最古の木造建築
人類による最古の木造建築かもしれない遺物を報告した研究(Barham et al., 2023)が公表されました。木製遺物は保存にきわめて恵まれた条件を必要とするので、前期石器時代のものは稀にしか残っていません。したがって、人類は木を石と同様に古くから使用してきた可能性が高そうではあるものの、200万年以上前の石器も発見されている石とは異なり、この基本的な材料となりそうな木材を人類がいつどのように使っていたのかについて、情報が限られています。
本論文は、考古学的記録における木材の構造的使用の最古となる証拠を報告します。ザンビアのカランボ滝(Kalambo Falls)遺跡の、発光により少なくとも476000±23000年前と年代測定された浸水堆積物には、意図的に入れられた切り込みにより交差して接合された2本の丸太が保存されていました。上側の丸太は整形されており、両方の丸太から工具痕が見つかりました。この2本の丸太については、雨季のある氾濫原に建てられた住居のための露台のような構造物や通路や基礎部分に使用された可能性が指摘されています。
このカランボ滝の構造物と類似のものは、アフリカもしくはユーラシアの旧石器時代においては全く知られていません。既知の最古となる木製遺物は、イスラエルのアシューリアン(Acheulian、アシュール文化)遺跡であるゲシャー・ベノット・ヤーコブ(Gesher Benot Ya’aqov)遺跡から発見された、78万年以上前の磨かれた板の破片です。採食および狩猟用の木器は、ヨーロッパ(関連記事1および関連記事2)と中国と恐らくはアフリカで、40万年前頃に出現しました。
カランボ滝では、他にも39万~324000年前頃の層から、楔や掘り棒や切断された丸太や切り込みの入った枝を含む4点の木器が回収されました。これらの発見は、形状と、木の幹から大型連結構造物を作る能力の、予期せぬ初期の多様性を示します。これらの新たなデータは、アフリカにおける木工の年代範囲を広げるだけではなく、初期人類の技術的知識に関する理解を深め、技術史における木の使用の再検討を迫ります。
50万年前頃のアフリカはまだ前期石器時代と把握すべきでしょうが、後の中期石器時代につながる石刃技法などは50万年前頃に出現していた、との見解もあります(関連記事)。ただ、根拠となる年代には疑問も呈されています(関連記事)。50万年前頃のアフリカとなると、明確な現生人類(Homo sapiens)というか解剖学的現代人の遺骸はまだ確認されていませんが、現生人類の直接的祖先が存在した可能性はきわめて高そうで、そうした分類群をホモ・ボドエンシス(Homo bodoensis)という種にまとめるよう、提案した研究もあります(関連記事)。
カランボ滝の構造物(だと思われるもの)を作ったのが、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)系統と分岐した後という意味での広義の現生人類系統なのか否か、またそうだとして現代人と直接的につながるのか否か、不明です。こうした構造物を作れたのが広義の現生人類系統のみなのか、ネアンデルタール人など非現生人類ホモ属でも可能だったのかも不明ですが、近年のネアンデルタール人の技術的知能や象徴的思考能力に関する研究(関連記事)からは、非現生人類ホモ属がこうした構造物を作っていたとしても、不思議ではないように思います。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
考古学:最古の木造建築の証拠かもしれない
ザンビアのカランボフォールズで発見され、約47万6000年前のものと年代決定された木製の人工遺物は、建造物の構造部位に木材が使用されたことを示す初めての証拠である可能性がある。このことを報告する論文が、Natureに掲載される。この知見によって、アフリカで木工が行われた時代の範囲が広がり、初期のヒト族が木の幹を整形して大型の構造物を組み立てていたという技術力に関する理解が深まる可能性がある。
旧石器時代の木製人工遺物は、よほど保存に恵まれた条件下にあったものでない限り、現代まで残らない。そのため、ヒト族が木材という基本的な原材料をいつから、どのように使用していたかや、更新世の人類が生活環境をどのように構築していたかといった点に関する情報は限られている。
今回、Lawrence Barhamらは、カランボ川流域の更新世遺跡(約47万6000年前のものと年代決定された)から古代の木製の構造物が発見されたことを報告している。ここには、木製の道具のコレクションと、人工的な切り込みによって十字に組まれた2本の丸太が含まれていた。上側の丸太は整形されており、両方の丸太から工具痕が見つかった。Barhamらは、この2本の丸太について、雨季のある氾濫原に建てられた住居のためのバルコニーのような構造物や通路や基礎部分に使用された可能性があるという考えを示している。
今回の知見は、道具を作っていたヒト族が生活環境を構築するための技術力に関する理解を深める可能性がある。Barhamらは、技術の歴史における木の使用を再検討すべきだと提案している。同時掲載のNews & Viewsでは、Annemieke Milksが、Barhamらの知見は「人類が自らの利益のために地球を構造的に改変し始めた時期」に光を当てるものだと指摘している。
考古学:構造物への最古の木材使用が少なくとも47万6000年前であったことを示す証拠
考古学:高度な木材使用の予想外に古い歴史
今回、ザンビアで、浸水堆積物から47万6000年前の木製遺物(切り込みの入った、柱と横木を連想させる構造物など)が出土し、これまで知られていなかった古代の高度な木工技術が明らかになった。
参考文献:
Barham L. et al.(2023): Evidence for the earliest structural use of wood at least 476,000 years ago. Nature, 622, 7981, 107–111.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06557-9
本論文は、考古学的記録における木材の構造的使用の最古となる証拠を報告します。ザンビアのカランボ滝(Kalambo Falls)遺跡の、発光により少なくとも476000±23000年前と年代測定された浸水堆積物には、意図的に入れられた切り込みにより交差して接合された2本の丸太が保存されていました。上側の丸太は整形されており、両方の丸太から工具痕が見つかりました。この2本の丸太については、雨季のある氾濫原に建てられた住居のための露台のような構造物や通路や基礎部分に使用された可能性が指摘されています。
このカランボ滝の構造物と類似のものは、アフリカもしくはユーラシアの旧石器時代においては全く知られていません。既知の最古となる木製遺物は、イスラエルのアシューリアン(Acheulian、アシュール文化)遺跡であるゲシャー・ベノット・ヤーコブ(Gesher Benot Ya’aqov)遺跡から発見された、78万年以上前の磨かれた板の破片です。採食および狩猟用の木器は、ヨーロッパ(関連記事1および関連記事2)と中国と恐らくはアフリカで、40万年前頃に出現しました。
カランボ滝では、他にも39万~324000年前頃の層から、楔や掘り棒や切断された丸太や切り込みの入った枝を含む4点の木器が回収されました。これらの発見は、形状と、木の幹から大型連結構造物を作る能力の、予期せぬ初期の多様性を示します。これらの新たなデータは、アフリカにおける木工の年代範囲を広げるだけではなく、初期人類の技術的知識に関する理解を深め、技術史における木の使用の再検討を迫ります。
50万年前頃のアフリカはまだ前期石器時代と把握すべきでしょうが、後の中期石器時代につながる石刃技法などは50万年前頃に出現していた、との見解もあります(関連記事)。ただ、根拠となる年代には疑問も呈されています(関連記事)。50万年前頃のアフリカとなると、明確な現生人類(Homo sapiens)というか解剖学的現代人の遺骸はまだ確認されていませんが、現生人類の直接的祖先が存在した可能性はきわめて高そうで、そうした分類群をホモ・ボドエンシス(Homo bodoensis)という種にまとめるよう、提案した研究もあります(関連記事)。
カランボ滝の構造物(だと思われるもの)を作ったのが、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)系統と分岐した後という意味での広義の現生人類系統なのか否か、またそうだとして現代人と直接的につながるのか否か、不明です。こうした構造物を作れたのが広義の現生人類系統のみなのか、ネアンデルタール人など非現生人類ホモ属でも可能だったのかも不明ですが、近年のネアンデルタール人の技術的知能や象徴的思考能力に関する研究(関連記事)からは、非現生人類ホモ属がこうした構造物を作っていたとしても、不思議ではないように思います。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
考古学:最古の木造建築の証拠かもしれない
ザンビアのカランボフォールズで発見され、約47万6000年前のものと年代決定された木製の人工遺物は、建造物の構造部位に木材が使用されたことを示す初めての証拠である可能性がある。このことを報告する論文が、Natureに掲載される。この知見によって、アフリカで木工が行われた時代の範囲が広がり、初期のヒト族が木の幹を整形して大型の構造物を組み立てていたという技術力に関する理解が深まる可能性がある。
旧石器時代の木製人工遺物は、よほど保存に恵まれた条件下にあったものでない限り、現代まで残らない。そのため、ヒト族が木材という基本的な原材料をいつから、どのように使用していたかや、更新世の人類が生活環境をどのように構築していたかといった点に関する情報は限られている。
今回、Lawrence Barhamらは、カランボ川流域の更新世遺跡(約47万6000年前のものと年代決定された)から古代の木製の構造物が発見されたことを報告している。ここには、木製の道具のコレクションと、人工的な切り込みによって十字に組まれた2本の丸太が含まれていた。上側の丸太は整形されており、両方の丸太から工具痕が見つかった。Barhamらは、この2本の丸太について、雨季のある氾濫原に建てられた住居のためのバルコニーのような構造物や通路や基礎部分に使用された可能性があるという考えを示している。
今回の知見は、道具を作っていたヒト族が生活環境を構築するための技術力に関する理解を深める可能性がある。Barhamらは、技術の歴史における木の使用を再検討すべきだと提案している。同時掲載のNews & Viewsでは、Annemieke Milksが、Barhamらの知見は「人類が自らの利益のために地球を構造的に改変し始めた時期」に光を当てるものだと指摘している。
考古学:構造物への最古の木材使用が少なくとも47万6000年前であったことを示す証拠
考古学:高度な木材使用の予想外に古い歴史
今回、ザンビアで、浸水堆積物から47万6000年前の木製遺物(切り込みの入った、柱と横木を連想させる構造物など)が出土し、これまで知られていなかった古代の高度な木工技術が明らかになった。
参考文献:
Barham L. et al.(2023): Evidence for the earliest structural use of wood at least 476,000 years ago. Nature, 622, 7981, 107–111.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06557-9
この記事へのコメント