アフリカの過去の気候データから示唆されるさらなる乾燥化

 アフリカの過去の気候データからさらなる乾燥化を示唆した研究(Baxter et al., 2023)が公表されました。人為起源の気候変動は、全球の水循環、とくにモンスーンの降雨に依存する農業が経済の基盤となっている熱帯地域に、深刻な影響を及ぼすと予測されています。アフリカ大陸の最東端に位置する「アフリカの角」では、温度の上昇とともに降雨量が増大するという気候モデル予測とは対照的に、この数十年間はより頻繁に旱魃状態の頻度が増えています。本論文は、ケニアとタンザニアの国境にまたがるチャラ湖(Lake Chala)の堆積物記録から得られた、有機物の地球化学的気候代理指標データを用いて、過去約75000年間にわたる水文気候と温度の関係の安定性を調べ、それにより、「雨の少ない場所の雨はより少なくなり、雨の多い場所の雨はより多くなる」という人為起源の気候変動の枠組みをこの時間枠で検証するのに、充分に広い温度範囲を網羅しました。

 本論文は、アフリカ最東端における寒冷な最終氷期の実効湿度と実効温度の正の関係が、大気中の二酸化炭素濃度が250ppmを超えて年平均気温が現在の値に近づいた11700年前頃となる完新世開始時期に、負に変化したことを示します。したがって、その時期にモンスーンの降雨と大陸の蒸発の収支が転換点を超えて、温度が蒸発に及ぼす正の影響は降水に及ぼす正の影響より大きくなりました。これらの知見は、継続的な人為起源の温暖化の下では、おそらく「アフリカの角」がさらに乾燥することを示唆しており、熱帯の水循環の力学的過程と熱力学的過程の両方の模擬実験を改善する必要がある、と浮き彫りになります。「アフリカの角」における過去約75000年間の気候データは、現生人類(Homo sapiens)の進化と拡散の観点でも注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


気候:過去の気候データが示唆する「アフリカの角」地域のさらなる乾燥化

 「アフリカの角」地域では人為起源の温暖化が続き、干ばつが増加する可能性のあることが研究によって示唆された。この知見は、湖底堆積物をもとに再構築された過去75,000年間の水文気候の変化に基づいている。この研究結果を報告する論文が、Natureに掲載される。

 全球の水循環は、人為起源の気候変動の影響を受け、特に熱帯域が大きな影響を受けると予測されている。これは、熱帯域が、モンスーン性降雨に依存する農業を基盤とした経済構造を持つことによる。アフリカ大陸の最東端に位置する「アフリカの角」地域では、近年、干ばつの頻度が上昇している。しかし、この現象は、この地域の降水量が気温の上昇とともに増加することを示唆する気候モデルと整合しない。

 Allix Baxter、Dirk Verschurenらは、この不整合性を調べるため、ケニアとタンザニアにわたって位置するチャラ湖の湖底堆積層を分析し、過去7万5000年間の気温と有効水分(降水量から蒸発量を差し引いた量)の相互作用を探索した。その結果、氷河時代に、この地域の有効水分と気温の間に正の関係があることが明らかになった。しかし、約1万1700年前に完新世に入ると、年平均気温が現在と同じレベルになり、大気中の二酸化炭素が250 ppmvを超えると、負の関係に転じ、気温が上昇するにつれて乾燥するようになった。この結果は、アフリカの角で、臨界点を超えて、気温の上昇による蒸発量の増加が、降水量の増加を上回ってしまったことを示していると著者らは考えている。

 著者らは、今回の結果から、人為起源の温暖化が続くとアフリカの角の乾燥化が進む可能性が高いことが明らかになったとし、将来の熱帯域の水循環の状態を予測する場合、陸と大気の相互作用が降水量に及ぼす影響を考慮に入れた気候モデルを使用する必要があると結論付けている。


気候科学:アフリカの角の温度–湿度関係性の完新世における逆転

気候科学:アフリカの角の温度–湿度関係性の逆転

 今回、最終氷期において「アフリカの角」の気候は、温暖化に伴いより湿潤になったことが示されている。しかしその後、完新世の始まりにおいてこの関係が切り替わり、より暑いほどより乾燥するようになった。



参考文献:
Baxter AJ. et al.(2023): Reversed Holocene temperature–moisture relationship in the Horn of Africa. Nature, 620, 7973, 336–343.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06272-5

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