エル・カスティーヨ洞窟の中部旧石器時代の堆積物のDNA
ヒト進化研究ヨーロッパ協会第13回総会で、スペイン北部の中部旧石器時代の堆積物のDNA解析結果を報告した研究(Mesa et al., 2023)が報告されました。この研究の要約はPDFファイルで読めます(P17)。中部旧石器時代から上部旧石器時代の意向は、考古学的記録における道具と装飾品の複雑さと洗練の大きな変化と関連しています。しかし、特定の移行期インダストリーの製作者がネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)および/もしくは解剖学的現代人(Homo sapiens、現生人類)だったのどうか、よく議論の対象となっています。
この一例は、スペイン北部のカンタブリア州のプエンテ・ビエスゴ(Puente Viesgo)にあるエル・カスティーヨ(El Castillo)洞窟の第18b層と第18c層です。最近、42000年以上前と年代測定された第18b層の学童期(juvenile)個体の3点の大臼歯が、その形態に基づいてネアンデルタール人に分類されました。残念ながら、これらの歯は現在、その遺伝的祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)を推測するための古代DNA分析では利用できません。
この研究は、旧石器時代遺跡の占拠史再構築のため、堆積物の古代DNA分析(関連記事)の可能性を利用します。この目的のため、エル・カスティーヨ洞窟の385点の堆積物標本が収集され、それはユニット16(41000年以上前)からユニット25(89000年以上前)にわたっています。古代DNA保存の最初の選別では、170点の標本が分析されました。要するに、40~90mgの堆積物の二次標本が無菌のヘラを用いて除去され、自動化された珪酸に基づく手法を用いてDNAが抽出されました。その後、一本鎖DNAライブラリが調製され、合成オリゴヌクレオチド転写物(spike-in)を用いてライブラリ調整効率が監視されました。負の制御は標本とともに処理されました。
最後に、ライブラリが標本固有の表示でバーコード化され、2回の混成捕獲を用いてミトコンドリアDNA(mtDNA)配列が濃縮されました。ライブラリの部分集合が、ヒト核ゲノムにおける377046ヶ所の情報をもたらす部位で濃縮されました。以前に記載された生物情報学的経路に従って、 BLASTおよびMEGANを用いて読み取りが哺乳類系統に割り当てられ、内在性か汚染なのか、末端における損傷誘発置換の頻度に基づいて分類されました。
分析された170点の堆積物標本のうち、42点で古代人類のDNAが得られました。人類のさまざまな集団を区別するmtDNAゲノムにおける診断部位の分析は、ユニット17における解剖学的現代人と、ユニット18b・18c・20ab・20c・20d・20e・20f・20hにおけるネアンデルタール人の有意な裏づけを明らかにしました。考古学的痕跡のないユニット19と、ユニット20の下では、古代人類のDNAが見つかりませんでした。古代人類のDNAの欠如に加えて、古代の動物相のDNAの存在の証拠がより下部の層では見つからず、例外はユニット23におけるハイエナとシカ科の小さな痕跡で、DNAの保存が7万年以上前の層では乏しいことを示唆しています。
ソフトウェア Kallistoを用いて、人類のmtDNA断片をネアンデルタール人の刊行されたmtDNAゲノムと比較すると、ユニット18bから20cの標本では、ヨーロッパ・ロシアのメズマイスカヤ(Mezmaiskaya)洞窟の個体(メズマイスカヤ2号)とコーカサスの後期ネアンデルタール人との有意な類似性が、ユニット20fとユニット20hの間の標本では、メズマイスカヤ1号および7万~6万年前頃のネアンデルタール人との有意な類似性が見つかりました。
ユニット18bおよび20abの予備的な核DNA解析は、高網羅率のゲノムが利用可能な他の個体とよりも、クロアチアのヴィンディヤ洞窟(Vindija Cave)で発見された44000年以上前となるネアンデルタール人女性1個体(ヴィンディヤ33.19)の方との高い遺伝的類似性を示しており、推定される人口分岐年代は、他の高網羅率のゲノムの個体とが86000~73000年前頃、ヴィンディヤ33.19とが78000~56000年前頃です。しかし、これがエル・カスティーヨ洞窟におけるネアンデルタール人の人口置換を示唆しているのかどうか判断するには、より多くのデータが必要です。
要するに、この研究のデータは70000~41000年前頃(エル・カスティーヨ洞窟の第18b層から20h層により表されます)のイベリア半島北部におけるネアンデルタール人の遺伝的歴史の時間横断区を提供し、ムステリアン(Mousterian、ムスティエ文化)から中部旧石器時代~上部旧石器時代の移行期にかけてのエル・カスティーヨ洞窟の占拠史を網羅しています。これは、さらに112km南方に位置する彫像坑道(Galería de las Estatuas、以下GEと省略)における以前の堆積物DNA分析を補完します。GEの堆積物DNA解析は、112000~79000年前頃のネアンデルタール人の人口史の側面を明らかにしました。エル・カスティーヨ洞窟や他の遺跡からより多くの堆積物DNAが出現し続けるにつれて、イベリア半島やその他の地域でネアンデルタール人の人口史を研究できる解像度はさらに増加する、と期待されます。
以上、この研究の要約を見てきましたが、近年の古代DNA研究の進展は本当に目覚ましく、中部旧石器時代の堆積物からmtDNAだけではなく核DNAを解析することが充分に可能である、と示されつつあります。エル・カスティーヨ洞窟でも、ネアンデルタール人集団間の置換が示唆されており、現生人類に限らず非現生人類ホモ属でも、更新世には人口置換が珍しくなかったことを示唆しているように思います。今後も、人類遺骸が発見されていないか極めて珍しい地域で、堆積物のDNA解析により人類進化史がさらに解明されていくのではないか、と大いに期待しています。
参考文献:
Mesa AB. et al.(2023): Reconstructing the occupational history of El Castillo Cave using sediment DNA. The 13th Annual ESHE Meeting.
この一例は、スペイン北部のカンタブリア州のプエンテ・ビエスゴ(Puente Viesgo)にあるエル・カスティーヨ(El Castillo)洞窟の第18b層と第18c層です。最近、42000年以上前と年代測定された第18b層の学童期(juvenile)個体の3点の大臼歯が、その形態に基づいてネアンデルタール人に分類されました。残念ながら、これらの歯は現在、その遺伝的祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)を推測するための古代DNA分析では利用できません。
この研究は、旧石器時代遺跡の占拠史再構築のため、堆積物の古代DNA分析(関連記事)の可能性を利用します。この目的のため、エル・カスティーヨ洞窟の385点の堆積物標本が収集され、それはユニット16(41000年以上前)からユニット25(89000年以上前)にわたっています。古代DNA保存の最初の選別では、170点の標本が分析されました。要するに、40~90mgの堆積物の二次標本が無菌のヘラを用いて除去され、自動化された珪酸に基づく手法を用いてDNAが抽出されました。その後、一本鎖DNAライブラリが調製され、合成オリゴヌクレオチド転写物(spike-in)を用いてライブラリ調整効率が監視されました。負の制御は標本とともに処理されました。
最後に、ライブラリが標本固有の表示でバーコード化され、2回の混成捕獲を用いてミトコンドリアDNA(mtDNA)配列が濃縮されました。ライブラリの部分集合が、ヒト核ゲノムにおける377046ヶ所の情報をもたらす部位で濃縮されました。以前に記載された生物情報学的経路に従って、 BLASTおよびMEGANを用いて読み取りが哺乳類系統に割り当てられ、内在性か汚染なのか、末端における損傷誘発置換の頻度に基づいて分類されました。
分析された170点の堆積物標本のうち、42点で古代人類のDNAが得られました。人類のさまざまな集団を区別するmtDNAゲノムにおける診断部位の分析は、ユニット17における解剖学的現代人と、ユニット18b・18c・20ab・20c・20d・20e・20f・20hにおけるネアンデルタール人の有意な裏づけを明らかにしました。考古学的痕跡のないユニット19と、ユニット20の下では、古代人類のDNAが見つかりませんでした。古代人類のDNAの欠如に加えて、古代の動物相のDNAの存在の証拠がより下部の層では見つからず、例外はユニット23におけるハイエナとシカ科の小さな痕跡で、DNAの保存が7万年以上前の層では乏しいことを示唆しています。
ソフトウェア Kallistoを用いて、人類のmtDNA断片をネアンデルタール人の刊行されたmtDNAゲノムと比較すると、ユニット18bから20cの標本では、ヨーロッパ・ロシアのメズマイスカヤ(Mezmaiskaya)洞窟の個体(メズマイスカヤ2号)とコーカサスの後期ネアンデルタール人との有意な類似性が、ユニット20fとユニット20hの間の標本では、メズマイスカヤ1号および7万~6万年前頃のネアンデルタール人との有意な類似性が見つかりました。
ユニット18bおよび20abの予備的な核DNA解析は、高網羅率のゲノムが利用可能な他の個体とよりも、クロアチアのヴィンディヤ洞窟(Vindija Cave)で発見された44000年以上前となるネアンデルタール人女性1個体(ヴィンディヤ33.19)の方との高い遺伝的類似性を示しており、推定される人口分岐年代は、他の高網羅率のゲノムの個体とが86000~73000年前頃、ヴィンディヤ33.19とが78000~56000年前頃です。しかし、これがエル・カスティーヨ洞窟におけるネアンデルタール人の人口置換を示唆しているのかどうか判断するには、より多くのデータが必要です。
要するに、この研究のデータは70000~41000年前頃(エル・カスティーヨ洞窟の第18b層から20h層により表されます)のイベリア半島北部におけるネアンデルタール人の遺伝的歴史の時間横断区を提供し、ムステリアン(Mousterian、ムスティエ文化)から中部旧石器時代~上部旧石器時代の移行期にかけてのエル・カスティーヨ洞窟の占拠史を網羅しています。これは、さらに112km南方に位置する彫像坑道(Galería de las Estatuas、以下GEと省略)における以前の堆積物DNA分析を補完します。GEの堆積物DNA解析は、112000~79000年前頃のネアンデルタール人の人口史の側面を明らかにしました。エル・カスティーヨ洞窟や他の遺跡からより多くの堆積物DNAが出現し続けるにつれて、イベリア半島やその他の地域でネアンデルタール人の人口史を研究できる解像度はさらに増加する、と期待されます。
以上、この研究の要約を見てきましたが、近年の古代DNA研究の進展は本当に目覚ましく、中部旧石器時代の堆積物からmtDNAだけではなく核DNAを解析することが充分に可能である、と示されつつあります。エル・カスティーヨ洞窟でも、ネアンデルタール人集団間の置換が示唆されており、現生人類に限らず非現生人類ホモ属でも、更新世には人口置換が珍しくなかったことを示唆しているように思います。今後も、人類遺骸が発見されていないか極めて珍しい地域で、堆積物のDNA解析により人類進化史がさらに解明されていくのではないか、と大いに期待しています。
参考文献:
Mesa AB. et al.(2023): Reconstructing the occupational history of El Castillo Cave using sediment DNA. The 13th Annual ESHE Meeting.
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