社会現象よりも自然現象で多く見られる超自然的な説明
超自然的な説明に関する研究(Jackson et al., 2023)が公表されました。世界中の人々は、自分たちの世界を説明するため、超自然的な信仰を利用しています。超自然的な信仰は、世界についての理解の間隙を埋めるために生まれた、と考えられています。有力な一説では、ある現象に関する明確な原因がなく、超自然的な存在や超自然的な力が地球上の事象の原因と示唆される場合に、そのような信仰が生まれる、と主張されています。本論文は、文化集団が自然現象(たとえば、嵐や地震や病気の発生)と社会現象(たとえば、盗みや殺人や戦争)のどちらをより多く説明するために、超自然的なものを呼び出すのか、調査します。「超自然的な説明」とは、ある事象が超自然的な存在(神や魔法使い)や超自然的な力(カルマや悪意に満ちた目)に帰するもの、と本論文では定義されました。
社会の複雑性が異なる、大規模な都市社会から血縁に基づく小規模な遊牧民集団にわたる、地理的・文化的に多様な114の社会における18世紀~20世紀の民族誌を定量的に分析した結果、1つを除く全ての社会で超自然的な説明が記述されており、社会現象よりも自然現象に対して超自然的な説明が多く用いられている、と明らかになりました。ただ、これがそうした事象の頻度と関連している可能性を示す証拠は得られませんでした。分析対象となった社会の96%が病気に、92%が食料不足に、90%が自然災害に対して超自然的な説明を用いている一方で、戦争に対して67%、殺人に対しては82%、盗みに対しては26%の社会が、超自然的な説明を用いているにすぎませんでした。
自然現象に対する超自然的説明が優勢であるにも関わらず、社会現象に対する超自然的説明は、より社会的に複雑で匿名性の高い集団を有する都市化社会、つまり人口や金銭や陸上移動が多く、技術の専門化が進んだ社会においてとくに優勢でした。この結果は、非工業化社会で人々が超自然的な信念を説明の道具としてどのように使っているのか、また、その使い方が小規模な共同体と大規模で都市化された集団とでどのように異なるのか、示しています。こうした知見は、ある現象に対してヒトによる明白な要因が存在しない場合に、ヒトは超自然的な説明を用いる可能性が高い、と示唆しています。今後の研究では、超自然的な説明とヒトの協力や懲罰や社会的一体性の種類との関連性を示す証拠が検討されるべきである、と本論文は指摘します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
人類学:人間社会は自然現象に対して超自然的な説明を用いる
114の社会の歴史的・民族誌的な文献の分析から、超自然的な信仰は、社会的な現象よりも、嵐や病気の流行といった自然事象を説明するのによく使われることが明らかとなった。このことについて報告する論文が、Nature Human Behaviourに掲載される。今回の知見はまた、超自然的な信仰の起源に関するさらなる洞察を与えるものである。
超自然的な信仰は、世界についての我々の理解のギャップを埋めるために生まれたと考えられている。1つの有力な説では、ある現象に関する明確な原因がなく、社会が超自然的な存在や超自然的な力が地球上の事象の原因であると示唆される場合に、そのような信仰が生まれるとされている。
Joshua Jacksonたちは今回、社会の複雑性の異なる、大規模な都市社会から血縁に基づく小規模な遊牧民集団に至る、世界の114の社会を詳述した18世紀~20世紀の民族誌の解析を行った。彼らは、「超自然的な説明」とは、ある事象が超自然的な存在(神や魔法使い)や超自然的な力(カルマや悪意に満ちた目)に帰するものと定義した。解析の結果、分析の対象とした1つを除く全ての社会で、超自然的な説明が記述されていること、そうした説明が、社会的な現象(盗みや殺人)に対するよりも自然現象(嵐や地震など)に対するものに関して多く見られることが見いだされた。ただし、このことが、これらの事象の頻度と関連している可能性を示す証拠は得られなかった。著者たちは、分析対象となった社会の96%が病気に対して、92%が食料不足に対して、90%が自然災害に対して、超自然的な説明を用いていると報告している。一方、戦争に対して67%、殺人に対しては82%、盗みに対しては26%の社会が、超自然的な説明を用いているに過ぎなかった。著者たちはまた、社会現象に対する超自然的な説明は、人口、金銭、陸上移動の多い社会、技術の専門化が進んだ社会でより一般的であることを示唆する証拠も見いだしている。
Jacksonたちは、今回得られた知見は、ある現象に対して人間による明白な要因が存在しない場合に、人間は超自然的な説明を用いる可能性が高いこと示唆していると主張している。今後の研究では、超自然的な説明と人間の協力、懲罰、社会的一体性のタイプとの関連性を示す証拠を検討すべきであると述べている。
参考文献:
Jackson JC. et al.(2023): Supernatural explanations across 114 societies are more common for natural than social phenomena. Nature Human Behaviour, 7, 5, 707–717.
https://doi.org/10.1038/s41562-023-01558-0
社会の複雑性が異なる、大規模な都市社会から血縁に基づく小規模な遊牧民集団にわたる、地理的・文化的に多様な114の社会における18世紀~20世紀の民族誌を定量的に分析した結果、1つを除く全ての社会で超自然的な説明が記述されており、社会現象よりも自然現象に対して超自然的な説明が多く用いられている、と明らかになりました。ただ、これがそうした事象の頻度と関連している可能性を示す証拠は得られませんでした。分析対象となった社会の96%が病気に、92%が食料不足に、90%が自然災害に対して超自然的な説明を用いている一方で、戦争に対して67%、殺人に対しては82%、盗みに対しては26%の社会が、超自然的な説明を用いているにすぎませんでした。
自然現象に対する超自然的説明が優勢であるにも関わらず、社会現象に対する超自然的説明は、より社会的に複雑で匿名性の高い集団を有する都市化社会、つまり人口や金銭や陸上移動が多く、技術の専門化が進んだ社会においてとくに優勢でした。この結果は、非工業化社会で人々が超自然的な信念を説明の道具としてどのように使っているのか、また、その使い方が小規模な共同体と大規模で都市化された集団とでどのように異なるのか、示しています。こうした知見は、ある現象に対してヒトによる明白な要因が存在しない場合に、ヒトは超自然的な説明を用いる可能性が高い、と示唆しています。今後の研究では、超自然的な説明とヒトの協力や懲罰や社会的一体性の種類との関連性を示す証拠が検討されるべきである、と本論文は指摘します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
人類学:人間社会は自然現象に対して超自然的な説明を用いる
114の社会の歴史的・民族誌的な文献の分析から、超自然的な信仰は、社会的な現象よりも、嵐や病気の流行といった自然事象を説明するのによく使われることが明らかとなった。このことについて報告する論文が、Nature Human Behaviourに掲載される。今回の知見はまた、超自然的な信仰の起源に関するさらなる洞察を与えるものである。
超自然的な信仰は、世界についての我々の理解のギャップを埋めるために生まれたと考えられている。1つの有力な説では、ある現象に関する明確な原因がなく、社会が超自然的な存在や超自然的な力が地球上の事象の原因であると示唆される場合に、そのような信仰が生まれるとされている。
Joshua Jacksonたちは今回、社会の複雑性の異なる、大規模な都市社会から血縁に基づく小規模な遊牧民集団に至る、世界の114の社会を詳述した18世紀~20世紀の民族誌の解析を行った。彼らは、「超自然的な説明」とは、ある事象が超自然的な存在(神や魔法使い)や超自然的な力(カルマや悪意に満ちた目)に帰するものと定義した。解析の結果、分析の対象とした1つを除く全ての社会で、超自然的な説明が記述されていること、そうした説明が、社会的な現象(盗みや殺人)に対するよりも自然現象(嵐や地震など)に対するものに関して多く見られることが見いだされた。ただし、このことが、これらの事象の頻度と関連している可能性を示す証拠は得られなかった。著者たちは、分析対象となった社会の96%が病気に対して、92%が食料不足に対して、90%が自然災害に対して、超自然的な説明を用いていると報告している。一方、戦争に対して67%、殺人に対しては82%、盗みに対しては26%の社会が、超自然的な説明を用いているに過ぎなかった。著者たちはまた、社会現象に対する超自然的な説明は、人口、金銭、陸上移動の多い社会、技術の専門化が進んだ社会でより一般的であることを示唆する証拠も見いだしている。
Jacksonたちは、今回得られた知見は、ある現象に対して人間による明白な要因が存在しない場合に、人間は超自然的な説明を用いる可能性が高いこと示唆していると主張している。今後の研究では、超自然的な説明と人間の協力、懲罰、社会的一体性のタイプとの関連性を示す証拠を検討すべきであると述べている。
参考文献:
Jackson JC. et al.(2023): Supernatural explanations across 114 societies are more common for natural than social phenomena. Nature Human Behaviour, 7, 5, 707–717.
https://doi.org/10.1038/s41562-023-01558-0
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