哺乳類における同性間性行動の進化
哺乳類における同性間性行動の進化に関する研究(Gómez et al., 2023)が公表されました。同性間性行動は、無脊椎動物(昆虫、クモ、棘皮動物、線形動物など)から脊椎動物(魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類など)までの主要な分類群全てを含む1500種以上の動物種で報告されており、とくにヒト以外の霊長類で多く見られ、少なくとも51種(キツネザルから類人猿まで)で観察されてきました。最近でも、半野生のアカゲザル(Macaca mulatta)における同性間性行動が報告されました(関連記事)。同性間性行動はこのように現生動物において広範に見られるため、社会学や心理学から行動生物学や進化生物学まで、異なる分野で研究する多くの科学者の関心を集めてきました。
同性間性行動は繁殖に直接的に寄与しないので、進化上の難問と考えられています。本論文は、文献の系統的検討による系統発生分析を用いました。本論文はまず、同性間性行動の記録のデータベースを構築し、次に哺乳類全体を対象として、同性間性行動の進化をたどり、他の行動との進化的関係を調べ哺乳類における同性間性行動の進化を調べました。現時点で利用可能なデータによると、同性間性行動は哺乳類系統全体に無作為に分布していないものの、一部のクレード(単系統群)、とくに霊長類で多い傾向にあります。同性間性行動が見られる哺乳類の具体例としては、ボノボやチンパンジーやオオツノヒツジやライオンやオオカミや数種類の野生のヤギです。
祖先の再構築から、同性間性行動は複数回進化したかもしれず、その出現はほとんどの哺乳類系統において最近の現象だった、と示唆されます。同性間性行動は雌と雄で同じように頻繁に起き、複数の独立した起源があるだろう、というわけです。同性間の性的行動と他種の特徴との間の関連についての系統発生的分析から、同性間の性的行動は社会的関係の維持および争いの緩和に適応的役割を果たしているかもしれない、と示唆されます。雄同士の性行動は雄の成体が同種の他の成体を殺すこともある哺乳類種で進化する傾向が見られ、雄同士の暴力的な争いの危険性を軽減するための適応行動かもしれない、というわけです。
ただ、本論文は、こうした関連性が他の要因によって引き起こされる可能性があるため、この分析は同性間性行動の進化に関する他の仮説を排除しておらず、この点に関しては、さらなる研究が必要であることも指摘しています。また本論文は、この研究で対象となった同性間性行動の定義が、短期的な求愛または交尾であって、より永続的な性的嗜好ではないため、今回の知見をヒトにおける性的指向の進化の説明に用いるべきではない、と注意を喚起しています。さらに本論文は、性行動が注意深く研究された哺乳類種はごく少数であるため、哺乳類の同性間性行動の進化に関する理解は、研究対象の哺乳類種が増えるにつれて変化し続ける可能性があることも指摘しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
動物行動学:哺乳類の同性間性行動の進化を調べる
哺乳類の同性間性行動は繰り返し進化してきた可能性があることを示した論文が、Nature Communicationsに掲載される。著者らは、同性間の性行動には、社会的な絆を形成し、争いを減らすための適応行動としての役割があるという可能性を示唆している。
同性間の性行動は、無脊椎動物(昆虫、クモ、棘皮動物、線形動物を含む)から脊椎動物(魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類を含む)までの主要な分類群全てを含む1500種以上の動物種で報告されている。特にヒト以外の霊長類に多く見られ、少なくとも51種(キツネザルから類人猿まで)で観察されている。同性間性行動の進化を説明するために数多くの適応仮説と非適応仮説が提案されているが、その正当性を単一種の研究によって検証することは難しい。
今回、José Gómezらは、哺乳類の同性間性行動の進化を調べるため、文献を系統的に検討して、同性間性行動の記録のデータベースを構築した。次に、哺乳類全体を対象として、同性間性行動の進化をたどり、他の行動との進化的関係を調べた。そして、同性間性行動は広範な哺乳類種に見られ、雌と雄で同じように頻繁に起こり、複数の独立した起源があると考えられることを示した。今回の分析では、同性間性行動が社会性動物種において進化する傾向が示されたため、Gómezらは、同性間性行動が有益な社会的関係の確立と維持に役立つという見解を示している。同性間性行動が見られる哺乳類の例としては、ボノボ、チンパンジー、オオツノヒツジ、ライオン、オオカミ、数種類の野生のヤギがある。さらに、雄同士の性行動は、雄の成体が同種の他の成体を殺すことがある哺乳類種で進化する傾向が判明した。このことは、雄同士の性行動が、雄同士の暴力的な争いのリスクを軽減するための適応行動である可能性を示唆している。
Gómezらは、こうした関連性が他の要因によって引き起こされる可能性があるため、今回の研究結果は同性間性行動の進化に関する他の仮説を排除しておらず、この点に関しては、さらなる研究が必要であることを指摘している。Gómezらはまた、今回の研究で対象となった同性間性行動の定義が、短期的な求愛または交尾であって、より永続的な性的嗜好ではないため、今回の知見をヒトにおける性的指向の進化の説明に用いるべきではないと注意喚起している。さらに、Gómezらは、性行動が注意深く研究された哺乳類種はごく少数であるため、哺乳類の同性間性行動の進化に関する我々の理解は、研究対象の哺乳類種が増えるにつれて変化し続ける可能性があると述べている。
参考文献:
Gómez JM, Gónzalez-Megías A, and Verdú A.(2023): The evolution of same-sex sexual behaviour in mammals. Nature Communications, 14, 5719.
https://doi.org/10.1038/s41467-023-41290-x
同性間性行動は繁殖に直接的に寄与しないので、進化上の難問と考えられています。本論文は、文献の系統的検討による系統発生分析を用いました。本論文はまず、同性間性行動の記録のデータベースを構築し、次に哺乳類全体を対象として、同性間性行動の進化をたどり、他の行動との進化的関係を調べ哺乳類における同性間性行動の進化を調べました。現時点で利用可能なデータによると、同性間性行動は哺乳類系統全体に無作為に分布していないものの、一部のクレード(単系統群)、とくに霊長類で多い傾向にあります。同性間性行動が見られる哺乳類の具体例としては、ボノボやチンパンジーやオオツノヒツジやライオンやオオカミや数種類の野生のヤギです。
祖先の再構築から、同性間性行動は複数回進化したかもしれず、その出現はほとんどの哺乳類系統において最近の現象だった、と示唆されます。同性間性行動は雌と雄で同じように頻繁に起き、複数の独立した起源があるだろう、というわけです。同性間の性的行動と他種の特徴との間の関連についての系統発生的分析から、同性間の性的行動は社会的関係の維持および争いの緩和に適応的役割を果たしているかもしれない、と示唆されます。雄同士の性行動は雄の成体が同種の他の成体を殺すこともある哺乳類種で進化する傾向が見られ、雄同士の暴力的な争いの危険性を軽減するための適応行動かもしれない、というわけです。
ただ、本論文は、こうした関連性が他の要因によって引き起こされる可能性があるため、この分析は同性間性行動の進化に関する他の仮説を排除しておらず、この点に関しては、さらなる研究が必要であることも指摘しています。また本論文は、この研究で対象となった同性間性行動の定義が、短期的な求愛または交尾であって、より永続的な性的嗜好ではないため、今回の知見をヒトにおける性的指向の進化の説明に用いるべきではない、と注意を喚起しています。さらに本論文は、性行動が注意深く研究された哺乳類種はごく少数であるため、哺乳類の同性間性行動の進化に関する理解は、研究対象の哺乳類種が増えるにつれて変化し続ける可能性があることも指摘しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
動物行動学:哺乳類の同性間性行動の進化を調べる
哺乳類の同性間性行動は繰り返し進化してきた可能性があることを示した論文が、Nature Communicationsに掲載される。著者らは、同性間の性行動には、社会的な絆を形成し、争いを減らすための適応行動としての役割があるという可能性を示唆している。
同性間の性行動は、無脊椎動物(昆虫、クモ、棘皮動物、線形動物を含む)から脊椎動物(魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類を含む)までの主要な分類群全てを含む1500種以上の動物種で報告されている。特にヒト以外の霊長類に多く見られ、少なくとも51種(キツネザルから類人猿まで)で観察されている。同性間性行動の進化を説明するために数多くの適応仮説と非適応仮説が提案されているが、その正当性を単一種の研究によって検証することは難しい。
今回、José Gómezらは、哺乳類の同性間性行動の進化を調べるため、文献を系統的に検討して、同性間性行動の記録のデータベースを構築した。次に、哺乳類全体を対象として、同性間性行動の進化をたどり、他の行動との進化的関係を調べた。そして、同性間性行動は広範な哺乳類種に見られ、雌と雄で同じように頻繁に起こり、複数の独立した起源があると考えられることを示した。今回の分析では、同性間性行動が社会性動物種において進化する傾向が示されたため、Gómezらは、同性間性行動が有益な社会的関係の確立と維持に役立つという見解を示している。同性間性行動が見られる哺乳類の例としては、ボノボ、チンパンジー、オオツノヒツジ、ライオン、オオカミ、数種類の野生のヤギがある。さらに、雄同士の性行動は、雄の成体が同種の他の成体を殺すことがある哺乳類種で進化する傾向が判明した。このことは、雄同士の性行動が、雄同士の暴力的な争いのリスクを軽減するための適応行動である可能性を示唆している。
Gómezらは、こうした関連性が他の要因によって引き起こされる可能性があるため、今回の研究結果は同性間性行動の進化に関する他の仮説を排除しておらず、この点に関しては、さらなる研究が必要であることを指摘している。Gómezらはまた、今回の研究で対象となった同性間性行動の定義が、短期的な求愛または交尾であって、より永続的な性的嗜好ではないため、今回の知見をヒトにおける性的指向の進化の説明に用いるべきではないと注意喚起している。さらに、Gómezらは、性行動が注意深く研究された哺乳類種はごく少数であるため、哺乳類の同性間性行動の進化に関する我々の理解は、研究対象の哺乳類種が増えるにつれて変化し続ける可能性があると述べている。
参考文献:
Gómez JM, Gónzalez-Megías A, and Verdú A.(2023): The evolution of same-sex sexual behaviour in mammals. Nature Communications, 14, 5719.
https://doi.org/10.1038/s41467-023-41290-x
この記事へのコメント