大河ドラマ『どうする家康』第38回「唐入り」(追記有)

 今回は唐入り(文禄の役)が描かれました。戦勝が伝えられる中で、豊臣秀吉を諫めたのが浅野長政だったのは意外でしたが、典拠となる史料は何なのでしょうか。以前読んだ本でこの逸話が取り上げられていながら、私が忘れているだけかもしれませんが。本作では徳川家康と石田三成が割と親しい関係にあるので、秀吉には戦勝と伝えられていたものの(緒戦は確かにそうでしたが)、実は苦戦している、との噂を聞いた家康は三成に直接確認に行きます。秀吉を信じたい三成が家康から諭され、家康が三成とともに秀吉を諫言し、秀吉から折檻された三成を家康が庇うなど、本作の家康と三成の関係はこれまでの大河ドラマとかなり異なっており、小説や漫画や映像作品などでも珍しいように思います。

 茶々は家康に接触しますが、秀吉からは前田利家に相談するよう言われており、茶々は家康を恨んでいるだけに、何を考えているのか不気味でした。茶々は父母の仇でもある秀吉への複雑な想いを打ち明け、家康に秀吉との戦いでなぜ援軍に来なかった、と軽く恨み言をぶつけつつも、家康への強い怨みを隠し、家康を頼ろうとするところは、かなり屈折した人物像を窺わせます。やはり、茶々が本作終盤では家康にとって最大の敵となりそうです。ただ、家康も茶々をかなり警戒していることは、阿茶の発言や家康と秀吉との会話からも明示されました。とはいえ、茶々が秀吉よりも自分をずっと深く恨んでいることには、さすがに家康は気づいていないようですが。その意味で、家康と茶々の関係の推移は、本作終盤の主軸となりそうですから、たいへん注目されます。

 前田利家と大谷吉継と浅野長政は今回が初登場となります。浅野長政には意外に見せ場があり、驚きました。ただ、前田利家にはとくに見せ場がなく、秀吉死後の政局で重要な役割を果たすのでしょうか。足利義昭は久々の登場でしたが、没年から考えると再登場もあるかな、と予想していただけに、どのような形での再登場となるのか、注目していましたが、家康におべっかを使う調子のよいところが描かれました。それだけなら、再登場の意味はなかった、と言うべきでしょうが、最高権力者もしくは最高の政治的地位にある者の心得を家康とともにいる秀吉に話すところは、秀吉の迷走がその母や妻や家康からも語られていた上での展開だっただけに、なかなか上手く構成されていたように思います。


追記(2023年10月10日)
 Twitterでの指摘によると、浅野長政が豊臣秀吉を諫めた、との逸話は『常山紀談』に見えるそうです。もちろん、18世紀に成立した『常山紀談』に見えるこの逸話が、事実だったのか否か、確定はできないのでしょうが。

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