前近代ヨーロッパにおける海藻の消費

 前近代ヨーロッパにおける海藻の消費に関する研究(Buckley et al., 2023)が公表されました。ヨーロッパの中石器時代には、水産資源利用の証拠の広範な証拠があります。対照的に、その後の新石器時代は、農耕と土地所有と完全な定住の拡大により特徴づけられ、現代のアジアでは広範に消費されている海洋資源はその後、ヨーロッパの最沿岸地域でさえ、重要ではないか飢饉のさいの食料と認識されているか、完全に放棄されました。

 本論文は、逐次熱離脱および熱分解のGCMSを用いて、ヒトの歯石から抽出された生物標識を検証し、エストニアやスウェーデンやイギリスからスペインまでのヨーロッパ全域にわたる海藻や水中および淡水植物の広範な消費の直接的証拠を報告します。中石器時代以降のヨーロッパのヒト遺骸の歯石を調べたところ、注目すべきことに、これらの水産資源の消費の証拠は、農耕への新石器時代の移行を経て中世初期にまで及んでおり、ヨーロッパでは今では稀にしか食べられないこれらの資源は、ごく最近になって重要ではなくなった、と示唆されます。古代の食料の理解は過去の再構築に重要ですが、局所的な忘れられた資源のより深い知識も、現代では同様に重要です。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


人類学:海藻類は古代ヨーロッパ人の食料確保に役立っていたかもしれない

 古代から少なくとも中世までのヨーロッパでは、海藻類や水生植物が重要な食料源だった可能性があることを示した論文が、Nature Communicationsに掲載される。この知見は、古代人の歯石の化学分析に基づいたものであり、新石器時代から中世前期にかけてのヨーロッパ人の食生活についての我々の理解を深める。

 海藻類は、現代では特にアジアで食されているが、ヨーロッパで海藻類と淡水生植物が消費されていたことを示す考古学的証拠は少ない。新石器時代になると、農耕と土地所有がヨーロッパ全土に広がって、海産食品は重要性がほとんど失われたか、全く顧みられなくなったと考えられている。これまでの研究から、海藻類は燃料、動物用飼料、食品包装材や肥料として用いられていたことが示唆されている。

 今回、Stephen Buckley、Karen Hardyらは、中石器時代から新石器時代、初期農耕時代を経て中世までのスコットランドからスウェーデン、エストニア、スペインに至るヨーロッパ各地の古代人の遺骸の歯に付着した歯石を調べた。そして、歯石から見つかった化学的指標を、海産食品と水生植物食品の具体的な原料と関連付けた。その結果、著者らは、水生植物食品と海洋植物食品が中世後期までヨーロッパ全域で日常的に消費されていたという見解を示している。

 著者らは、今回の知見によって、新石器時代から中世前期、そして現代において、海洋植物と水生植物が地域の持続可能な食料源として使用できる可能性が浮き彫りになったと述べている。



参考文献:
Buckley S. et al.(2023): Human consumption of seaweed and freshwater aquatic plants in ancient Europe. Nature Communications, 14, 6192.
https://doi.org/10.1038/s41467-023-41671-2

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