モウコノウマの社会的関係
モウコノウマ(Equus ferus przewalskiiもしくはEquus przewalskii)の社会的関係に関する研究(Ozogány et al., 2023)が公表されました。モウコノウマの集団にはハーレムが存在し、それぞれ1頭の種牡馬と数頭の雌の成体とその仔によって構成されている。種牡馬ではない雄の成体の中には、一緒にバチェラー群を形成し、種牡馬とハーレムを争う機会を待っている個体もいます。一部の地域では、複数のハーレムが集まってより大きな群れとなり、多層社会が形成されることもあります。しかし、より大きな群れの形成につながるハーレム間の絆など、モウコノウマの社会の構造の詳細は未解明で、動物社会の研究には多くの個体の詳細な観察が必要ですが、技術的進歩によりこの分野に新たな機会がもたらされます。
本論文は、ハーレムから構成される、モウコノウマの多層の群の最先端のドローン観察を提示します。この研究は、時空間的に高解像度で、ドローンの映像で個体識別された、ハンガリーのホルトバージ国立公園(Hortobágy National Park)238頭の動きを追跡し、移動分析を20年間にわたる個体群監視から得られた個体群統計学的データと組み合わせて、短期的な行動と長期的な社会的関係の関連性を調べました。群の動きの分析から、群の社会的交流網の構造が個体の親族関係や親密さとどのように関連しているのか、明らかになります。
分析の結果、ハーレムの交流網の中心性は、その年齢およびハーレムの種牡馬が以前にハーレムを維持した期間と関連しおり、群れが大きくなっても、各ハーレムのまとまりは維持されている、と示されました。遺伝的に近縁な種牡馬のハーレムは交流網において相互とより密接で、雌の交換はより密接なハーレム間でより頻繁でした。異なるハーレムの雌の高い動きの類似性は、将来においてハーレムの仲間となることを予測します。本論文の結果から、多情報量データ駆動分析と組み合わされたわずか数分の微細規模の移動追跡が、社会構造の解明と、過去の群の動態の再構築と、将来の群の動態の予測を可能にする、と示されます。
なお、モウコノウマは以前には、唯一の現生野生ウマと考えられていましたが、カザフスタン北部のボタイ(Botai)文化のクラスヌイヤール(Krasnyi Yar)遺跡で馬の家畜化の最初期の証拠を検証し、それらの遺跡からのものも含めてなどユーラシアの古代馬42頭のゲノムを解析して、既知の古代ウマ18頭および現生馬28ウマ頭と比較した近年の研究では、モウコノウマはボタイ文化の初期家畜ウマの野生化した子孫と明らかになりました(関連記事)。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
動物行動学:「最後の野生馬」の社会的関係の研究
ドローンで撮影した映像を使って、モウコノウマ(Equus ferus przewalskii)の集団における過去の個体間の関係を推定し、将来の関係を予測できることを示した論文が、Nature Communicationsに掲載される。この知見は、野生馬の亜種の最後の現生種であるモウコノウマとその複雑な社会の構造についての理解を深めるものである。
モウコノウマの集団には、ハーレムが存在し、それぞれ1頭の種牡馬と数頭の雌の成体とその仔によって構成されている。種牡馬ではない雄の成体の中には、一緒にバチェラー群を形成し、種牡馬とハーレムを争う機会を待っているものもいる。一部の地域では、複数のハーレムが集まってより大きな群れとなり、重層社会が形成されることがある。しかし、より大きな群れの形成につながるハーレム間の絆など、モウコノウマの社会の構造の詳細は未解明のままだ。
今回、Katalin Ozogányらは、ハンガリーのホルトバージ国立公園でドローンを使って約280頭のモウコノウマの動きを追跡調査した。そして、ドローンの映像とハーレムの遺伝的・社会的構造に関する20年分のデータを総合して、短期的な行動と長期的な社会的関係の関連性を調べた。その結果、群れが大きくなっても、それぞれのハーレムのまとまりは維持されており、複数のハーレムの空間的近接性が遺伝的類縁性と過去の関係に依存していることが明らかになった。また驚くべきことに、別のハーレムに属する雌が同じような動きをしていることが、その数年後にこれらの雌が同じハーレムに加わることの有意な予測因子だった。
今回の知見は、動物の集団的な動きを短期間に詳細に観察することで、過去、現在、未来における動物集団の複雑な社会的動態を解明する手掛かりが得られることを実証している。Ozogányらは、今後の研究で対象を自動的に追跡する方法を用いれば、機械学習を用いるのと同じように、複雑な社会システムや野生動物の集団行動の研究に新たな視点が生まれる可能性があるという考えを示している。
参考文献:
Ozogány K. et al.(2023): Fine-scale collective movements reveal present, past and future dynamics of a multilevel society in Przewalski’s horses. Nature Communications, 14, 5096.
https://doi.org/10.1038/s41467-023-40523-3
本論文は、ハーレムから構成される、モウコノウマの多層の群の最先端のドローン観察を提示します。この研究は、時空間的に高解像度で、ドローンの映像で個体識別された、ハンガリーのホルトバージ国立公園(Hortobágy National Park)238頭の動きを追跡し、移動分析を20年間にわたる個体群監視から得られた個体群統計学的データと組み合わせて、短期的な行動と長期的な社会的関係の関連性を調べました。群の動きの分析から、群の社会的交流網の構造が個体の親族関係や親密さとどのように関連しているのか、明らかになります。
分析の結果、ハーレムの交流網の中心性は、その年齢およびハーレムの種牡馬が以前にハーレムを維持した期間と関連しおり、群れが大きくなっても、各ハーレムのまとまりは維持されている、と示されました。遺伝的に近縁な種牡馬のハーレムは交流網において相互とより密接で、雌の交換はより密接なハーレム間でより頻繁でした。異なるハーレムの雌の高い動きの類似性は、将来においてハーレムの仲間となることを予測します。本論文の結果から、多情報量データ駆動分析と組み合わされたわずか数分の微細規模の移動追跡が、社会構造の解明と、過去の群の動態の再構築と、将来の群の動態の予測を可能にする、と示されます。
なお、モウコノウマは以前には、唯一の現生野生ウマと考えられていましたが、カザフスタン北部のボタイ(Botai)文化のクラスヌイヤール(Krasnyi Yar)遺跡で馬の家畜化の最初期の証拠を検証し、それらの遺跡からのものも含めてなどユーラシアの古代馬42頭のゲノムを解析して、既知の古代ウマ18頭および現生馬28ウマ頭と比較した近年の研究では、モウコノウマはボタイ文化の初期家畜ウマの野生化した子孫と明らかになりました(関連記事)。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
動物行動学:「最後の野生馬」の社会的関係の研究
ドローンで撮影した映像を使って、モウコノウマ(Equus ferus przewalskii)の集団における過去の個体間の関係を推定し、将来の関係を予測できることを示した論文が、Nature Communicationsに掲載される。この知見は、野生馬の亜種の最後の現生種であるモウコノウマとその複雑な社会の構造についての理解を深めるものである。
モウコノウマの集団には、ハーレムが存在し、それぞれ1頭の種牡馬と数頭の雌の成体とその仔によって構成されている。種牡馬ではない雄の成体の中には、一緒にバチェラー群を形成し、種牡馬とハーレムを争う機会を待っているものもいる。一部の地域では、複数のハーレムが集まってより大きな群れとなり、重層社会が形成されることがある。しかし、より大きな群れの形成につながるハーレム間の絆など、モウコノウマの社会の構造の詳細は未解明のままだ。
今回、Katalin Ozogányらは、ハンガリーのホルトバージ国立公園でドローンを使って約280頭のモウコノウマの動きを追跡調査した。そして、ドローンの映像とハーレムの遺伝的・社会的構造に関する20年分のデータを総合して、短期的な行動と長期的な社会的関係の関連性を調べた。その結果、群れが大きくなっても、それぞれのハーレムのまとまりは維持されており、複数のハーレムの空間的近接性が遺伝的類縁性と過去の関係に依存していることが明らかになった。また驚くべきことに、別のハーレムに属する雌が同じような動きをしていることが、その数年後にこれらの雌が同じハーレムに加わることの有意な予測因子だった。
今回の知見は、動物の集団的な動きを短期間に詳細に観察することで、過去、現在、未来における動物集団の複雑な社会的動態を解明する手掛かりが得られることを実証している。Ozogányらは、今後の研究で対象を自動的に追跡する方法を用いれば、機械学習を用いるのと同じように、複雑な社会システムや野生動物の集団行動の研究に新たな視点が生まれる可能性があるという考えを示している。
参考文献:
Ozogány K. et al.(2023): Fine-scale collective movements reveal present, past and future dynamics of a multilevel society in Przewalski’s horses. Nature Communications, 14, 5096.
https://doi.org/10.1038/s41467-023-40523-3
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