デニソワ人についてのまとめ(3)
もう4年以上前(2019年5月)に、種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)についてまとめました(関連記事)。その後ずっと、改定しようと考えてきましたが、当ブログで取り上げた分だけでもデニソワ人関連の研究はそれなりの数になり、怠惰な性分でもあるので、手をつける気力がなかなか湧きませんでした。しかし、前回のまとめから4年以上経過し、デニソワ人関連の研究がかなり進展しており、自分の理解のためにも体系的にまとめておこうと考え、関連記事の整理など少しずつ準備を進めて、何とかデニソワ人についてまとめました。
当ブログで取り上げたデニソワ人関連の研究はそれなりの数になるので、とくに適応度と関わりそうなデニソワ人由来と推定される遺伝子については、重要な情報を見落としていることもあるでしょうが、それは少しずつ改訂していくか、次のデニソワ人に関するまとめ記事に反映させる予定です。今回、再整理がかなり大変で、前回のまとめより分量がかなり増えてしまったので、デニソワ人については今後、もっと短い間隔でまとめていこう、と考えています。デニソワ人については、最新の情報が反映されていませんが、オーストラリア博物館の記事が簡潔にまとまっており、デニソワ人についてまず調べる場合にはたいへん有益で、当ブログでも取り上げました(関連記事)。
●基本情報
デニソワ人は、シベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で発見された、現生人類(Homo sapiens)ともネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)とも異なる後期ホモ属の分類群で、種区分は未定です。現生人類やネアンデルタール人といったホモ属の各種や、さらにさかのぼってアウストラロピテクス属の各種もそうですが、人類系統の分類群は基本的には形態学的に定義されています。しかし、デニソワ人は人類系統の分類群としては例外的に、遺伝学的に定義された分類群です。
デニソワ人が最初に報告されたのは2010年3月で、デニソワ洞窟で発見された断片的な指骨のミトコンドリアDNA(mtDNA)に基づいて、現生人類ともネアンデルタール人とも異なる分類群と示されました(Krause et al., 2010)。2010年12月には、デニソワ人の核DNA解析結果が報告され、現代のメラネシア人のゲノムの4~6%はデニソワ人に由来する、と推定されました(Reich et al., 2010)。その後、2012年9月にはデニソワ人遺骸(デニソワ3号)の高品質なゲノムデータが公表され(Meyer et al., 2012)、2015年11月には、それ以外のデニソワ人遺骸(デニソワ4および8号)のmtDNAと核DNAが報告されました(Sawyer et al., 2015)。2017年7月には、新たなデニソワ人遺骸(デニソワ2号)のmtDNAと核DNAが報告されました(Slon et al., 2017A)。2019年3月には、第88回アメリカ自然人類学会総会において、頭頂骨断片(デニソワ13号)がmtDNA解析によりデニソワ人に分類できる、と報告されましたが、その層序は曖昧なので、年代は暫定的です(Viola et al., 2019)。2021年11月には、断片的な骨3点(デニソワ19・20・21号)がmtDNA解析によりデニソワ人と確認された、と報告されました(Brown.,2022)。
これらのデニソワ人と確認された遺骸は、いずれもデニソワ洞窟で発見されました。デニソワ洞窟以外で初めて報告されたデニソワ人遺骸は、中華人民共和国甘粛省甘南チベット族自治州夏河(Xiahe)県のチベット高原北東端の海抜3280mに位置する白石崖溶洞(Baishiya Karst Cave)で発見された、16万年以上前と推定される右側下顎(夏河下顎骨)です(Chen et al., 2019)。夏河下顎骨は、DNA解析ではなくプロテオーム(タンパク質の総体)解析に基づいてデニソワ人と分類されました。2022年5月には、ラオスのフアパン(Huà Pan)県に位置するタム・グ・ハオ2(Tam Ngu Hao 2、略してTNH2)で発見された人類の歯(TNH2-1)が形態に基づいてデニソワ人と分類され、その年代は164000~131000年前頃と推定されています(Demeter et al.,2022)。
このように、TNH2-1は形態、夏河下顎骨はプロテオーム(タンパク質の総体)解析に基づいてデニソワ人と分類されたものの、他のホモ属遺骸はDNAに基づいてデニソワ人と分類されています。デニソワ人に関する最初の研究が公表された2010年3月から2023年8月まで、デニソワ人と確認されている遺骸がいずれも断片的なので、更新世人類としては豊富な遺伝学的情報が得られていたものの、形態学的情報はわずかしか得られていなかったので、ほぼDNAに基づいてデニソワ人と分類されていたわけです。一方、ネアンデルタール人でも現生人類でもないホモ属は、形態学的情報はそれなりに得られているものの、遺伝学的情報はデニソワ人を除いてまったく得られていないため、デニソワ洞窟以外で発見された、ネアンデルタール人でも現生人類でもないホモ属遺骸のどれがデニソワ人に分類されるのか、照合できない状況が続いています。
今後、保存状態が比較的良好なホモ属遺骸がDNAに基づいてデニソワ人と分類できれば、形態学的にデニソワ人と分類できるホモ属遺骸が増えていくのではないか、と期待されます。これらデニソワ人遺骸に関する基本的な情報を以下の表1にまとめましたが、デニソワ洞窟で発見されたデニソワ人ではない遺骸も含めています。推定年代は考古学的と遺伝学で大きく異なる場合もあり、あくまでも目安にすぎません。性別・年代を確認できなかった個体の欄は空白としています。
●形態
上述のように、デニソワ人の形態学的情報はわずかしか得られていません。そうした中で、デニソワ人に分類されているデニソワ4および8号の臼歯はたいへん大きく、ネアンデルタール人や現生人類とは異なる祖先的特徴を有する、と指摘されていました(Sawyer et al., 2015)。デニソワ4号とデニソワ8号の年代は異なり、後述のようにmtDNAの系統樹でも大きく異なる系統に属するので、この臼歯の特徴はデニソワ人の一部の個体に見られる例外ではなく、デニソワ人に共通する特徴である可能性が高そうです。ただ、デニソワ人の臼歯のサイズは鮮新世の人類に匹敵するくらい大きいものの、後期更新世の現生人類やネアンデルタール人の中には、デニソワ人と同程度のサイズの臼歯を有する個体もいます(Sawyer et al., 2015)。
夏河下顎骨には歯も残っており、デニソワ洞窟のデニソワ人と同じくらい大きく、またホモ・エレクトス(Homo erectus)よりもネアンデルタール人や現生人類など他の中期更新世ホモ属と類似した点も見られますが、ただ全体的には、夏河下顎骨は形態的にネアンデルタール人や現生人類と比較して祖先的特徴がより強いようです(Che n et al., 2019)。ラオスで発見されたTNH2-1は左下顎永久歯の大臼歯の歯冠芽で、初期歯根形成と組み合わされた咬合および隣接歯間の摩耗がないため、この個体の死亡時には永久歯は萌出していなかった、と示唆され、その推定年齢は3.5~8.5歳程度です(Demeter et al.,2022)。TNH2-1の歯も大きく、広義のホモ・エレクトスやホモ・アンテセッサー(Homo antecessor)やアジアの中期更新世ホモ属やネアンデルタール人の変異内に収まります(Demeter et al.,2022)。
夏河下顎骨の大臼歯には3本の歯根(3RM)が見られ、ホモ属の下顎大臼歯における歯根数は2本である場合が多く、1本もしくは3本かそれ以上の場合もあることから、歯根数が3本であることもデニソワ人の特徴かもしれない、と指摘されており、現代人ではアジア東部およびアメリカ大陸先住民集団でとくに多い(他地域の3.4%以下よりずっと多い40%程度)3RMが、デニソワ人からの遺伝子流動の結果かもしれない、と推測されています(Bailey et al., 2019)。この3RMが見られる最古と考えられる個体は、19万~13万年前頃または7万~1万年前頃と推定年代が曖昧なものの、台湾沖で発見された澎湖1号(Penghu 1)と呼ばれる下顎骨(Chang et al., 2015)で、その巨大な大臼歯からも、澎湖1号はデニソワ人かもしれない、と示唆されます(Bailey et al., 2019)。しかし、この見解に対して反論(Scott et al., 2020)と再反論(Bailey et al., 2020)が提示されており、澎湖1号がデニソワ人なのか、さらには現代人ではアジア東部およびアメリカ大陸先住民集団がデニソワ人から3RMを受け継いだのかどうか、現時点では確実な判断はできないようです。
デニソワ3号は小指の化石ですが、その形態は、近位部の幅を除いて現生人類の変異内に収まり、一方でネアンデルタール人については、フランスのムラゲルシー(Moula-Guercy)遺跡で発見された10万年前頃の化石以外は、現生人類の変異内に収まりません。ます(Bennett et al., 2019)。デニソワ3号は祖先的特徴を有している、と考えられ、後期ネアンデルタール人において、小指の形態に派生的特徴が定着した、と推測されます。核ゲノムではデニソワ人は明らかに現生人類よりもネアンデルタール人の方と近縁ですが、
デニソワ3号から得られた高品質なゲノムデータに基づいて、デニソワ人の肌と髪と眼の色は比較的濃かった、と推測されています(Meyer et al., 2012)。また、デニソワ3号のDNAメチル化地図から、デニソワ人の外見も推定されています(Gokhman et al., 2019)。デニソワ人とネアンデルタール人に共通する特徴は、頑丈な顎や低い頭蓋や厚いエナメル質や広い骨盤や大きな胸郭や突き出た顔などです。現生人類およびネアンデルタール人と異なる特徴として長い歯列や拡大した下顎頭や広い頭骨の幅が、ネアンデルタール人よりも現生人類の方と類似している特徴として、下顎前部と比較しての広い側頭骨および永久歯の早期の喪失が挙げられています。以下は、デニソワ3号のDNAメチル化地図研究に基づくデニソワ人の復元画像です。
●DNA解析と系統樹における位置づけ
形態学的情報がほとんど得られていなかったため、デニソワ人の研究は遺伝学が主流となりました。上述のように、デニソワ人が最初に報告されたのは2010年3月で、デニソワ洞窟で発見された断片的な指骨のmtDNAに基づいて、現生人類ともネアンデルタール人とも異なる分類群と示され(Krause et al., 2010)、同年12月には、デニソワ人の核DNA解析結果が報告されました(Reich et al., 2010)。ここで問題となったのは、mtDNAと核DNAとで、デニソワ人とネアンデルタール人と現生人類の系統関係が異なることです。mtDNAでは、デニソワ人系統とネアンデルタール人および現生人類の共通祖先の系統が分岐した後で、ネアンデルタール人系統と現生人類系統が分岐します。核DNAでは、ネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先の系統と現生人類系統が分岐した後で、ネアンデルタール人系統とデニソワ人系統が分岐します。ただ、種系統樹と遺伝子系統樹が一致しないことは珍しくなく(Harris.,2016,第2章)、たとえばゴリラとチンパンジーと現生人類のように(Scally et al., 2012)、分岐してから(進化史の基準では)さほど時間の経過していない種の間では珍しくないので、mtDNAは母系での遺伝という点で特殊ですが、遺伝の部分的な単位と考えれば、なとくに驚くべきことではないでしょう。
この不一致は、後期ホモ属間の複雑な交雑と進化を反映しているかもしれないという意味で、注目されます。この問題を考察するうえで参考になるのが、スペイン北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)で発見された43万年前頃の人骨群です。SH集団には、頭蓋でも(Arsuaga et al., 2014)頭蓋以外でも(Arsuaga et al., 2015)、祖先的特徴とネアンデルタール人の派生的特徴とが混在しています。そのため、SH集団は形態学的には、ネアンデルタール人の祖先集団もしくは初期ネアンデルタール人集団か、そのきわめて近縁な集団と考えられます。SH集団は、mtDNAではネアンデルタール人および現生人類よりもデニソワ人の方と近縁で(Meyer et al., 2014)、核DNAではデニソワ人よりも現生人類の方と近縁です(Meyer et al., 2016)。以下は、デニソワ人とネアンデルタール人と現生人類のmtDNAでの系統関係を示したMeyer et al., 2014の図4です。
こうしたSH集団とデニソワ人やネアンデルタール人や現生人類との遺伝的関係、およびデニソワ人とネアンデルタール人と現生人類のY染色体での関係を踏まえると、デニソワ人とネアンデルタール人と現生人類の関係を推測できます。mtDNAとは対照的に父系遺伝となるY染色体では、mtDNAと同様に、デニソワ人系統とネアンデルタール人および現生人類の共通祖先の系統が分岐した後で、ネアンデルタール人系統と現生人類系統が分岐します(Petr et al., 2020)。以下はPetr et al., 2020の図2です。
現生人類からネアンデルタール人へと10万年以上前の遺伝子流動があった、と推測されており(Kuhlwilm et al., 2016)、その後の研究では、その年代は145000~130000年前頃よりも前(Prüfer et al., 2017)、さらには30万~20万年前頃(Hubisz et al., 2020)と推定されています。こうしたことから、ネアンデルタール人系統のmtDNAとY染色体は元々現生人類よりもデニソワ人の方と近かったものの、広義の現生人類系統との混合により、ネアンデルタール人のmtDNAとY染色体(母系と父系)は現生人類に近い系統に置換された、と考えられます(Meyer et al., 2016、Petr et al., 2020)。この少なくとも10万年以上前となる現生人類からネアンデルタール人への遺伝子流動により、ネアンデルタール人はゲノムの3~7%程度を初期現生人類から継承した、と推定されています(Hubisz et al., 2020)。
つまり、核ゲノムではネアンデルタール人は現生人類系統よりもデニソワ人系統の方とずっと近く、mtDNAとY染色体だけが現生人類系統に置換されるのか、疑問もあるでしょうが、現生人類からネアンデルタール人への遺伝子流動を5%と仮定した場合、5万年後の置換率は、ネアンデルタール人のY染色体適応度が1%低いと25%に増加し、2%低いと50%に増加することになり、こうした予測はY染色体と同じく単系統遺伝となるmtDNAにも当てはまる、と指摘されています(Petr et al., 2020)。10万年以上前のネアンデルタール人系統と現生人類系統の混合の状況証拠としては、少なくとも21万年前頃にまでさかのぼるギリシア南部のマニ半島のアピディマ洞窟(Apidima Cave)で発見された現生人類的な脳頭蓋の後部(Harvati et al., 2019)や、イスラエルのカルメル山にあるミスリヤ洞窟(Misliya Cave)で2002年に発見された、194000~177000年前頃のホモ属の上顎化石(Hershkovitz et al., 2018)があります。
これらの知見を踏まえると、デニソワ人およびネアンデルタール人の共通祖先の系統と現生人類系統が分岐し、その後でデニソワ人系統とネアンデルタール人系統が分岐したものの、さらにその後にネアンデルタール人系統において母系(mtDNA)と父系(Y染色体)で現生人類系統による置換があった、という可能性が最も高そうです。後期ホモ属の各系統の遺伝学的な推定分岐年代は研究により異なりますが、たとえば、mtDNAに基づく推定分岐年代は、現生人類および(後期)ネアンデルタール人の共通祖先の系統とデニソワ人系統とが141万~72万年前頃、(後期)ネアンデルタール人系統と現生人類系統が468000~360000年前頃です(Posth et al., 2017)。Y染色体に基づく推定分岐年代は、現生人類およびネアンデルタール人の共通祖先の系統とデニソワ人系統とが70万年前頃、現生人類系統とネアンデルタール人系統とが35万年前頃です(Petr et al., 2020)。
核ゲノムに基づく推定分岐年代は、デニソワ人およびネアンデルタール人の共通祖先の系統と現生人類系統が575000年前頃、デニソワ人系統とネアンデルタール人系統が415000年前頃です(Hubisz et al., 2020)。しかし、デニソワ人よりもネアンデルタール人の方と遺伝的に近いSH集団の推定年代が43万年前頃なので(Meyer et al., 2016)、デニソワ人系統とネアンデルタール人系統の分岐は45万年以上前までさかのぼる可能性が高そうです。じっさい、ネアンデルタール人系統とデニソワ人系統の分岐年代を737000年前頃と推定した研究もあります(Rogers et al., 2020)。いずれにしても、後期ホモ属の各系統の遺伝学的な推定分岐年代は現時点ではあくまでも暫定的であることに要注意です。遺伝学以外では、遺伝的影響が強いとされる歯の形態の比較から後期ホモ属の各系統の分岐年代が推定されており、デニソワ人およびネアンデルタール人の共通祖先の系統と現生人類系統との分岐は125万~85万年前頃です(Gómez-Robles., 2019)。
なお、現代人においてデニソワ人系統のmtDNAとY染色体は見つかっておらず、今後も見つかる可能性はほぼなさそうで、それはネアンデルタール人も同様でしょうが、デニソワ人のmtDNAが断片的に現代人に継承されている可能性は高そうです。核内mtDNA断片(nuclear-mitochondrial segment、略してNUMT)はヒトも含めてさまざまな真核生物で報告されており、現代人におけるNUMTの90%以上は、ヒトが非ヒト類人猿から分岐した後に核ゲノムに挿入された、と推定されています(Wei et al., 2022)。現代人における非現生人類ホモ属に由来のNUMTを調べた研究では、インドネシア東部およびニューギニアの15個体においてデニソワ人由来と推定されるNUMTが見つかった、と報告されています(Bücking et al., 2019)。このデニソワ人由来と推定されるNUMTの隣接領域では、デニソワ人と一部現代人とで共有されているアレル(対立遺伝子)が特定されており、デニソワ人においてNUMTが起き、一部の現代人の祖先集団のゲノムにデニソワ人との混合により伝えられた可能性が高い、と推測されています(Bücking et al., 2019)。おそらく、ネアンデルタール人由来のNUMTも現代人の一部集団にあるのでしょう。
●デニソワ人系統における遺伝的差異
デニソワ人系統における遺伝的差異は、mtDNAに基づいて示されています。mtDNAでは、デニソワ人は2クレードに大別されます。当初の研究では、デニソワ8号のクレード(ここではA系統とします)とデニソワ3および4号のクレード(ここではB系統とします)とが区別されました(Sawyer et al., 2015)。年代は、デニソワ3および4号(8万~5万年前頃)の方がデニソワ8号(13万~10万年前頃)よりずっと新しくなります。その後、デニソワ2号(19万~12万年前頃)を報告した研究では、デニソワ2号のmtDNAはA系統に分類されました(Slon et al., 2017A)。つまり、デニソワ人のmtDNAの違いは年代と対応していたわけです。
デニソワ2号よりも古く、現時点では最古となるデニソワ人遺骸を報告した研究では、デニソワ19・20・21号(22万~18万年前頃)のmtDNAはA系統に分類されました(Brown et al., 2022)。以前の研究と同様に、デニソワ人のmtDNAの違いは年代と対応していたわけです。A系統内では、デニソワ2号とその他のデニソワ人遺骸(8・19・20・21号)が分岐し、デニソワ8号とデニソワ19・20・21号が分岐します。以下は、デニソワ人のmtDNAでの系統関係を示したBrown et al., 2022の図2です(左側がネアンデルタール人、右側がデニソワ人を示しています)。
デニソワ人のDNAは、ホモ属遺骸からだけではなく、堆積物からも検出されています。近年では、環境DNAの応用により、堆積物から古代DNAが解析されるようになっており、グリーンランドの200万年前頃の堆積物からもDNAが解析されています(Kjær et al., 2022)。デニソワ人と関連する堆積物のDNA解析では、まずデニソワ洞窟において、デニソワ人とネアンデルタール人のmtDNAが解析されました(Slon et al., 2017B)。デニソワ洞窟ではその後、さらに堆積物からデニソワ人とネアンデルタール人のmtDNAが解析されましたが、デニソワ人のmtDNAは、古い層では系統A、より新しい層ではB系統に分類され(Zavala et al., 2021)、上述の先行研究と同様に、デニソワ人のmtDNAの違いは年代と対応していました。これは、デニソワ洞窟における、デニソワ人系統の母系での置換を示唆しています。
デニソワ人のmtDNAは、チベット高原の白石崖溶洞の堆積物でも確認されており、その年代は10万~6万年前頃で、さらに上の層の堆積物からもデニソワ人のmtDNAが確認されましたが、複雑な層序形成のため、6万年前頃以降も白石崖溶洞にデニソワ人が存在したのかは不明です(Zhang et al., 2020)。白石崖溶洞の堆積物から確認されたデニソワ人のmtDNAはいずれもB系統に分類され、アルタイ地域からチベット高原まで、デニソワ人のmtDNAの違いは年代と対応していました。しかし、現時点ではデニソワ洞窟と白石崖溶洞でしかデニソワ人のmtDNAは確認されておらず、時空間的に広範囲の高品質な核ゲノムデータが蓄積されるまで、デニソワ人系統における置換について確たることは言えません。
●デニソワ人と他のホモ属系統との遺伝的混合
上述のように、現代のメラネシア人のゲノムの4~6%はデニソワ人に由来する、と推定されていますが(Reich et al., 2010)、多様な地域の現代人の高品質なゲノムデータを用いたその後研究では、パプア高地集団のゲノムにおけるデニソワ人由来の領域の割合は2.8%(95%信頼区間で2.1~3.6%)と推定されています(Bergström et al., 2020)。さらに、デニソワ人と他のホモ属系統との遺伝的混合の可能性も指摘されています。デニソワ人は、デニソワ人およびネアンデルタール人および現生人類の共通祖先の系統と分岐した遺伝学的に未知の人類系統や、ネアンデルタール人および現生人類と混合した、と推測されています(Prüfer et al., 2014)。未知の人類系統からデニソワ人への遺伝子流動の割合は、その後の研究では1%程度と推定されています(Hubisz et al., 2020)。また、現生人類系統と分岐した後のデニソワ人とネアンデルタール人の共通祖先である「ネアンデルソヴァン(neandersovan)」が、ネアンデルソヴァンおよび現生人類の共通祖先の系統と220万~180万年前頃に分岐した「超古代系統」が、ネアンデルソヴァンと混合した可能性も指摘されています(Rogers et al., 2020)。
デニソワ人とネアンデルタール人との混合がアルタイ地域で一般的だったことは、その後の研究で推測されています(Peter., 2020)。アルタイ地域では、デニソワ人とネアンデルタール人の混合のさらに具体的な証拠も見つかっています。デニソワ洞窟で発見されたデニソワ11号は、母がネアンデルタール人、父がデニソワ人で、13歳以上の女性と推測されています(Slon et al., 2018)。つまり、デニソワ11号はデニソワ人とネアンデルタール人の交雑第一世代というわけです。更新世の人類遺骸自体が少なく、その中でもDNA解析の可能な人類遺骸が珍しいことを考えれば、アルタイ地域において、デニソワ人とネアンデルタール人が遭遇した場合、遺伝的混合は一般的だった、と考えられます。これら後期ホモ属系統間の複雑な混合は、Reilly et al., 2022の図2にまとめられています。
デニソワ人が現代のメラネシア人の祖先と混合したことは上述しましたが、デニソワ人はそれ以外の地域の現代人の祖先集団とも混合した、と推測されています。しかし、非アフリカ系現代人における非現生人類ホモ属由来と推定されるゲノム領域の割合は、ネアンデルタール人については大きな地域差がないのに対して、デニソワ人については大きな地域差があります(Sankararaman et al., 2016)。現代人におけるデニソワ人由来と推定されるゲノム領域の割合の具体的な数値に関しては、研究により差があるものの、パプア人やオーストラリア先住民や一部のアジア南東部島嶼部集団において2.8%など(Bergström et al., 2020)とくに高く、それよりずっと低いものの、同じような割合でアジア南部および東部集団(0.06~0.5%)とアメリカ大陸先住民集団(0.05~0.4%)において明確に検出でき(Zhang X et al., 2021)、ユーラシア西部集団ではほぼ存在しない、という点では一致しています。ただ、現代アイスランド人の高品質なゲノムデータから、アイスランド人のゲノムにはわずかながらデニソワ人由来の領域がある、と推定されており(Skov et al., 2020)、上述のようにデニソワ人とネアンデルタール人の混合が一般的だったとすれば、デニソワ人と混合したネアンデルタール人との混合により、ユーラシア西部現代人の祖先もデニソワ人からわずかなゲノム領域を継承したのかもしれません。
近年の研究でほぼ一致しているのは、こうした現生人類とデニソワ人との混合において、デニソワ人とパプア人の祖先集団との間には複数の混合があった、ということです(Jacobs et al., 2019、Choin et al., 2021、Larena et al., 2021)。さらに、デニソワ人とパプア人の祖先集団との間には複数の混合とは別に、アジア東部現代人の祖先集団とデニソワ人との混合もあった、と推測されています(Zhang X et al., 2021)。ユーラシア東部系初期現生人類個体においてデニソワ人からの遺伝子流動の痕跡が検出されているので(Massilani et al., 2020)、デニソワ人とアジア東部現代人の祖先集団との混合年代は48700年前頃と推定されています(Zhang X et al., 2021)。これは、現代人でもユーラシア西部系集団よりユーラシア東部系集団の方と近縁なアジア東部の初期現生人類個体において、デニソワ人からの遺伝子流動が検出されていること(Massilani et al., 2020)とも整合的です。一方、デニソワ人とパプア人の祖先集団との間の混合は、46000年前頃および3万年前頃と推定されています(Zhang X et al., 20211)。以下は、デニソワ人と現生人類との遺伝的混合の関係を示した。Zhang X et al., 2021の図4です。
さらに、アジア南東部島嶼部のネグリートと呼ばれている集団の一部の祖先集団は、これらの混合とは別に、デニソワ人と混合したようです(Larena et al., 2021)。たとえば、フィリピンのマリヴェレニョ語アエタ人(Ayta Magbukon)のゲノムにおけるデニソワ人由来と推定される領域の割合はパプア人やオーストラリア先住民以上で、これまでに調査された現代人集団では最高となります(Larena et al., 2021)。パプア人およびオーストラリア先住民の共通祖先とデニソワ人との混合、およびアジア南東部島嶼部のネグリートと呼ばれている集団の一部の祖先集団とデニソワ人との混合は、ともに25000年前頃に起きた、と推定されています。また、出アフリカ現生人類がネアンデルタール人から出アフリカの過程で失ったアレルを継承(再導入)したことともに、それがデニソワ人にも当てはまるかもしれない、と指摘されています(Rinker et al., 2020)。
こうしたアジア南東部島嶼部とオセアニアにおけるデニソワ人と現生人類との複雑な遺伝的関係については、さらに複雑な遺伝的混合があった、と想定する見解もあります。たとえば、インドネシア領フローレス島の小柄な(平均身長約145cm)人類集団ランパササ(Rampasasa)について、そのゲノムにおけるネアンデルタール人とデニソワ人のどちらか確定できない領域は、遺伝学的に未知の絶滅人類系統の遺伝的痕跡ではない、と解釈した研究(Tucci et al., 2018)に対して、それは遺伝学的に未知の絶滅人類系統からの遺伝子流動である、と指摘した研究(Teixeira, and Cooper., 2019B)もあります。これは、デニソワ洞窟で発見されたデニソワ人(北方デニソワ人)とネアンデルタール人は同じ系統に属しており、「北方デニソワ人」の祖先集団(ネアンデルタール人系統)と混合した地域的集団と近縁の地域的集団(南方デニソワ人)がアジア南部もしくは南東部におり、混合により「北方デニソワ人」と類似したゲノム領域をオセアニア現代人の祖先集団にもたらした、と想定する研究(Kaifu., 2017)と整合的かもしれません。しかし、その後の研究では、アジア南東部島嶼部やオセアニアの現代人のゲノムにおいて、遺伝学的に未知の絶滅人類系統からの遺伝子流動の明確な証拠は提示されていないようです。
上述のように、アメリカ大陸先住民ではアジア南部および東部現代人集団と同程度の割合のデニソワ人由来と推定されるゲノム領域が見つかっていますが、パナマの650~520年前頃の個体(PAPV173)ウルグアイの1450年前頃の個体(CH19B)で、ネアンデルタール人固有の祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)よりも多くのデニソワ人祖先系統が確認されました(Santos et al., 2022)。これは、一部の南アメリカ大陸先住民集団で確認されているオーストラレーシア(オーストラリアとニュージーランドとその近隣の南太平洋諸島で構成される地域)人との遺伝的類似性(Castro e Silva et al., 2021)と関連しているかもしれませんが、その具体的経緯は不明です。
●現代人の表現型への影響
デニソワ人と現生人類との交雑で注目されているのは、現代人に残るデニソワ人由来と推定されるゲノム領域に、適応度に関わるような遺伝子があるのか、ということです。デニソワ人だけではなくネアンデルタール人に関してもよく言われるのが、現生人類はアフリカから世界各地へと拡散する過程で、デニソワ人やネアンデルタール人のような先住人類との交雑により拡散先の地域での適応的な遺伝的多様体を獲得し、それが現生人類の拡散を容易にした、というような説明ですが、一方で、現生人類がデニソワ人やネアンデルタール人から(過去には適応度を上げたり適応度が中立的だったりした)適応度を下げるような遺伝的多様体を継承したこともありました(Reilly et al., 2022)。
そうした適応度とも関わってくる表現型へのデニソワ人からの遺伝的影響については、さまざまなものが示されています。とえば、現代人のToll様受容体関連遺伝子のうち、ハプロタイプ7がデニソワ人由来と推測されています(Dannemann et al., 2016)。パプア人も含めてオセアニアの人口集団におけるデニソワ人由来と推定される遺伝子としては、免疫関連(TNFAIP3、SAMSN1、ROBO2、PELI2)および代謝関連(DLEU1、WARS2、SUMF1)、自然免疫および獲得免疫の調節関連(ARHGEF28、BANK1、CCR10、CD33、DCC、DDX60、EPHB2、EVI5、IGLON5、IRF4、JAK1、LRRC8C、LRRC8D、VSIG10L)などです(Choin et al., 2021)。この他には、平滑筋細胞の増殖・免疫・脂肪生成などにおいて、デニソワ人から現代人への遺伝的影響が指摘されています(Jacobs et al., 2019)。また、体脂肪の特定タイプから熱を発生させることで、イヌイットの寒冷適応に貢献しているのではないか、とされていた遺伝子(TBX15やWARS2)の多様体が、デニソワ人由来と推測されています(Rotival, and Quintana-Murci., 2019)。
オセアニア以外では、チベット人におけるEPAS1(Endothelial PAS Domain Protein 1、内皮PASドメインタンパク質1)遺伝子の多様体がデニソワ人に由来する、と推測されており、これは高地適応と関連しています(Zhang X et al., 2021)。このEPAS1遺伝子の多様体は血中のヘモグロビン値を低く抑え、高地への適応を高めます。上述のように、デニソワ人がチベット高原東部にも存在したと明らかになったことから、デニソワ人も高地に適応していた可能性が高くなりました。デニソワ人系統において高地適応関連遺伝子が選択され、それはデニソワ人との交雑を通じてユーラシア東部系現代人の祖先集団にも継承されたのでしょうが、高地に拡散したチベット人系統においてとくに選択圧により定着した、ということなのでしょう。現代チベット人の祖先集団におけるこの選択は9000年前頃に始まった、と推定されています(Zhang X et al., 2021)。
過去には適応度を上げたり適応度が中立的だったりしたものの、現代では適応度を下げているデニソワ人やネアンデルタール人由来の遺伝的多様体も具体的に報告されています(Simonti et al., 2016)。たとえば、免疫機能の強化は、環境の変化によりアレルギー反応に起因する害の方が大きくなるかもしれませんし、24時間周期のリズムの妨害が契機となり得る、鬱病の危険性を高めますが、これは人工的な灯りに囲まれている現代では危険性を高めることになるものの、おそらく先史時代では危険性を高めるものではなく、紫外線暴露により日光角化症の危険性が高まるような遺伝的多様体は、初期現生人類と比較して高緯度地帯に拡散したネアンデルタール人にとって、適応的な形質だった可能性も指摘されています。
また、具体的な影響はまだ不明ですが、現代人のゲノムに占めるデニソワ人もしくはネアンデルタール人由来と推定されている領域の割合が、常染色体よりもX染色体の方でずっと低くなっていることから、デニソワ人やネアンデルタール人と現生人類との交雑により繁殖能力が低下したのではないか、と推測されています(Sankararaman et al., 2016)。さらに、デニソワ人のゲノムの言語や発話・脳およびその発達・脳細胞シグナル伝達に関わる遺伝子のある領域は、現代人系統において排除されたのではないか、と推測されています(Vernot et al., 2016)。ネアンデルタール人のゲノムでも、発話や精巣の形成と関連する遺伝的多様体は現代人では見られない、と指摘されています(Sankararaman et al., 2014)。
上述のように、現生人類がデニソワ人やネアンデルタール人から(過去には適応度を上げたり適応度が中立的だったりした)適応度を下げるような遺伝的多様体を継承したこともあり、現代人のゲノムに占めるデニソワ人やネアンデルタール人由来の領域の比率が低い(せいぜい2~6%)なのは、適応度を下げることが多かったからなのでしょう。ネアンデルタール人に関しては、現生人類と比較して人口規模が小さかったので、除去されなかった(強い選択圧に曝されなかった)弱い有害な遺伝的多様体が、交雑の結果より大規模な集団である現生人類に浸透すると除去されるのではないか、との見解も提示されており(Juric et al., 2016)、後述するようにこれはデニソワ人にも当てはまりそうです。現生人類がデニソワ人やネアンデルタール人との混合により適応度を下げる遺伝的多様体を受け取ったのに、現代でもその遺伝的痕跡が残っているということは、後期ホモ属における異なる系統間の混合が珍しくなかったからでしょう。
なお、デニソワ人やネアンデルタール人との交雑が現生人類の適応度を下げたのは、染色体数が異なっていたからだ、との見解もありますが、デニソワ人の染色体数は現代人と同じく46本である可能性がきわめて高いので、系統関係から推測すると、ネアンデルタール人の染色体数も46本である可能性が高いと思います(Meyer et al., 2012)。つまり、現代人以外の現生大型類人猿(ヒト科)の染色体数は48本なので、チンパンジー系統と現代人系統の最終共通祖先の染色体数も48本だったものの、それ以降、遅くともデニソワ人とネアンデルタール人と現生人類の最終共通祖先の時点では46本に減っていた可能性が高い、というわけです。
●人口史と分布範囲
デニソワ人の遺伝的多様性の低さから、デニソワ人系統は現生人類系統との分岐後ずっと人口が減少していったか(Prüfer et al., 2014)、人口が増大していっても、集団規模の小さい状態から急速に拡大し、遺伝的多様性が増大するじゅうぶんな時間がなかっただろう(Meyer et al., 2012)、と推測されており、その後の研究でもデニソワ人とネアンデルタール人の系統では有効人口規模の減少が推測されています(Hubisz et al., 2020)。しかし、この推測はデニソワ洞窟のデニソワ人1個体(デニソワ3号)の高品質なゲノムデータに基づいており、上述のようにデニソワ人は複数系統存在した可能性が高そうなので、各系統は比較的孤立しており遺伝的多様性は低かったとしても、デニソワ人系統はデニソワ3号から推測されるよりも遺伝的多様性が高かったのかもしれません。
遺伝的多様性と関連してよく指摘されるのが、ネアンデルタール人やデニソワ人といった非現生人類ホモ属は近親交配のために絶滅したのではないか、ということです。じっさい、デニソワ洞窟のネアンデルタール人(デニソワ5号)は半キョウダイ(片方の親を共有するキョウダイ関係)のような近親関係にあり、近い祖先の間でも近親交配が多かった、と推測されています(Prüfer et al., 2014)。イベリア半島北部のエルシドロン(El Sidrón)洞窟遺跡のネアンデルタール人集団も、近親交配の頻度の高さが指摘されています(Ríos et al., 2019)。ただ、近親交配が習慣となっていて絶滅要因になったというよりは、孤立して衰退していった結果として近親交配の頻度が高くなり絶滅した、考えるべきでしょう。現生人類も含めて更新世のホモ属では、発達異常の多さから近親交配頻度の高さが指摘されていますが(Trinkaus., 2018)、それも孤立・衰退の結果なのだと思います。クロアチアのネアンデルタール人でも(Prüfer et al., 2017)デニソワ洞窟のデニソワ人(デニソワ3号)でも(Meyer et al., 2012)直近の祖先での近親交配は確認されておらず、非現生人類ホモ属にも近親交配を避けるメカニズムが備わっていた可能性は高いでしょう。
上述のように、デニソワ人は複数系統に分岐していき、各系統は比較的孤立していたのではないか、と推測されます。上述のように、現代人におけるデニソワ人の遺伝的影響が、ユーラシア西部系集団にはほとんど見られず、オセアニア系集団で顕著に高く、アジア東部や南部の集団でわずかに見られることから(Sankararaman et al., 2016)、デニソワ人系統はネアンデルタール人系統と分岐した後、ユーラシア東部に拡散した、と推測されます。現時点では、デニソワ人はアルタイ地域とチベット高原北東端とアジア南東部(ラオス)で確認されていますが、上述のようにオセアニア集団やアジア南東部の一部のネグリート集団においてデニソワ人由来のゲノム領域の割合がとくに高く、確定的ではないものの、その推定混合年代が25000年前頃であること(Larena et al., 2021)から、アジア南東部島嶼部はもちろん、ワラセアやオセアニアにも存在した可能性を想定すべきだと思います。
ケンシウ人(Kensiu)としても知られるタイ南部の狩猟採集民マニ人(Maniq)では、デニソワ人関連祖先系統の検出可能な兆候は見つからず、これは、フィリピンのネグリートとオーストラロパプア人で見つかる高水準のデニソワ人祖先系統とは対照的で、この知見からも、デニソワ人からこの地域の現代人の祖先集団への遺伝子移入事象は、アジア南東部島嶼部とオセアニアで起きた可能性が高い、と示唆されます(Göllner et al., 2022)。もちろん、現代人がいつ現在の分布範囲に拡散してきたのか、という問題もあるので、こうした仮説の確証には古代ゲノム研究が必要になります。また、インドネシア領フローレス島のホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)とルソン島のホモ・ルゾネンシス(Homo luzonensis)が、現代人のデニソワ人祖先系統と関連している可能性も指摘されおり(Teixeira et al., 2021)、可能性は低そうですが、念頭に置いておくべきかもしれません。
デニソワ人の分布範囲については、ホモ属遺骸も参考になります。デニソワ人の存在が確認された当初から、中国で発見された分類の曖昧な中期~後期更新世ホモ属遺骸の中に、デニソワ人に分類できる化石があるのではないか、との見解が提示されており(Reich et al., 2010)、この見解はその後の研究の進展によりますます有力になっている、と言えるかもしれません。上述のように、ホモ属遺骸(夏河下顎骨)でも堆積物でも、現在は中華人民共和国が支配しているチベット高原北東端において、デニソワ人の存在が確認されています(Chen et al., 2019、Zhang et al., 2020)。
その他に中国で発見され、まだDNAが解析されていないホモ属遺骸は、分子人類学的にデニソワ人と確認されている遺骸の形態学的情報が少ないため、デニソワ人と確定できませんが、この中にデニソワ人と分類されるものが含まれている可能性はかなり高そうです。プロテオーム解析によりデニソワ人と分類されている夏河下顎骨と年代の近そうな類似したアジア東部のホモ属遺骸として、上述のように台湾沖で発見された澎湖1号(Chang et al., 2015)や、河北省張家口(Zhangjiakou)市の陽原(Yangyuan)県の侯家窰(Xujiayao)遺跡で発見された12万~6万年前頃の歯(Xing et al., 2015)が挙げられています。
その他にデニソワ人候補となりそうな古くから知られている中国で発見された中期~後期更新世のホモ属化石では、河南省許昌市(Xuchang)霊井(Lingjing)遺跡で発見された125000~105000年前頃の頭蓋(Li et al., 2017)や、広東省韶関市の馬壩(Maba)遺跡の13万年前頃の頭蓋、陝西省渭南市の大茘(Dali)遺跡の25万年前頃の頭蓋、遼寧省営口市の金牛山(Jinniushan)遺跡の30万~20万年前頃の頭蓋、安徽省池州市(Chizhou)東至県(Dongzhi County)の華龍洞(Hualongdong)遺跡の30万年前頃の頭蓋などがあります。
澎湖1号を報告した研究(Chang et al., 2015)では、中国で発見された分類の曖昧な中期~後期更新世ホモ属遺骸のうち、大きな歯と頑丈な(厚い)下顎骨という点で澎湖1号と類似しているのは安徽省馬鞍山市(Ma'anshan)の和県(Hexian)の中期更新世の下顎骨であり、他の中国の中期~後期更新世ホモ属遺骸とは似ていない、と指摘されています。ただ、ラオスで発見された164000~131000年前頃となるホモ属の歯をデニソワ人と分類した研究(Demeter et al.,2022)からも示されるように、デニソワ人系統は広範に分布していたようなので、遺伝学的研究(Jacobs et al., 2019)からも示唆されるように大きく分岐していき、形態に大きな違いが生じたかもしれず、澎湖1号も許昌市霊井遺跡の頭蓋も広義のデニソワ人系統に分類される可能性はあるでしょう。
デニソワ人との関連で注目される近年報告された中国のホモ属頭蓋には、黒竜江省ハルビン市で発見された309000~138000年前頃と推定される化石(ハルビン頭蓋)があり、ホモ属の新種ホモ・ロンギ(Homo longi)と分類されています(Ji et al., 2021、Ni et al., 2021、Shao et al., 2021)。ハルビン頭蓋と夏河下顎骨の歯が類似していることも報告されており、ハルビン頭蓋がデニソワ人に分類される可能性は高そうです。ハルビン頭蓋は新種ホモ・ロンギ(Homo longi)と分類できる、とも指摘されており、ハルビン頭蓋がDNA解析かプロテオーム解析によりデニソワ人に分類されれば、デニソワ人の正式な分類名はホモ・ロンギとなるのでしょうか。ハルビン頭蓋も含めて、中国で発見された中期~後期更新世の分類の曖昧なホモ属遺骸の全てをデニソワ人系統に分類できるわけではないかもしれませんが、そのうち複数がデニソワ人系統に分類される可能性は高い、と考えています。
これらの知見を踏まえると、デニソワ人はアルタイ地域から現在の中国北部を経てアジア南東部まで広範な地域に分布していたようです。デニソワ洞窟におけるデニソワ人の痕跡は断続的だった、と推測されていますが(Morley et al., 2019)、だからといってアルタイ地域におけるデニソワ人の居住が断続的だったとは限りません。しかし、現在のドイツで発見されたネアンデルタール人と関連づけられそうな遺跡の比較からは、ネアンデルタール人集団が移住および撤退もしくは絶滅および(孤立した集団の退避地からの)再移住といった過程を繰り返していたことが窺え(Richter et al., 2016)、上述のデニソワ人におけるmtDNA系統の違いと年代の相関からは、デニソワ人でも置換が起きていた可能性は高そうで、アルタイ地域も含めて特定の地域においてデニソワ人が一時的に消滅したこともあったかもしれません。
デニソワ人の各遺骸の正確な年代とその古環境に関する詳細な研究を比較しなければ断定できませんが、デニソワ人は4万年前頃以降の現生人類ほどではないとしても、ひじょうに多様な環境に適応していた可能性が高そうで、海洋酸素同位体ステージ(Marine Isotope Stage、略してMIS)7となる温暖期のアルタイ地域の広葉樹林と開けた草原景観を含む温暖な斑状の景観(Brown et al., 2022)以外の環境に進出した可能性も考えられます。とくに、チベット高原の海抜3280m地点でデニソワ人の痕跡が確認されたこと(Zhang et al., 2020)の意味は大きいと思います。砂漠や熱帯雨林や高地(標高2500m以上)や北極圏といった極限環境に進出で来た人類は現生人類のみというような見解(Roberts, and Stewart., 2018)は根強いかもしれませんが、どれだけ持続的だったかは分からないとしても、後述の考古学的証拠からも、デニソワ人が長期にわたってチベット高原に分布していた可能性は高そうですし、それは現代チベット人がデニソワ人から高地適応関連の遺伝的多様体を継承したこと(Zhang X et al., 2021)と整合的です。
ただ、デニソワ人が現在チベット高原に存在しないことから、デニソワ人の高地居住は「永続的」ではなかった、とその意義が現生人類よりも劣ることを強調する見解もあるかもしれません。しかし、チベット高原における現生人類の「永続的」居住はせいぜい過去数万年間で、1万年間に満たない可能性もそれなりにありそうですから(Zhang et al., 2022)、デニソワ人の高地への進出の意義を軽視してはならないでしょう。しかも現時点では、高地への進出は現生人類よりもデニソワ人の方がずっと早そうです。上述のように、デニソワ人はアジア南東部島嶼部やワラセアやオセアニアにも分布していたかもしれず、デニソワ人が熱帯雨林にも進出していた可能性はそれなりにありそうです。その意味でも、デニソワ人は多様な生態系に適応できた可能性があり、それ故に遺伝的に分化していき、各デニソワ人系統が現代人のさまざまに祖先集団と混合したのかもしれません。
●文化と象徴的思考能力
デニソワ洞窟のデニソワ人は考古学的な年代区分では、初期中部旧石器時代から中期中部旧石器時代までにわたり、50000~45000年前頃に始まる初期上部旧石器(Initial Upper Paleolithic、略してIUP)まで存在した可能性が指摘されています(Jacobs Z et al., 2019、Douka et al., 2019)。この可能性は、デニソワ洞窟の堆積物のmtDNA解析でも示されています(Zavala et al., 2021)。デニソワ洞窟の大型動物の骨には切断や燃焼や屠殺の解体痕など人為的改変があり(Brown et al., 2022)、デニソワ人は大型動物も狩っていたようです。デニソワ人が、IUPはさておき中部旧石器と関連しているのはほぼ確実ですが、デニソワ人の存在が確認されているデニソワ洞窟東空洞の第14・15層の石器群は、アジア北部および中央部には直接的対応物がない中部旧石器インダストリーに分類され、遠方で最も近い平行石器群は近東のアシュール・ヤブルディアン文化複合(Acheulo–Yabrudian cultural complex、略してAYCC)です(Brown et al., 2022)。
しかし、レヴァントとアルタイ地域との間に類似の石器技術伝統の中間的存在はなく、アルタイ地域とチベット高原とアジア南東部(ラオス)以外ではデニソワ人と直接的に関連すると確証されている人類遺骸がないので、デニソワ洞窟の中部旧石器がどのようにアルタイ地域にもたらされたのか、現時点では不明です。伝統的な5段階の石器製作技術区分では様式3(Mode 3)となる中部旧石器は、ネアンデルタール人が西方からもたらした、とも考えられますが、デニソワ洞窟の最古の人類の痕跡はデニソワ人のものです(Zavala et al., 2021)。ただ、これはあくまでもデニソワ洞窟の調査結果で、ネアンデルタール人がアルタイ地域にもっと早く拡散してきた可能性も考えられます。
この点で注目されるのは、上述のように中国北部ではデニソワ人候補の中期~後期更新世のホモ属遺骸が少なからず発見されているものの、現在の中国も含めてアジア東部では様式3の石器技術は少ないとされており、近年になってようやく、中国の北部では内モンゴル自治区において中部旧石器の典型である47000~37000年前頃のムステリアン(Mousterian)様石器群(Li et al., 2018)が、南部となる貴州省の観音洞洞窟(Guanyindong Cave)では中部旧石器の典型的技術である17万~8万年前頃のルヴァロワ(Levallois)石器群(Hu et al., 2019A)が発見されていることです。これらの中部旧石器の製作者がどの人類系統なのか不明だったのですが、チベット高原東部におけるデニソワ人の存在が確認されたことから、デニソワ人だった可能性は低くないと思います。しかし、観音洞洞窟の17万~8万年前頃となるルヴァロワ技術石器群については、ルヴァロワ技術と認定するには不充分との反論(Li F et al., 2019)と、それに対する再反論(Hu et al., 2019B)があるように、本当に中部旧石器なのか、議論が続いています。
海抜2763mに位置する甘粛省永登(Yongdeng)県の将軍府01(JiangjunfuJiangjunfu 01、略してJJF01)開地遺跡は露出した地質区画から収集された少数の石器により特定され、その年代は最終間氷期のMIS5に相当する12万~9万年前頃で、単純な石核・剥片を特徴とします(Cheng et al., 2021)。将軍府01遺跡の石器群の製作者は不明ですが、デニソワ人の可能性が高そうです。デニソワ人の所産である可能性がきわめて高そうなチベット高原の白石崖溶洞の石器群も、予備的な分析では、石器はほぼ全て、地元の変成石英砂岩と角岩礫を用いて、単純な石核および剥片技術により製作された、と示唆されています(Zhang et al., 2020)。この点からも、現在の中国領にデニソワ人が広範に分布していた可能性は高そうではあるものの、中部旧石器は珍しかった、と推測されます。これは、アジア東部へと初期に拡散したデニソワ人が中部旧石器技術を有しておらず、アルタイ地域に中部旧石器技術をもたらしたのは、その後で拡散してきたデニソワ人かネアンデルタール人だったことを示唆しています。あるいは、デニソワ人はユーラシア東部へ拡散してきた当初から中部旧石器技術を有していたものの、現在の中国領への拡散過程でその技術を失ったか捨てた、とも考えられます。いずれにしても、デニソワ人の石器技術は一様ではなかったようです。
デニソワ人の象徴的思考能力の観点でたいへん注目されるのは、チベット高原南部の却桑(Quesang)の化石温泉(海抜4269m)で発見された、226000~169000年前頃と推定されている人類の手と足の痕跡で、その意図的な痕跡の作成から壁面芸術(parietal art)の初期の活動だった可能性が高い、と指摘されています(Zhang D et al., 2021)。この手足の痕跡を残した人類がどの系統なのか、直接的証拠はありませんが、チベット高原の白石崖溶洞において16万年以上前のデニソワ人遺骸(夏河下顎骨)が確認されていること(Chen et al., 2019)から、デニソワ人の所産である可能性が高そうです。この手足の痕跡が「芸術活動」と解釈でき、それを残したのがデニソワ人だとしたら、現生人類との比較は安易にできませんが、デニソワ人にも一定以上の象徴的思考能力があった証拠になりそうです。
デニソワ人の象徴的思考能力は、河南省許昌市の霊井遺跡で見つかった、125000~105000年前頃の意図的な線刻のある風化した断片的な骨2点からも示唆されます(Li Z et al., 2019)。上述のように、霊井遺跡では同じ年代のデニソワ人かもしれないホモ属頭蓋が見つかっています(Li et al., 2017)。線刻のある2点の標本は、断片的すぎて分類を特定できませんが、大型哺乳類の成体の肋骨と推定されており、この線刻は屠殺のような「実用的」行動の結果ではなく、さらに同じ層では見つからない赤い残留物が確認されたことから、オーカー(鉄分を多く含んだ粘土)が意図的にオーカーが塗られたのではないか、と推測されています(Li Z et al., 2019)。
デニソワ人とネアンデルタール人は遺伝的に、現生人類クレードに対してまとまって独自のクレードを形成しますから(Bergström et al., 2021)、ネアンデルタール人には一定以上の象徴的思考能力があった、との証拠が蓄積されつつあること(Baquedano et al., 2023)からも、デニソワ人にも一定以上の象徴的思考能力があった可能性は高そうです。その意味で、デニソワ洞窟のIUPの装飾品をデニソワ人が製作していた可能性もあるでしょう(Douka et al., 2019)。また、白石崖溶洞が低地からそれなりに近いチベット高原北東端に位置するのに対して、却桑はチベット高原の奥深くに位置しており、デニソワ人の高地適応のさらなる証拠になるかもしれない点でも、却桑の手足の痕跡は注目されます。
なお、デニソワ人やネアンデルタール人など非現生人類ホモ属と現生人類との文化的関係では、非現生人類ホモ属が現生人類から文化的影響を受けた、との観点が一般的には根強いように思いますが、現生人類がアジア東部北方の環境に適応できた一因として、ネアンデルタール人もしくはネアンデルタール人とデニソワ人の混合集団から技術を学んだ可能性も指摘されています(Dennell., 2020)。デニソワ洞窟のIUPの装飾品は、その一部がデニソワ人の所産だとしても、ほぼ間違いなく現生人類から伝えられたでしょうが、その他の広義の文化、とくに考古資料に残りにくいような文化が、デニソワ人など非現生人類ホモ属から現生人類に伝えられた可能性は、無視してよいものではないでしょう。
●まとめ
デニソワ人は遺伝的には、現生人類よりもネアンデルタール人の方と近縁な後期ホモ属の分類群で、デニソワ人系統はネアンデルタール人系統と、早ければ74万年前頃(Rogers et al., 2020)、遅くとも45万年前頃(Meyer et al., 2016)までには分岐していた、と考えられます。デニソワ人はアルタイ地域からアジア東部北方とアジア南東部まで、広範囲に分布していたようで、多様な環境に適応していたようです。そのため、デニソワ人系統は遺伝的に分岐していったようで、それは現代人ではアジア東部集団や一部のアジア南東部島嶼部集団やオセアニア集団の祖先集団との、それぞれ異なる遺伝的混合が推測されていることにも反映されているのでしょう。
デニソワ人はおそらく、ユーラシア西部においてネアンデルタール人系統と分岐し、ユーラシア東部へと拡散したと考えられますが、その経路は不明で、ヒマラヤ山脈の北方を通過し、チベット高原やアジア東部北方へと定着し、さらにアジア南東部、あるいはアジア南東部島嶼部やワラセアやオセアニアにまで拡散したのかもしれません。あるいは、デニソワ人はヒマラヤ山脈の南方を通過し、アジア南東部から北上してアジア東部北方やチベット高原やアルタイ地域に拡散した可能性も考えられます。アジア東部北方にデニソワ人が広範に分布していた可能性はありますが、中期更新世のアジア東部北方における様式3の石器技術が乏しいことから、デニソワ人は元々もっと粗放な石器技術しか有していなかったかもしれず、その意味ではヒマラヤ山脈の南方を通過した可能性もあり得ると思います。
上述のように、デニソワ人は遺伝学的に定義された後期ホモ属の分類群で、形態学的情報がネアンデルタール人と比較してひじょうに少ないため、形態学的情報はそれなりにあるものの、遺伝学的情報のない後期ホモ属化石をデニソワ人と確証することができません。今後、保存状態の良好なホモ属遺骸が分子人類学的手法によりデニソワ人と確証されれば、形態学的情報はそれなりにあるものの、遺伝学的情報のない後期ホモ属化石をデニソワ人と分類することも可能になるでしょうし、それにより石器技術を中心としてデニソワ人の考古学的研究も大きく進展するのではないか、と期待されます。
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当ブログで取り上げたデニソワ人関連の研究はそれなりの数になるので、とくに適応度と関わりそうなデニソワ人由来と推定される遺伝子については、重要な情報を見落としていることもあるでしょうが、それは少しずつ改訂していくか、次のデニソワ人に関するまとめ記事に反映させる予定です。今回、再整理がかなり大変で、前回のまとめより分量がかなり増えてしまったので、デニソワ人については今後、もっと短い間隔でまとめていこう、と考えています。デニソワ人については、最新の情報が反映されていませんが、オーストラリア博物館の記事が簡潔にまとまっており、デニソワ人についてまず調べる場合にはたいへん有益で、当ブログでも取り上げました(関連記事)。
●基本情報
デニソワ人は、シベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で発見された、現生人類(Homo sapiens)ともネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)とも異なる後期ホモ属の分類群で、種区分は未定です。現生人類やネアンデルタール人といったホモ属の各種や、さらにさかのぼってアウストラロピテクス属の各種もそうですが、人類系統の分類群は基本的には形態学的に定義されています。しかし、デニソワ人は人類系統の分類群としては例外的に、遺伝学的に定義された分類群です。
デニソワ人が最初に報告されたのは2010年3月で、デニソワ洞窟で発見された断片的な指骨のミトコンドリアDNA(mtDNA)に基づいて、現生人類ともネアンデルタール人とも異なる分類群と示されました(Krause et al., 2010)。2010年12月には、デニソワ人の核DNA解析結果が報告され、現代のメラネシア人のゲノムの4~6%はデニソワ人に由来する、と推定されました(Reich et al., 2010)。その後、2012年9月にはデニソワ人遺骸(デニソワ3号)の高品質なゲノムデータが公表され(Meyer et al., 2012)、2015年11月には、それ以外のデニソワ人遺骸(デニソワ4および8号)のmtDNAと核DNAが報告されました(Sawyer et al., 2015)。2017年7月には、新たなデニソワ人遺骸(デニソワ2号)のmtDNAと核DNAが報告されました(Slon et al., 2017A)。2019年3月には、第88回アメリカ自然人類学会総会において、頭頂骨断片(デニソワ13号)がmtDNA解析によりデニソワ人に分類できる、と報告されましたが、その層序は曖昧なので、年代は暫定的です(Viola et al., 2019)。2021年11月には、断片的な骨3点(デニソワ19・20・21号)がmtDNA解析によりデニソワ人と確認された、と報告されました(Brown.,2022)。
これらのデニソワ人と確認された遺骸は、いずれもデニソワ洞窟で発見されました。デニソワ洞窟以外で初めて報告されたデニソワ人遺骸は、中華人民共和国甘粛省甘南チベット族自治州夏河(Xiahe)県のチベット高原北東端の海抜3280mに位置する白石崖溶洞(Baishiya Karst Cave)で発見された、16万年以上前と推定される右側下顎(夏河下顎骨)です(Chen et al., 2019)。夏河下顎骨は、DNA解析ではなくプロテオーム(タンパク質の総体)解析に基づいてデニソワ人と分類されました。2022年5月には、ラオスのフアパン(Huà Pan)県に位置するタム・グ・ハオ2(Tam Ngu Hao 2、略してTNH2)で発見された人類の歯(TNH2-1)が形態に基づいてデニソワ人と分類され、その年代は164000~131000年前頃と推定されています(Demeter et al.,2022)。
このように、TNH2-1は形態、夏河下顎骨はプロテオーム(タンパク質の総体)解析に基づいてデニソワ人と分類されたものの、他のホモ属遺骸はDNAに基づいてデニソワ人と分類されています。デニソワ人に関する最初の研究が公表された2010年3月から2023年8月まで、デニソワ人と確認されている遺骸がいずれも断片的なので、更新世人類としては豊富な遺伝学的情報が得られていたものの、形態学的情報はわずかしか得られていなかったので、ほぼDNAに基づいてデニソワ人と分類されていたわけです。一方、ネアンデルタール人でも現生人類でもないホモ属は、形態学的情報はそれなりに得られているものの、遺伝学的情報はデニソワ人を除いてまったく得られていないため、デニソワ洞窟以外で発見された、ネアンデルタール人でも現生人類でもないホモ属遺骸のどれがデニソワ人に分類されるのか、照合できない状況が続いています。
今後、保存状態が比較的良好なホモ属遺骸がDNAに基づいてデニソワ人と分類できれば、形態学的にデニソワ人と分類できるホモ属遺骸が増えていくのではないか、と期待されます。これらデニソワ人遺骸に関する基本的な情報を以下の表1にまとめましたが、デニソワ洞窟で発見されたデニソワ人ではない遺骸も含めています。推定年代は考古学的と遺伝学で大きく異なる場合もあり、あくまでも目安にすぎません。性別・年代を確認できなかった個体の欄は空白としています。
●形態
上述のように、デニソワ人の形態学的情報はわずかしか得られていません。そうした中で、デニソワ人に分類されているデニソワ4および8号の臼歯はたいへん大きく、ネアンデルタール人や現生人類とは異なる祖先的特徴を有する、と指摘されていました(Sawyer et al., 2015)。デニソワ4号とデニソワ8号の年代は異なり、後述のようにmtDNAの系統樹でも大きく異なる系統に属するので、この臼歯の特徴はデニソワ人の一部の個体に見られる例外ではなく、デニソワ人に共通する特徴である可能性が高そうです。ただ、デニソワ人の臼歯のサイズは鮮新世の人類に匹敵するくらい大きいものの、後期更新世の現生人類やネアンデルタール人の中には、デニソワ人と同程度のサイズの臼歯を有する個体もいます(Sawyer et al., 2015)。
夏河下顎骨には歯も残っており、デニソワ洞窟のデニソワ人と同じくらい大きく、またホモ・エレクトス(Homo erectus)よりもネアンデルタール人や現生人類など他の中期更新世ホモ属と類似した点も見られますが、ただ全体的には、夏河下顎骨は形態的にネアンデルタール人や現生人類と比較して祖先的特徴がより強いようです(Che n et al., 2019)。ラオスで発見されたTNH2-1は左下顎永久歯の大臼歯の歯冠芽で、初期歯根形成と組み合わされた咬合および隣接歯間の摩耗がないため、この個体の死亡時には永久歯は萌出していなかった、と示唆され、その推定年齢は3.5~8.5歳程度です(Demeter et al.,2022)。TNH2-1の歯も大きく、広義のホモ・エレクトスやホモ・アンテセッサー(Homo antecessor)やアジアの中期更新世ホモ属やネアンデルタール人の変異内に収まります(Demeter et al.,2022)。
夏河下顎骨の大臼歯には3本の歯根(3RM)が見られ、ホモ属の下顎大臼歯における歯根数は2本である場合が多く、1本もしくは3本かそれ以上の場合もあることから、歯根数が3本であることもデニソワ人の特徴かもしれない、と指摘されており、現代人ではアジア東部およびアメリカ大陸先住民集団でとくに多い(他地域の3.4%以下よりずっと多い40%程度)3RMが、デニソワ人からの遺伝子流動の結果かもしれない、と推測されています(Bailey et al., 2019)。この3RMが見られる最古と考えられる個体は、19万~13万年前頃または7万~1万年前頃と推定年代が曖昧なものの、台湾沖で発見された澎湖1号(Penghu 1)と呼ばれる下顎骨(Chang et al., 2015)で、その巨大な大臼歯からも、澎湖1号はデニソワ人かもしれない、と示唆されます(Bailey et al., 2019)。しかし、この見解に対して反論(Scott et al., 2020)と再反論(Bailey et al., 2020)が提示されており、澎湖1号がデニソワ人なのか、さらには現代人ではアジア東部およびアメリカ大陸先住民集団がデニソワ人から3RMを受け継いだのかどうか、現時点では確実な判断はできないようです。
デニソワ3号は小指の化石ですが、その形態は、近位部の幅を除いて現生人類の変異内に収まり、一方でネアンデルタール人については、フランスのムラゲルシー(Moula-Guercy)遺跡で発見された10万年前頃の化石以外は、現生人類の変異内に収まりません。ます(Bennett et al., 2019)。デニソワ3号は祖先的特徴を有している、と考えられ、後期ネアンデルタール人において、小指の形態に派生的特徴が定着した、と推測されます。核ゲノムではデニソワ人は明らかに現生人類よりもネアンデルタール人の方と近縁ですが、
デニソワ3号から得られた高品質なゲノムデータに基づいて、デニソワ人の肌と髪と眼の色は比較的濃かった、と推測されています(Meyer et al., 2012)。また、デニソワ3号のDNAメチル化地図から、デニソワ人の外見も推定されています(Gokhman et al., 2019)。デニソワ人とネアンデルタール人に共通する特徴は、頑丈な顎や低い頭蓋や厚いエナメル質や広い骨盤や大きな胸郭や突き出た顔などです。現生人類およびネアンデルタール人と異なる特徴として長い歯列や拡大した下顎頭や広い頭骨の幅が、ネアンデルタール人よりも現生人類の方と類似している特徴として、下顎前部と比較しての広い側頭骨および永久歯の早期の喪失が挙げられています。以下は、デニソワ3号のDNAメチル化地図研究に基づくデニソワ人の復元画像です。
●DNA解析と系統樹における位置づけ
形態学的情報がほとんど得られていなかったため、デニソワ人の研究は遺伝学が主流となりました。上述のように、デニソワ人が最初に報告されたのは2010年3月で、デニソワ洞窟で発見された断片的な指骨のmtDNAに基づいて、現生人類ともネアンデルタール人とも異なる分類群と示され(Krause et al., 2010)、同年12月には、デニソワ人の核DNA解析結果が報告されました(Reich et al., 2010)。ここで問題となったのは、mtDNAと核DNAとで、デニソワ人とネアンデルタール人と現生人類の系統関係が異なることです。mtDNAでは、デニソワ人系統とネアンデルタール人および現生人類の共通祖先の系統が分岐した後で、ネアンデルタール人系統と現生人類系統が分岐します。核DNAでは、ネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先の系統と現生人類系統が分岐した後で、ネアンデルタール人系統とデニソワ人系統が分岐します。ただ、種系統樹と遺伝子系統樹が一致しないことは珍しくなく(Harris.,2016,第2章)、たとえばゴリラとチンパンジーと現生人類のように(Scally et al., 2012)、分岐してから(進化史の基準では)さほど時間の経過していない種の間では珍しくないので、mtDNAは母系での遺伝という点で特殊ですが、遺伝の部分的な単位と考えれば、なとくに驚くべきことではないでしょう。
この不一致は、後期ホモ属間の複雑な交雑と進化を反映しているかもしれないという意味で、注目されます。この問題を考察するうえで参考になるのが、スペイン北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)で発見された43万年前頃の人骨群です。SH集団には、頭蓋でも(Arsuaga et al., 2014)頭蓋以外でも(Arsuaga et al., 2015)、祖先的特徴とネアンデルタール人の派生的特徴とが混在しています。そのため、SH集団は形態学的には、ネアンデルタール人の祖先集団もしくは初期ネアンデルタール人集団か、そのきわめて近縁な集団と考えられます。SH集団は、mtDNAではネアンデルタール人および現生人類よりもデニソワ人の方と近縁で(Meyer et al., 2014)、核DNAではデニソワ人よりも現生人類の方と近縁です(Meyer et al., 2016)。以下は、デニソワ人とネアンデルタール人と現生人類のmtDNAでの系統関係を示したMeyer et al., 2014の図4です。
こうしたSH集団とデニソワ人やネアンデルタール人や現生人類との遺伝的関係、およびデニソワ人とネアンデルタール人と現生人類のY染色体での関係を踏まえると、デニソワ人とネアンデルタール人と現生人類の関係を推測できます。mtDNAとは対照的に父系遺伝となるY染色体では、mtDNAと同様に、デニソワ人系統とネアンデルタール人および現生人類の共通祖先の系統が分岐した後で、ネアンデルタール人系統と現生人類系統が分岐します(Petr et al., 2020)。以下はPetr et al., 2020の図2です。
現生人類からネアンデルタール人へと10万年以上前の遺伝子流動があった、と推測されており(Kuhlwilm et al., 2016)、その後の研究では、その年代は145000~130000年前頃よりも前(Prüfer et al., 2017)、さらには30万~20万年前頃(Hubisz et al., 2020)と推定されています。こうしたことから、ネアンデルタール人系統のmtDNAとY染色体は元々現生人類よりもデニソワ人の方と近かったものの、広義の現生人類系統との混合により、ネアンデルタール人のmtDNAとY染色体(母系と父系)は現生人類に近い系統に置換された、と考えられます(Meyer et al., 2016、Petr et al., 2020)。この少なくとも10万年以上前となる現生人類からネアンデルタール人への遺伝子流動により、ネアンデルタール人はゲノムの3~7%程度を初期現生人類から継承した、と推定されています(Hubisz et al., 2020)。
つまり、核ゲノムではネアンデルタール人は現生人類系統よりもデニソワ人系統の方とずっと近く、mtDNAとY染色体だけが現生人類系統に置換されるのか、疑問もあるでしょうが、現生人類からネアンデルタール人への遺伝子流動を5%と仮定した場合、5万年後の置換率は、ネアンデルタール人のY染色体適応度が1%低いと25%に増加し、2%低いと50%に増加することになり、こうした予測はY染色体と同じく単系統遺伝となるmtDNAにも当てはまる、と指摘されています(Petr et al., 2020)。10万年以上前のネアンデルタール人系統と現生人類系統の混合の状況証拠としては、少なくとも21万年前頃にまでさかのぼるギリシア南部のマニ半島のアピディマ洞窟(Apidima Cave)で発見された現生人類的な脳頭蓋の後部(Harvati et al., 2019)や、イスラエルのカルメル山にあるミスリヤ洞窟(Misliya Cave)で2002年に発見された、194000~177000年前頃のホモ属の上顎化石(Hershkovitz et al., 2018)があります。
これらの知見を踏まえると、デニソワ人およびネアンデルタール人の共通祖先の系統と現生人類系統が分岐し、その後でデニソワ人系統とネアンデルタール人系統が分岐したものの、さらにその後にネアンデルタール人系統において母系(mtDNA)と父系(Y染色体)で現生人類系統による置換があった、という可能性が最も高そうです。後期ホモ属の各系統の遺伝学的な推定分岐年代は研究により異なりますが、たとえば、mtDNAに基づく推定分岐年代は、現生人類および(後期)ネアンデルタール人の共通祖先の系統とデニソワ人系統とが141万~72万年前頃、(後期)ネアンデルタール人系統と現生人類系統が468000~360000年前頃です(Posth et al., 2017)。Y染色体に基づく推定分岐年代は、現生人類およびネアンデルタール人の共通祖先の系統とデニソワ人系統とが70万年前頃、現生人類系統とネアンデルタール人系統とが35万年前頃です(Petr et al., 2020)。
核ゲノムに基づく推定分岐年代は、デニソワ人およびネアンデルタール人の共通祖先の系統と現生人類系統が575000年前頃、デニソワ人系統とネアンデルタール人系統が415000年前頃です(Hubisz et al., 2020)。しかし、デニソワ人よりもネアンデルタール人の方と遺伝的に近いSH集団の推定年代が43万年前頃なので(Meyer et al., 2016)、デニソワ人系統とネアンデルタール人系統の分岐は45万年以上前までさかのぼる可能性が高そうです。じっさい、ネアンデルタール人系統とデニソワ人系統の分岐年代を737000年前頃と推定した研究もあります(Rogers et al., 2020)。いずれにしても、後期ホモ属の各系統の遺伝学的な推定分岐年代は現時点ではあくまでも暫定的であることに要注意です。遺伝学以外では、遺伝的影響が強いとされる歯の形態の比較から後期ホモ属の各系統の分岐年代が推定されており、デニソワ人およびネアンデルタール人の共通祖先の系統と現生人類系統との分岐は125万~85万年前頃です(Gómez-Robles., 2019)。
なお、現代人においてデニソワ人系統のmtDNAとY染色体は見つかっておらず、今後も見つかる可能性はほぼなさそうで、それはネアンデルタール人も同様でしょうが、デニソワ人のmtDNAが断片的に現代人に継承されている可能性は高そうです。核内mtDNA断片(nuclear-mitochondrial segment、略してNUMT)はヒトも含めてさまざまな真核生物で報告されており、現代人におけるNUMTの90%以上は、ヒトが非ヒト類人猿から分岐した後に核ゲノムに挿入された、と推定されています(Wei et al., 2022)。現代人における非現生人類ホモ属に由来のNUMTを調べた研究では、インドネシア東部およびニューギニアの15個体においてデニソワ人由来と推定されるNUMTが見つかった、と報告されています(Bücking et al., 2019)。このデニソワ人由来と推定されるNUMTの隣接領域では、デニソワ人と一部現代人とで共有されているアレル(対立遺伝子)が特定されており、デニソワ人においてNUMTが起き、一部の現代人の祖先集団のゲノムにデニソワ人との混合により伝えられた可能性が高い、と推測されています(Bücking et al., 2019)。おそらく、ネアンデルタール人由来のNUMTも現代人の一部集団にあるのでしょう。
●デニソワ人系統における遺伝的差異
デニソワ人系統における遺伝的差異は、mtDNAに基づいて示されています。mtDNAでは、デニソワ人は2クレードに大別されます。当初の研究では、デニソワ8号のクレード(ここではA系統とします)とデニソワ3および4号のクレード(ここではB系統とします)とが区別されました(Sawyer et al., 2015)。年代は、デニソワ3および4号(8万~5万年前頃)の方がデニソワ8号(13万~10万年前頃)よりずっと新しくなります。その後、デニソワ2号(19万~12万年前頃)を報告した研究では、デニソワ2号のmtDNAはA系統に分類されました(Slon et al., 2017A)。つまり、デニソワ人のmtDNAの違いは年代と対応していたわけです。
デニソワ2号よりも古く、現時点では最古となるデニソワ人遺骸を報告した研究では、デニソワ19・20・21号(22万~18万年前頃)のmtDNAはA系統に分類されました(Brown et al., 2022)。以前の研究と同様に、デニソワ人のmtDNAの違いは年代と対応していたわけです。A系統内では、デニソワ2号とその他のデニソワ人遺骸(8・19・20・21号)が分岐し、デニソワ8号とデニソワ19・20・21号が分岐します。以下は、デニソワ人のmtDNAでの系統関係を示したBrown et al., 2022の図2です(左側がネアンデルタール人、右側がデニソワ人を示しています)。
デニソワ人のDNAは、ホモ属遺骸からだけではなく、堆積物からも検出されています。近年では、環境DNAの応用により、堆積物から古代DNAが解析されるようになっており、グリーンランドの200万年前頃の堆積物からもDNAが解析されています(Kjær et al., 2022)。デニソワ人と関連する堆積物のDNA解析では、まずデニソワ洞窟において、デニソワ人とネアンデルタール人のmtDNAが解析されました(Slon et al., 2017B)。デニソワ洞窟ではその後、さらに堆積物からデニソワ人とネアンデルタール人のmtDNAが解析されましたが、デニソワ人のmtDNAは、古い層では系統A、より新しい層ではB系統に分類され(Zavala et al., 2021)、上述の先行研究と同様に、デニソワ人のmtDNAの違いは年代と対応していました。これは、デニソワ洞窟における、デニソワ人系統の母系での置換を示唆しています。
デニソワ人のmtDNAは、チベット高原の白石崖溶洞の堆積物でも確認されており、その年代は10万~6万年前頃で、さらに上の層の堆積物からもデニソワ人のmtDNAが確認されましたが、複雑な層序形成のため、6万年前頃以降も白石崖溶洞にデニソワ人が存在したのかは不明です(Zhang et al., 2020)。白石崖溶洞の堆積物から確認されたデニソワ人のmtDNAはいずれもB系統に分類され、アルタイ地域からチベット高原まで、デニソワ人のmtDNAの違いは年代と対応していました。しかし、現時点ではデニソワ洞窟と白石崖溶洞でしかデニソワ人のmtDNAは確認されておらず、時空間的に広範囲の高品質な核ゲノムデータが蓄積されるまで、デニソワ人系統における置換について確たることは言えません。
●デニソワ人と他のホモ属系統との遺伝的混合
上述のように、現代のメラネシア人のゲノムの4~6%はデニソワ人に由来する、と推定されていますが(Reich et al., 2010)、多様な地域の現代人の高品質なゲノムデータを用いたその後研究では、パプア高地集団のゲノムにおけるデニソワ人由来の領域の割合は2.8%(95%信頼区間で2.1~3.6%)と推定されています(Bergström et al., 2020)。さらに、デニソワ人と他のホモ属系統との遺伝的混合の可能性も指摘されています。デニソワ人は、デニソワ人およびネアンデルタール人および現生人類の共通祖先の系統と分岐した遺伝学的に未知の人類系統や、ネアンデルタール人および現生人類と混合した、と推測されています(Prüfer et al., 2014)。未知の人類系統からデニソワ人への遺伝子流動の割合は、その後の研究では1%程度と推定されています(Hubisz et al., 2020)。また、現生人類系統と分岐した後のデニソワ人とネアンデルタール人の共通祖先である「ネアンデルソヴァン(neandersovan)」が、ネアンデルソヴァンおよび現生人類の共通祖先の系統と220万~180万年前頃に分岐した「超古代系統」が、ネアンデルソヴァンと混合した可能性も指摘されています(Rogers et al., 2020)。
デニソワ人とネアンデルタール人との混合がアルタイ地域で一般的だったことは、その後の研究で推測されています(Peter., 2020)。アルタイ地域では、デニソワ人とネアンデルタール人の混合のさらに具体的な証拠も見つかっています。デニソワ洞窟で発見されたデニソワ11号は、母がネアンデルタール人、父がデニソワ人で、13歳以上の女性と推測されています(Slon et al., 2018)。つまり、デニソワ11号はデニソワ人とネアンデルタール人の交雑第一世代というわけです。更新世の人類遺骸自体が少なく、その中でもDNA解析の可能な人類遺骸が珍しいことを考えれば、アルタイ地域において、デニソワ人とネアンデルタール人が遭遇した場合、遺伝的混合は一般的だった、と考えられます。これら後期ホモ属系統間の複雑な混合は、Reilly et al., 2022の図2にまとめられています。
デニソワ人が現代のメラネシア人の祖先と混合したことは上述しましたが、デニソワ人はそれ以外の地域の現代人の祖先集団とも混合した、と推測されています。しかし、非アフリカ系現代人における非現生人類ホモ属由来と推定されるゲノム領域の割合は、ネアンデルタール人については大きな地域差がないのに対して、デニソワ人については大きな地域差があります(Sankararaman et al., 2016)。現代人におけるデニソワ人由来と推定されるゲノム領域の割合の具体的な数値に関しては、研究により差があるものの、パプア人やオーストラリア先住民や一部のアジア南東部島嶼部集団において2.8%など(Bergström et al., 2020)とくに高く、それよりずっと低いものの、同じような割合でアジア南部および東部集団(0.06~0.5%)とアメリカ大陸先住民集団(0.05~0.4%)において明確に検出でき(Zhang X et al., 2021)、ユーラシア西部集団ではほぼ存在しない、という点では一致しています。ただ、現代アイスランド人の高品質なゲノムデータから、アイスランド人のゲノムにはわずかながらデニソワ人由来の領域がある、と推定されており(Skov et al., 2020)、上述のようにデニソワ人とネアンデルタール人の混合が一般的だったとすれば、デニソワ人と混合したネアンデルタール人との混合により、ユーラシア西部現代人の祖先もデニソワ人からわずかなゲノム領域を継承したのかもしれません。
近年の研究でほぼ一致しているのは、こうした現生人類とデニソワ人との混合において、デニソワ人とパプア人の祖先集団との間には複数の混合があった、ということです(Jacobs et al., 2019、Choin et al., 2021、Larena et al., 2021)。さらに、デニソワ人とパプア人の祖先集団との間には複数の混合とは別に、アジア東部現代人の祖先集団とデニソワ人との混合もあった、と推測されています(Zhang X et al., 2021)。ユーラシア東部系初期現生人類個体においてデニソワ人からの遺伝子流動の痕跡が検出されているので(Massilani et al., 2020)、デニソワ人とアジア東部現代人の祖先集団との混合年代は48700年前頃と推定されています(Zhang X et al., 2021)。これは、現代人でもユーラシア西部系集団よりユーラシア東部系集団の方と近縁なアジア東部の初期現生人類個体において、デニソワ人からの遺伝子流動が検出されていること(Massilani et al., 2020)とも整合的です。一方、デニソワ人とパプア人の祖先集団との間の混合は、46000年前頃および3万年前頃と推定されています(Zhang X et al., 20211)。以下は、デニソワ人と現生人類との遺伝的混合の関係を示した。Zhang X et al., 2021の図4です。
さらに、アジア南東部島嶼部のネグリートと呼ばれている集団の一部の祖先集団は、これらの混合とは別に、デニソワ人と混合したようです(Larena et al., 2021)。たとえば、フィリピンのマリヴェレニョ語アエタ人(Ayta Magbukon)のゲノムにおけるデニソワ人由来と推定される領域の割合はパプア人やオーストラリア先住民以上で、これまでに調査された現代人集団では最高となります(Larena et al., 2021)。パプア人およびオーストラリア先住民の共通祖先とデニソワ人との混合、およびアジア南東部島嶼部のネグリートと呼ばれている集団の一部の祖先集団とデニソワ人との混合は、ともに25000年前頃に起きた、と推定されています。また、出アフリカ現生人類がネアンデルタール人から出アフリカの過程で失ったアレルを継承(再導入)したことともに、それがデニソワ人にも当てはまるかもしれない、と指摘されています(Rinker et al., 2020)。
こうしたアジア南東部島嶼部とオセアニアにおけるデニソワ人と現生人類との複雑な遺伝的関係については、さらに複雑な遺伝的混合があった、と想定する見解もあります。たとえば、インドネシア領フローレス島の小柄な(平均身長約145cm)人類集団ランパササ(Rampasasa)について、そのゲノムにおけるネアンデルタール人とデニソワ人のどちらか確定できない領域は、遺伝学的に未知の絶滅人類系統の遺伝的痕跡ではない、と解釈した研究(Tucci et al., 2018)に対して、それは遺伝学的に未知の絶滅人類系統からの遺伝子流動である、と指摘した研究(Teixeira, and Cooper., 2019B)もあります。これは、デニソワ洞窟で発見されたデニソワ人(北方デニソワ人)とネアンデルタール人は同じ系統に属しており、「北方デニソワ人」の祖先集団(ネアンデルタール人系統)と混合した地域的集団と近縁の地域的集団(南方デニソワ人)がアジア南部もしくは南東部におり、混合により「北方デニソワ人」と類似したゲノム領域をオセアニア現代人の祖先集団にもたらした、と想定する研究(Kaifu., 2017)と整合的かもしれません。しかし、その後の研究では、アジア南東部島嶼部やオセアニアの現代人のゲノムにおいて、遺伝学的に未知の絶滅人類系統からの遺伝子流動の明確な証拠は提示されていないようです。
上述のように、アメリカ大陸先住民ではアジア南部および東部現代人集団と同程度の割合のデニソワ人由来と推定されるゲノム領域が見つかっていますが、パナマの650~520年前頃の個体(PAPV173)ウルグアイの1450年前頃の個体(CH19B)で、ネアンデルタール人固有の祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)よりも多くのデニソワ人祖先系統が確認されました(Santos et al., 2022)。これは、一部の南アメリカ大陸先住民集団で確認されているオーストラレーシア(オーストラリアとニュージーランドとその近隣の南太平洋諸島で構成される地域)人との遺伝的類似性(Castro e Silva et al., 2021)と関連しているかもしれませんが、その具体的経緯は不明です。
●現代人の表現型への影響
デニソワ人と現生人類との交雑で注目されているのは、現代人に残るデニソワ人由来と推定されるゲノム領域に、適応度に関わるような遺伝子があるのか、ということです。デニソワ人だけではなくネアンデルタール人に関してもよく言われるのが、現生人類はアフリカから世界各地へと拡散する過程で、デニソワ人やネアンデルタール人のような先住人類との交雑により拡散先の地域での適応的な遺伝的多様体を獲得し、それが現生人類の拡散を容易にした、というような説明ですが、一方で、現生人類がデニソワ人やネアンデルタール人から(過去には適応度を上げたり適応度が中立的だったりした)適応度を下げるような遺伝的多様体を継承したこともありました(Reilly et al., 2022)。
そうした適応度とも関わってくる表現型へのデニソワ人からの遺伝的影響については、さまざまなものが示されています。とえば、現代人のToll様受容体関連遺伝子のうち、ハプロタイプ7がデニソワ人由来と推測されています(Dannemann et al., 2016)。パプア人も含めてオセアニアの人口集団におけるデニソワ人由来と推定される遺伝子としては、免疫関連(TNFAIP3、SAMSN1、ROBO2、PELI2)および代謝関連(DLEU1、WARS2、SUMF1)、自然免疫および獲得免疫の調節関連(ARHGEF28、BANK1、CCR10、CD33、DCC、DDX60、EPHB2、EVI5、IGLON5、IRF4、JAK1、LRRC8C、LRRC8D、VSIG10L)などです(Choin et al., 2021)。この他には、平滑筋細胞の増殖・免疫・脂肪生成などにおいて、デニソワ人から現代人への遺伝的影響が指摘されています(Jacobs et al., 2019)。また、体脂肪の特定タイプから熱を発生させることで、イヌイットの寒冷適応に貢献しているのではないか、とされていた遺伝子(TBX15やWARS2)の多様体が、デニソワ人由来と推測されています(Rotival, and Quintana-Murci., 2019)。
オセアニア以外では、チベット人におけるEPAS1(Endothelial PAS Domain Protein 1、内皮PASドメインタンパク質1)遺伝子の多様体がデニソワ人に由来する、と推測されており、これは高地適応と関連しています(Zhang X et al., 2021)。このEPAS1遺伝子の多様体は血中のヘモグロビン値を低く抑え、高地への適応を高めます。上述のように、デニソワ人がチベット高原東部にも存在したと明らかになったことから、デニソワ人も高地に適応していた可能性が高くなりました。デニソワ人系統において高地適応関連遺伝子が選択され、それはデニソワ人との交雑を通じてユーラシア東部系現代人の祖先集団にも継承されたのでしょうが、高地に拡散したチベット人系統においてとくに選択圧により定着した、ということなのでしょう。現代チベット人の祖先集団におけるこの選択は9000年前頃に始まった、と推定されています(Zhang X et al., 2021)。
過去には適応度を上げたり適応度が中立的だったりしたものの、現代では適応度を下げているデニソワ人やネアンデルタール人由来の遺伝的多様体も具体的に報告されています(Simonti et al., 2016)。たとえば、免疫機能の強化は、環境の変化によりアレルギー反応に起因する害の方が大きくなるかもしれませんし、24時間周期のリズムの妨害が契機となり得る、鬱病の危険性を高めますが、これは人工的な灯りに囲まれている現代では危険性を高めることになるものの、おそらく先史時代では危険性を高めるものではなく、紫外線暴露により日光角化症の危険性が高まるような遺伝的多様体は、初期現生人類と比較して高緯度地帯に拡散したネアンデルタール人にとって、適応的な形質だった可能性も指摘されています。
また、具体的な影響はまだ不明ですが、現代人のゲノムに占めるデニソワ人もしくはネアンデルタール人由来と推定されている領域の割合が、常染色体よりもX染色体の方でずっと低くなっていることから、デニソワ人やネアンデルタール人と現生人類との交雑により繁殖能力が低下したのではないか、と推測されています(Sankararaman et al., 2016)。さらに、デニソワ人のゲノムの言語や発話・脳およびその発達・脳細胞シグナル伝達に関わる遺伝子のある領域は、現代人系統において排除されたのではないか、と推測されています(Vernot et al., 2016)。ネアンデルタール人のゲノムでも、発話や精巣の形成と関連する遺伝的多様体は現代人では見られない、と指摘されています(Sankararaman et al., 2014)。
上述のように、現生人類がデニソワ人やネアンデルタール人から(過去には適応度を上げたり適応度が中立的だったりした)適応度を下げるような遺伝的多様体を継承したこともあり、現代人のゲノムに占めるデニソワ人やネアンデルタール人由来の領域の比率が低い(せいぜい2~6%)なのは、適応度を下げることが多かったからなのでしょう。ネアンデルタール人に関しては、現生人類と比較して人口規模が小さかったので、除去されなかった(強い選択圧に曝されなかった)弱い有害な遺伝的多様体が、交雑の結果より大規模な集団である現生人類に浸透すると除去されるのではないか、との見解も提示されており(Juric et al., 2016)、後述するようにこれはデニソワ人にも当てはまりそうです。現生人類がデニソワ人やネアンデルタール人との混合により適応度を下げる遺伝的多様体を受け取ったのに、現代でもその遺伝的痕跡が残っているということは、後期ホモ属における異なる系統間の混合が珍しくなかったからでしょう。
なお、デニソワ人やネアンデルタール人との交雑が現生人類の適応度を下げたのは、染色体数が異なっていたからだ、との見解もありますが、デニソワ人の染色体数は現代人と同じく46本である可能性がきわめて高いので、系統関係から推測すると、ネアンデルタール人の染色体数も46本である可能性が高いと思います(Meyer et al., 2012)。つまり、現代人以外の現生大型類人猿(ヒト科)の染色体数は48本なので、チンパンジー系統と現代人系統の最終共通祖先の染色体数も48本だったものの、それ以降、遅くともデニソワ人とネアンデルタール人と現生人類の最終共通祖先の時点では46本に減っていた可能性が高い、というわけです。
●人口史と分布範囲
デニソワ人の遺伝的多様性の低さから、デニソワ人系統は現生人類系統との分岐後ずっと人口が減少していったか(Prüfer et al., 2014)、人口が増大していっても、集団規模の小さい状態から急速に拡大し、遺伝的多様性が増大するじゅうぶんな時間がなかっただろう(Meyer et al., 2012)、と推測されており、その後の研究でもデニソワ人とネアンデルタール人の系統では有効人口規模の減少が推測されています(Hubisz et al., 2020)。しかし、この推測はデニソワ洞窟のデニソワ人1個体(デニソワ3号)の高品質なゲノムデータに基づいており、上述のようにデニソワ人は複数系統存在した可能性が高そうなので、各系統は比較的孤立しており遺伝的多様性は低かったとしても、デニソワ人系統はデニソワ3号から推測されるよりも遺伝的多様性が高かったのかもしれません。
遺伝的多様性と関連してよく指摘されるのが、ネアンデルタール人やデニソワ人といった非現生人類ホモ属は近親交配のために絶滅したのではないか、ということです。じっさい、デニソワ洞窟のネアンデルタール人(デニソワ5号)は半キョウダイ(片方の親を共有するキョウダイ関係)のような近親関係にあり、近い祖先の間でも近親交配が多かった、と推測されています(Prüfer et al., 2014)。イベリア半島北部のエルシドロン(El Sidrón)洞窟遺跡のネアンデルタール人集団も、近親交配の頻度の高さが指摘されています(Ríos et al., 2019)。ただ、近親交配が習慣となっていて絶滅要因になったというよりは、孤立して衰退していった結果として近親交配の頻度が高くなり絶滅した、考えるべきでしょう。現生人類も含めて更新世のホモ属では、発達異常の多さから近親交配頻度の高さが指摘されていますが(Trinkaus., 2018)、それも孤立・衰退の結果なのだと思います。クロアチアのネアンデルタール人でも(Prüfer et al., 2017)デニソワ洞窟のデニソワ人(デニソワ3号)でも(Meyer et al., 2012)直近の祖先での近親交配は確認されておらず、非現生人類ホモ属にも近親交配を避けるメカニズムが備わっていた可能性は高いでしょう。
上述のように、デニソワ人は複数系統に分岐していき、各系統は比較的孤立していたのではないか、と推測されます。上述のように、現代人におけるデニソワ人の遺伝的影響が、ユーラシア西部系集団にはほとんど見られず、オセアニア系集団で顕著に高く、アジア東部や南部の集団でわずかに見られることから(Sankararaman et al., 2016)、デニソワ人系統はネアンデルタール人系統と分岐した後、ユーラシア東部に拡散した、と推測されます。現時点では、デニソワ人はアルタイ地域とチベット高原北東端とアジア南東部(ラオス)で確認されていますが、上述のようにオセアニア集団やアジア南東部の一部のネグリート集団においてデニソワ人由来のゲノム領域の割合がとくに高く、確定的ではないものの、その推定混合年代が25000年前頃であること(Larena et al., 2021)から、アジア南東部島嶼部はもちろん、ワラセアやオセアニアにも存在した可能性を想定すべきだと思います。
ケンシウ人(Kensiu)としても知られるタイ南部の狩猟採集民マニ人(Maniq)では、デニソワ人関連祖先系統の検出可能な兆候は見つからず、これは、フィリピンのネグリートとオーストラロパプア人で見つかる高水準のデニソワ人祖先系統とは対照的で、この知見からも、デニソワ人からこの地域の現代人の祖先集団への遺伝子移入事象は、アジア南東部島嶼部とオセアニアで起きた可能性が高い、と示唆されます(Göllner et al., 2022)。もちろん、現代人がいつ現在の分布範囲に拡散してきたのか、という問題もあるので、こうした仮説の確証には古代ゲノム研究が必要になります。また、インドネシア領フローレス島のホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)とルソン島のホモ・ルゾネンシス(Homo luzonensis)が、現代人のデニソワ人祖先系統と関連している可能性も指摘されおり(Teixeira et al., 2021)、可能性は低そうですが、念頭に置いておくべきかもしれません。
デニソワ人の分布範囲については、ホモ属遺骸も参考になります。デニソワ人の存在が確認された当初から、中国で発見された分類の曖昧な中期~後期更新世ホモ属遺骸の中に、デニソワ人に分類できる化石があるのではないか、との見解が提示されており(Reich et al., 2010)、この見解はその後の研究の進展によりますます有力になっている、と言えるかもしれません。上述のように、ホモ属遺骸(夏河下顎骨)でも堆積物でも、現在は中華人民共和国が支配しているチベット高原北東端において、デニソワ人の存在が確認されています(Chen et al., 2019、Zhang et al., 2020)。
その他に中国で発見され、まだDNAが解析されていないホモ属遺骸は、分子人類学的にデニソワ人と確認されている遺骸の形態学的情報が少ないため、デニソワ人と確定できませんが、この中にデニソワ人と分類されるものが含まれている可能性はかなり高そうです。プロテオーム解析によりデニソワ人と分類されている夏河下顎骨と年代の近そうな類似したアジア東部のホモ属遺骸として、上述のように台湾沖で発見された澎湖1号(Chang et al., 2015)や、河北省張家口(Zhangjiakou)市の陽原(Yangyuan)県の侯家窰(Xujiayao)遺跡で発見された12万~6万年前頃の歯(Xing et al., 2015)が挙げられています。
その他にデニソワ人候補となりそうな古くから知られている中国で発見された中期~後期更新世のホモ属化石では、河南省許昌市(Xuchang)霊井(Lingjing)遺跡で発見された125000~105000年前頃の頭蓋(Li et al., 2017)や、広東省韶関市の馬壩(Maba)遺跡の13万年前頃の頭蓋、陝西省渭南市の大茘(Dali)遺跡の25万年前頃の頭蓋、遼寧省営口市の金牛山(Jinniushan)遺跡の30万~20万年前頃の頭蓋、安徽省池州市(Chizhou)東至県(Dongzhi County)の華龍洞(Hualongdong)遺跡の30万年前頃の頭蓋などがあります。
澎湖1号を報告した研究(Chang et al., 2015)では、中国で発見された分類の曖昧な中期~後期更新世ホモ属遺骸のうち、大きな歯と頑丈な(厚い)下顎骨という点で澎湖1号と類似しているのは安徽省馬鞍山市(Ma'anshan)の和県(Hexian)の中期更新世の下顎骨であり、他の中国の中期~後期更新世ホモ属遺骸とは似ていない、と指摘されています。ただ、ラオスで発見された164000~131000年前頃となるホモ属の歯をデニソワ人と分類した研究(Demeter et al.,2022)からも示されるように、デニソワ人系統は広範に分布していたようなので、遺伝学的研究(Jacobs et al., 2019)からも示唆されるように大きく分岐していき、形態に大きな違いが生じたかもしれず、澎湖1号も許昌市霊井遺跡の頭蓋も広義のデニソワ人系統に分類される可能性はあるでしょう。
デニソワ人との関連で注目される近年報告された中国のホモ属頭蓋には、黒竜江省ハルビン市で発見された309000~138000年前頃と推定される化石(ハルビン頭蓋)があり、ホモ属の新種ホモ・ロンギ(Homo longi)と分類されています(Ji et al., 2021、Ni et al., 2021、Shao et al., 2021)。ハルビン頭蓋と夏河下顎骨の歯が類似していることも報告されており、ハルビン頭蓋がデニソワ人に分類される可能性は高そうです。ハルビン頭蓋は新種ホモ・ロンギ(Homo longi)と分類できる、とも指摘されており、ハルビン頭蓋がDNA解析かプロテオーム解析によりデニソワ人に分類されれば、デニソワ人の正式な分類名はホモ・ロンギとなるのでしょうか。ハルビン頭蓋も含めて、中国で発見された中期~後期更新世の分類の曖昧なホモ属遺骸の全てをデニソワ人系統に分類できるわけではないかもしれませんが、そのうち複数がデニソワ人系統に分類される可能性は高い、と考えています。
これらの知見を踏まえると、デニソワ人はアルタイ地域から現在の中国北部を経てアジア南東部まで広範な地域に分布していたようです。デニソワ洞窟におけるデニソワ人の痕跡は断続的だった、と推測されていますが(Morley et al., 2019)、だからといってアルタイ地域におけるデニソワ人の居住が断続的だったとは限りません。しかし、現在のドイツで発見されたネアンデルタール人と関連づけられそうな遺跡の比較からは、ネアンデルタール人集団が移住および撤退もしくは絶滅および(孤立した集団の退避地からの)再移住といった過程を繰り返していたことが窺え(Richter et al., 2016)、上述のデニソワ人におけるmtDNA系統の違いと年代の相関からは、デニソワ人でも置換が起きていた可能性は高そうで、アルタイ地域も含めて特定の地域においてデニソワ人が一時的に消滅したこともあったかもしれません。
デニソワ人の各遺骸の正確な年代とその古環境に関する詳細な研究を比較しなければ断定できませんが、デニソワ人は4万年前頃以降の現生人類ほどではないとしても、ひじょうに多様な環境に適応していた可能性が高そうで、海洋酸素同位体ステージ(Marine Isotope Stage、略してMIS)7となる温暖期のアルタイ地域の広葉樹林と開けた草原景観を含む温暖な斑状の景観(Brown et al., 2022)以外の環境に進出した可能性も考えられます。とくに、チベット高原の海抜3280m地点でデニソワ人の痕跡が確認されたこと(Zhang et al., 2020)の意味は大きいと思います。砂漠や熱帯雨林や高地(標高2500m以上)や北極圏といった極限環境に進出で来た人類は現生人類のみというような見解(Roberts, and Stewart., 2018)は根強いかもしれませんが、どれだけ持続的だったかは分からないとしても、後述の考古学的証拠からも、デニソワ人が長期にわたってチベット高原に分布していた可能性は高そうですし、それは現代チベット人がデニソワ人から高地適応関連の遺伝的多様体を継承したこと(Zhang X et al., 2021)と整合的です。
ただ、デニソワ人が現在チベット高原に存在しないことから、デニソワ人の高地居住は「永続的」ではなかった、とその意義が現生人類よりも劣ることを強調する見解もあるかもしれません。しかし、チベット高原における現生人類の「永続的」居住はせいぜい過去数万年間で、1万年間に満たない可能性もそれなりにありそうですから(Zhang et al., 2022)、デニソワ人の高地への進出の意義を軽視してはならないでしょう。しかも現時点では、高地への進出は現生人類よりもデニソワ人の方がずっと早そうです。上述のように、デニソワ人はアジア南東部島嶼部やワラセアやオセアニアにも分布していたかもしれず、デニソワ人が熱帯雨林にも進出していた可能性はそれなりにありそうです。その意味でも、デニソワ人は多様な生態系に適応できた可能性があり、それ故に遺伝的に分化していき、各デニソワ人系統が現代人のさまざまに祖先集団と混合したのかもしれません。
●文化と象徴的思考能力
デニソワ洞窟のデニソワ人は考古学的な年代区分では、初期中部旧石器時代から中期中部旧石器時代までにわたり、50000~45000年前頃に始まる初期上部旧石器(Initial Upper Paleolithic、略してIUP)まで存在した可能性が指摘されています(Jacobs Z et al., 2019、Douka et al., 2019)。この可能性は、デニソワ洞窟の堆積物のmtDNA解析でも示されています(Zavala et al., 2021)。デニソワ洞窟の大型動物の骨には切断や燃焼や屠殺の解体痕など人為的改変があり(Brown et al., 2022)、デニソワ人は大型動物も狩っていたようです。デニソワ人が、IUPはさておき中部旧石器と関連しているのはほぼ確実ですが、デニソワ人の存在が確認されているデニソワ洞窟東空洞の第14・15層の石器群は、アジア北部および中央部には直接的対応物がない中部旧石器インダストリーに分類され、遠方で最も近い平行石器群は近東のアシュール・ヤブルディアン文化複合(Acheulo–Yabrudian cultural complex、略してAYCC)です(Brown et al., 2022)。
しかし、レヴァントとアルタイ地域との間に類似の石器技術伝統の中間的存在はなく、アルタイ地域とチベット高原とアジア南東部(ラオス)以外ではデニソワ人と直接的に関連すると確証されている人類遺骸がないので、デニソワ洞窟の中部旧石器がどのようにアルタイ地域にもたらされたのか、現時点では不明です。伝統的な5段階の石器製作技術区分では様式3(Mode 3)となる中部旧石器は、ネアンデルタール人が西方からもたらした、とも考えられますが、デニソワ洞窟の最古の人類の痕跡はデニソワ人のものです(Zavala et al., 2021)。ただ、これはあくまでもデニソワ洞窟の調査結果で、ネアンデルタール人がアルタイ地域にもっと早く拡散してきた可能性も考えられます。
この点で注目されるのは、上述のように中国北部ではデニソワ人候補の中期~後期更新世のホモ属遺骸が少なからず発見されているものの、現在の中国も含めてアジア東部では様式3の石器技術は少ないとされており、近年になってようやく、中国の北部では内モンゴル自治区において中部旧石器の典型である47000~37000年前頃のムステリアン(Mousterian)様石器群(Li et al., 2018)が、南部となる貴州省の観音洞洞窟(Guanyindong Cave)では中部旧石器の典型的技術である17万~8万年前頃のルヴァロワ(Levallois)石器群(Hu et al., 2019A)が発見されていることです。これらの中部旧石器の製作者がどの人類系統なのか不明だったのですが、チベット高原東部におけるデニソワ人の存在が確認されたことから、デニソワ人だった可能性は低くないと思います。しかし、観音洞洞窟の17万~8万年前頃となるルヴァロワ技術石器群については、ルヴァロワ技術と認定するには不充分との反論(Li F et al., 2019)と、それに対する再反論(Hu et al., 2019B)があるように、本当に中部旧石器なのか、議論が続いています。
海抜2763mに位置する甘粛省永登(Yongdeng)県の将軍府01(JiangjunfuJiangjunfu 01、略してJJF01)開地遺跡は露出した地質区画から収集された少数の石器により特定され、その年代は最終間氷期のMIS5に相当する12万~9万年前頃で、単純な石核・剥片を特徴とします(Cheng et al., 2021)。将軍府01遺跡の石器群の製作者は不明ですが、デニソワ人の可能性が高そうです。デニソワ人の所産である可能性がきわめて高そうなチベット高原の白石崖溶洞の石器群も、予備的な分析では、石器はほぼ全て、地元の変成石英砂岩と角岩礫を用いて、単純な石核および剥片技術により製作された、と示唆されています(Zhang et al., 2020)。この点からも、現在の中国領にデニソワ人が広範に分布していた可能性は高そうではあるものの、中部旧石器は珍しかった、と推測されます。これは、アジア東部へと初期に拡散したデニソワ人が中部旧石器技術を有しておらず、アルタイ地域に中部旧石器技術をもたらしたのは、その後で拡散してきたデニソワ人かネアンデルタール人だったことを示唆しています。あるいは、デニソワ人はユーラシア東部へ拡散してきた当初から中部旧石器技術を有していたものの、現在の中国領への拡散過程でその技術を失ったか捨てた、とも考えられます。いずれにしても、デニソワ人の石器技術は一様ではなかったようです。
デニソワ人の象徴的思考能力の観点でたいへん注目されるのは、チベット高原南部の却桑(Quesang)の化石温泉(海抜4269m)で発見された、226000~169000年前頃と推定されている人類の手と足の痕跡で、その意図的な痕跡の作成から壁面芸術(parietal art)の初期の活動だった可能性が高い、と指摘されています(Zhang D et al., 2021)。この手足の痕跡を残した人類がどの系統なのか、直接的証拠はありませんが、チベット高原の白石崖溶洞において16万年以上前のデニソワ人遺骸(夏河下顎骨)が確認されていること(Chen et al., 2019)から、デニソワ人の所産である可能性が高そうです。この手足の痕跡が「芸術活動」と解釈でき、それを残したのがデニソワ人だとしたら、現生人類との比較は安易にできませんが、デニソワ人にも一定以上の象徴的思考能力があった証拠になりそうです。
デニソワ人の象徴的思考能力は、河南省許昌市の霊井遺跡で見つかった、125000~105000年前頃の意図的な線刻のある風化した断片的な骨2点からも示唆されます(Li Z et al., 2019)。上述のように、霊井遺跡では同じ年代のデニソワ人かもしれないホモ属頭蓋が見つかっています(Li et al., 2017)。線刻のある2点の標本は、断片的すぎて分類を特定できませんが、大型哺乳類の成体の肋骨と推定されており、この線刻は屠殺のような「実用的」行動の結果ではなく、さらに同じ層では見つからない赤い残留物が確認されたことから、オーカー(鉄分を多く含んだ粘土)が意図的にオーカーが塗られたのではないか、と推測されています(Li Z et al., 2019)。
デニソワ人とネアンデルタール人は遺伝的に、現生人類クレードに対してまとまって独自のクレードを形成しますから(Bergström et al., 2021)、ネアンデルタール人には一定以上の象徴的思考能力があった、との証拠が蓄積されつつあること(Baquedano et al., 2023)からも、デニソワ人にも一定以上の象徴的思考能力があった可能性は高そうです。その意味で、デニソワ洞窟のIUPの装飾品をデニソワ人が製作していた可能性もあるでしょう(Douka et al., 2019)。また、白石崖溶洞が低地からそれなりに近いチベット高原北東端に位置するのに対して、却桑はチベット高原の奥深くに位置しており、デニソワ人の高地適応のさらなる証拠になるかもしれない点でも、却桑の手足の痕跡は注目されます。
なお、デニソワ人やネアンデルタール人など非現生人類ホモ属と現生人類との文化的関係では、非現生人類ホモ属が現生人類から文化的影響を受けた、との観点が一般的には根強いように思いますが、現生人類がアジア東部北方の環境に適応できた一因として、ネアンデルタール人もしくはネアンデルタール人とデニソワ人の混合集団から技術を学んだ可能性も指摘されています(Dennell., 2020)。デニソワ洞窟のIUPの装飾品は、その一部がデニソワ人の所産だとしても、ほぼ間違いなく現生人類から伝えられたでしょうが、その他の広義の文化、とくに考古資料に残りにくいような文化が、デニソワ人など非現生人類ホモ属から現生人類に伝えられた可能性は、無視してよいものではないでしょう。
●まとめ
デニソワ人は遺伝的には、現生人類よりもネアンデルタール人の方と近縁な後期ホモ属の分類群で、デニソワ人系統はネアンデルタール人系統と、早ければ74万年前頃(Rogers et al., 2020)、遅くとも45万年前頃(Meyer et al., 2016)までには分岐していた、と考えられます。デニソワ人はアルタイ地域からアジア東部北方とアジア南東部まで、広範囲に分布していたようで、多様な環境に適応していたようです。そのため、デニソワ人系統は遺伝的に分岐していったようで、それは現代人ではアジア東部集団や一部のアジア南東部島嶼部集団やオセアニア集団の祖先集団との、それぞれ異なる遺伝的混合が推測されていることにも反映されているのでしょう。
デニソワ人はおそらく、ユーラシア西部においてネアンデルタール人系統と分岐し、ユーラシア東部へと拡散したと考えられますが、その経路は不明で、ヒマラヤ山脈の北方を通過し、チベット高原やアジア東部北方へと定着し、さらにアジア南東部、あるいはアジア南東部島嶼部やワラセアやオセアニアにまで拡散したのかもしれません。あるいは、デニソワ人はヒマラヤ山脈の南方を通過し、アジア南東部から北上してアジア東部北方やチベット高原やアルタイ地域に拡散した可能性も考えられます。アジア東部北方にデニソワ人が広範に分布していた可能性はありますが、中期更新世のアジア東部北方における様式3の石器技術が乏しいことから、デニソワ人は元々もっと粗放な石器技術しか有していなかったかもしれず、その意味ではヒマラヤ山脈の南方を通過した可能性もあり得ると思います。
上述のように、デニソワ人は遺伝学的に定義された後期ホモ属の分類群で、形態学的情報がネアンデルタール人と比較してひじょうに少ないため、形態学的情報はそれなりにあるものの、遺伝学的情報のない後期ホモ属化石をデニソワ人と確証することができません。今後、保存状態の良好なホモ属遺骸が分子人類学的手法によりデニソワ人と確証されれば、形態学的情報はそれなりにあるものの、遺伝学的情報のない後期ホモ属化石をデニソワ人と分類することも可能になるでしょうし、それにより石器技術を中心としてデニソワ人の考古学的研究も大きく進展するのではないか、と期待されます。
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