オルドビス紀の海洋生物多様性に対する地球規模の寒冷化の影響

 オルドビス紀(4億9000万~4億3000万年前頃)の海洋生物多様性に対する地球規模の寒冷化の影響に関する研究(Ontiveros et al., 2023)が公表されました。地球規模の寒冷化は、顕生代の海洋性動物の最大の放散である、多様性爆発事象(Great Ordovician Biodiversification Event)として提唱されてきました。これは古生物学的データによってよく裏づけられていますが、その根底にある経路の機序の理解は不充分で、気温の変化や海水準の上昇や大気の酸素化や小惑星の衝突などといった原因も議論されています。

 本論文は、地球規模の気候モデルを大生態学的モデルと組み合わせ、オルドビス紀における地球規模の生物多様性パターンを再構築します。本論文の模擬実験ではオルドビス紀の長期的な寒冷化傾向や物理的景観の変化に対する海洋生物多様性の応答が定量化されました。その結果、現代とは逆の緯度生物多様性勾配が、気候が現在よりもずっと温暖だったカンブリア紀後期とオルドビス紀前期を特徴づける、と示されました。当時、生物多様性が最も高かったのは、熱帯地域ではなく高緯度地域でした。

 オルドビス紀中期~後期には、気候寒冷化が現代の緯度生物多様性勾配の発達と地球規模の生物多様性増加を同時に可能としました。この生物多様性増加は、海洋生物への成体生理学的制約の結果で、代理由来の温度再構築および生物の生理学の両方における不確実性に対して堅牢です。一次的なモデルとデータの一致から、地球史で最も顕著な生物多様性増加である多様性爆発事象は、おもに地球規模の寒冷化により引き起こされた、と示唆されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


生態学:古代の地球寒冷化が海洋生物の多様化の引き金となった可能性

 オルドビス紀に起こった海洋生物の多様性爆発事象(Great Ordovician Biodiversification Event)は、主に約5億年前の地球の寒冷化によって引き起こされ、地球史上最大の海洋生物の多様性増加につながった可能性があることを示した論文が、Nature Communicationsに掲載される。この多様性爆発事象では、現代の海洋生物の多様性パターンの基礎を築いた動物の進化的放散が起こっていた。

 オルドビス紀(4億9000万~4億3000万年前)に海洋生物の多様性の顕著な増加が起こったことは、古生物学的データによって十分裏付けられている。この生物多様性増加の引き金となった事象については、気温の変化、海水準の上昇、大気の酸素化、小惑星の衝突など、いくつかの仮説があるが、原因解明には至っていない。

 今回、Daniel Ontiveros、Alexandre Pohlらは、気候モデルと生態学モデルを組み合わせて、地球規模の生物多様性パターンをシミュレーションし、オルドビス紀の長期的な寒冷化傾向や物理的景観の変化に対する海洋生物多様性の応答を定量化した。その結果、オルドビス紀初期には熱帯の海洋の水温が高過ぎて海洋生物の生息数が多くならなかったため、生物多様性の緯度勾配が今とは逆だったことが分かった。当時、生物多様性が最も高かったのは、熱帯地域ではなく、高緯度地域だった。そして、オルドビス紀が進むと、地球の気候の寒冷化によって熱帯地域が海洋動物の代謝に適するようになり、熱帯に生息する生物の種数が徐々に増えていったことがモデルによって示された。

 著者らは、この多様性爆発事象には、他の生態的・進化的要因も関係していたが、気候寒冷化がオルドビス紀の海洋生物多様性爆発事象の発生と進行に決定的な役割を果たした可能性が高いという見解を示している。



参考文献:
Ontiveros DE. et al.(2023): Impact of global climate cooling on Ordovician marine biodiversity. Nature Communications, 14, 6098.
https://doi.org/10.1038/s41467-023-41685-w

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