サハラ砂漠以南のアフリカ現代人のゲノムから推測される現生人類とネアンデルタール人との間の遺伝子移入
サハラ砂漠以南のアフリカの現代人のゲノムから現生人類(Homo sapiens)とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)との間の遺伝子移入を推測した研究(Harris et al., 2023)が公表されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。本論文は、サハラ砂漠以南のアフリカの現代人のゲノムから、解剖学的現代人(anatomically modern human、略してAMH、現生人類)とネアンデルタール人との間の遺伝子移入が双方向で複数回起きたことを示します。本論文は、ネアンデルタール人と現生人類との間の遺伝子移入における遺伝的不適合が、これまで指摘されていたネアンデルタール人から現生人類への方向だけではなく、その逆方向でも起きたことを示しています。これまで、現代人の特定のゲノム領域にネアンデルタール人由来領域がないことは、現生人類よりも人口規模の小さいネアンデルタール人には弱い有害なアレル(対立遺伝子)が蓄積される傾向にあったから、とも説明されていましたが(関連記事)、ネアンデルタール人のゲノムにも現生人類由来の領域の見られない領域があることから、本論文はこうしたゲノム領域の存在が現生人類現生人類とネアンデルタール人との間の種分化に起因する可能性を示しています。
●要約
ネアンデルタール人のゲノムとAMHのゲノムの比較は、アフリカからユーラシアへのAMHの移住後の交雑に由来する、ネアンデルタール人からAMHへの遺伝子移入の歴史を示しています。サハラ砂漠以南のアフリカ人ではない全てのAMHには、この遺伝子移入に由来するネアンデルタール人と遺伝的に類似したゲノム領域があります。ネアンデルタール人との類似性のあるゲノム領域はサハラ砂漠以南のアフリカの人口集団でも確認されてきましたが、その起源は不明でした。これらの領域がサハラ砂漠以南のアフリカ全体でどのように分布しているのか、その起源の供給源、ゲノム内の分布が初期AMHとネアンデルタール人の進化について語ることをより深く理解するため、サハラ砂漠以南のアフリカの12の多様な人口集団の18個体から得られた高網羅率の全ゲノム配列のデータセットが分析されました。
非サハラ砂漠以南アフリカ人の祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)を有するサハラ砂漠以南のアフリカの人口集団では、そのゲノムの1%ほどが、レヴァントおよびアフリカ北部起源のAMH人口集団の、最近の移住とその後の混合によりもたらされたネアンデルタール人配列に起因しているかもしれません。しかし、サハラ砂漠以南のアフリカ人におけるほとんどのネアンデルタール人と相同な領域は、アフリカからユーラシアへの25万年前頃となるAMH人口集団の移住と、ネアンデルタール人において6%ほどのAMH祖先系統をもたらしたその後のネアンデルタール人との混合に起因します。
これらの結果から、アフリカからのAMHの移住事象は複数回あり、ネアンデルタール人とAMHの遺伝子流動は双方向だった、と示唆されます。AMHがネアンデルタール人からの遺伝子移入の枯渇を示すゲノム領域が、ネアンデルタール人がAMHからの遺伝子移入の枯渇を示すゲノム領域でもある、との観察は、両集団【AMHとネアンデルタール人】における遺伝子移入された多様体と背景のゲノムとの間の有害な相互作用を示しており、これは最初の種分化の特徴です。
●研究史
AMHの起源は30万年前頃のサハラ砂漠以南のアフリカにあります(関連記事)。遺伝学と考古学のデータから、AMHは過去75000年間以内の現生人類のアフリカからの拡大まで、おもにサハラ砂漠以南のアフリカに留まっていた、と示唆されます(関連記事1および関連記事2)。アフリカからの拡大中に、AMHの小集団がサハラ砂漠以南のアフリカから移住し、世界の他地域に居住しました。ユーラシアでは、AMHが765000~550000年前頃にAMHと分岐した(関連記事)古代型のヒトであるネアンデルタール人と遭遇しました。AMHとネアンデルタール人との交雑は54000~40000年前頃に起きました(関連記事)。この交雑の結果として、非アフリカ系AMHのゲノムの2~3%程度はネアンデルタール人に由来します(関連記事)。ネアンデルタール人から遺伝子移入された領域はAMHのゲノム全体で不均一に分布しているわけではなく、自然選択が遺伝子移入されたネアンデルタール人祖先系統を特定の遺伝子座から除去しましたが(関連記事1および関連記事2)、選択が作用した機序は不明です。
ネアンデルタール人とAMHの交雑はアフリカからの拡大に続いてアフリカ外で起きたので、完全にサハラ砂漠以南のアフリカ人系統を通じて祖先系統がたどれる人口集団は、ネアンデルタール人からの遺伝子移入に由来するゲノムの相当量を有していない、と予測されます。しかし、非サハラ砂漠以南アフリカ人の祖先系統の量はサハラ砂漠以南のアフリカの人口集団では大きく日となります。とくにアフリカ東部では、ユーラシア人祖先系統の推定値は過去数年年間以内の移住と混合のため50%にも達します。ユーラシアAMH人口集団からサハラ砂漠以南のアフリカへのこの最近の遺伝子流動の歴史は、ネアンデルタール人からの遺伝子移入に由来する一部のサハラ砂漠以南のアフリカ人のゲノム領域をもたらしたかもしれません(関連記事)。
過去75000年間以内のアフリカからのAMHの主要な移住に加えて、それ以前のAMHのアフリカからの移住の証拠もあり(関連記事1および関連記事2)、この移住はアフリカ外のAMH人口集団のゲノムに実質的には寄与しませんでした(関連記事)。アフリカからのAMHのこれら初期の移住は、遺伝子移入を通じてネアンデルタール人のゲノムにAMH祖先系統をもたらしたかもしれません(関連記事)。ネアンデルタール人がAMHからのいくらかの多様体を有しているかもしれない、との見解は、後期更新世のネアンデルタール人のミトコンドリアが413000~268000年前頃にネアンデルタール人へと遺伝子移入されたアフリカの供給源に由来していた、との観察により示唆されてきました(関連記事)。さらに、ネアンデルタール人とAMHの核ゲノムの比較から、122000年前頃に暮らしていたアルタイ地域ネアンデルタール人(関連記事)は、30万~20万年前頃に起きたAMHとネアンデルタール人との間の交雑から3%程度のAMH祖先系統を有している、と示唆されました(関連記事)。ミトコンドリアと核のゲノムに基づくAMHからネアンデルタール人への遺伝子移入の推定値は両方とも、現存AMHの多様化に先行します(関連記事)。
最近の分析(関連記事)は、ネアンデルタール人とAMHのゲノム間の相同領域を特定し、ネアンデルタール人相同領域(Neanderthal homologous region、略してNHR)と命名しました。その研究では、1000人ゲノム計画に含まれ、全員ニジェール・コンゴ語族を話し、アフリカ中央部および西部において比較的最近の共通祖先系統を有しているサハラ砂漠以南のアフリカの人口集団において、NHRが特定されました。NHRは2種類の可能性があります。一方は、アフリカからの拡大後に起きたネアンデルタール人からAMHへの遺伝子移入の結果で、本論文ではネアンデルタール人からの遺伝子移入領域(Neanderthal introgressed regions、略してNIR)と呼ばれ、もう一方はアフリカからの拡大前に起きたAMHからネアンデルタール人への遺伝子移入事象の結果で、本論文ではAMHからの遺伝子移入領域(AMH introgressed regions、AMHIR)と呼ばれます。
先行研究(関連記事)では、ヨーロッパ人系統と関連する人口集団からの逆移住とその後の混合、およびAMHからネアンデルタール人への古代の移住とその後の混合の両方が、サハラ砂漠以南のアフリカ人におけるネアンデルタール人祖先系統の兆候に寄与している、と示唆されました。サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団の分析はほぼニジェール・コンゴ語族話者関連祖先系統を有する人口集団に限定されていたので、他のサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団が類似のパターンを示すのかどうか、不明でした。さらに、先行研究(関連記事)はNIRとAMHIRとNHRを直接的に区別できず、サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団においてNHRをもたらした人口統計学的過程に関する問題が残りました。本論文は、カメルーンとボツワナとタンザニアとエチオピアの180個体で構成される12のサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団の遺伝的に多様な一式の分析と、NHRのネアンデルタール人もしくはAMH起源を区別する統計的手法の導入により、サハラ砂漠以南のアフリカ人のNHRの起源、アフリカからの初期のヒト【現生人類】の移住、アフリカへの最近のAMHの帰還、AMHとネアンデルタール人のゲノム分岐と関わる自然選択の力のより複雑な全体像を提示します。
●サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団における現生人類祖先系統の推定
12の遺伝的に多様なサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団の180個体で構成される、高網羅率(30倍超)の全ゲノム配列決定データセット(関連記事)が分析され、以後このデータセットは「180個体SSA(sub-Saharan African)」データセットと呼ばれます。このデータセットに含まれる人口集団は、全てサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団により話されている4言語系統に属す言語を話し、その生計慣行は多様です。つまり、エチオピアのアムハラ人(Amhara)農耕民の話すアフロ・アジア語族、ボツワナのクー人(!Xoo)およびジュホアン人(Ju|’hoansi)の採食民と、タンザニアの現在もしくは最近まで採食民だったハッザ人(Hadza)とサンダウェ人(Sandawe)の話すコイサン諸語、カメルーンのティカール人(Tikari)農耕民とボツワナのヘレロ人(Herero)牧畜民の話すニジェール・コンゴ語族、エチオピアのムルシ人(Mursi)の話すナイル・サハラ語族です。チャブ人(Chabu)はエチオピア南西部の採食民の小集団で、ナイル・サハラ語族と密接に関連するものの未分類の言語を話します。カメルーンのアフリカ中央部熱帯雨林狩猟採集民(rainforest hunter-gatherers、略してRHG)であるバカ人(Baka)およびバジェリ人(Bagyeli)とフラニ人(Fulani)牧畜民は、ニジェール・コンゴ語族言語を採用してきました(図1B)。以下は本論文の図1です。
ADMIXTUREを用いて、ヒトゲノム多様性計画(Human Genome Diversity Project、略してHGDP)から得られた高網羅率の全ゲノム配列決定データセットに由来する遺伝子型で構成される世界のデータセット(関連記事)、およびアフリカ北部とレヴァントの人口集団の遺伝子型配列データセットとの統合により、180個体SSAデータセットの個体に世界の遺伝的な祖先の寄与が近似させられました。具体的には、以前のADMIXTURE分析(関連記事)に基づいて、ヨーロッパ人の遺伝的祖先系統の代理的な代表としてのフランスとオークニー島の人口集団、レヴァント人の遺伝的祖先系統の代理的代表としてのベドウィンとドゥルーズ派とパレスチナとシリアの人口集団、アフリカ北部のアラブ人祖先系統の代理的代理としてのアルジェリアとエチオピアとリビアとモロッコ北部および南部とサハラ砂漠の人口集団、アフリカ北部ベルベル人祖先系統の代理的代表としての、アルジェリアのティミムン(Timimoun)およびムザブ(Mozabite)のベルベル人と、モロッコのエラッチディア(Errachidia)およびティズニット(Tiznit)のベルベル人と、チュニジアのシェニニ(Chenini)およびセネド(Sened)のベルベル人、ニジェール・コンゴ語族言語を話すナイジェリアのヨルバ人(Yoruba)集団が含められました(人口集団の分類表示は元の研究での使用に基づいています)。
K(系統構成要素数)=2~11を用いてのADMIXTURE分析は、多様な祖先系統群を区別しました(図1A)。祖先系統群1は、コイサン諸語話者人口集団(クー人とジュホアン人)において最高頻度です。祖先系統群2は、RHG人口集団において最高頻度です。祖先系統群3は、チャブ人やムルシ人やディズィー人(Dizi)やアムハラ人やサンダウェ人の集団において最高頻度です(サンダウェ人は他の祖先系統と高度に混合しています)。祖先系統群4は、ハッザ人集団において最高頻度です。祖先系統群5は、ヘレロ人やティカール人やヨルバ人において最高頻度です。祖先系統群6はヨーロッパの人口集団において最高頻度で、レヴァントとアフリカ北部のアラブ人集団のほとんどにおいて中程度の頻度です。祖先系統群7はベルベルのレヴァント人口集団において最高頻度で、祖先系統群8はドゥルーズ派のレヴァントの人口集団において最高頻度です。祖先系統群9はアフリカ北部のアラブ語話者およびベルベル人の集団において最高頻度です。K=10では、シリアとパレスチナの人口集団において高頻度である、追加のレヴァント人的祖先系統クラスタ(まとまり)が加えられました。K=11では、チュニジアのシェニニのベルベル人集団でおもに見られるクラスタが識別されました。ADMIXTUREモデル化祖先系統を用いた全ての下流分析はK=9のADMIXTURE分析を最小しており、これが、非サハラアフリカ人祖先系統からサハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統最も明確に示しながら、サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団内の差異を最適に説明します。
各個体の非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統4群から推測される祖先系統の割合の合計により、非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統の個体の割合がモデル化されます。非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統の割合は180個体SSAデータセットではひじょうに違いが大きく、RHGとジュホアン人とヘレロ人とティカール人の0%から、フラニ人の44%とアムハラ人の62%までの範囲になる、と観察されます。さらに、180個体SSAデータセットにおける非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統の供給源は人口集団間で異なっており、アフリカ東部人口集団(アムハラ人とディズィー人とムルシ人とサンダウェ人)における非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統が、レヴァントの人口集団で観察される推定遺伝的祖先系統と最も類似しているのに対して、カメルーンのフラニ人集団では、アフリカ北部人口集団で観察される推定遺伝的祖先系統と最も類似しています。非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統の供給源におけるこの観察された違いは、アフリカ東部とフラニ人の集団に関する先行研究と一致します。
●ネアンデルタール人の相同領域は全てのサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団で確認されます
アルタイ地域のネアンデルタール人、つまりシベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で発見されたデニソワ5号を参照ゲノムとして、IBDmix(関連記事)を用いて本論文のデータセットの180個体SSAデータセットの12集団においてNHRが特定されました。サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団すべてでNHRが観察されますが、NHRの累積量、各NHRの平均規模、NHRの総数は、人口集団により大きく異なります(図2A)。以下は本論文の図2です。
NHRの合計長とNHRの総数と平均的なNHR規模はすべて、個々のADMIXTUREモデル化の非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統と正に相関します(図2B)。クロアチアのヴィンディヤ洞窟(Vindija)洞窟(関連記事)もしくはアルタイ地域のチャギルスカヤ(Chagyrskaya)洞窟(関連記事)のネアンデルタール人を参照ゲノムとして用いても、NHRが特定されました。累積NHR長における個体差は、NHR呼び出しに用いられた参照ネアンデルタール人ゲノム(デニソワ5号かヴィンディヤ洞窟かチャギルスカヤ洞窟のネアンデルタール人個体)に関係なく、類似しています。分析の残りは、参照ゲノムとしてアルタイ地域ネアンデルタール人を用いた場合に特定されたNHRのみが検討されます。
●各ネアンデルタール人相同領域の遺伝子移入の方向性確認
(1)各人口集団に寄与しているかもしれない人口集団のNHR(もしあるならば)の割合を推定し(図3)、(2)AMHIRもしくはNIRとして人口集団における各NHRを分類するために、AMHIRとNIRの混合としての各サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団のNHRを扱う統計的モデルが開発されました。このモデルは、それら遺伝子座における他の現生人類のハプロタイプからのさまざまな予測される遺伝的距離により、NIRをAMHIRから区別します。NHRがAMHのゲノムに存在しない遺伝子座では、ネアンデルタール人とAMHのハプロタイプ間の遺伝的距離は、ネアンデルタール人とAMHとの間の分岐時間を反映するでしょう(図3A)。
NIRが存在する遺伝子座では、ネアンデルタール人のハプロタイプとNIRの存在しないAMHのハプロタイプとの間の遺伝的距離も、AMHとネアンデルタール人が分岐して以来の時間を反映するでしょう(NIRハプロタイプはネアンデルタール人の配列に由来しますが、AMH人口集団で分離する非NIRハプロタイプは、非NHR遺伝子座におけるAMHハプロタイプと同様に、ネアンデルタール人のハプロタイプから分岐します。(図3A)。対照的に、AMHIRが存在する遺伝子座では、ネアンデルタール人のハプロタイプとAMHIRなしのAMHのハプロタイプとの間の遺伝的距離は、AMHとネアンデルタール人の分岐よりも新しい分岐を反映しているでしょう(ネアンデルタール人のハプロタイプが、AMHIRおよび非AMHIRのAMHハプロタイプの両方を生み出した祖先的AMH人口集団内に由来するため。図3C)。この非対称性により、NIRとAMHIRとの間を区別できるようになります。以下は本論文の図3です。
遺伝的距離の基準としてF₂統計の不偏版が用いられ、各AMH人口集団について別々の統計モデルが当てはめられました。各人口集団についてまず、NHRなしのゲノム領域におけるF₂(アルタイ地域ネアンデルタール人、AMH)の実証分布の的に観察された分布が当てはめられ、F₂(アルタイ地域ネアンデルタール人、X)の予測される分布が媒介変数で表記されます。ここでのXは、NIRが人口集団において分離していない遺伝子座でNHRを有さないAMH個体です。AMHIRを含む遺伝子座では、F₂(アルタイ地域ネアンデルタール人、X)はNIRが分離する遺伝子座とは異なる分布(より小さな平均)を有するでしょう。
媒介変数混合モデルから生成されたものとして、各対象AMH人口集団におけるNHRを含む全ての遺伝子座についてF₂(アルタイ地域ネアンデルタール人、X)の値の完全な分布が扱われ、観察の一部(NIRであるNHRの割合に相当します)はNHRなしの領域における実証的分布のF₂(アルタイ地域ネアンデルタール人、AMH)から抽出され、残りの割合(AMHIRであるNHRに相当します)は未知の代替的分布に由来します。代替的分布はほぼガンマ形状と仮定されますが、それ以外は、代替的分布が生成された特定の過程はモデル化されず、特定の人口史に基づいて本論文の分析は根拠づけられません。この分布は、柔軟な形態と少ない媒介変数と範囲(正の実数全体の集合)の裏づけのある数学的に都合のよい分布として選択されます。アプリケーションでは、小さなF₂値の推定の不正確さにより起こされる誤差を回避するため、ガンマへの離散近似値として負の二項分布が用いられます。
同時に、3つの媒介変数についてモデルが最適化されます。一つは各分布に由来するNHRの割合を表しており、二つはAMHIRの分布の形状を記載します。次に、各NHRは各分布からの抽出の尤度比に従って、NIRもしくはAMHIRと分類されます。個々のNHRの分類で生じる曖昧さを回避するため、混合モデルから直接的にNIRもしくはAMHIRの合計割合の推定値が抽出されます。多くの場合、とくにADMIXTUREモデル化された非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統をほとんど有さない人口集団では、個々のAMHIRを高い信頼性で特定することが可能です。おもにNIR全体の相対的希少性のため、個々のNIRの割り当てはかなり曖昧になります。しかし、全てのNHRに尤度が直接的に割り当てられるので、累積統計の編集のさいにこの不確実性を正確に考慮できます。
さまざまな人口集団間のNHRの長さにおける有意な違いが観察され、AMHIRは同じ人口集団のNIRよりも一貫して低くなりました。NIRとAMHIRの長さの分布から正確な生物学的解釈を導き出すためには、IBDmixにより課された人為的境界条件を補正しなければなりません。IBDmixは5万塩基対より短いNHRを識別せず、より短いNHRを省いた省略された長さの分布が生じます。省略された指数分布を各人口集団から得られた観察されたAMHIRおよびNIRの規模に適合させ、観察されていない根底にある省略されていない指数分布の平均NHR規模として最尤率媒介変数を使用することにより、この条件を補正する完全な長さの分布が推定されます。さらに、NIRとNHRの完全な長さの分布をより近似させるため、0.63 cM(センチモルガン)/Mb(百万塩基対)と1.52 cM/Mbの間の組換え率のゲノムの領域内に存在するNHRに焦点が当てられます。極端な値の領域の除外により、下限で5万塩基対を下回るさまざまな確立を有するさまざまな遺伝的長さの区域に起因する乱れが、最小限に抑えられます。各人口集団における省略されていない分布の割合の媒介変数(省略されていない長さの分布の平均の推定値に相当)の範囲は、AMHIRでは28520~38060塩基対、NIRでは45350~52360塩基対です。AMHIRと比較してNIRについて、人口集団数の違いも観察されます。単一のNIRはほぼわずか1~3の人口集団間で共有されていますが、単一のAMHIRは全ての人口集団で共有されていることが多くあります。
●サハラ砂漠以南のアフリカ人におけるネアンデルタール人祖先系統の定量化
NIRである1集団のNHRの割合は全人口集団では0.0~0.707で(図3)、一部の人口集団はNIRをまったく有していない、したがってネアンデルタール人を通じてたどれる祖先系統を有していない、と示唆されます。ネアンデルタール人からAMHへの遺伝子移入の大半はアフリカではなくユーラシアで起きた、と考えられています。したがって、サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団におけるネアンデルタール人祖先系統は、とくにアフリカ東部で高い割合となる、非サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団からの遺伝子流動の証拠のある人口集団のみで予測されます(図1A)。実際、本論文のモデルでは、非サハラ砂漠以南のアフリカ人のADMIXTURE混合モデル化祖先系統を有する人口集団(たとえば、アムハラ人)は、NIRと分類されるNHRの割合が高い(図3D)のに対して、ほぼサハラ砂漠以南のアフリカ人のADMIXTURE混合モデル化祖先系統を有する人口集団(たとえば、RHG)は、NIRをほぼ有していないか、全く有していない(図3E)、と示唆されます。サハラ砂漠以南のアフリカ人のADMIXTURE混合モデル化祖先系統とNIRに分類されるNHRの割合との間の相関は、統計的には高度に優位です。
NIRで構成されるゲノム個体のゲノムの合計割合は、その個体の非サハラ砂漠以南のアフリカ人のモデル化混合の割合とさらにより強く正に相関しています。信頼区間の下限を使用し、サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団におけるNIRの上限推定値としてNIRの省略された分布について調整すると、おもに砂漠以南のアフリカ人祖先系統を有するアフリカ人個体(チャブ人やジュホアン人やヘレロ人やティカール人)はNIRの累積で最大約519万塩基対を有している、と示唆されます。非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統を有するアフリカの人口集団(アムハラ人やディズィー人やフラニ人やサンダウェ人)では、全ての常染色体にわたる累積NIR配列長の推定値の範囲は1585万~4437万塩基対です。個体のゲノムにおけるNIRの累積量は、ネアンデルタール人起源(ネアンデルタール人祖先系統)であるゲノムの量として解釈されるべきです。したがって、ゲノムの割合として、180個体SSAデータセットにおけるネアンデルタール人祖先系統の範囲は0~1.5%で、アムハラ人とフラニ人において最高水準で観察されます(図4)。以下は本論文の図4です。
●サハラ砂漠以南のアフリカ人におけるネアンデルタール人のハプロタイプには複数の非サハラ砂漠以南のアフリカ起源があります
ネアンデルタール人の地理的分布はサハラ砂漠以南のアフリカにまで広がっていなかった可能性が高いので、アムハラ人とフラニ人とディズィー人とサンダウェ人の集団で見つかったNIRは、世界の他地域からりAMHの移住と遺伝子流動によりサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団にもたらされたに違いありません。NIRを含むサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団(アムハラ人やフラニ人やディズィー人やサンダウェ人)におけるNIRの人口集団供給源を特定するため、Chromopainterを用いて、これら人口集団のそれぞれからの祖先系統を有する個体のゲノムの割合が、サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団(チャブ人やティカール人やRHGやジュホアン人)と非サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団(オークニー島人やベドウィンやドゥルーズ派やチュニジアのシェニニのベルベル人)両方の参照一式を使用して表されます。
NIR周辺領域(に加えて両端の10万塩基対の隣接配列)とNIRを含まない領域の制御一式との間の、各Chromopainterモデル化祖先系統の頻度における違い(ΔNIR)が計算されました。この方法では、ΔNIRは、NIRを有する領域がゲノムの残りよりも特定の参照人口集団とどれだけ密接に類似しているのか、定量化します。アムハラ人とフラニ人とディズィー人とサンダウェ人は全員、IR含有領域が非サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団にたどれる祖先系統の過剰を有しているならば予測されるように、そのNIR含有領域において非サハラ砂漠以南のアフリカ人のChromopainterモデル化祖先系統の過剰を有しています。フラニ人では、ヨーロッパ人とアフリカ北部のベルベル人の集団に割り当てられた局所的な祖先系統の痕跡が、最大のΔNIR値を示します。対照的に、アフリカ東部の人口集団では、レヴァント参照人口集団に割り当てられた局所的な祖先系統の痕跡が最大のΔNIR値を示します。これらの観察から、フラニ人のNIRは、アムハラ人やディズィー人やサンダウェ人にNIRをもたらした供給源とは異なる非サハラ砂漠以南のアフリカ人供給源に由来する、と示唆されます。この観察は、フラニ人はアフリカ北部のベルベル人集団と遺伝的祖先系統を共有し、アフリカ東部集団はおもにレヴァントの人口集団からの最近の混合を有している、と示唆した、これらの人口集団のADMIXTURE分析および以前の遺伝学的研究と一致します。
●ネアンデルタール人におけるAMH祖先系統の定量化
全サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団で特定された全AMHIR配列と平均AMHIR規模の相対的に一貫した量から、全AMHはネアンデルタール人と交雑したAMHと同じ共通祖先を有している、と示唆されます。アルタイ地域ネアンデルタール人内で特定されたAMHIRの累積長は、AMH起源であるゲノムの量として解釈されます。NHRの特定のさいにIBDmixによりもたらされたハプロタイプ長の省略を補正し、NIRを殆どもしくは全く有さない(図3E)人口集団(RHG、ティカール人、ヘレロ人、ジュホアン人、クー人)で特定されたAMHIRに焦点を当てた後に、アルタイ地域ネアンデルタール人のゲノムの5.56~6.83%はAMH起源と推定されます。本論文の推定値は、約3~7%(関連記事)や約1~7%といった以前の推定値を洗練し、0.1~2.1%という以前の推定値(関連記事)よりもかなり高くなります。本論文の模擬実験から、AMHIRの量に関する本論文の推定法は、非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統を有さない人口集団で評価され、組換えの極端な値を除外するために選別されたゲノム領域から確認されたさいには正確である、と示唆されます。
●ネアンデルタール人のゲノム内におけるAMHからの遺伝子移入の分布に作用する自然選択
自然選択は、現生人類のゲノム全体でネアンデルタール人から遺伝子移入された多様体の分布形成に役割を果たす、と予測され、選択のさまざまな形態はさまざまなパターンを生み出すでしょう。ネアンデルタール人「砂漠」、つまりネアンデルタール人祖先系統の枯渇が観察されたAMHのゲノム領域が、以前に提案されたように小さな有効人口規模のためネアンデルタール人集団内で蓄積された有害なアレル(対立遺伝子)に対する選択によりおもに引き起こされたならば(関連記事)、これらの遺伝子座においてAMHのアレルを得たネアンデルタール人はこれらの【ネアンデルタール人に蓄積された有害な】変異から逃れる利益を得る、と予測され、これらの領域はAMHIRで濃縮されるでしょう。
あるいは、ネアンデルタール人の砂漠が遺伝子移入されたアレルと【現生人類の】元々のゲノム背景との間の有害な上位性相互作用によりおもに引き起こされているのならば、これらの遺伝子座においてAMHアレルを有するネアンデルタール人は、これらの遺伝子座においてネアンデルタール人のアレルを有するAMHのように、同様の悪影響を被ることになるでしょう。ネアンデルタール人の進化は、AMHにおけるネアンデルタール人砂漠として特定されているAMHIRの重複領域の枯渇を引き起こす、これらの遺伝子座におけるAMHからの遺伝子移入に対して選択的と予測されます(図5)。以下は本論文の図5です。
AMHのゲノムで特定されたネアンデルタール人砂漠に相当するネアンデルタール人ゲノムの領域内において、RHGとティカール人とチャブ人とヘレロ人とジュホアン人とクー人(NIRが最低水準の人口集団)で特定された894ヶ所のAMHIRの濃縮もしくは枯渇の検証により、これらのモデルが区別されます。27000個体以上のアイスランド人のゲノム(関連記事)から確認された261ヶ所の古代型(ネアンデルタール人およびデニソワ人からの遺伝子移入)砂漠高解像度の地図と比較すると、わずか155ヶ所のAMHIRがネアンデルタール人ゲノムの相同的な(orthologous)領域内に位置し、これは偶然に予測される数の約半分です。
1000人ゲノムデータから確認されたネアンデルタール人砂漠8ヶ所のより低解像度の地図と比較すると、わずか37ヶ所のAMHIRがネアンデルタール人のゲノムの相同領域内に位置し、これは偶然に予測される数より約25%少なくなります。95%超の信頼度で詫びだされたAMHIR757ヶ所の部分集合のみを考慮すると、ネアンデルタール人砂漠と重複するAMHIRの同様の枯渇が見られますが、1000人ゲノム計画由来の砂漠一覧は、検出力減少のためもはや統計的に有意ではありません。これの結果は、異種特異的なアレルの組み合わせを嫌う上位性効果の蓄積を通じて始まる種分化のモデルと一致し、現生人類集団で見られる古代型の砂漠が普遍的な有害なネアンデルタール人のアレルに対する直接的選択により引き起こされる、との仮説と一致しません。
AMHIRの枯渇は、AMHのゲノムにおけるネアンデルタール人砂漠と相同な領域に限りません。すべての注釈付けされた常染色体遺伝子を検討すると、偶然に予測されるより65%少ない領域がAMHIRと重複します。この観察から、交雑個体への自然選択は広範に基づいており、ネアンデルタール人のゲノムの多くの機能的領域からAMH祖先系統を活発に除去したかもしれない、と示唆されます。
AMHIR領域内における残りの遺伝子も、完全に無作為な組み合わせではありません。遺伝子存在濃縮分析から、特定されたAMHIRには、細胞膜接着分子を介した細胞間接着と関連する遺伝子の統計的に有意な過剰、および数点の密接に関連する分類が含まれる、と示されます。これらの濃縮は適応的遺伝子移入の事例を表しているかもしれませんが、これらの結果は遺伝子移入された遺伝子に対する選択強度の不均一性とも一致します。
●AMHからネアンデルタール人への遺伝子移入の年代
単一の遺伝子移入事象を除いてネアンデルタール人とAMHとの間の孤立を仮定すると、その遺伝子移入事象の年代が、AMHIRの長さは遺伝子移入以降に経過した時間の関数である速度の媒介変数と組換え率と遺伝子移入の割合で指数関数的に分布する、との予測から推測できます。RHGとティカール人とチャブ人とヘレロ人とジュホアン人とクー人(NIRが最低水準、したがって誤って分類されたNHRに起因する予測誤差が最小の人口集団)から特定されたAMHIRから計算されたこの割合の媒介変数の長さを補正した最尤推定値を用いて、AMHからネアンデルタール人への遺伝子移入の年代が推定されました。
RHG(RHGについて、このモデルはNIRの存在の可能性が最小と示唆します)に焦点を当てると、補正された平均AMHIRの長さは33287塩基対で、これはAMHからネアンデルタール人への遺伝子移入とアルタイ地域ネアンデルタール人との間に4796世代(95%信頼区間では4046~5598世代)が経過したことを示唆します。アルタイ地域ネアンデルタール人化石の年代は122000年前頃で(関連記事)、ヒトの世代時間が29年と仮定すると、AMHからネアンデルタール人への遺伝子移入は261075年前頃(95%信頼区間で284331~239325年前)に起きました。NIRの割合が低い他の人口集団からの推定値の範囲は、アルタイ地域ネアンデルタール人の4235世代前(244817年前頃)から5250世代前(274238年前頃)です。
模擬実験から、IBDmixは、長さの範囲の下端に向かって偽陰性がより一般的になるため小さな偏りをもたらす、と示唆されます。したがって、得られるNHRはより長い区域ではわずかに濃縮されており、これらの年代推定値は多ければ10%も新しくなります。これを考慮すると、先行研究(関連記事)における全ての現代人の間の最も深い人口集団の分岐のほとんどの推定値(285000~150000年前頃)の前に、AMHからネアンデルタール人への遺伝子移入が起きたことになります。
●考察
先行研究(関連記事)と一致して、NHRは全ての標本抽出されたサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団に存在します(図2)。しかし、NHRはハプロタイプの均質な一群ではありません。AMHIRとして分類されるNHR、つまりAMHに起源があり、ネアンデルタール人に遺伝子移入された領域は、全てのサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団全体で類似の量で見られます。ネアンデルタール人に起源があり、低水準のこんごうを通じてAMHにもたらされたNIRは、かなりの非サハラ砂漠以南のアフリカ人ADMIXTUREモデル化祖先系統を有する人口集団でほぼ排他的に見られます。さらに、NIRは通常AMHIRより長く、そのより新しい起源と一致します(図3)。NIRとAMHIRのさまざまな地理および長さの分布は、AMHとネアンデルタール人の遺伝子流動の3回事象モデルを裏づけます(図6)。以下は本論文の図6です。
第一に、アフリカからのAMHの初期の移住は25万年前頃となるAMHからネアンデルタール人への遺伝子移入事象につながり、現代の人口集団に存在するAMHIRとして特定される相同な領域が形成されました。これらの遺伝子移入は、初期の種分化の過程を通じて形成された可能性が高い交雑個体に対する選択により、ネアンデルタール人のゲノムの多くの部分で枯渇しました。これにより、アルタイ地域ネアンデルタール人には約6%のAMH祖先系統が残りましたが、アルタイ地域ネアンデルタール人のそれ以前の祖先は、AMH祖先系統をより大きな割合で有していたでしょう。先行研究(関連記事)は、おそらくネアンデルタール人砂漠のより高解像度の地図の欠如、および選択圧とその手法における遺伝子移入された断片を呼び出す能力とり間の混乱のため、この選択過程の証拠を見つけられませんでした。本論文の分析は、サハラ砂漠以南のアフリカ人のゲノムのより大きな標本(180個体)と、非サハラ砂漠以南のアフリカ人との混合がほとんど若しくはまったくない個体を含んでおり、より高い解像度でネアンデルタール人のゲノムにおけるAMH祖先系統の選択の痕跡の分析が可能になりました。
第二に、54000~40000年前頃となるネアンデルタール人からAMHへの遺伝子移入事象は、NIRとして識別可能なネアンデルタール人のハプロタイプを非アフリカ系AMH集団へともたらしました。ネアンデルタール人のゲノム内のAMHIRと同様に、NIRは類似の有害な遺伝子相互作用のためAMHのゲノムの同じ領域で枯渇していました。
第三に、非サハラ砂漠以南のアフリカ人であるAMHの少なくとも2回のその後のサハラ砂漠以南のアフリカへの最近の移住は、遺伝子移入されたネアンデルタール人ハプロタイプ(NIR)を、非サハラ砂漠以南のアフリカ人であるAMHと混合したサハラ砂漠以南のアフリカ人集団にもたらしました。レヴァント地域に現在居住する人々と関連する人々が、アフリカ東部牧畜民にネアンデルタール人由来のハプロタイプをもたらし、フラニ人はアフリカ北部のベルベル人集団と共有される遺伝的祖先系統のため、ネアンデルタール人由来のハプロタイプを有しています。これらの観察は、ゲノム全体の遺伝標識に基づく、アフリカ東部人とフラニ人の集団に関する以前の人口統計学的再構築と一致します。以前に可能性として提起された(関連記事)ような、ネアンデルタール人に由来するハプロタイプもしくはネアンデルタール人祖先系統がサハラ砂漠以南のアフリカ全体に広がっていた、との証拠は見つかりませんでした。ネアンデルタール人祖先系統がAMH内のどこに存在し、どこに存在していないのか理解することは、ネアンデルタール人とAMH両方の古代の移住の理解と、人口史のより複雑なモデルの構築および解釈に重要です。
AMHIRを生じさせた、25万年前頃と推定されたAMHからネアンデルタール人への遺伝子移入事象は、ネアンデルタール人と、全ての現代人系統の多様化の前に現代人の祖先から分岐したAMHの初期集団のユーラシアにおける共存を必要とします。この事象は現代人集団間の最も深い分岐のほとんどの推定値(285000~150000年前頃に起きた、コイサン人およびアフリカ中央部狩猟採集民集団と他の全ての現代人系統の分岐)の前に起き、AMHのアフリカからの拡大に10万年以上先行します(関連記事)。
AMHのこの初期に分岐した集団の存在は、21万~17万年前頃となる現代のイスラエル(関連記事)およびギリシア(関連記事)の考古学的証拠と一致します。それは、後期更新世のネアンデルタール人のミトコンドリアにおけるアフリカ人祖先系統(413000~268000年前頃)に関する以前の推測(関連記事)や、30万~20万年前頃となるネアンデルタール人へのAMHからの遺伝子移入を含む人口統計学的モデルと合致するネアンデルタール人のゲノムから再構築された遺伝子系統樹の深さの分布(関連記事)とも一致します。これらのAMHIRを生み出したAMHは、ヒトの系統発生史内で独特な空間を占めています。現存するAMHの外群としてではあるものの、ネアンデルタール人や種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)のような古代型のヒトよりもずっと現代人の方と密接に関連しているこの系統は、現生人類における自然選択のより最近の標的を特定と、現生人類史における初期の人口集団分岐解明の強力な情報源であることを証明するかもしれません。
参考文献:
Harris DN. et al.(2023): Diverse African genomes reveal selection on ancient modern human introgressions in Neanderthals. Current Biology, 33, 22, 4905–4916.E5.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.09.066
●要約
ネアンデルタール人のゲノムとAMHのゲノムの比較は、アフリカからユーラシアへのAMHの移住後の交雑に由来する、ネアンデルタール人からAMHへの遺伝子移入の歴史を示しています。サハラ砂漠以南のアフリカ人ではない全てのAMHには、この遺伝子移入に由来するネアンデルタール人と遺伝的に類似したゲノム領域があります。ネアンデルタール人との類似性のあるゲノム領域はサハラ砂漠以南のアフリカの人口集団でも確認されてきましたが、その起源は不明でした。これらの領域がサハラ砂漠以南のアフリカ全体でどのように分布しているのか、その起源の供給源、ゲノム内の分布が初期AMHとネアンデルタール人の進化について語ることをより深く理解するため、サハラ砂漠以南のアフリカの12の多様な人口集団の18個体から得られた高網羅率の全ゲノム配列のデータセットが分析されました。
非サハラ砂漠以南アフリカ人の祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)を有するサハラ砂漠以南のアフリカの人口集団では、そのゲノムの1%ほどが、レヴァントおよびアフリカ北部起源のAMH人口集団の、最近の移住とその後の混合によりもたらされたネアンデルタール人配列に起因しているかもしれません。しかし、サハラ砂漠以南のアフリカ人におけるほとんどのネアンデルタール人と相同な領域は、アフリカからユーラシアへの25万年前頃となるAMH人口集団の移住と、ネアンデルタール人において6%ほどのAMH祖先系統をもたらしたその後のネアンデルタール人との混合に起因します。
これらの結果から、アフリカからのAMHの移住事象は複数回あり、ネアンデルタール人とAMHの遺伝子流動は双方向だった、と示唆されます。AMHがネアンデルタール人からの遺伝子移入の枯渇を示すゲノム領域が、ネアンデルタール人がAMHからの遺伝子移入の枯渇を示すゲノム領域でもある、との観察は、両集団【AMHとネアンデルタール人】における遺伝子移入された多様体と背景のゲノムとの間の有害な相互作用を示しており、これは最初の種分化の特徴です。
●研究史
AMHの起源は30万年前頃のサハラ砂漠以南のアフリカにあります(関連記事)。遺伝学と考古学のデータから、AMHは過去75000年間以内の現生人類のアフリカからの拡大まで、おもにサハラ砂漠以南のアフリカに留まっていた、と示唆されます(関連記事1および関連記事2)。アフリカからの拡大中に、AMHの小集団がサハラ砂漠以南のアフリカから移住し、世界の他地域に居住しました。ユーラシアでは、AMHが765000~550000年前頃にAMHと分岐した(関連記事)古代型のヒトであるネアンデルタール人と遭遇しました。AMHとネアンデルタール人との交雑は54000~40000年前頃に起きました(関連記事)。この交雑の結果として、非アフリカ系AMHのゲノムの2~3%程度はネアンデルタール人に由来します(関連記事)。ネアンデルタール人から遺伝子移入された領域はAMHのゲノム全体で不均一に分布しているわけではなく、自然選択が遺伝子移入されたネアンデルタール人祖先系統を特定の遺伝子座から除去しましたが(関連記事1および関連記事2)、選択が作用した機序は不明です。
ネアンデルタール人とAMHの交雑はアフリカからの拡大に続いてアフリカ外で起きたので、完全にサハラ砂漠以南のアフリカ人系統を通じて祖先系統がたどれる人口集団は、ネアンデルタール人からの遺伝子移入に由来するゲノムの相当量を有していない、と予測されます。しかし、非サハラ砂漠以南アフリカ人の祖先系統の量はサハラ砂漠以南のアフリカの人口集団では大きく日となります。とくにアフリカ東部では、ユーラシア人祖先系統の推定値は過去数年年間以内の移住と混合のため50%にも達します。ユーラシアAMH人口集団からサハラ砂漠以南のアフリカへのこの最近の遺伝子流動の歴史は、ネアンデルタール人からの遺伝子移入に由来する一部のサハラ砂漠以南のアフリカ人のゲノム領域をもたらしたかもしれません(関連記事)。
過去75000年間以内のアフリカからのAMHの主要な移住に加えて、それ以前のAMHのアフリカからの移住の証拠もあり(関連記事1および関連記事2)、この移住はアフリカ外のAMH人口集団のゲノムに実質的には寄与しませんでした(関連記事)。アフリカからのAMHのこれら初期の移住は、遺伝子移入を通じてネアンデルタール人のゲノムにAMH祖先系統をもたらしたかもしれません(関連記事)。ネアンデルタール人がAMHからのいくらかの多様体を有しているかもしれない、との見解は、後期更新世のネアンデルタール人のミトコンドリアが413000~268000年前頃にネアンデルタール人へと遺伝子移入されたアフリカの供給源に由来していた、との観察により示唆されてきました(関連記事)。さらに、ネアンデルタール人とAMHの核ゲノムの比較から、122000年前頃に暮らしていたアルタイ地域ネアンデルタール人(関連記事)は、30万~20万年前頃に起きたAMHとネアンデルタール人との間の交雑から3%程度のAMH祖先系統を有している、と示唆されました(関連記事)。ミトコンドリアと核のゲノムに基づくAMHからネアンデルタール人への遺伝子移入の推定値は両方とも、現存AMHの多様化に先行します(関連記事)。
最近の分析(関連記事)は、ネアンデルタール人とAMHのゲノム間の相同領域を特定し、ネアンデルタール人相同領域(Neanderthal homologous region、略してNHR)と命名しました。その研究では、1000人ゲノム計画に含まれ、全員ニジェール・コンゴ語族を話し、アフリカ中央部および西部において比較的最近の共通祖先系統を有しているサハラ砂漠以南のアフリカの人口集団において、NHRが特定されました。NHRは2種類の可能性があります。一方は、アフリカからの拡大後に起きたネアンデルタール人からAMHへの遺伝子移入の結果で、本論文ではネアンデルタール人からの遺伝子移入領域(Neanderthal introgressed regions、略してNIR)と呼ばれ、もう一方はアフリカからの拡大前に起きたAMHからネアンデルタール人への遺伝子移入事象の結果で、本論文ではAMHからの遺伝子移入領域(AMH introgressed regions、AMHIR)と呼ばれます。
先行研究(関連記事)では、ヨーロッパ人系統と関連する人口集団からの逆移住とその後の混合、およびAMHからネアンデルタール人への古代の移住とその後の混合の両方が、サハラ砂漠以南のアフリカ人におけるネアンデルタール人祖先系統の兆候に寄与している、と示唆されました。サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団の分析はほぼニジェール・コンゴ語族話者関連祖先系統を有する人口集団に限定されていたので、他のサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団が類似のパターンを示すのかどうか、不明でした。さらに、先行研究(関連記事)はNIRとAMHIRとNHRを直接的に区別できず、サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団においてNHRをもたらした人口統計学的過程に関する問題が残りました。本論文は、カメルーンとボツワナとタンザニアとエチオピアの180個体で構成される12のサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団の遺伝的に多様な一式の分析と、NHRのネアンデルタール人もしくはAMH起源を区別する統計的手法の導入により、サハラ砂漠以南のアフリカ人のNHRの起源、アフリカからの初期のヒト【現生人類】の移住、アフリカへの最近のAMHの帰還、AMHとネアンデルタール人のゲノム分岐と関わる自然選択の力のより複雑な全体像を提示します。
●サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団における現生人類祖先系統の推定
12の遺伝的に多様なサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団の180個体で構成される、高網羅率(30倍超)の全ゲノム配列決定データセット(関連記事)が分析され、以後このデータセットは「180個体SSA(sub-Saharan African)」データセットと呼ばれます。このデータセットに含まれる人口集団は、全てサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団により話されている4言語系統に属す言語を話し、その生計慣行は多様です。つまり、エチオピアのアムハラ人(Amhara)農耕民の話すアフロ・アジア語族、ボツワナのクー人(!Xoo)およびジュホアン人(Ju|’hoansi)の採食民と、タンザニアの現在もしくは最近まで採食民だったハッザ人(Hadza)とサンダウェ人(Sandawe)の話すコイサン諸語、カメルーンのティカール人(Tikari)農耕民とボツワナのヘレロ人(Herero)牧畜民の話すニジェール・コンゴ語族、エチオピアのムルシ人(Mursi)の話すナイル・サハラ語族です。チャブ人(Chabu)はエチオピア南西部の採食民の小集団で、ナイル・サハラ語族と密接に関連するものの未分類の言語を話します。カメルーンのアフリカ中央部熱帯雨林狩猟採集民(rainforest hunter-gatherers、略してRHG)であるバカ人(Baka)およびバジェリ人(Bagyeli)とフラニ人(Fulani)牧畜民は、ニジェール・コンゴ語族言語を採用してきました(図1B)。以下は本論文の図1です。
ADMIXTUREを用いて、ヒトゲノム多様性計画(Human Genome Diversity Project、略してHGDP)から得られた高網羅率の全ゲノム配列決定データセットに由来する遺伝子型で構成される世界のデータセット(関連記事)、およびアフリカ北部とレヴァントの人口集団の遺伝子型配列データセットとの統合により、180個体SSAデータセットの個体に世界の遺伝的な祖先の寄与が近似させられました。具体的には、以前のADMIXTURE分析(関連記事)に基づいて、ヨーロッパ人の遺伝的祖先系統の代理的な代表としてのフランスとオークニー島の人口集団、レヴァント人の遺伝的祖先系統の代理的代表としてのベドウィンとドゥルーズ派とパレスチナとシリアの人口集団、アフリカ北部のアラブ人祖先系統の代理的代理としてのアルジェリアとエチオピアとリビアとモロッコ北部および南部とサハラ砂漠の人口集団、アフリカ北部ベルベル人祖先系統の代理的代表としての、アルジェリアのティミムン(Timimoun)およびムザブ(Mozabite)のベルベル人と、モロッコのエラッチディア(Errachidia)およびティズニット(Tiznit)のベルベル人と、チュニジアのシェニニ(Chenini)およびセネド(Sened)のベルベル人、ニジェール・コンゴ語族言語を話すナイジェリアのヨルバ人(Yoruba)集団が含められました(人口集団の分類表示は元の研究での使用に基づいています)。
K(系統構成要素数)=2~11を用いてのADMIXTURE分析は、多様な祖先系統群を区別しました(図1A)。祖先系統群1は、コイサン諸語話者人口集団(クー人とジュホアン人)において最高頻度です。祖先系統群2は、RHG人口集団において最高頻度です。祖先系統群3は、チャブ人やムルシ人やディズィー人(Dizi)やアムハラ人やサンダウェ人の集団において最高頻度です(サンダウェ人は他の祖先系統と高度に混合しています)。祖先系統群4は、ハッザ人集団において最高頻度です。祖先系統群5は、ヘレロ人やティカール人やヨルバ人において最高頻度です。祖先系統群6はヨーロッパの人口集団において最高頻度で、レヴァントとアフリカ北部のアラブ人集団のほとんどにおいて中程度の頻度です。祖先系統群7はベルベルのレヴァント人口集団において最高頻度で、祖先系統群8はドゥルーズ派のレヴァントの人口集団において最高頻度です。祖先系統群9はアフリカ北部のアラブ語話者およびベルベル人の集団において最高頻度です。K=10では、シリアとパレスチナの人口集団において高頻度である、追加のレヴァント人的祖先系統クラスタ(まとまり)が加えられました。K=11では、チュニジアのシェニニのベルベル人集団でおもに見られるクラスタが識別されました。ADMIXTUREモデル化祖先系統を用いた全ての下流分析はK=9のADMIXTURE分析を最小しており、これが、非サハラアフリカ人祖先系統からサハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統最も明確に示しながら、サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団内の差異を最適に説明します。
各個体の非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統4群から推測される祖先系統の割合の合計により、非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統の個体の割合がモデル化されます。非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統の割合は180個体SSAデータセットではひじょうに違いが大きく、RHGとジュホアン人とヘレロ人とティカール人の0%から、フラニ人の44%とアムハラ人の62%までの範囲になる、と観察されます。さらに、180個体SSAデータセットにおける非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統の供給源は人口集団間で異なっており、アフリカ東部人口集団(アムハラ人とディズィー人とムルシ人とサンダウェ人)における非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統が、レヴァントの人口集団で観察される推定遺伝的祖先系統と最も類似しているのに対して、カメルーンのフラニ人集団では、アフリカ北部人口集団で観察される推定遺伝的祖先系統と最も類似しています。非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統の供給源におけるこの観察された違いは、アフリカ東部とフラニ人の集団に関する先行研究と一致します。
●ネアンデルタール人の相同領域は全てのサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団で確認されます
アルタイ地域のネアンデルタール人、つまりシベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で発見されたデニソワ5号を参照ゲノムとして、IBDmix(関連記事)を用いて本論文のデータセットの180個体SSAデータセットの12集団においてNHRが特定されました。サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団すべてでNHRが観察されますが、NHRの累積量、各NHRの平均規模、NHRの総数は、人口集団により大きく異なります(図2A)。以下は本論文の図2です。
NHRの合計長とNHRの総数と平均的なNHR規模はすべて、個々のADMIXTUREモデル化の非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統と正に相関します(図2B)。クロアチアのヴィンディヤ洞窟(Vindija)洞窟(関連記事)もしくはアルタイ地域のチャギルスカヤ(Chagyrskaya)洞窟(関連記事)のネアンデルタール人を参照ゲノムとして用いても、NHRが特定されました。累積NHR長における個体差は、NHR呼び出しに用いられた参照ネアンデルタール人ゲノム(デニソワ5号かヴィンディヤ洞窟かチャギルスカヤ洞窟のネアンデルタール人個体)に関係なく、類似しています。分析の残りは、参照ゲノムとしてアルタイ地域ネアンデルタール人を用いた場合に特定されたNHRのみが検討されます。
●各ネアンデルタール人相同領域の遺伝子移入の方向性確認
(1)各人口集団に寄与しているかもしれない人口集団のNHR(もしあるならば)の割合を推定し(図3)、(2)AMHIRもしくはNIRとして人口集団における各NHRを分類するために、AMHIRとNIRの混合としての各サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団のNHRを扱う統計的モデルが開発されました。このモデルは、それら遺伝子座における他の現生人類のハプロタイプからのさまざまな予測される遺伝的距離により、NIRをAMHIRから区別します。NHRがAMHのゲノムに存在しない遺伝子座では、ネアンデルタール人とAMHのハプロタイプ間の遺伝的距離は、ネアンデルタール人とAMHとの間の分岐時間を反映するでしょう(図3A)。
NIRが存在する遺伝子座では、ネアンデルタール人のハプロタイプとNIRの存在しないAMHのハプロタイプとの間の遺伝的距離も、AMHとネアンデルタール人が分岐して以来の時間を反映するでしょう(NIRハプロタイプはネアンデルタール人の配列に由来しますが、AMH人口集団で分離する非NIRハプロタイプは、非NHR遺伝子座におけるAMHハプロタイプと同様に、ネアンデルタール人のハプロタイプから分岐します。(図3A)。対照的に、AMHIRが存在する遺伝子座では、ネアンデルタール人のハプロタイプとAMHIRなしのAMHのハプロタイプとの間の遺伝的距離は、AMHとネアンデルタール人の分岐よりも新しい分岐を反映しているでしょう(ネアンデルタール人のハプロタイプが、AMHIRおよび非AMHIRのAMHハプロタイプの両方を生み出した祖先的AMH人口集団内に由来するため。図3C)。この非対称性により、NIRとAMHIRとの間を区別できるようになります。以下は本論文の図3です。
遺伝的距離の基準としてF₂統計の不偏版が用いられ、各AMH人口集団について別々の統計モデルが当てはめられました。各人口集団についてまず、NHRなしのゲノム領域におけるF₂(アルタイ地域ネアンデルタール人、AMH)の実証分布の的に観察された分布が当てはめられ、F₂(アルタイ地域ネアンデルタール人、X)の予測される分布が媒介変数で表記されます。ここでのXは、NIRが人口集団において分離していない遺伝子座でNHRを有さないAMH個体です。AMHIRを含む遺伝子座では、F₂(アルタイ地域ネアンデルタール人、X)はNIRが分離する遺伝子座とは異なる分布(より小さな平均)を有するでしょう。
媒介変数混合モデルから生成されたものとして、各対象AMH人口集団におけるNHRを含む全ての遺伝子座についてF₂(アルタイ地域ネアンデルタール人、X)の値の完全な分布が扱われ、観察の一部(NIRであるNHRの割合に相当します)はNHRなしの領域における実証的分布のF₂(アルタイ地域ネアンデルタール人、AMH)から抽出され、残りの割合(AMHIRであるNHRに相当します)は未知の代替的分布に由来します。代替的分布はほぼガンマ形状と仮定されますが、それ以外は、代替的分布が生成された特定の過程はモデル化されず、特定の人口史に基づいて本論文の分析は根拠づけられません。この分布は、柔軟な形態と少ない媒介変数と範囲(正の実数全体の集合)の裏づけのある数学的に都合のよい分布として選択されます。アプリケーションでは、小さなF₂値の推定の不正確さにより起こされる誤差を回避するため、ガンマへの離散近似値として負の二項分布が用いられます。
同時に、3つの媒介変数についてモデルが最適化されます。一つは各分布に由来するNHRの割合を表しており、二つはAMHIRの分布の形状を記載します。次に、各NHRは各分布からの抽出の尤度比に従って、NIRもしくはAMHIRと分類されます。個々のNHRの分類で生じる曖昧さを回避するため、混合モデルから直接的にNIRもしくはAMHIRの合計割合の推定値が抽出されます。多くの場合、とくにADMIXTUREモデル化された非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統をほとんど有さない人口集団では、個々のAMHIRを高い信頼性で特定することが可能です。おもにNIR全体の相対的希少性のため、個々のNIRの割り当てはかなり曖昧になります。しかし、全てのNHRに尤度が直接的に割り当てられるので、累積統計の編集のさいにこの不確実性を正確に考慮できます。
さまざまな人口集団間のNHRの長さにおける有意な違いが観察され、AMHIRは同じ人口集団のNIRよりも一貫して低くなりました。NIRとAMHIRの長さの分布から正確な生物学的解釈を導き出すためには、IBDmixにより課された人為的境界条件を補正しなければなりません。IBDmixは5万塩基対より短いNHRを識別せず、より短いNHRを省いた省略された長さの分布が生じます。省略された指数分布を各人口集団から得られた観察されたAMHIRおよびNIRの規模に適合させ、観察されていない根底にある省略されていない指数分布の平均NHR規模として最尤率媒介変数を使用することにより、この条件を補正する完全な長さの分布が推定されます。さらに、NIRとNHRの完全な長さの分布をより近似させるため、0.63 cM(センチモルガン)/Mb(百万塩基対)と1.52 cM/Mbの間の組換え率のゲノムの領域内に存在するNHRに焦点が当てられます。極端な値の領域の除外により、下限で5万塩基対を下回るさまざまな確立を有するさまざまな遺伝的長さの区域に起因する乱れが、最小限に抑えられます。各人口集団における省略されていない分布の割合の媒介変数(省略されていない長さの分布の平均の推定値に相当)の範囲は、AMHIRでは28520~38060塩基対、NIRでは45350~52360塩基対です。AMHIRと比較してNIRについて、人口集団数の違いも観察されます。単一のNIRはほぼわずか1~3の人口集団間で共有されていますが、単一のAMHIRは全ての人口集団で共有されていることが多くあります。
●サハラ砂漠以南のアフリカ人におけるネアンデルタール人祖先系統の定量化
NIRである1集団のNHRの割合は全人口集団では0.0~0.707で(図3)、一部の人口集団はNIRをまったく有していない、したがってネアンデルタール人を通じてたどれる祖先系統を有していない、と示唆されます。ネアンデルタール人からAMHへの遺伝子移入の大半はアフリカではなくユーラシアで起きた、と考えられています。したがって、サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団におけるネアンデルタール人祖先系統は、とくにアフリカ東部で高い割合となる、非サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団からの遺伝子流動の証拠のある人口集団のみで予測されます(図1A)。実際、本論文のモデルでは、非サハラ砂漠以南のアフリカ人のADMIXTURE混合モデル化祖先系統を有する人口集団(たとえば、アムハラ人)は、NIRと分類されるNHRの割合が高い(図3D)のに対して、ほぼサハラ砂漠以南のアフリカ人のADMIXTURE混合モデル化祖先系統を有する人口集団(たとえば、RHG)は、NIRをほぼ有していないか、全く有していない(図3E)、と示唆されます。サハラ砂漠以南のアフリカ人のADMIXTURE混合モデル化祖先系統とNIRに分類されるNHRの割合との間の相関は、統計的には高度に優位です。
NIRで構成されるゲノム個体のゲノムの合計割合は、その個体の非サハラ砂漠以南のアフリカ人のモデル化混合の割合とさらにより強く正に相関しています。信頼区間の下限を使用し、サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団におけるNIRの上限推定値としてNIRの省略された分布について調整すると、おもに砂漠以南のアフリカ人祖先系統を有するアフリカ人個体(チャブ人やジュホアン人やヘレロ人やティカール人)はNIRの累積で最大約519万塩基対を有している、と示唆されます。非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統を有するアフリカの人口集団(アムハラ人やディズィー人やフラニ人やサンダウェ人)では、全ての常染色体にわたる累積NIR配列長の推定値の範囲は1585万~4437万塩基対です。個体のゲノムにおけるNIRの累積量は、ネアンデルタール人起源(ネアンデルタール人祖先系統)であるゲノムの量として解釈されるべきです。したがって、ゲノムの割合として、180個体SSAデータセットにおけるネアンデルタール人祖先系統の範囲は0~1.5%で、アムハラ人とフラニ人において最高水準で観察されます(図4)。以下は本論文の図4です。
●サハラ砂漠以南のアフリカ人におけるネアンデルタール人のハプロタイプには複数の非サハラ砂漠以南のアフリカ起源があります
ネアンデルタール人の地理的分布はサハラ砂漠以南のアフリカにまで広がっていなかった可能性が高いので、アムハラ人とフラニ人とディズィー人とサンダウェ人の集団で見つかったNIRは、世界の他地域からりAMHの移住と遺伝子流動によりサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団にもたらされたに違いありません。NIRを含むサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団(アムハラ人やフラニ人やディズィー人やサンダウェ人)におけるNIRの人口集団供給源を特定するため、Chromopainterを用いて、これら人口集団のそれぞれからの祖先系統を有する個体のゲノムの割合が、サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団(チャブ人やティカール人やRHGやジュホアン人)と非サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団(オークニー島人やベドウィンやドゥルーズ派やチュニジアのシェニニのベルベル人)両方の参照一式を使用して表されます。
NIR周辺領域(に加えて両端の10万塩基対の隣接配列)とNIRを含まない領域の制御一式との間の、各Chromopainterモデル化祖先系統の頻度における違い(ΔNIR)が計算されました。この方法では、ΔNIRは、NIRを有する領域がゲノムの残りよりも特定の参照人口集団とどれだけ密接に類似しているのか、定量化します。アムハラ人とフラニ人とディズィー人とサンダウェ人は全員、IR含有領域が非サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団にたどれる祖先系統の過剰を有しているならば予測されるように、そのNIR含有領域において非サハラ砂漠以南のアフリカ人のChromopainterモデル化祖先系統の過剰を有しています。フラニ人では、ヨーロッパ人とアフリカ北部のベルベル人の集団に割り当てられた局所的な祖先系統の痕跡が、最大のΔNIR値を示します。対照的に、アフリカ東部の人口集団では、レヴァント参照人口集団に割り当てられた局所的な祖先系統の痕跡が最大のΔNIR値を示します。これらの観察から、フラニ人のNIRは、アムハラ人やディズィー人やサンダウェ人にNIRをもたらした供給源とは異なる非サハラ砂漠以南のアフリカ人供給源に由来する、と示唆されます。この観察は、フラニ人はアフリカ北部のベルベル人集団と遺伝的祖先系統を共有し、アフリカ東部集団はおもにレヴァントの人口集団からの最近の混合を有している、と示唆した、これらの人口集団のADMIXTURE分析および以前の遺伝学的研究と一致します。
●ネアンデルタール人におけるAMH祖先系統の定量化
全サハラ砂漠以南のアフリカ人口集団で特定された全AMHIR配列と平均AMHIR規模の相対的に一貫した量から、全AMHはネアンデルタール人と交雑したAMHと同じ共通祖先を有している、と示唆されます。アルタイ地域ネアンデルタール人内で特定されたAMHIRの累積長は、AMH起源であるゲノムの量として解釈されます。NHRの特定のさいにIBDmixによりもたらされたハプロタイプ長の省略を補正し、NIRを殆どもしくは全く有さない(図3E)人口集団(RHG、ティカール人、ヘレロ人、ジュホアン人、クー人)で特定されたAMHIRに焦点を当てた後に、アルタイ地域ネアンデルタール人のゲノムの5.56~6.83%はAMH起源と推定されます。本論文の推定値は、約3~7%(関連記事)や約1~7%といった以前の推定値を洗練し、0.1~2.1%という以前の推定値(関連記事)よりもかなり高くなります。本論文の模擬実験から、AMHIRの量に関する本論文の推定法は、非サハラ砂漠以南のアフリカ人祖先系統を有さない人口集団で評価され、組換えの極端な値を除外するために選別されたゲノム領域から確認されたさいには正確である、と示唆されます。
●ネアンデルタール人のゲノム内におけるAMHからの遺伝子移入の分布に作用する自然選択
自然選択は、現生人類のゲノム全体でネアンデルタール人から遺伝子移入された多様体の分布形成に役割を果たす、と予測され、選択のさまざまな形態はさまざまなパターンを生み出すでしょう。ネアンデルタール人「砂漠」、つまりネアンデルタール人祖先系統の枯渇が観察されたAMHのゲノム領域が、以前に提案されたように小さな有効人口規模のためネアンデルタール人集団内で蓄積された有害なアレル(対立遺伝子)に対する選択によりおもに引き起こされたならば(関連記事)、これらの遺伝子座においてAMHのアレルを得たネアンデルタール人はこれらの【ネアンデルタール人に蓄積された有害な】変異から逃れる利益を得る、と予測され、これらの領域はAMHIRで濃縮されるでしょう。
あるいは、ネアンデルタール人の砂漠が遺伝子移入されたアレルと【現生人類の】元々のゲノム背景との間の有害な上位性相互作用によりおもに引き起こされているのならば、これらの遺伝子座においてAMHアレルを有するネアンデルタール人は、これらの遺伝子座においてネアンデルタール人のアレルを有するAMHのように、同様の悪影響を被ることになるでしょう。ネアンデルタール人の進化は、AMHにおけるネアンデルタール人砂漠として特定されているAMHIRの重複領域の枯渇を引き起こす、これらの遺伝子座におけるAMHからの遺伝子移入に対して選択的と予測されます(図5)。以下は本論文の図5です。
AMHのゲノムで特定されたネアンデルタール人砂漠に相当するネアンデルタール人ゲノムの領域内において、RHGとティカール人とチャブ人とヘレロ人とジュホアン人とクー人(NIRが最低水準の人口集団)で特定された894ヶ所のAMHIRの濃縮もしくは枯渇の検証により、これらのモデルが区別されます。27000個体以上のアイスランド人のゲノム(関連記事)から確認された261ヶ所の古代型(ネアンデルタール人およびデニソワ人からの遺伝子移入)砂漠高解像度の地図と比較すると、わずか155ヶ所のAMHIRがネアンデルタール人ゲノムの相同的な(orthologous)領域内に位置し、これは偶然に予測される数の約半分です。
1000人ゲノムデータから確認されたネアンデルタール人砂漠8ヶ所のより低解像度の地図と比較すると、わずか37ヶ所のAMHIRがネアンデルタール人のゲノムの相同領域内に位置し、これは偶然に予測される数より約25%少なくなります。95%超の信頼度で詫びだされたAMHIR757ヶ所の部分集合のみを考慮すると、ネアンデルタール人砂漠と重複するAMHIRの同様の枯渇が見られますが、1000人ゲノム計画由来の砂漠一覧は、検出力減少のためもはや統計的に有意ではありません。これの結果は、異種特異的なアレルの組み合わせを嫌う上位性効果の蓄積を通じて始まる種分化のモデルと一致し、現生人類集団で見られる古代型の砂漠が普遍的な有害なネアンデルタール人のアレルに対する直接的選択により引き起こされる、との仮説と一致しません。
AMHIRの枯渇は、AMHのゲノムにおけるネアンデルタール人砂漠と相同な領域に限りません。すべての注釈付けされた常染色体遺伝子を検討すると、偶然に予測されるより65%少ない領域がAMHIRと重複します。この観察から、交雑個体への自然選択は広範に基づいており、ネアンデルタール人のゲノムの多くの機能的領域からAMH祖先系統を活発に除去したかもしれない、と示唆されます。
AMHIR領域内における残りの遺伝子も、完全に無作為な組み合わせではありません。遺伝子存在濃縮分析から、特定されたAMHIRには、細胞膜接着分子を介した細胞間接着と関連する遺伝子の統計的に有意な過剰、および数点の密接に関連する分類が含まれる、と示されます。これらの濃縮は適応的遺伝子移入の事例を表しているかもしれませんが、これらの結果は遺伝子移入された遺伝子に対する選択強度の不均一性とも一致します。
●AMHからネアンデルタール人への遺伝子移入の年代
単一の遺伝子移入事象を除いてネアンデルタール人とAMHとの間の孤立を仮定すると、その遺伝子移入事象の年代が、AMHIRの長さは遺伝子移入以降に経過した時間の関数である速度の媒介変数と組換え率と遺伝子移入の割合で指数関数的に分布する、との予測から推測できます。RHGとティカール人とチャブ人とヘレロ人とジュホアン人とクー人(NIRが最低水準、したがって誤って分類されたNHRに起因する予測誤差が最小の人口集団)から特定されたAMHIRから計算されたこの割合の媒介変数の長さを補正した最尤推定値を用いて、AMHからネアンデルタール人への遺伝子移入の年代が推定されました。
RHG(RHGについて、このモデルはNIRの存在の可能性が最小と示唆します)に焦点を当てると、補正された平均AMHIRの長さは33287塩基対で、これはAMHからネアンデルタール人への遺伝子移入とアルタイ地域ネアンデルタール人との間に4796世代(95%信頼区間では4046~5598世代)が経過したことを示唆します。アルタイ地域ネアンデルタール人化石の年代は122000年前頃で(関連記事)、ヒトの世代時間が29年と仮定すると、AMHからネアンデルタール人への遺伝子移入は261075年前頃(95%信頼区間で284331~239325年前)に起きました。NIRの割合が低い他の人口集団からの推定値の範囲は、アルタイ地域ネアンデルタール人の4235世代前(244817年前頃)から5250世代前(274238年前頃)です。
模擬実験から、IBDmixは、長さの範囲の下端に向かって偽陰性がより一般的になるため小さな偏りをもたらす、と示唆されます。したがって、得られるNHRはより長い区域ではわずかに濃縮されており、これらの年代推定値は多ければ10%も新しくなります。これを考慮すると、先行研究(関連記事)における全ての現代人の間の最も深い人口集団の分岐のほとんどの推定値(285000~150000年前頃)の前に、AMHからネアンデルタール人への遺伝子移入が起きたことになります。
●考察
先行研究(関連記事)と一致して、NHRは全ての標本抽出されたサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団に存在します(図2)。しかし、NHRはハプロタイプの均質な一群ではありません。AMHIRとして分類されるNHR、つまりAMHに起源があり、ネアンデルタール人に遺伝子移入された領域は、全てのサハラ砂漠以南のアフリカ人口集団全体で類似の量で見られます。ネアンデルタール人に起源があり、低水準のこんごうを通じてAMHにもたらされたNIRは、かなりの非サハラ砂漠以南のアフリカ人ADMIXTUREモデル化祖先系統を有する人口集団でほぼ排他的に見られます。さらに、NIRは通常AMHIRより長く、そのより新しい起源と一致します(図3)。NIRとAMHIRのさまざまな地理および長さの分布は、AMHとネアンデルタール人の遺伝子流動の3回事象モデルを裏づけます(図6)。以下は本論文の図6です。
第一に、アフリカからのAMHの初期の移住は25万年前頃となるAMHからネアンデルタール人への遺伝子移入事象につながり、現代の人口集団に存在するAMHIRとして特定される相同な領域が形成されました。これらの遺伝子移入は、初期の種分化の過程を通じて形成された可能性が高い交雑個体に対する選択により、ネアンデルタール人のゲノムの多くの部分で枯渇しました。これにより、アルタイ地域ネアンデルタール人には約6%のAMH祖先系統が残りましたが、アルタイ地域ネアンデルタール人のそれ以前の祖先は、AMH祖先系統をより大きな割合で有していたでしょう。先行研究(関連記事)は、おそらくネアンデルタール人砂漠のより高解像度の地図の欠如、および選択圧とその手法における遺伝子移入された断片を呼び出す能力とり間の混乱のため、この選択過程の証拠を見つけられませんでした。本論文の分析は、サハラ砂漠以南のアフリカ人のゲノムのより大きな標本(180個体)と、非サハラ砂漠以南のアフリカ人との混合がほとんど若しくはまったくない個体を含んでおり、より高い解像度でネアンデルタール人のゲノムにおけるAMH祖先系統の選択の痕跡の分析が可能になりました。
第二に、54000~40000年前頃となるネアンデルタール人からAMHへの遺伝子移入事象は、NIRとして識別可能なネアンデルタール人のハプロタイプを非アフリカ系AMH集団へともたらしました。ネアンデルタール人のゲノム内のAMHIRと同様に、NIRは類似の有害な遺伝子相互作用のためAMHのゲノムの同じ領域で枯渇していました。
第三に、非サハラ砂漠以南のアフリカ人であるAMHの少なくとも2回のその後のサハラ砂漠以南のアフリカへの最近の移住は、遺伝子移入されたネアンデルタール人ハプロタイプ(NIR)を、非サハラ砂漠以南のアフリカ人であるAMHと混合したサハラ砂漠以南のアフリカ人集団にもたらしました。レヴァント地域に現在居住する人々と関連する人々が、アフリカ東部牧畜民にネアンデルタール人由来のハプロタイプをもたらし、フラニ人はアフリカ北部のベルベル人集団と共有される遺伝的祖先系統のため、ネアンデルタール人由来のハプロタイプを有しています。これらの観察は、ゲノム全体の遺伝標識に基づく、アフリカ東部人とフラニ人の集団に関する以前の人口統計学的再構築と一致します。以前に可能性として提起された(関連記事)ような、ネアンデルタール人に由来するハプロタイプもしくはネアンデルタール人祖先系統がサハラ砂漠以南のアフリカ全体に広がっていた、との証拠は見つかりませんでした。ネアンデルタール人祖先系統がAMH内のどこに存在し、どこに存在していないのか理解することは、ネアンデルタール人とAMH両方の古代の移住の理解と、人口史のより複雑なモデルの構築および解釈に重要です。
AMHIRを生じさせた、25万年前頃と推定されたAMHからネアンデルタール人への遺伝子移入事象は、ネアンデルタール人と、全ての現代人系統の多様化の前に現代人の祖先から分岐したAMHの初期集団のユーラシアにおける共存を必要とします。この事象は現代人集団間の最も深い分岐のほとんどの推定値(285000~150000年前頃に起きた、コイサン人およびアフリカ中央部狩猟採集民集団と他の全ての現代人系統の分岐)の前に起き、AMHのアフリカからの拡大に10万年以上先行します(関連記事)。
AMHのこの初期に分岐した集団の存在は、21万~17万年前頃となる現代のイスラエル(関連記事)およびギリシア(関連記事)の考古学的証拠と一致します。それは、後期更新世のネアンデルタール人のミトコンドリアにおけるアフリカ人祖先系統(413000~268000年前頃)に関する以前の推測(関連記事)や、30万~20万年前頃となるネアンデルタール人へのAMHからの遺伝子移入を含む人口統計学的モデルと合致するネアンデルタール人のゲノムから再構築された遺伝子系統樹の深さの分布(関連記事)とも一致します。これらのAMHIRを生み出したAMHは、ヒトの系統発生史内で独特な空間を占めています。現存するAMHの外群としてではあるものの、ネアンデルタール人や種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)のような古代型のヒトよりもずっと現代人の方と密接に関連しているこの系統は、現生人類における自然選択のより最近の標的を特定と、現生人類史における初期の人口集団分岐解明の強力な情報源であることを証明するかもしれません。
参考文献:
Harris DN. et al.(2023): Diverse African genomes reveal selection on ancient modern human introgressions in Neanderthals. Current Biology, 33, 22, 4905–4916.E5.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.09.066
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