歯石のDNAから推測される食性の変化
取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、先史時代のヒト遺骸の歯石のDNAから食性の変化を推測した研究(Quagliariello et al., 2022)が公表されました。ヒトの微生物群系は最近、宿主の生活と健康に関する貴重な情報源となりました。しかし、ヒトの微生物群系が農耕へと向かう新石器時代への移行など人類史の重要な段階においてどのように進化してきたかもしれないのか、これまでほとんど知られていません。
本論文は、旧石器時代(紀元前31000~紀元前11000年頃)の狩猟採集民をイタリアの同じ限定された地域に居住していた新石器時代(紀元前6200~紀元前4000年頃)および銅器時代(紀元前3500~紀元前2200年頃)の農耕民と比較することで、この期間における口腔微生物群系の経てきた進化に光を当てます。合計76点の歯石口腔微生物群系のDNA解析が、埋まっていた植物遺骸の同定に由来する食性情報と統合されます。
その結果、調査対象の人口集団における口腔微生物群系のいくつかの種の存在量に影響を及ぼす、2つの主要な変化の存在に関する証拠を提供します。第1の変化は、この地域における農耕生活様式(農耕と酪農)の導入と関係する文化的移行と関連しており、以前の狩猟採集民標本の一部の側面を維持しながら、微生物群系組成における初期の変化を促進しました。第2の変化は後期新石器時代に起き、おそらくは異なる食性要素への適応と関連しており、この時に第1段階で観察された変化がより顕著になっていき、狩猟採集民に強く存在していた一部の種がほぼ消滅し、これはおそらく異なる食性要素への農耕民の漸進的な適応に起因します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
微生物学:古代人の歯垢が食生活の変化を解明する手掛かりに
新石器時代の人々の食生活が狩猟採集物から農産物に徐々に移行したことに伴って口腔マイクロバイオームが変化したという可能性を示唆した論文が、Nature Communicationsに掲載される。この知見は、歯石(石灰化した歯垢)から発見された古代DNAに基づいており、有史以前のイタリアにおける約3万年間のヒト口腔マイクロバイオームの進化と食生活の変化を明らかにした。
歯石から抽出された古代DNAは、ヒトの骨格遺物の口腔マイクロバイオームを調べるために利用でき、古代人の食生活に関する知見が得られる。これまでに、古代ヨーロッパにおける農業への移行期の口腔マイクロバイオームを調べる研究で、矛盾した結果が得られたが、その理由については、口腔マイクロバイオームが変動し、生態的特性や生活条件にも影響される可能性があることから説明できる可能性がある。
今回、Andrea Quagliarielloたちは、古代人の歯石から抽出したDNAを用いて、先史時代のイタリア地方に居住していた後期旧石器時代(紀元前3万1000~1万1000年)、新石器時代(紀元前6200~4000年)、銅器時代(紀元前3500~2200年)の合計76人の口腔マイクロバイオームを調べた。そして、これらのデータは、歯石から発見された微細な食物残渣や考古学的知見と統合された。Quagliarielloたちは、約3万年間に関するデータを用いて、狩猟への依存から発酵と牛乳の導入、そして最終的には農産物ベースの食生活に伴う炭水化物への依存に至るまでの食生活の変化を特定した。ここで重要なのは、Quagliarielloたちが、微生物相の変化を食物摂取の証拠(歯垢中の食物断片)や食品加工の証拠(砥石や動物の遺骸から発見された食物残渣)と結び付けた点だ。
以上の研究知見は、有史以前のヨーロッパ人集団における食生活の変化に関連する古代の口腔マイクロバイオームの進化を解明するための手掛かりと言える。
参考文献:
Quagliariello A. et al.(2022): Ancient oral microbiomes support gradual Neolithic dietary shifts towards agriculture. Nature Communications, 13, 6927.
https://doi.org/10.1038/s41467-022-34416-0
本論文は、旧石器時代(紀元前31000~紀元前11000年頃)の狩猟採集民をイタリアの同じ限定された地域に居住していた新石器時代(紀元前6200~紀元前4000年頃)および銅器時代(紀元前3500~紀元前2200年頃)の農耕民と比較することで、この期間における口腔微生物群系の経てきた進化に光を当てます。合計76点の歯石口腔微生物群系のDNA解析が、埋まっていた植物遺骸の同定に由来する食性情報と統合されます。
その結果、調査対象の人口集団における口腔微生物群系のいくつかの種の存在量に影響を及ぼす、2つの主要な変化の存在に関する証拠を提供します。第1の変化は、この地域における農耕生活様式(農耕と酪農)の導入と関係する文化的移行と関連しており、以前の狩猟採集民標本の一部の側面を維持しながら、微生物群系組成における初期の変化を促進しました。第2の変化は後期新石器時代に起き、おそらくは異なる食性要素への適応と関連しており、この時に第1段階で観察された変化がより顕著になっていき、狩猟採集民に強く存在していた一部の種がほぼ消滅し、これはおそらく異なる食性要素への農耕民の漸進的な適応に起因します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
微生物学:古代人の歯垢が食生活の変化を解明する手掛かりに
新石器時代の人々の食生活が狩猟採集物から農産物に徐々に移行したことに伴って口腔マイクロバイオームが変化したという可能性を示唆した論文が、Nature Communicationsに掲載される。この知見は、歯石(石灰化した歯垢)から発見された古代DNAに基づいており、有史以前のイタリアにおける約3万年間のヒト口腔マイクロバイオームの進化と食生活の変化を明らかにした。
歯石から抽出された古代DNAは、ヒトの骨格遺物の口腔マイクロバイオームを調べるために利用でき、古代人の食生活に関する知見が得られる。これまでに、古代ヨーロッパにおける農業への移行期の口腔マイクロバイオームを調べる研究で、矛盾した結果が得られたが、その理由については、口腔マイクロバイオームが変動し、生態的特性や生活条件にも影響される可能性があることから説明できる可能性がある。
今回、Andrea Quagliarielloたちは、古代人の歯石から抽出したDNAを用いて、先史時代のイタリア地方に居住していた後期旧石器時代(紀元前3万1000~1万1000年)、新石器時代(紀元前6200~4000年)、銅器時代(紀元前3500~2200年)の合計76人の口腔マイクロバイオームを調べた。そして、これらのデータは、歯石から発見された微細な食物残渣や考古学的知見と統合された。Quagliarielloたちは、約3万年間に関するデータを用いて、狩猟への依存から発酵と牛乳の導入、そして最終的には農産物ベースの食生活に伴う炭水化物への依存に至るまでの食生活の変化を特定した。ここで重要なのは、Quagliarielloたちが、微生物相の変化を食物摂取の証拠(歯垢中の食物断片)や食品加工の証拠(砥石や動物の遺骸から発見された食物残渣)と結び付けた点だ。
以上の研究知見は、有史以前のヨーロッパ人集団における食生活の変化に関連する古代の口腔マイクロバイオームの進化を解明するための手掛かりと言える。
参考文献:
Quagliariello A. et al.(2022): Ancient oral microbiomes support gradual Neolithic dietary shifts towards agriculture. Nature Communications, 13, 6927.
https://doi.org/10.1038/s41467-022-34416-0
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