最古となるコムギのゲノムデータ

 最古となるコムギのゲノムデータを報告した研究(Ahmed et al., 2023)が公表されました。ヒトツブコムギ(Triticum monococcum)は、最初に農耕が行なわれるようになったとされる近東の肥沃な三日月地帯で初めて栽培化されたコムギ種で、新石器時代革命の中心的な栽培種でした。野生ヒトツブコムギは、レヴァントにおいて農耕開始の4000年以上前にパンの材料として用いられており、当時はまだパンの生産と消費は一般的ではなかったものの、それも新石器時代革命の一因になったかもしれません(関連記事)。

 本論文は、ヒトツブコムギの野生種および栽培種について、完全にアセンブリされたセントロメアを含む、5.2 Gbのゲノムアセンブリを作成および解析しました。ヒトツブコムギのセントロメアはひじょうに動的で、太古および最近のセントロメア移動が構造再編成によって引き起こされた、という証拠が見つかりました。多様なパネルの全ゲノム塩基配列解読解析から、ヒトツブコムギの集団構造と進化史が示され、栽培化されたヒトツブコムギが肥沃な三日月地帯から分散した後の雑種形成と遺伝子移入の複雑なパターンが明らかになりました。

 また、現在のパンコムギ(Triticum aestivum)のAサブゲノムの約1%が、ヒトツブコムギに由来することも分かりました。これらの情報資源と知見は、ヒトツブコムギの進化史を浮き彫りにし、ゲノミクスを利用したヒトツブコムギやパンコムギの改良を加速するための基盤となります。新石器時代は人類史における重要な転機で、とくに穀物の栽培化はその後の人類社会の変化に多大な影響を及ぼすことになっただけに、さらなる研究の進展により、新石器時代革命の様相がさらに冠位明されていくことになるのではないか、と期待されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


植物科学:ヒトツブコムギのゲノミクスから最古の栽培コムギの歴史が明らかになる

植物科学:ゲノミクスが示すヒトツブコムギの進化史

 今回、ヒトツブコムギ(Triticum monococcum)の野生種および栽培種のゲノムアセンブリが報告されている。このデータに基づいて、その進化史と現在のパンコムギ(Triticum aestivum)ゲノムへの寄与が調べられた。



参考文献:
Ahmed HI. et al.(2023): Einkorn genomics sheds light on history of the oldest domesticated wheat. Nature, 620, 7975, 830–838.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06389-7

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