『卑弥呼』第117話「三国鼎立」
『ビッグコミックオリジナル』2023年10月20日号掲載分の感想です。前回は、伊都(イト)国と末盧(マツラ)国の境で襲撃を受けたヤノハが、伊都のイトデ王の援軍で窮地を脱し、日下(ヒノモト)国の吉備津彦(キビツヒコ)が、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の日見子(ヒミコ)であるヤノハを警戒しているところで終了しました。今回は、とある邑の日常生活の場面から始まります。その邑では農作業が行なわれており、飼われていた鳩がどこかどこかに飛んでいくよう、指示されたようです。おそらく伝書鳩なのでしょう。夜、伊都の兵がその邑を襲撃し、住民を殺害していき、兵士が最後の一人を斬ろうとしたところで、イトデ王が止めます。イトデ王はこの男に、日見子様(ヤノハ)の山社(ヤマト)出立を誰から聞いたのか、誰からヤノハ襲撃の命を受けたのか、尋問します。ヤノハを襲撃したのはこの邑の男性だったようです。教えれば命を救う、と伝えられた男性は、直ちに自害します。
加羅(伽耶、朝鮮半島)の勒島(ロクド、慶尚南道泗川市の沖合の島)では、現在は吉国(ヨシノクニ、吉野ケ里遺跡の一帯と思われます)と呼ばれている目達(メタ)国のスイショウ王の指示により朝鮮半島に残った人々の邑を、那(ナ)国の大夫であるトメ将軍と、加羅までの航海の示齊を務めることになったイセキと、ヤノハと旧知の漢人(という分類を作中の舞台である紀元後3世紀に用いてよいのか、疑問は残りますが)である何(ハウ)が訪ねていました。3人は邑長のヒホコに歓待されます。ヒホコの一族はスイショウ王より駅役(エキヤク、大陸の国々から倭にわたる人々や品々や情報を中継ぎする役目)を命じられてから百数十年経っており、倭人の邑なので津島(ツシマ、現在の対馬でしょう)への商いの民は往来するものの、自分の代での王の使者は初めてだ、とトメ将軍一行に説明します。スイショウ王没後、倭国は戦乱に見舞われていたわけです、トメ将軍に中土(中華地域のことでしょう)の状況を訪ねられたヒホコは、地区いつ津島のアビル王に伝えている、と怪訝な表情を浮かべます。トメ将軍は駅役から直接伺いたい、と言い、何は、漢がまだ健在なのか、曹操将軍はまだ生きているのか、尋ねます。ヒホコはトメ将軍一行に、曹操大将軍は8年前に病死し、曹操の息子の曹丕が漢の献帝からの譲位を受けて魏となった、と説明します。では、今中土の覇を握るのは魏なのか、とトメ将軍に尋ねられたヒホコは、漢が滅ぶと劉備将軍が蜀漢を、孫権将軍が呉を建国し、現在はその三国が並び立っている、と答えます。つまり、三国鼎立です。トメ将軍は、自分たちがアビル王より30年前の情勢しか知らされていなかったことを悟ります。三国で最強の国を何から問われたヒホコは、今は辛うじて魏だが、魏の初代皇帝である曹丕は2年前に亡くなり、現在の帝は曹叡だと答えます。遼東半島の公孫一族の動向をトメ将軍と何から問われたヒホコは、公孫康は亡くなり、その後継者となった弟の公孫恭も病死し、最近になって公孫康の息子である公孫淵が太守の座に就いた、と答えます。公孫淵と魏との関係は今のところ良好と聞いている、と語るヒホコに、では倭が使者を派遣した場合、遼東半島を通ることは可能ですね、と念押しされたヒホコは、それは難題と答え、その理由を説明します。公孫淵は策士にして野心家で、表向きは魏に服従しているものの、裏では呉とも通じているとも言われているので、倭国が魏に使節を送れば、公孫淵はまず遼東太守への朝貢を求めるだろう、というわけです。公孫淵の目的をトメ将軍から問われたヒホコは、おそらく三国に並び立つことだろう、と答えます。つまり、中土が四国時代になるかもしれないわけです。トメ将軍一行は、津島のアビル王が中土の情勢について嘘を言ってはいたものの、倭が魏に使者を派遣することは本当に無理だったのだ、と嘆息します。もし公孫淵が遼東の独立を宣言した場合、魏の帝はどうするだろうか、とトメ将軍に問われたヒホコは、成敗のため大軍を派遣するだろう、と答えます。するとトメ将軍は、では公孫淵を突こう、と提案します。
末盧(マツラ)と伊都の国境では、日見子(ヤノハ)を警固した伊都の兵士たちが、末盧国の出迎えの使者である巫身(ミミ)のアズに、ヤノハを託します。アズはヤノハを末盧国の女王であるミルカシのいる玉島(タマシマ)へと案内します。ミルカシ女王と再会したヤノハは、伊都国に1ヶ月も長逗留して、待たせてしまったことをミルカシ女王に詫びます。日見子様(ヤノハ)はイトデ王の腹の内をじっくり見定めていたのだろう、と言うミルカシ女王に対してヤノハは、道中で日下の刺客に襲われ、山社からの警固はオオヒコを除いて全滅し、イトデ王に命を助けられた、と率直に打ち明けます。ミルカシ女王はアズおよび日の守(ヒノモリ)であるミナクチとともに唖然とし、天照様からのお告げはなかったのか、とヤノハに尋ねます。するとヤノハは、なかった、と率直に打ち明けつつ、天照様は自分に倭王の資格があるのかどうか、試したようで、生き残ったことがその証だ、とミルカシ女王に力強くづけ答えて、ミルカシ女王は納得したようです。日下の刺客がどこから来たのか、とミルカシ女王に問われたヤノハは、伊都と末盧の国境の、両国に属さない雛なる地理に潜んでいたようだ、と答えます。さっそく討伐軍を派遣するよう、提案するミルカシ女王に、一昨日イトデ王が成敗した、とヤノハ告げます。ヤノハはミルカシ女王に、日下はどうやって自分が山社を離れた、と知っていたのか、これほど早く襲撃が行なえたのは筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)に裏切り者がおり、その誰かが命じる以外に考えられない、と疑問を呈します。するとミルカシ女王は、襲撃を命じた者は筑紫島にはいないと考えられないだろうか、とヤノハに問いかけます。ミルカシ女王は、古老よりサヌ王(記紀の神武天皇と思われます)一族の伝書鳩について聞いたことがある、とヤノハに話します。その伝書鳩はどんな遠方に巣があっても迷わずたどり着け、その習性を利用して、鳩の脚に文を結べば、筑紫島から日下まで一日半ほどで届く、というわけです。つまり、ヤノハの襲撃を命じたのは日下にいる人物かもしれない、というわけです。ヤノハが、筑紫島の裏切り者が誰かと考えて、心が穏やかではなかったが、むやみに人を疑うものではない、と自嘲気味に言うところで今回は終了です。
今回は、ヤノハが日下の配下に襲撃された件をミルカシ女王に率直に打ち明けつつも、巧みな弁でミルカシ女王を改めて心服させたことともに、何よりも、大陸情勢が詳しく描かれ、現時点で曹操の死から8年経過した、つまり228年(以下、西暦は厳密な換算ではなく、1年単位での換算です)であると判明したことが注目されます。作中世界において現時点で何年なのか、明示されることが少ないため、確信を持てませんでしたが、第117話の時点で228年であることは確定しました。第107話の時点で212年頃と推測していましたが、私の推測よりもずっと先の話だったようです。序盤の第11話の時点で、光武帝の時代の遣使は150年前、安帝の時代の遣使は100年前と語っていましたから、本作開始時点で207年頃だとすると、その頃ヤノハは15歳前後だったように見えますから、192年頃の生まれと推測されます。そうすると、現時点でヤノハは36歳くらいでしょうが、本作開始時点が何年だったのか、明示されていませんから、推測にすぎません。一度、本作で明かされた情報から推定年表を整理することも考えています。現時点で私の予想よりずっと先の228年と明らかになったので、最終回までまだ長そうだな、とこれまでは考えていましたが、あるいは意外と早く完結するのかもしれません。それには寂しさもありますが、早く結末を見たい、との気持ちもあります。
今回、アビル王の語っていた偽情報ではなく、ずっと実際に近い大陸情勢が明かされました。公孫淵が攻め滅ぼされた直後に倭国から魏へ使者が派遣されたことを考えると、倭国は魏との直接的接触を以前から望んでいたものの、遼東公孫氏が妨げになっていた、とも考えられます。本作では、そうした前提で話が展開していきそうですが、トメ将軍の画策により話が大きく動くことになるのかもしれません。トメ将軍は、公孫淵と直接的に接触し、倭国からの使者派遣を提案して、公孫淵の信頼を得つつ、独立するよう、その野心を煽っていくつもりなのでしょうか。遼東公孫氏の登場は早くから予想していましたが(第15話)、いよいよ本格的に遼東公孫氏と魏が登場しそうで、ますます雄大な話になるのではないか、と期待しています。
加羅(伽耶、朝鮮半島)の勒島(ロクド、慶尚南道泗川市の沖合の島)では、現在は吉国(ヨシノクニ、吉野ケ里遺跡の一帯と思われます)と呼ばれている目達(メタ)国のスイショウ王の指示により朝鮮半島に残った人々の邑を、那(ナ)国の大夫であるトメ将軍と、加羅までの航海の示齊を務めることになったイセキと、ヤノハと旧知の漢人(という分類を作中の舞台である紀元後3世紀に用いてよいのか、疑問は残りますが)である何(ハウ)が訪ねていました。3人は邑長のヒホコに歓待されます。ヒホコの一族はスイショウ王より駅役(エキヤク、大陸の国々から倭にわたる人々や品々や情報を中継ぎする役目)を命じられてから百数十年経っており、倭人の邑なので津島(ツシマ、現在の対馬でしょう)への商いの民は往来するものの、自分の代での王の使者は初めてだ、とトメ将軍一行に説明します。スイショウ王没後、倭国は戦乱に見舞われていたわけです、トメ将軍に中土(中華地域のことでしょう)の状況を訪ねられたヒホコは、地区いつ津島のアビル王に伝えている、と怪訝な表情を浮かべます。トメ将軍は駅役から直接伺いたい、と言い、何は、漢がまだ健在なのか、曹操将軍はまだ生きているのか、尋ねます。ヒホコはトメ将軍一行に、曹操大将軍は8年前に病死し、曹操の息子の曹丕が漢の献帝からの譲位を受けて魏となった、と説明します。では、今中土の覇を握るのは魏なのか、とトメ将軍に尋ねられたヒホコは、漢が滅ぶと劉備将軍が蜀漢を、孫権将軍が呉を建国し、現在はその三国が並び立っている、と答えます。つまり、三国鼎立です。トメ将軍は、自分たちがアビル王より30年前の情勢しか知らされていなかったことを悟ります。三国で最強の国を何から問われたヒホコは、今は辛うじて魏だが、魏の初代皇帝である曹丕は2年前に亡くなり、現在の帝は曹叡だと答えます。遼東半島の公孫一族の動向をトメ将軍と何から問われたヒホコは、公孫康は亡くなり、その後継者となった弟の公孫恭も病死し、最近になって公孫康の息子である公孫淵が太守の座に就いた、と答えます。公孫淵と魏との関係は今のところ良好と聞いている、と語るヒホコに、では倭が使者を派遣した場合、遼東半島を通ることは可能ですね、と念押しされたヒホコは、それは難題と答え、その理由を説明します。公孫淵は策士にして野心家で、表向きは魏に服従しているものの、裏では呉とも通じているとも言われているので、倭国が魏に使節を送れば、公孫淵はまず遼東太守への朝貢を求めるだろう、というわけです。公孫淵の目的をトメ将軍から問われたヒホコは、おそらく三国に並び立つことだろう、と答えます。つまり、中土が四国時代になるかもしれないわけです。トメ将軍一行は、津島のアビル王が中土の情勢について嘘を言ってはいたものの、倭が魏に使者を派遣することは本当に無理だったのだ、と嘆息します。もし公孫淵が遼東の独立を宣言した場合、魏の帝はどうするだろうか、とトメ将軍に問われたヒホコは、成敗のため大軍を派遣するだろう、と答えます。するとトメ将軍は、では公孫淵を突こう、と提案します。
末盧(マツラ)と伊都の国境では、日見子(ヤノハ)を警固した伊都の兵士たちが、末盧国の出迎えの使者である巫身(ミミ)のアズに、ヤノハを託します。アズはヤノハを末盧国の女王であるミルカシのいる玉島(タマシマ)へと案内します。ミルカシ女王と再会したヤノハは、伊都国に1ヶ月も長逗留して、待たせてしまったことをミルカシ女王に詫びます。日見子様(ヤノハ)はイトデ王の腹の内をじっくり見定めていたのだろう、と言うミルカシ女王に対してヤノハは、道中で日下の刺客に襲われ、山社からの警固はオオヒコを除いて全滅し、イトデ王に命を助けられた、と率直に打ち明けます。ミルカシ女王はアズおよび日の守(ヒノモリ)であるミナクチとともに唖然とし、天照様からのお告げはなかったのか、とヤノハに尋ねます。するとヤノハは、なかった、と率直に打ち明けつつ、天照様は自分に倭王の資格があるのかどうか、試したようで、生き残ったことがその証だ、とミルカシ女王に力強くづけ答えて、ミルカシ女王は納得したようです。日下の刺客がどこから来たのか、とミルカシ女王に問われたヤノハは、伊都と末盧の国境の、両国に属さない雛なる地理に潜んでいたようだ、と答えます。さっそく討伐軍を派遣するよう、提案するミルカシ女王に、一昨日イトデ王が成敗した、とヤノハ告げます。ヤノハはミルカシ女王に、日下はどうやって自分が山社を離れた、と知っていたのか、これほど早く襲撃が行なえたのは筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)に裏切り者がおり、その誰かが命じる以外に考えられない、と疑問を呈します。するとミルカシ女王は、襲撃を命じた者は筑紫島にはいないと考えられないだろうか、とヤノハに問いかけます。ミルカシ女王は、古老よりサヌ王(記紀の神武天皇と思われます)一族の伝書鳩について聞いたことがある、とヤノハに話します。その伝書鳩はどんな遠方に巣があっても迷わずたどり着け、その習性を利用して、鳩の脚に文を結べば、筑紫島から日下まで一日半ほどで届く、というわけです。つまり、ヤノハの襲撃を命じたのは日下にいる人物かもしれない、というわけです。ヤノハが、筑紫島の裏切り者が誰かと考えて、心が穏やかではなかったが、むやみに人を疑うものではない、と自嘲気味に言うところで今回は終了です。
今回は、ヤノハが日下の配下に襲撃された件をミルカシ女王に率直に打ち明けつつも、巧みな弁でミルカシ女王を改めて心服させたことともに、何よりも、大陸情勢が詳しく描かれ、現時点で曹操の死から8年経過した、つまり228年(以下、西暦は厳密な換算ではなく、1年単位での換算です)であると判明したことが注目されます。作中世界において現時点で何年なのか、明示されることが少ないため、確信を持てませんでしたが、第117話の時点で228年であることは確定しました。第107話の時点で212年頃と推測していましたが、私の推測よりもずっと先の話だったようです。序盤の第11話の時点で、光武帝の時代の遣使は150年前、安帝の時代の遣使は100年前と語っていましたから、本作開始時点で207年頃だとすると、その頃ヤノハは15歳前後だったように見えますから、192年頃の生まれと推測されます。そうすると、現時点でヤノハは36歳くらいでしょうが、本作開始時点が何年だったのか、明示されていませんから、推測にすぎません。一度、本作で明かされた情報から推定年表を整理することも考えています。現時点で私の予想よりずっと先の228年と明らかになったので、最終回までまだ長そうだな、とこれまでは考えていましたが、あるいは意外と早く完結するのかもしれません。それには寂しさもありますが、早く結末を見たい、との気持ちもあります。
今回、アビル王の語っていた偽情報ではなく、ずっと実際に近い大陸情勢が明かされました。公孫淵が攻め滅ぼされた直後に倭国から魏へ使者が派遣されたことを考えると、倭国は魏との直接的接触を以前から望んでいたものの、遼東公孫氏が妨げになっていた、とも考えられます。本作では、そうした前提で話が展開していきそうですが、トメ将軍の画策により話が大きく動くことになるのかもしれません。トメ将軍は、公孫淵と直接的に接触し、倭国からの使者派遣を提案して、公孫淵の信頼を得つつ、独立するよう、その野心を煽っていくつもりなのでしょうか。遼東公孫氏の登場は早くから予想していましたが(第15話)、いよいよ本格的に遼東公孫氏と魏が登場しそうで、ますます雄大な話になるのではないか、と期待しています。
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