アフリカ東部における前期~中期更新世移行期の人類進化史

 アフリカ東部における前期~中期更新世移行期の人類の痕跡と環境に関する研究(Mounier et al., 2023)が公表されました。アフリカの前期~中期更新世移行期は、ホモ・エルガスター(Homo ergaster)といった初期ホモ属と類似した形態から、分類に議論があるものの(関連記事)、ホモ・ハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)といった中期更新世以降の後期ホモ属と類似した形態への進化という観点でたいへん注目されますが(関連記事)、人類化石も考古学的記録も少なく、その具体的様相は曖昧です。本論文はその具体的様相の解明に貢献しており、今後の研究の進展が期待されます。


●要約

 前期~中期更新世への移行(The Early to Middle Pleistocene Transition、略してEMPT)は、大きな環境変化とホモ属内の進化的革新により特徴づけられますが、アフリカのEMPT化石と考古学的記録の少なさは、その古人類学的状況を曖昧にします。本論文は、新たに発掘されたトゥルカナ盆地(Turkana Basin)西部のEMPT遺跡であるカニマンギン(Kanyimangin)から得られた考古学と動物相の証拠を提示します。


●研究史

 ホモ属の進化史理解に対する障害の一つは、人類集団へのEMPT(120万~75万年前頃)の影響に関するものです。この期間には、氷河周期の期間(10万~41000年)と振幅(極端な熱密度)の変化があり、顕著な気候変化につながりました。同時に、文化的および生物学的革新が人類系統内で現れます。175万年前頃(関連記事)と、そのずっと前に出現した様式2技術(関連記事)とその典型的なアシューリアン(Acheulian、アシュール文化)は、設計ではより複雑に、使用地域ではより多様になり、アフリカとユーラシアの新たな地域へと100万年前頃に拡大しました(関連記事)。

 これらの技術的変化は、前期/中期更新世における人類集団の多様化を反映しているかもしれません。アフリカ東部のわずか3ヶ所の遺跡で、よく保存されたEMPTの人類化石が発見されており、それは、アファール地溝のミドルアワシュ(Middle Awash)地域の、ボド(Bodo)地区のオロルゲサイリー層(Olorgesailie Formation)およびブーリ層(Bouri Formation)と、ブイア(Buia)で、ヒト進化に関する統合された枠組み内でその解釈に関して合意はありません。

 EMPTの人類進化と関連する二つの大きな問題は、(1)行動および生物学的変化の促進において環境はどのような役割を果たしたのか、(2)どのような要因がこの期間における考古学および化石記録で見られる多様性を形成したのか、ということです。これらの側面を特徴づけることは、さまざまな技術および文化的集団と人類種が当時存在していたのかどうか、それらの違いは系統発生的枠組みにおいてどのように解釈できるのか、解明するのに不可欠です。アフリカにおけるEMPT遺跡の少なさにより、研究者はこれらの問題に取り組むのを妨げられており、新たな遺跡の発見と記載が優先事項になっています。この計画の目的は、ケニアのトゥルカナ盆地南西部におけるEMPT遺跡の特定と発掘です。本論文は、現在調査中の新たな1ヶ所の遺跡であるカニマンギンを紹介します。


●地質学

 カニマンギンはケリオ(Kerio)断層の東側の、カラバタ川(Kalabata River)環状奇観内に位置しており(図1)、そこでは厚い堆積物が存在するものの、第四紀後期の堆積物により北方では限定的で、湖面の変動を反映しています。堆積物は分岐する逆断層により切り裂かれており、370万年以上前と考えられています。以下は本論文の図1です。
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 遺跡の10ヶ所の地質学的試掘坑(geological trenches、略してGT)の層間の相関から、景観において西方から東方への連続する傾斜した尾根(約14度)を形成する5点の砂岩(SS1~SS5)により保存されている、約15mの堆積史が明らかになりました(図2)。西方には、考古学的には痕跡のない小石の集合により形成された巨大な尾根があります。その下には、接触は確認されていないものの、SS1の頂部に、薄層の沈泥の層が上部を形成する古土壌とともにあり、そこでは動物遺骸(肉食動物とイノシシ科と小型動物)が発見されました。以下は本論文の図2です。
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 さらに東方では、SS2とSS4との間に保存された堆積物は、細かく層状になっているものの、さほど密集していない沈泥と砂で構成されており、考古学的痕跡のない浸食表面を形成しています。SS5はGT10(北方)からGT6(南方)までたどることができ(図2)、そこには考古学的遺物と動物相遺骸が層序学的文脈で見られます。古磁気学的分析は、GT1の堆積物について逆磁極帯(SS1の上に位置するPalKY-2)を、GT2の堆積物について正磁極帯(SS2の下に位置するPalKY-5.2)を示唆します(図2)。


●考古学

 カニマンギン遺跡における2017~2022年の考古学的調査では344点の石器が回収され、そのほとんどは浸食表面の蓄積で発見されました。2022年6月に、遺跡北部の台地の傾斜面で新たな石器が発見された後に、考古学的試掘坑(archaeological trench、略してAT)4(図2および図3)が発掘されました。7m²が深さ0.5mまで発掘され、考古学的資料が、砂の堆積物と、SS5に属する砂岩の破片に囲まれている茶色の赤みが勝った沈泥の空洞で発見されました。62点の石器は破片で図示され、5点の化石断片が篩(網目は2mm)から回収されました。以下は本論文の図3です。
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 発掘された人工遺物と表面の人工遺物は、類似の技術的特徴を示します(図4)。単純な削片手法(単極および収束)とさまざまな種類の握斧(ハンドアックス)を伴う石核は、この遺跡の前期および中期更新世の占拠と一致していますが、打面調整を伴うルヴァロワ(Levallois)式の石核および剥片の存在は、ずっと新しい占拠段階を示唆しているかもしれません。以下は本論文の図4です。
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●古生物学

 カニマンギン遺跡で回収された動物相群は、20以上の分類群の212点の個体の標本を表す2155点の骨断片から構成されます(図5)。以下は本論文の図5です。
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 水生および陸生分類群は、ケニア国立博物館の収集物を用いて特定され、それに含まれるのは、絶滅したレッキゾウ(Palaeoloxodon recki)、イノシシ科動物(Kolpochoerus heseloni)、狭い鼻のクロコダイル(Euthecodon brumpti)、大型ネコ科のヒョウ属種(Panthera sp.)、ハイエナ、グレビーシマウマ(Equus grevyi)、サイ科(Rhinocerotidae)、カバ属種(Hippopotamus sp.)、イボイノシシ属種(Phacochoerus sp.)、アフリカスイギュウ(Syncerus caffer)、オリビ(Ourebia ourebi)、インパラ(Aepyceros melampus)、ハーテビースト(Alcelaphus buselaphus)、カメ、ヘビ、魚、両生類です。ほとんどの化石は古人類学的調査中に発見されましたが、複数の要素が保存されている個体は、2ヶ所のGT周辺の地域の発掘中に回収されました。一方は北方のGT1のSS1の頂部に位置する堆積物で、もう一方は南方のGT6のSS5を含む層です(図5および図6)。以下は本論文の図6です。
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●まとめ

 カニマンギン遺跡の年代測定は、遺跡内で発見された動物相要素の上限生物学的年代の文脈における、遺跡堆積物のパターン化された古磁気系列に基づいています。地質年代学的に、カニマンギン遺跡は逆磁極帯(GT1)に続く正磁極帯(SS2)の系列を保存しており、これは松山磁極帯の1778000年前頃となるオルドヴァイ(Olduvai)か1173000年前頃となるコブ山(Cobb Mountain)か、988000年前頃となるハラミヨ(Jaramillo)磁極亜帯の末を表しているかもしれません。レッキゾウとイボイノシシ属種とハーテビーストの最初の出現データは、オルドヴァイ磁極亜帯より新しく、カニマンギン遺跡におけるその存在から、カニマンギン遺跡は重要な期間である120万~75万年前頃の年代と分かっている、アフリカ東部における数少ない遺跡の一つとなります。さらなる考古学的研究が進むにつれて、カニマンギン遺跡の考古学的遺物と古生物学的遺骸は、アフリカ東部におけるホモ属の行動および生物学的進化へのEMPTの影響に関する問題に取り組むための新たな機会を提供します。


参考文献:
Mounier A et al.(2023): Kanyimangin: the Early to Middle Pleistocene Transition in the south-west of the Turkana Basin. Antiquity, 97, 395, e25.
https://doi.org/10.15184/aqy.2023.107

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