれた、メキシコの遺伝的多様性を反映したデータに基づくメキシコの地図である。今回A Moreno-Estradaたちは、メキシコバイオバンクプロジェクトの初期の成果を提示している。著者たちは、全国的なデータベースを作るために、メキシコの32州全ての6057人の遺伝子型を決定し、先住民コミュニティーの代表が含まれていることを確認した。そして、このデータを用いて、22の複雑形質のゲノム規模関連解析を行い、ポリジェニックスコアによって疾患の発症リスクがどの程度正確に予測できるかを評価した。もう1報の論文でJ Marchiniたちは、メキシコシティーの2つの地区の成人14万人の遺伝子型と遺伝子配列を決定したMexico City Prospective Studyから得られた結果を示している。今回の2報の論文をまとめると、メキシコの人々の遺伝的来歴が明らかになり、疾患の遺伝的リスクに関する知見が得られている。
参考文献:
Sohail M. et al.(2023): Mexican Biobank advances population and medical genomics of diverse ancestries. Nature, 622, 7984, 775–783.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06560-0
Ziyatdinov A. et al.(2023): Genotyping, sequencing and analysis of 140,000 adults from Mexico City. Nature, 622, 7984, 784–793.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06595-3
本論文は、祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)の逆重畳と同祖対立遺伝子(identity-by-descent、略してIBD)断片の推定を用いて、メソアメリカ地域全体の祖先人口集団の規模を経時的に推測し、先住民時代と植民地時代と植民地後時代の人口動態を明らかにしました。異なる人口動態の歴史を反映する、異なる祖先系統のゲノム領域間で、同型接合連続領域(runs of homozygosity、略してROH)に変動が見られ、これは異なる人口動態の歴史を反映しており、その結果、稀で有害な多様体の分布も異なっていました。
22の複雑形質についてゲノム規模関連研究(genome-wide association study、略してGWAS)が行なわれ、いくつかの形質は、イギリス生物銀行のGWASよりも、メキシコ生物銀行のGWASを用いた方がより正確に予測できる、と分かりました。体格指数や中性脂肪やぶどう峠や身長の予測因子としてのROHゲノム長といった、形質の多様性に関連する遺伝要因および環境要因が特定されました。本論文は、メキシコ人における遺伝学的歴史についての手がかりを示すとともに、複雑形質の構造を明らかにしており、この両方が精密医療や予防医療の新構想を世界中で利用できるようにするのに重要です。
もう一方の研究(Ziyatdinov et al., 2023)は、メキシコシティーの成人14万人の遺伝子型および塩基配列決定を報告しています。メキシコシティー前向き研究(Mexico City Prospective Study)は、20年前にメキシコシティーのコヨアカン(Coyoacán)とイスタパラパ(Iztapalapa)の市街地から募集された15万人以上の成人からなる前向きコホート(特定の性質が一致する個体で構成される集団)です。本論文は、全員に対して遺伝子型とエキソーム塩基配列データを生成し、選ばれた9950人に対して全ゲノム塩基配列解読データを生成しました。
個体間の祖先系統構成で高水準の関連性と大きな不均一性が見つかりました。塩基配列解読が行なわれた参加者のほとんどは、アメリカ大陸先住民とヨーロッパ人とアフリカ人の祖先系統の広範な混合で、メキシコの中央部と南部と南東部の先住民集団からの混合が多かった、と示されました。メキシコ先住民のゲノム部分ではコード領域の変動水準は低いものの、アフリカ系およびヨーロッパ系起源の部分と比較して、同型接合の機能喪失型多様体が過剰に見られました。
本論文は、1億4200万のゲノム多様体の祖先系統異的アレル(対立遺伝子頻度)を推定しました。エキソーム多様体のメキシコ先住民祖先に対する有効標本規模は91856で、これらは全て公開ブラウザーから利用できます。また、全ゲノム塩基配列解読を用いて、補完参照パネルが開発されました。このパネルは、メキシコの中央部と南部と南東部の先住民祖先系統の割合が高い参加者のありふれた多様体については、既存のパネルよりも優れていました。本論文は、多様な人口集団での遺伝学的研究の価値を示しており、ヒスパニック/ラテン系集団がおもにメキシコ系であるメキシコとアメリカ合衆国における今後の遺伝学研究に、基礎的補完とアレル頻度についての情報源を提供します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
ゲノミクス:メキシコバイオバンクはさまざまな祖先系の集団ゲノミクスと医療ゲノミクスを推進
ゲノミクス:メキシコシティーの成人14万人に対する遺伝子型決定、塩基配列解読および解析
Cover Story:メキシコのヒトのゲノミクス:バイオバンクによって得られたメキシコの多様な集団の遺伝子に関する知見
表紙は、ウイチョル族先住民の絵画に着想を得て描かれた、メキシコの遺伝的多様性を反映したデータに基づくメキシコの地図である。今回A Moreno-Estradaたちは、メキシコバイオバンクプロジェクトの初期の成果を提示している。著者たちは、全国的なデータベースを作るために、メキシコの32州全ての6057人の遺伝子型を決定し、先住民コミュニティーの代表が含まれていることを確認した。そして、このデータを用いて、22の複雑形質のゲノム規模関連解析を行い、ポリジェニックスコアによって疾患の発症リスクがどの程度正確に予測できるかを評価した。もう1報の論文でJ Marchiniたちは、メキシコシティーの2つの地区の成人14万人の遺伝子型と遺伝子配列を決定したMexico City Prospective Studyから得られた結果を示している。今回の2報の論文をまとめると、メキシコの人々の遺伝的来歴が明らかになり、疾患の遺伝的リスクに関する知見が得られている。
参考文献:
Sohail M. et al.(2023): Mexican Biobank advances population and medical genomics of diverse ancestries. Nature, 622, 7984, 775–783.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06560-0
Ziyatdinov A. et al.(2023): Genotyping, sequencing and analysis of 140,000 adults from Mexico City. Nature, 622, 7984, 784–793.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06595-3
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